営業の目標管理と業績評価を解説する⑤『幹部人事で社長が犯す4つの大罪』

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これまで、営業の成果主義の評価制度について、6つの失敗要因と9つの成功ポイントについて解説してきました。今回はその最後の成功ポイントである『幹部・上位者に厳しい評価制度にする』と言うポイントに関して、よく見受けられる"大罪"を4つ挙げて解説しましょう。少々辛辣な文章になっていますが、ほんとによく見受けられる"大罪"であり、それが会社の活力をそぎ、時には衰退の道を歩ませる原因にもなっている場合が多いのです。

社長さんはじめ幹部の皆さんにも、よくよく気を付けていただきたいと思います。

 

「社長!儲かる営業に変えましょう。 

第4章:評価制度を改革して会社を『儲ける体質』に変える」より一部修正

 

幹部人事で社長が犯す4つの大罪

こんな幹部人事は会社をダメにする―

―社長は『鬼の上司』に騙されるな―

※「社長は、社長の意向ばかり気にする『平目リーダー』に気をつけよ!」

―営業幹部社員に求められる6つの役割―

<幹部人材への評価方法として>


幹部人事で社長が犯す4つの大罪

こんな幹部人事は会社をダメにする―

 ここで、幹部人事における、社長の「大罪」を列挙してみよう。

①"ご褒美"人事の弊害

・自分の側近で、公私とも長く自分を支えてくれた従順な部下を、"ご褒美"で幹部につけてしまう

能力がある・なしにかかわらず、役職を"ご褒美"として与えたら、うまくいかない。特に、上位職になればなるほど、本来役職として期待することとのギャップが大きくなってしまい、昇格や肩書きが逆効果になるだろう。

昇格した本人は、ご褒美がいただけたのでうれしいかもしれないが、それははじめのうちだけだ。むしろその肩書きが重りになってしまうこともよくあることだ。

 もちろん、社長に長年従い、がんばってくれた部下に報いてあげたいという社長の気持ちはよくわかる。しかし、会社に長く居て社長の近くにいればいるほど、社長の顔色をうかがい、言い訳もうまくなりやすい。そんなことに上達した者が出世する組織に、活力が生まれるはずがない。

 

②過剰期待の弊害

・「役職を上げれば責任感も高まるだろう」という期待から、役職を上げる

 人にもよるが、ほとんどの場合、期待は裏切られる。役職が上がるとそれで満足してしまう者のほうが多いのが現実である。また、役職が高くなれば高くなるほど、知らぬ間に自分中心の考え方になりやすく、視野が狭くなって動きも鈍くなりやすいものだ。

 自分の能力以上の役職に就いたなら、自己保身に陥りやすくなり、なおさら保守的になったり、強権的になってしまう者も多いことは注意すべきだろう。

 

③役職や勤続年数に甘い人事の弊害

・「役職が高いほど、会社のことを真剣に考えている」「会社に長く勤続しているのだから、それだけ会社への忠誠心や信頼感は高いだろう」と思って、長期勤続者の評価を甘くしたり、昇格させたりする

 役職が上がると、現場から離れ現実の市場が見えなくなりやすいことは確かだ。また役職が高くなればなるほど、役職への執着心は高くなるものの会社への忠誠心が必ずしも高くなるとは限らないと思ったほうがいい。一方長期に勤続していたからと言っても、自社への忠誠心が高いとは限らない。依存心だけが高いといったことも考えられる。だから、これまでの地位や勤続年数のみで昇格を判断しては絶対にいけない。判断基準になるのは、あくまで使命感と"これから何をしてくれるのか"、という将来へ向けた期待効果である。


④過去の成果に惑わされる弊害

・「かつてあの修羅場を乗り切った人物だから、任せれば業績アップを実現してくれるだろう」と思って、過去の実績に基づいてベテラン営業部長等を、さらにその上の統括責任者等の重職につける

