はじめに:
先日、私がコンサルティングしている企業の営業リーダーMさんとの会話で、ワールドカップの日本チームのことが話題になりました。敗戦後のバッシングは相当なもので、「売れなかった時の、営業担当者やリーダーの立場と似ているね。身につまされて他人事には思えない!」との感想に、お互い苦笑いで納得してしまいました。
それに私はあの時のサッカーの戦い方(敗因)が、何か『負けつづける営業部隊のやり方』とどこか通じるものがあるよう感じていて、さらには現在の日本社会に蔓延している閉塞状況の問題点を端的に表しているのではないか、とさえどこか思っていたので、彼にもその話をしました。
すると彼はじっと聞いていたのですが、途中から『なるほど』と言ってもらえ、そこから今後の当社の営業部隊の改善策をあらためて考えることになりました。
私自身、Mさんに話す中でなおさらそういう気持ちになっていったのが正直なところです。
そこで今回、ワールドカップでの日本チームの戦い方を振り返り、その戦い方の敗因を経営コンサルタントとして分析してみた結果をご報告したいと思います。
―サッカー日本チームの敗因分析、7つの要因と対策―
敗因1:
・「自分たちのサッカーをやるだけです」と言いながら、
自分の戦い方が出来ていなかった。
(悪しき精神論!に陥って、自ら負けてしまっていた。)
敗因2:
・特別な暑さや夜の試合に、メンバーみんなの体が順応できておらず、
動きが悪かった。
(急激な環境変化への対応{の準備}が、不足していた。
一発勝負の試合に弱かった。)
敗因3:
・はじめにラッキーな得点が入ったために、どこか守りに入ってしまった。
(これまで、どうにか売れていたので、
これまでの受身なやり方から抜け切れない。)
敗因4:
・ラッキーな点が入った直後の、優位な状況で追加点が取れなかった。
(限られた決定的チャンスをモノにできない弱さ。)
敗因5:
・一対一の戦いでも劣勢に立たされ、自分達のペースをつくれなかった。
(最前線の現場の個の力が弱かった。個が疲弊してしまった。)
敗因6:
・そこに「強力な敵(コルドバ)」が現れ、一気にやられてしまった。
(競合他社の圧倒的な戦略や新製品の攻勢で、
一気に陥落してしまう。)
敗因7:
・しっかりした敗因分析がされないまま、(あるいは一部個人の責任で)
終わってしまった。
(曖昧なあなあ、個人責任で終わらせる体質という根本的な問題である。)
<詳細解説>
敗因1:
・「自分たちのサッカーをやるだけです」と言いながら、
自分の戦い方が出来ていなかった。
(悪しき精神論!に陥って、自ら負けてしまっていた。)
⇒(トップは)精神論を掲げるが、肝心の戦い方の検討が不十分だし、実際ほとんど出来ていない。自社の強み・こだわりという一番大事なところが、一般論の抽象的な精神論に落ちてしまっていて、むしろチームのメンバーを委縮させている。そんな精神論ばかりに陥っている企業や営業部隊が、最近とみに増えている気がする。
精神論を唱えれば唱えるほど、正反対の結果を招く(心理的セオリーの)落とし穴にはまってしまう愚に気をつけなければならない!
「がんばります!」とか「営業は根性だ!」とばかり言っている営業部隊ほど、業績が悪化しやすく、そうなっても手の打ちようがなく落ちていく。
あなたの営業部隊はそうなっていないか?
対策:あくまで具体論、具体対策を議論し、その実行を徹底訓練する。精神論でごまかさない。
敗因2:
・特別な暑さや夜の試合に、メンバーみんなの体が順応できておらず、
動きが悪かった。
(急激な環境変化への対応{の準備}が、不足していた。
一発勝負の試合に弱かった。)
⇒世の中はいつも同じではなく、むしろ急激な変化多様化が起こるのが常である。だから急激な環境変化に対応できるだけの周到な準備を常にしておかなければ、持続的に勝ち残っていけるわけがない。
日本の温暖な気候、マイルドな人間関係に慣れきった日本人,日本企業が、タフな海外企業、海外の人たちと戦わなければならない現在、ワールドカップの日本チームを他人ごとのようには非難出来ないだろう。
これまでの(日本企業同士の)なあなあ競争はもう終わり、とどこまで覚悟できているだろうか。その覚悟を持って周到な準備が出来ていないなら、戦わずして負けは目に見えている。
フィジカル面と精神面同時に鍛える。最悪事態を乗り越える、修羅場をどれだけ経験しているか、それが問われている。
既存客の既存商談を追いかけるだけの営業で、今だどうにかなると本音では思っている。どこか体の頭もなまってしまっている。だから業績アップを目指すと言っても、いつものやり方の延長でしか考えられない。だから新しいことをやろうとしても、うまくいくわけがない。そしてうまくいかないから、なおさら従来通りのやり方に閉じこもってしまう。真面目な営業部隊、営業担当がよく陥ることだ。しかしそんな営業部隊に未来はないだろう。
あなたの営業部隊は真面目なだけに、そうなっていないか?
