リーダーの『新規開拓』28二章11「新規開拓の採算計算(営業の生産性計算)」

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新規開拓は自由であり、トライアンドエラーの精神が大事、と繰り返し述べてきました。と言って、やみくもに活動すればいいわけではありません。採算や生産性を常に意識して活動の効率を上げる工夫をすることも、一方でとても重要になります。そこで今回は新規開拓の採算を計算する方法について解説しましょう。取り扱う商品サービスによって、計算の異なる部分もありますが基本的な考え方は一緒です。

 

想定する条件(例えば活動内容・工数時間や販促内容、旅費交通費・・期間)で取引毎の総費用(+必要利益額)を仮計算した上、想定する粗利益率から必要販売高を計算します。その上でその期間での実績と比較して採算性の合う活動ができているのかどうかを判断する、という手順です。

 

販売額や粗利益額を計算する際は、一件当たりで想定できる成約金額(単価)、粗利益率が大きく関係します。新規開拓の口座開設の件数が多くとも、単発的な小口取引が大半では、新規開拓の採算は取れていない場合が多いですし、新規開拓をする意味が薄いことになります。新規開拓ではやはり大型商談や継続取引が見込める顧客が大事ということになるでしょう。

 

また費用の計算では、成約までの営業費用の見積もりや成約率が大きく関係してくることになります。そこではいかにスピーディに成約に結びつけられるかが、大事になってきます。効率性の視点です。いくら(大口の)見込み客が多くとも、成約までに時間がかかったり、最終の成約率が低いため、経費が大きくなって不採算な活動になっている、というケースも多いのです。気をつけたいものです。

 

(ブログの目次)

―採算性計算のために設定すべき項目―

<新規開拓の採算性を測るための質問>

設定すべき条件:

―ケース毎での採算計算例―

ケース例1:トータルでのアプローチ件数と成約件数(率)をあらかじめ想定し、目標利益を上げるためのトータル及び一件当たりの成約金額を算出する場合。

(個人あるいは数人での新規開拓作戦を想定)

設定する条件として:

<算出方法>

―成約金額は想定できるが、成約率が不確定な場合のケース―

ケース2:一件当たりの成約金額や粗利益率をあらかじめ想定して、その条件のもとで成約率によって何件アプローチして何件成約できればいいかを計算する場合。

     (営業部隊としての比較的多人数での新規開拓作戦を想定)

  設定する条件として:

<算出方法>

 

 

 

―採算性計算のために設定すべき項目―

まず次の質問を挙げましょう。採算計算のための前提条件です。皆さんはすぐに答えられるようにしてください。

 

<新規開拓の採算性を測るための質問>

1)この新規開拓作戦(活動)で、どのくらいの営業利益を上げたいと思っているのか

 

2)全体としての準備や広告宣伝その他販促等のための費用をどのくらいに見積もるか

 (広告宣伝費、事前準備費用や工数等。事前の仕掛け仕組みの費用、商品改良費用は?)

 

3)一件当たりの成約金額粗利益率や付加価値利益率をどのくらいに想定するのか。

(想定する提案商品の粗利益率や値引き・その他販売コスト等を考慮して判断。)

 

 4)トータルで何件ぐらいアプローチをかけ、何件の成約を目指すのか。

(一定期間でのアプローチ件数と成約件数、成約率をどのくらいに見込むのか。)

 

 5)その結果、目指すトータルでの成約金額と粗利額はいくらを見込むか。

  (例えばアプローチ50件で5件成約。トータルで売上○○円、粗利○○。・・・)

 

 6)アプローチにどのくらいの工数を見込むのか。

                    (訪問回数×一回当りの時間工数予測)

 

 7)営業の時間単価はどれくらいで見積もるか。

          (営業担当は時給5千円~三万円程度。その他は?)

 

 8)また他部門や外部支援の工数と費用はどう見積もるのか。

 

 9)その結果、新規開拓を成功させるまでの一件当たりの営業及びサポート費用はいくらになるか。

(初回訪問費用プラス・・その後の訪問一回当たり工数費用、営業販促費用)

 

設定すべき条件:

 ①目標(必要)営業利益額(期間も含めて設定する)

②新規開拓作戦で投入する全体としての販促費用(広告宣伝費、事前準備費用等)

 ③想定する粗利益率(製品原価だけでなく、サポート対応費用なども考慮)

 ④トータルな対象見込み客数と

想定する成約率(実績から想定・・成約件数と失注件数を算出)

 ⑤一社アプローチするために発生する費用

  -1・営業活動単価(営業工数一時間当たりの単価)

  -2・アプローチ一件当たりの販促費用(資料・ツール類)

  -3・成約客へのトータル訪問回数とトータル営業工数

  -4・失注客へのトータル訪問回数とトータル営業工数

  -5・成約客と失注客に対する訪問一回当たりの営業工数

  ―6.その他、考えられる他部門や外部支援費用の見積もり

 