 経験があればあるほど過去のやり方にこだわり、新しい手が打てない場合が多い。過去の実績だけで重職を任せるのは危険この上ない。

 また、過去の人脈を重要視して、先代社長のときの営業幹部をその地位につけたままでいる二代目社長もときおり見受けられる。しかし、多くの場合、過去の人脈が今も役立つとは限らない。やはり、大事なのは、今どれだけ営業幹部としての成果を挙げられるかだろう。

 ※もちろん、過去会社へ貢献してくれた人たちに対して感謝の気持ちを表し続けることは、とても大事だ。だからちょっと年老いたからと言って、懲罰的な人事や明確な排除の人事をするのを控えるというのは、よくわかる。

しかし会社は未来へ向けて動いているのだから、これからの貢献が期待できない人たちに対しては、人事的にメインの立場から退いてもらうことは致し方ないことだ。但し、そこで大事なのは,立場や待遇は合理的に考えた対応をするにしても、そうした人たちにたいして"誇り"を与えること。それから切り捨てるのではなく、その素晴らしい経験をどう活用するかをしっかり会社として考えてあげることである。

 

※<補足>

⑤部下チームの成果を上司の実力と勘違いして昇格させる弊害

・ある部署での業績が良かっただけで、そこの部署の管理者を幹部に昇格させてしまう。(ところが、他部署に行ったら、全くうまくいかないとか、幹部としての働きができない、といったケース)

営業拠点での業績は、そこでのリーダーだけの実力と言うより、部下たちの活躍が大きい。むしろ部下達をチームとしてまとめ上げ、本社本部との連携をコーディネートするのが、拠点営業リーダーの主な役割と言えるだろう。それが出来るリーダーの評価が高くなるような評価制度を作るべきだ。

ところが業績結果だけを見た評価制度を取っている場合、たまたま出来る部下達がいて、その部下が拠点組織をまとめ本社などとの連係もうまくコーディネートしていたといった場合、そこでの拠点リーダーの役割は、なにより部下達の活動を見守ってあげることに尽きるだろう。実際そういった事例を私はいくつか見てきた。それはそれでうまくいっているからいいが、そうした拠点リーダーの場合、他の拠点に行ったら全く成果を上げられないといったこともよく見受けるのである。これまで業績がよかったのはたまたま部下達との組み合わせがよかっただけで、自身の実力とは言い難いということだ。

実は拠点営業所の業績はリーダーと部下達との組み合わせがうまくいっているかどうか、が大きな影響を及ぼす。幹部人事としては、結果だけでなくそのリーダー自身のリーダーシップのあり方や戦略性をしっかりとらえることが大事と思えるのだ。

 

 

―社長は『鬼の上司』に騙されるな―

 最近は鬼の上司が流行していて、社長から見ても、部下たちに『鬼』のように接する営業幹部やリーダーを頼もしく感じるだろう。あるいは、もっと『鬼』のように厳しく部下を鍛えてほしいと思うかもしれない。

 しかし、気をつけてほしいのは、それら幹部やリーダーの態度が、多くの場合ただのパフォーマンスに過ぎないことだ。たとえば、『鬼』の態度をとることで、商談失敗のすべての責任を部下におしつけているのであれば、これは大きな問題である。

 また、ただの"叱責と強制"では、部下の成果も上がらない。せめて"愛情を持って鬼になる"のでなければ部下はついてこないし、会社や上司を信頼してお客様に自信と信念をもった働きかけなど、できるわけがない。

 個人的には精神論や根性論は大事だと思っているが、部下の前で『鬼』になる以前に、自分自身に厳しくするのが、上司たるものの条件だろう。そうでない上司は、部下から信用されるわけがない。

 先日、ある会社で若い社員が「どんな制度でもいいけれど、あの上司からだけは評価されたくない」と言っているのを聞いた。幹部に対して、こんなふうに思っている社員が何人もいるような会社なら、どんな評価制度をつくってもうまくいくわけがない。