対策:常に変化多様化を前提にして、急激な業績悪化を想定して、対策を先手先手で準備し、打てる状態をつくる。
敗因3:
・はじめにラッキーな得点が入ったために、どこか守りに入ってしまった。
(これまで、どうにか売れていたので、
これまでの受身なやり方から抜け切れない。)
⇒これまでの日本経済、企業はあまりにうまくいきすぎた。そのため過去の栄光と強みにいまだ頼って、チャレンジより守りに入っている企業や人があまりに多い。「守り」だけでどうにかなる、とすがる気持ちばかりが目につく。それが現在の日本経済停滞の一番の原因ではないか。
営業現場も一緒!
優良企業で商品があった営業部隊ほど、これまでのやり方で十分業績を上げられていたため、そのやり方から抜け出ることが難しい。そうでなくとも、たまたま運よく大口受注に気が緩むことはよくある。そうなれば、このままでもどうにかなる筈と、どこかにすがる気持ちを持ってしまうことだろう。そんな「守り」にすがる気持ちでは、「負ける」に決まっている。
ただの基本方針や業績目標を掲げるだけでは、トップが「すがる気持ち」に陥っている証拠である。そんな営業部隊もあまりに多い。
あなたとあなたの営業部隊は、そうなっていないか?
対策:業績も「棚ぼた」「流れもの」数値と「自力獲得数値」目標を峻別して、自分たちの意思で獲得する数値を重視して、作戦や行動計画を立てる。
敗因4:
・ラッキーな点が入った直後の、優位な状況で追加点が取れなかった。
(限られた決定的チャンスをモノにできない弱さ。)
⇒たとえラッキーであっても、そこにはフォローの風が吹いていたはず。その限られたチャンスの時をとらえ、一気に攻めて結果を残せなければ、勝つのは難しい。これまで勝っていて、優位なポジションにあるケースで、気が付けば後発参入の新興企業(や新興海外企業)にやられているケースも、やたら目につく。驕りなのか、決断力の無さなのか。はたまた瞬発力の弱さなのか。
いずれが原因でも、その悔しさをばねに反省し、決定的場面での決断と強い実行力をつけなければならないと、あらためて思える。
チャンスがあって迅速に動ける営業部隊と、いつものようにしか動けない営業部隊では、大きな結果の差が出る。言い訳の多い営業リーダーの営業部隊、管理志向の強い定型パターンでしか動けない営業部隊、権威主義的で上位者や本部が強い営業部隊(そのため現場が委縮している営業部隊)・・・
あなたの営業部隊はそうなっていないか?
対策:成功事例が生まれたら、すぐに横展開の可能性を探り、一気呵成に動けるようにする。常にチャンスをとらえる「MAX数値予測」を行い、そのマックスを実現させるための短期集中の対策を組む。常に可能性のあるマーケット、案件を狙う癖をつける。緊急の作戦展開には、「ハイスピード対応」の軍隊型組織が取れるように、日頃から組み立てておきたい。
敗因5:
・一対一の戦いでも劣勢に立たされ、自分達のペースをつくれなかった。
(最前線の現場の個の力が弱かった。個が疲弊してしまった。)
⇒「目先のボールを追いかけることに汲々としてしまって、振り回され、へとへとになって、負けてしまった。」
何とも身につまされる。まさに日本企業の現状を表している。大局的な戦略や作戦が欠如しているから、個(の精神論)に頼るばかり。個人は個人で真面目に目先の仕事に没頭するのみ・・。企業も個人も知らぬうちに内向きにはまってしまっている。
そしてうまくいかなければ、結局個人のせい。だから、それが逆に個の疲弊を引き起こし、ひいては会社風土の疲弊を引き起こしている。
企業同士でも、価値競争ではなく価格競争に汲々としてしまい、そのしわ寄せを社員という個人にしわ寄せをすることで、社会全体が疲弊することになっている。
個人を鍛えることは大事だが、その前に戦略作戦があってこそ。いくら個人を鍛えても、戦略作戦が無ければ、サッカー日本チームと同様、疲弊して勝てっこない。
この悪のスパイラルから脱しなければ、日本社会全体が、ワールドカップの日本チームと同じ結果になってしまうだろう。
営業部隊でいうなら・・・
営業現場もお客様からの個別引き合い単品単発案件の対応中心で振り回さ
れ、価格競争でどんどん業績悪化。
その対策が近視眼的な営業個人の頑張り中心。そこで業績悪化が起これば、現場の営業個人のせい。これではまさに悪のスパイラルに陥っていると言っていい。
「もはや個人だけが頑張って勝てるような、
生易しいビジネス環境ではないんだ!」
と繰り返し、言いたい。
あなたの営業部隊には、大きな戦略があるか、チーム作戦がしっかり機能しているか?
