営業の目標管理と業績評価を解説する⑥「老舗企業Q社事例『見習い、並(合格)、模範』の区分

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 『見習い、並(合格)、模範』

階層毎に区分けした営業評価制度の事例

 ~「成果主義で評価制度を改革した

老舗企業Q社の成功事例」

(一部修正)~

<営業組織の人事評価制度のポイント>

  ①営業階層の区分け

②階層ごとの役割と評価内容の明確化

③階層毎に、「見習い」「並(合格)」「模範」のレベル設定

④2年間程度の間隔の昇格を標準コースとして想定。

⑤現在の実力と求めるレベルのギャップの明確化

⑥2年間での実力中心の組織編制への移行

⑦降格制度の明確化

 

 

「社長!儲かる営業に変えましょう 第4章:評価制度を改革して会社を『儲ける体質』に変える」より一部追加修正。

ここで、新しい営業の人事評価制度のまとめとして、実際に組織の階層と役割分担を抜本的に見直したQ社の事例を紹介しましょう。

 Q社は、業界の中でも老舗優良企業として、市場で優位なポジションをおさえ、長い間安定した業績を続けていた会社です。そのため、人事制度も典型的な年功序列になっており、年齢にあわせて、主任、課長、部長、事業部長という組織編成になっていました。従業員は300名、うち営業マンは100名強です。

 しかし最近は業界自体の構造変化と新技術の進展で競合参入が相次ぎ、Q社の優位性が大きく揺らいでいました。

 業績も一時10億円を超えていた経常利益はどんどん低下し、2億円を切ってさらに落ち込んでいく状況に陥っていたのです。

 経営者や営業トップ・幹部も、業績悪化を目の当たりにして、営業改革の必要性は痛感していました。しかし、実際には何をどう変えていくべきかをよく検討しないまま、「提案営業」とか「成果主義」といったよくあるスローガンをただ示すだけで終わっていたのです。

そんな中、営業の人事制度の抜本的見直しの方針が経営者から出されました。

 社長から依頼を受けた私は、新たな新規開拓のための全社的な作戦と、それにあわせて階層ごとの役割を明確にする新しい組織編成案を提案しました。それが次の図表です。

 ポイントを説明すると次のようになります。


<営業組織の人事評価制度のポイント>

  ①営業階層の区分け

・階層は、新人・一般営業・チームリーダー・マネジメントリーダー・戦略リーダーの区分けとする。

 ※そして、階層毎の役割(行動基準、期待する実力、成果)の違いをはっきりさせる。

②階層ごとの役割と評価内容の明確化

・一般営業は、個人業績を重視し、かつ個人として自力獲得のための活動評価にウェイトを置く。

チームリーダーは、物件や主な得意先、あるいは特定テーマのチームリーダーであり、そのテーマの成果をもって評価する。 

マネジメントリーダーは、営業所や課の長であり、組織単位での1~3年間の業績向上から、チーム編成・組織運営やOJTでの部下教育に責任を持つ。

戦略リーダーは、組織単位ごとのマネジメント状況を把握し、全体としての円滑な運営と、戦略的な3年を超える営業政策の立案・決断・推進の責任を持つ。

 

※以上の役割の違いは、一般的によく見受けられるものだ。但し『建前』としては明確にしていても、実際にはあいまいになっており、実力や成果を評価する場面でもアバウトで感覚的なものになっている企業が多いのではないか。

例えば、営業担当者と営業主任の違いは、多くの企業であいまいであり、評価についても同じような尺度で運営している場合が多いようである。

Q社の場合は、年功序列の考え方の強い人事制度のために、なおさら階層毎の役割は曖昧なままになっていたのである。

 

③階層毎に、「見習い」「並(合格)」「模範」のレベル設定

 ・「見習い」は、その階層に求められる実力要件はまだ満たしていないもの     の、できると思われる人材にチャレンジしてもらうレベルである。

「並(合格)」は、実力要件を平均以上に満たし、かつ業績実績が2年連続で条件を満たした場合に昇格する。

「模範」は、実力要件がより高い評価であり、業績実績の継続性も十分満たしている場合である。「模範」の場合は、同じ階層の中での上位者として、調整役等の役割もあわせて担うものとする。

 

※こうした『見習い、並(合格)、模範』と言う実力の違いをはっきりさせるのは、その階層毎に求められる実力要件をきちんと整理しておくことが大前提である。また実力のレベルを項目的に評価する際にも、この『見習い、並(合格)、模範』といった考え方は、わかりやすく有効だろう。

  たとえば、技術的な商品サービスを扱う輸入商社の場合、営業職であっても、どうしても英語等の外国語の習得は必須の場合が多いだろう。と言って、外国語の能力が高いだけでは、役職が上になれるというわけではないはずだ。他方で、役職が上になればなるほど、外国語に堪能なほうが、外国の技術提携企業とのやり取りや折衝もしやすくなることは間違いない。

そこで、外国語の習得や折衝能力を実力要件の一つとして設定し、そのレベルアップを図ってもらうようにする。

 その場合『見習い』レベルでは、不合格だからマイナス評価であり、早急に『並(合格)』レベルを目指してもらうようにする。他方で『模範』レベルであれば、

 他の営業メンバーに対して外国語習得の教官役になってもらったり、実際の折衝の場面でのサポート役になってもらうようにして、高い評価に見合った役割をしてもらえるようにするのである。

  『見習い』という階層内のレベルを設定することで、まだまだ実力的には不足する部分が多い人でも、抜擢人事で頑張ってもらえるようにすることが出来るし、その場合、何がまだ不足していてこれから何を習得してもらいたいのかが、はっきりさせることが出来るだろう。