 評価制度の改革を成功させるためには、一般社員以上に幹部社員の意識革新を図り、覚悟をうながす必要がある。


※「社長は、社長の意向ばかり気にする『平目リーダー』に気をつけよ!」

営業リーダーの皆さんの中には、社長や上位幹部の人達の意向や評価を最大の関心事としてとらえている方もいる。

「山川さん、うちの社長はこう言うのですが、どういう意味なんですか。何を考えているんですかね?」と言う言い方が、口癖のようになっている営業部長のSさんがいた。その言い方は本当に社長の意向に合わせていくことが自分の仕事の本分と思えていることが率直に出ており、当初私にはむしろ好ましい感じがしたのである。実際営業部長としては、社長の意向をとらえることは大事な仕事の一部であることは間違いない。社長や専務からも、そうした真面目さが評価されていた。

しかし部下の人達からはどうだっただろうか。実際そのS部長さんは、部下達に対してはあまり関心が無いように見え、社長の言うことを一方的に指示することになっていたように思える。そのためか、そのS営業部長さんが入った営業会議は全く低調で、私がいくら促しても、殆んど部下の営業所長のみなさんから意見が出ることが無かった。業績もなかなか現状の低迷状態から抜け出すことが出来ないままになっていた。

ところが一年後新たな営業統括部長のMさんが来て、S部長さんから代わって営業会議を開くと、すぐに以前とは全く違う様子になったのである。その中のある営業所長さんは自ら、私が以前会議で言ったことや私の書籍の内容を取出し、『先生からこのようなことを教わって、うちの営業所ではこんなこと始めて成果が出始めています!』と言ってくれた。私は笑いながら、「そうした前向きな話は、遠慮せずにどんどんみんなの前で話していようよ!」と言ったが、みんなが以前とはまるで変った前向きな意識が出てきているのが私には十分感じられた。

新しいM営業統括部長さんは社長の意向はもちろん大事にするものの、他方で部下達のそうした前向きな取り組みを促しながら率直に受けとめ評価する姿勢も強かった。おかげでその後は、その営業統括部長さんと組んだ私のコンサルティングもスムーズにいくようになり、一定の成果を出すことが出来たのである。

 

  「平目社員」という言葉がある。つまり平目のように上司のことばかり気にしている社員のことだ。ちなみにS部長さんは、「平目部長」と言えるだろう。部長であれば、その弊害は一般社員よりよほど大きいことになる。一般社員はそうした主体性を無くし部下に関心を無くした上司に、ただただついていくしかないからだ。

しかし、本人はそうした蔑称を心外に思うのではないか。Sさんとしては、社長は心底『すごい人』であり自分では到底かなわない人と思っている。だからその意向をしっかり聞いて、その意向に沿ってやっていきたいと思っている。それはけっして自分が出世したいといった欲から出たものではないと思っているだろう。そしてそうした姿勢は社長からするなら好ましいものに見えるはずだ。しかしだからこそ、"やばい"のである。本人は自分が「平目社員」になっているとは自覚していないし、その弊害、すなわち部下達の活力を低下させ自由に自分たちで考え自分達で進めていこうという意欲を奪ってしまっていること、に気が付いていないのだ。

社長としては、そうした平目部長をつくらないし、若し居たならすぐに見つけて矯正していけるような仕組みが大事になるだろう。

 

―営業幹部社員に求められる6つの役割―

 では、幹部社員の役割はどうあるべきか。職種により役割は異なるが、営業幹部には次の6つの項目が考えられるだろう。

①「幹部の使命感」に基づく日々の行動・言動

②企画戦略立案と作戦の組み立て

③営業部隊の指揮統率と率先垂範のリーダーシップ

④トップ営業の代行

⑤組織運営教育のしくみ・しかけづくり

⑥次世代リーダーの育成

 この6つの役割はいずれも重要だが、すべてにわたって十分にこなせる幹部は、ほとんどいないと思ったほうがよい。すべてにオールマイティな人材を求めることそのものが現実離れしている。

 だから6つの役割のうち、いくつかを十分果たしてくれているなら、幹部として高く評価してよいだろう。足りない部分は、これから一つひとつ身につけさせればよい。それでも足りない部分は、補佐してくれる部下をサブにつけることでカバーする