個人営業ばかりを頼りにしていないか?
対策:これからの営業作戦はチームプレーである。マーケットと商材のマトリックスで、市場状況にあわせた、メリハリある作戦を組み立てる。(参照:「マトリックス営業戦略」)
敗因6:
・そこに「強力な敵(コルドバ)」が現れ、一気にやられてしまった。
(競合他社の圧倒的な戦略や新製品の攻勢で、一気に陥落してしまう。)
⇒大きな戦略や作戦が欠如したまま、個の疲弊が進む中、競合他社(それも海外の有力企業)からの想定外の圧倒的な戦略や作戦によって、一気にその地位から転げ落ち、惨敗しまう。このパターンは日本の大手家電メーカーの敗因とまさに一緒ではないか。
サッカーでは、前回?のオーストラリア戦でも同様の場面があった。日本が勝っていたものの、後半のほんの瞬間に立て続けにゴールされて、惨敗してしまった。あの時も、ズルズル押されながら、守りに意識に支配されていたように思える。
同じ間違いをなぜ繰り返すのか?
そういえば、太平洋戦争でも、最後にはズルズル押されて守りの意識に支配され、それなのに、個人の精神論ばかりが煽られて、どれほど悲惨でかつ無駄な犠牲が払われたか。その何とも言えない痛ましさや悔しさを追体験しているような気持になってしまう。
大きな決断が出来ず、かわりに個人の精神論ばかり煽り立て、守りに入ってズルズル。・・・結末はわかっていたのに、と思っても後の祭りである。
これは日本人のもつ精神的な弱点、劣性遺伝と、しっかり自覚したい。
営業現場も全く一緒。強力なライバル企業が攻勢に出られたら、今まで築き上げてきた事業ポジション、取引関係も一気に崩壊する。常にその危機感を持って、大きな戦略と作戦を練り上げるべきだ。そして常に市場に革新的な価値を提供する。
攻撃が最大の守り、ということを改めて認識する事だろう。
あなたの営業部隊は、強力なライバル企業が圧倒的な武器を持って攻めてきても、十分勝てるような用意がされているか。
常に市場に革新的な価値を提供しようとしているか。
対策:新規提案、新規開拓の作戦展開を常に計画し、その実行を進める。
またそうした新規活動から、常に最新情報を収集して、新規商材やサービスの改良や創造を進めていけるようにする。
敗因7:
・しっかりした敗因分析がされないまま、(あるいは一部個人の責任で)
終わってしまった。
(曖昧なあなあ、個人責任で終わらせる体質という根本的な問題である。)
⇒ここまで惨敗したのに、非難はあっても冷静な分析と反省に立った次の対策は、どうなのか。今だ聞いていないが、新監督だけは決まったようだ。もはや話題はそちらに行っている。これこそ、日本の劣性遺伝子ではないか。
過去の都合の悪いことは、曖昧にして忘れてしまい、それで次の新しいことに関心がいっている。企業も経営者が変ってしまうと、それで何事もなかったかのように粛々と進められていく、なんて光景はよくある。そうなっては欲しくないが、本質的な課題は残されたまま、また同じような過ちを犯すリスクがある。
(過去の太平洋戦争も一緒と言いたいが、ここではこれ以上言及しない。)
事業も営業も、トライ&エラーの精神でチャレンジしなければ勝ち残っていけない時代である。だからこそ、失敗をそのままにせず、その結果を冷静に受け止め分析し、次の戦略作戦や活動に活かす。その意識がなにより大事になっている。
あなたの営業部隊は、成功事例とともに失敗事例をしっかり受け止め、次の対策に活かしているか?
対策:期、月、週、日ごとに戦略作戦の進捗を確認するとともに、その成功と失敗事例を各論で見直し、営業現場での活動の見直しまで含めた作戦の改善改革を図っていく。
とまあ、ど素人が少々偉そうに敗因分析をしました。ここまでは誰でもできるでしょう。それでは、これからどうすれば勝てるか、それが大事になります。この答えは、サッカーのことはわかりませんが、少なくとも事業や営業に関してなら、実は私の著書やブログに書いてきたつもりです。特に戦略作戦の具体的な考え方は、小生の「マトリックス営業戦略」に集約されていますので、参照して下さい。
"後悔はしないが・・(謙虚に)反省して(敗因分析して)、次の対策に活かす"
このことが日本人及び日本企業が忘れず実行できたら、未来はきっと拓けるはず、
と思いたいですね。
以上
追伸:
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