―ケース毎での計算例―

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ケース例1:トータルでのアプローチ件数と成約件数(率)をあらかじめ想定し、目標利益を上げるためのトータル及び一件当たりの成約金額を算出する場合。

(個人あるいは数人での新規開拓作戦を想定)

 

 ・特定の地域やターゲットとなる見込み客を絞り込み、アプローチ件数を決めて作戦を立てる場合に当てはまります。

 

設定する条件として:

 ①全体としての販促費用を50万円(事前準備費用と打ち合わせ費用等)

 ②目標営業利益額は500万円(・・但し2年間での目標)

 ③想定付加価値利益率を25%

(製品の粗利益率は35%だが、その他の費用として10%程度見込む)

  ④トータルなターゲット見込み客は30件

 ⑤成約目標件数は6件(成約率は20%、失注件数は24件)

 ⑥成約客一件当たりの訪問回数8回を想定。

  失注客一件当たりは平均訪問回数2.2回程度(延べ50回)を想定

  (一回訪問客6件、二回客12件、三回客4件、四回客2件)

 ⑦営業担当の時間単価を一万円と設定。

 ⑧その他訪問費用算出の条件として

  ・アプローチ一件当たりの初期費用を2万円(初回提出資料とサンプル品等)

  ・デモンストレーションは成約客と三回以上訪問客で一回実施を基準とする。

費用5万円/一回(訪問費用は除く)

  ・成約客に関しては、8回の訪問のうち、4回は二人で訪問。このため訪問工数は二人分で計算。

  ・失注客に関しても、二回訪問のうち半分は二人訪問。三回四回訪問のうち半分は二人訪問。

  ・一回の訪問時間は移動時間を含め平均2.5時間を想定する。すると一人一回訪問での営業工数費用は(⑦より)2.5万円となる。(交通費含めて想定する)

 ⑨他部門などの営業外の支援費用は今回は見込まず

 

<算出方法>

以上の条件から目標販売額を算出した上、その金額を成約件数で割ることで成約客一件当たりの目標販売金額を算出します。

(1)成約客一件当たりの営業費用と成約客全体での営業総費用の計算

   成約客一件当たりの営業費用=

訪問延べ回数×訪問工数費用+初期費用+デモンストレーション費用

     (8回+4回)×2.5万円+2万円+5万円=37万円

   成約客全体での営業費用=一件当たりの営業費用×成約件数

                  37万円×6件=222万円

   

(2)失注客に対する営業総費用の計算

   ・訪問工数費用×失注客全体への訪問回数+初期費用×失注件数+デモンストレーション費用×実施回数

   2.5万円×(6件+{12件×2回×1.5倍}{4件×3回×1.5倍}

{2件×4回×1.5倍})+2万円×24件+5万円×(4+2件)=258万円

    ※失注客一件当たりの(個別)営業費用=258万円÷24件=10.75万円

成約客一件当たりの失注客営業費用=258万円÷6件=43万円

     成約客一件当たりの(個別)営業総費用=37万円+43万円=80万円

     今回の新規開拓活動におけるトータルでの(個別)営業総費用=

                        80万円×6件=480万円

 

(3)総費用=全体販促費用+成約客に対する営業総費用+失注客に対する営業総費用

        50万円+222万円+258万円=530万円

 

(4)目指す目標販売金額(全体と成約客一件当たりの販売金額)

採算ラインでの必達販売金額(全体と成約客一件当たりの販売金額)

 

 ◎目指す目標販売金額=(総費用+目標営業利益)÷想定付加価値利益率:

         (530万円+500万円)÷25%=4.120万円

       成約客一件当たり販売金額:4.120÷6件≒687万円

                       (・・但し、2年間での目標)

 ◎必達販売金額=総費用÷想定付加価値利益率:

                 530万円÷25%=2.120万円

       成約客一件当たり販売金額:2.120÷6件≒354万円

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

以上から、上記条件においては、2年間で目標(利益)金額を達成させるためには、成約件数6件として、トータル4,120万円で一件当たり687万円以上の売上金額の達成が必要になることがわかります。またそれがトータル2,120万円、一件当たり354万円以下ならば、数値上は赤字となります。

もちろん新規開拓は、こうした数値上の貢献だけでない大きな効果や成果が見込めますので、万一計算上赤字だからといって、単純に「やらないほうがよい」とはならないでしょう。しかし成功とはみなされないことは確かです。だからこそこうした計算をしながら活動することで、その採算性を上げるべく活動することが大事になると思ってください。

 

―成約金額は想定できるが、成約率が不確定な場合のケース―

 

さて上記の条件では成約率は想定できるが成約金額があいまいな場合で、いくらの成約金額を目指すべきかを計算するやり方です。次には成約金額はある程度想定できる場合、目標利益を達成させるためには成約率によって何件の成約件数を獲得すべきかを計算するやり方を考えてみましょう。