  またその階層では優秀でも、上位階層にするには難しいと思われる人達には、『模範』というレベルを与えることで、プライド持って頑張ってもらえるし、その秀でた貴重な能力や経験を『並』以下の人達に教えてもらうことが出来るだろう。

 

④2年間程度の間隔の昇格を標準コースとして想定。

・このような階層モデルを前提に2年間程度の昇格コースを標準としてあてはめる。そしてそれにあわせて、モデル賃金と賞与の体系を設定する

「見習い」は、チャレンジしてもらうためのレベルであるから、まだ給与は低いし、降格も十分にありうる。実力がつき「並」となってはじめて給与は伸びることになる。ただし、もちろん求められる成果も大きくなる。

 一方で、モデル賃金をもとに、実際の社員一人ひとりが、(現在の賃金から見て)どの階層のどのレベルに相当するかを整理する。

 

※2年間単位でステップアップしていくと言う人材育成システムは、期間設定として最適だろう。各人に、2年間での育成目標を作ってもらってそれを順次達成していってもらうのである。Q社の場合、熟練した能力も求められる事業であったため、こうした年齢を重ねていって実力を高めているシステムが最適であっただろう。

  これがベンチャー企業で、2年単位では長すぎるとなった場合には、その期間を1年単位西締めることは可能である。その場合は、図表から見ても30歳前後でマネジメントリーダー(課長)、30歳代の中ごろで戦略リーダーになる。実際私がお手伝いしたベンチャー企業の場合、そのような人事構成になっていた。

 人事昇格や育成スピードが2倍と言うことだ。実際そのような感覚を受けるのも事実である。

これからはベンチャー企業と言わずとも、スピード重視の経営が求められるので、今後は2年間を上限として、一年単位でのレベルアップを目指す人材育成と人事運営が求められるだろう。毎年、『見習い』の人は『並』をめざし、『並』の人は『模範』を目指す。そして『模範』の人は、次の上位の階層の『見習い』を目指すということだ。

 但し、すべての『模範』の人が次の上位の階層を目指せるわけではないかもしれない。その場合は、『模範』の中でもランク分けして、より高い専門能力を高めてもらえるようにすることも考えられるだろう.『営業マイスター制度』の導入である。「レジェンドマイスター」といった最高の称号を作って、名誉を持って処遇するのである。

(弊社ホームページ、及びブログで『営業マイスター制度』の解説を参照してください。)

 

⑤現在の実力と求めるレベルのギャップの明確化

・同時に、社員一人ひとりの現在の仕事状況と実力要件評価から、どの階層のどのレベルに相当するかを整理する。そして、現状の賃金、役割と、求められる役割・成果・実力要件とのギャップを明確にする。

 

※実際に現状の賃金から求められる実力や役割と、実際に出来ている実力や役割とのギャップは、人によってかなり大きいものである。ギャップの大きい人ほど、そのギャップに気が付いていない場合が大半だ。だから厄介だ。できない人ほど、自分に甘く「自分は出来ている」と思っていて問題意識が欠落している。

そうした人たちにあらためて問題意識を与えて、自己向上の意欲を持ってもらうようにする。だから性急な改革を進めると、社内の反発が出て失敗するので、じっくり時間を掛け、徐々に会社全体の世界観を変えていくということが大事になるだろう。

 

⑥2年間での実力中心の組織編制への移行

・2年間の調整期間を置き、年齢とは一切比例しない、実際の役割・成果にあわせた組織編成に移行する。外部に対しての肩書きは変更しないものの、社内での新しい役割と名称を別途設定する。

 

※私がお手伝いした急成長会社では、社長の評価によって、幹部社員については、外部へ向けた肩書さえ、平気で降格していた。それは一見社内の緊張感を維持することに貢献するよう見えても、実は社内の不安感を醸成することになっていたよう思える。実際、幹部の半分以上のメンバーは降格後数年のうちに退職し他社に移っていった。貴重な人材が本当にもったいないことである。

  実力中心にした組織編制への移行に際して、懲罰的な人事にならないような細心の心遣いが必要だろう。

 

⑦降格制度の明確化

・「見習い」は、2年間の実績を見て物足りない場合は降格させる。一般営業マンの場合は、30歳になっても「見習い」から卒業できないのであれば、営業以外の他部門へ異動させるか、場合によっては退職勧告も行なう

※『退職勧告』については、文章としては掲げたものの、実際には行われていない。

 肝心なことは、一人ひとりに自分の能力向上と成果向上を必死になって目指していく意識改革を与えることである。

 

以上の新人事制度の役割階層は、Q社の現状に非常に適応していました。年齢と階層と賃金が、新制度にほぼ一致していたからです。そのため、新制度移行は大きな抵抗もなく受け入れられました。

 

問題は、実際に求められる役割・成果・実力要件と、本人の現状とのギャップです。新制度導入にあわせて、このギャップを一人ひとりに明確に示すことで、2~3年かけて抜本的な組織の見直しができたのです。

実際には、課長・部長クラスの約3分の1の役職見直しと、それにあわせた「専門職のコース(チームリーダー)」の設置が行なわれました。一方、若手のチームリーダークラスのマネジメントリーダーへの昇格、あるいは若手マネジメントリーダーの戦略リーダーへの抜擢等が可能となりました。

 一方、現場の一般営業マンに対しても、より自力獲得にウェイトを置いた目標・計画・実績評価のしくみを導入したことで、営業マン同士での格差が明確になり、できる営業担当者の業績向上が顕著になるとともに、全社的に成果主義の文化に変わっていったのです。成果主義をベースにした評価制度のモデルケースと言えるでしょう。


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 CBC総研のホームページ

 

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このページは、CBC総研が2013年7月21日 11:17に書いたブログ記事です。

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