 同様に、幹部社員の条件には、社長の弱さを補完してくれる人材という点も挙げられる。

 そもそも社長という役割は、強い個性と信念を持って、社員を引っぱっていくことにあるが、それだけに独りよがりなところがなくもない。だいいち、社長となればまわりも遠慮して率直な意見を言わないから、なおさら自分を客観視できなくなる。

 だから、社長は自分の弱さをカバーしてくれる人材を、最低でも幹部に一人は置いておきたい。それも営業現場を熟知している幹部が望ましいだろう。

 いずれにせよ、一番大事なことは、やはり一番目の「幹部としての使命感」である。「使命感」があれば、先の例でも、社長に直言ができるはずだ。逆に、これが欠落している者は、幹部からの降格も考えざるを得ない。

 「使命感」とは、「己を捨てて、世のため人のために尽くす心」である。だから「幹部としての使命感」とは、会社の成長発展のため、また部下の幸せのため、己を捨てて決断し行動できるか、ということだ。これは、自部門のセクショナリズムや自己保身とは対極にある。これがあるから、自分を謙虚に客観的に見ることもできるし、自己成長していける。こういう人物なら、部下も社長も一目置くはずだ。

 また社外の人や企業に対しては、会社のポリシーを社長と同様に自らのポリシーとして熱い思いを語り、それに共感してくれる人や企業の輪を広げ深めていけるか、ということだ。幹部社員がその役割を果たしてくれなければ、社長のポリシーは絶対に浸透しない。

 大げさに聞こえるかもしれないが、そんな「使命感」を持ち、会社のビジョンを語れる幹部が何人いるかで会社の将来は決まる。幹部社員の評価がより厳しくなるのは当然のことだろう。具体的には以下のような評価を考えたい。


<幹部人材への評価方法として>

(1)会社への思い・ビジョンへの共感と使命感を量る

   ・日頃、会社への思いやビジョンをどのように語っているか

   ・その幹部の部下たちは、会社への思いを強く持って、仕事に全力をかけているか

   ・会社や部下たちのため、いざというとき、己を捨てて尽くそうとしているか


(2)会社業績全体に対する責任を明確にする

   ・会社が赤字の場合は、給与・賞与をギリギリまで減額する

   ・一方、会社が業績目標を達成し、自部門のチャレンジ目標も達成した場合、その部の貢献度により、賞与を大幅に増額する


(3)各幹部社員の年度の成果実績とその評価を公表し、

                           一般社員を含め全員の承認を得る

(この場合も、必達目標・基準目標・チャレンジ目標を設定し、その達成度を見る。また途中でなしとげた新しい成果実績も申告する)

(4)活動の成果目標として、先ほどの6つの役割項目ごとに、年度達成目標と   実行計画項目を10項目以上設定し、その実行と達成結果および評価を公表する

  ・1年間の企画戦略作戦の具体的な実行テーマ成果実績(売上・利益)、

                           成果ポイント

・トップ営業としての成果実績と内容(具体的な商談案件・成果)、

                            人脈づくり

・営業部隊の指揮統率内容

  (年度・半期・3か月単位での計画とその実行内容)

・組織運営のしくみ・しかけの改善内容。その他、

          教育・業務改善等組織力強化対策実行・成果内容

・部下の能力向上、人材育成の成果内容(具体的に誰をどうしたか)

 

(5)以上の幹部社員の成果実績表の作成と公表

(6)年度ごとに自部門の部下および関連他部門からの

                   アンケート360度評価の実施。 

その内容をふまえた自己革新計画を毎期必ず作成し、

                   社員全員に公表し、宣言する

さて幹部を含めた営業の人事改革制度の改革について述べてきたが、実際に会社に導入する場合はしっかり教育研修を行なわなければうまく機能しない。教育研修の流れについては208ページ、209ページの図表29にまとめたので参考にしてほしい。

(改めて、別途ブログで解説したいと思います。)


 次回へ続く・・・

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このページは、CBC総研が2013年7月14日 15:30に書いたブログ記事です。

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