全体での販促費用と目標営業利益および一件当たりの成約(予測)金額はあらかじめ想定することとし、そのほかの一件毎の成約客や失注客にかかる営業費用の条件は1のケースと同様とします。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ケース2:一件当たりの成約金額や粗利益率をあらかじめ想定して、その条件のもとで成約率によって何件アプローチして何件成約できればいいかを計算する場合。

     (営業部隊としての比較的多人数での新規開拓作戦を想定)

 

設定する条件として:

1.全体での販促費用:200万円

2.目標営業利益金額:1,000万円

3.一件当たりの販売金額:平均500万円、粗利益率30%と想定。

    故に、一件当たりの粗利益額平均150万円と想定。

(継続取引も含めた一件当たりの総販売金額、粗利金額として)

 4.一件当たりの営業費用(ケース1より)

成約客は平均37万円、失注客は平均10.75万円

 

以上の条件に対して、成約率から必要成約件数とトータルアプローチ件数を算出することにします。営業部隊のリーダーとしては、このようなケースでいくつかの成約率を想定しながら、的確に目標とする販売金額、成約件数を計算できることが求められるでしょう。

 

<算出方法>

成約率が変動することから、成約率αとして方程式を作成します。すると失注客件数は成約客一件当たり(100-α)÷αとなります。

 

1)成約一件当たりの限界利益額の計算:

  成約一件当たりの限界利益額=一件当たりの粗利益額-一件当たりの営業費用

{一件当たりの営業費用=成約客費用+(100-α)÷α×失注客費用}

 

150万円-37.5万-10.75万円×(100-α)÷α

 

 例1:成約率αが20%(5件に一件の受注)の場合

    150万円-37.5万-10.75万円×(10020)÷20

150万円-80.5万円=69.5万円

 例2:成約率αが25%(4件に一件の受注)の場合

    150万円-37.5万-10.75万円×(10025)÷25

150万円-69.75万円=80.25万円

例3:成約率αが10%(10件に一件の受注)の場合

    150万円-37.5万-10.75万円×(10010)÷10

150万円-134.25万円=15.75万円

 

2)必要となる成約件数とトータルアプローチ件数、トータル販売目標金額の計算:

 

必要成約件数=(全体での販促費用+目標営業利益額)÷成約1件当たりの限界利益

必要トータルアプローチ件数=必要成約件数÷成約率

必要トータル販売目標金額=必要成約件数×500万円{1件当たりの販売金額}

損益分岐点成約件数=全体での販促費用÷成約1件当たりの限界利益

 

 例1:成約率αが20%(5件に一件の受注)の場合

   必要成約件数=(200万円+1,000万円)÷69.5万円≒17.3

   必要トータルアプローチ件数17.3件÷0.286.3

   必要トータル販売目標≒17.3×500万円≒86,500万円

   損益分岐点成約件数=200万円÷69.5万円≒3

 

 例2:成約率αが25%(4件に一件の受注)の場合

   必要成約件数=(200万円+1,000万円)÷80.25万円≒15

   必要トータルアプローチ件数15件÷0.260

   必要トータル販売目標≒15×500万円≒75,000万円

   損益分岐点成約件数=200万円÷80.25万円≒2.5

 

例3:成約率αが10%(10件に一件の受注)の場合

   必要成約件数=(200万円+1,000万円)÷15.75万円≒76.2

   必要トータルアプローチ件数76.2件÷0.1762

   必要トータル販売目標≒762件×500万円≒381,000万円

   損益分岐点成約件数=200万円÷15.75万円≒12.7

    (損益分岐点必要トータルアプローチ件数≒127)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

上記ケース例2では、目標営業利益を達成させるのは難しいものの、損益分岐点までの達成であれば、比較的容易ではないかと判断できると思います。一方で、成約率が10%前後になるなら、目標どころか損益分岐点までの到達も難しいことは明らかです。新規開拓の場合、成功確率(成約率)のバラつきが大きく、その確率を上げていくことがとても重要であることが、こうした計算からも明らかです。

また成約金額や粗利益率の見通しがずれた場合でも、すぐ修正して計算するならば、必要とされる成約件数やアプローチ件数を見直すことは容易です。

 リーダーはこうした計算を日頃から繰り返し行うことで、新規開拓だけでなく営業活動全般にわたって利益や採算数値に対する感覚が磨かれ、採算からみた作戦の妥当性についても、より的確に判断できるようになることと思います。

                                    以上


次回に続く・・・


参考ブログ:

・「『実践:新規開拓を絶対成功させる』営業研修プログラムのお勧め」

     http://cbc-souken.co.jp/cbc/2012/03/post-17.html


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このページは、CBC総研が2014年8月14日 11:27に書いたブログ記事です。

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