前回、営業の成果主義の評価制度について、よく失敗する要因を6つ挙げました。そこで今回以降は、その失敗要因を踏まえ、評価制度改革を成功させるポイントについて解説したいと思います。ポイントは9つ挙げますが、今回は3つのポイントについて解説しましょう。
「社長!儲かる営業に変えましょう。
第4章:評価制度を改革して会社を『儲ける体質』に変える」より一部修正
2:評価制度改革を成功させる鍵
―評価制度改革 9つのポイント―
評価制度改革:9つのポイント解説(実践篇・・前半③まで)
①社長自ら評価制度改革の目的を全社員に明確に示す
②実力と成果をはっきり区分けしたシンプルな評価制度を導入する
③「マトリックス営業 4つの領域」をコンピテンシーと戦略作戦にあてはめて、自社の営業活動にあった実力、成果の制度をつくる
2:評価制度改革を成功させる鍵
―評価制度改革 9つのポイント―
私のコンサルティングでは、個々の企業の実情に踏み込み、新規開拓活動の推進まで行なっているが、あわせて最近は営業の人事評価制度の改革まで一貫して行なうことが増えている。逆に営業の評価制度改革の依頼を受けて、営業教育や営業戦略の立案や推進まで行なうことも少なくない。というのも、それらを一貫してやってこそ、営業改革と業績アップが実現できるからである。
ここでは、営業部門にふさわしい業績評価制度について、成功させるポイントと進め方を説明したい。これまで述べてきた失敗原因を振り返れば、やるべきことは、はっきりしている。評価制度の改革は決してむずかしいことではない。その運営のほうがはるかにむずかしい。
評価制度策定の手順にあわせて、そのやり方のポイントは次の9つになる。
①トップ(社長)自ら評価制度改革の目的を全社員に明確に示す
②「実力」と「成果」をはっきり区分けしたシンプルな評価制度を導入する
③「マトリックス営業戦略、4つの領域」をコンピテンシー
(成果の出る仕事のやり方)
④役割階層については、その役割の違いにあわせて大きくシンプルに区分し、それぞれに求められる役割と成果を明確にする。さらに階層ごとに、「見習い」「合格」「模範」の区分をし、昇格・降格が柔軟にできるようにする
⑤成果のうち業績成果は、「運」「環境」「自力獲得」の区分けをはっきりさせ、評価のウェイトでは「自力獲得」を重視する
⑥数値以外の成果の評価として、能力の向上、チームプレーへの貢献度を入れ、デジタルな尺度を決める
⑦事前のシミュレーションを重視し、イレギュラーケースごとの評価の方針と基準ルールを明確にする
⑧臨機応変な報奨制度を導入し、営業改革のきっかけとする
⑨(一般社員以上に)幹部・上位者に役割と成果を厳しく問う制度とする
評価制度改革:9つのポイント解説(実践篇・・前半③まで)
それでは、個々の項目について見ていこう。
①トップ(社長)自ら評価制度改革の目的を全社員に明確に示す
評価制度の目的は、あくまで評価ではなく、会社の業績アップと成長発展にある。社員一人ひとりの意識・行動改革と、それを通じたやる気・能力アップを実現していくしくみとして、評価制度は存在する。
そのために社長の覚悟を社員に示して、各人の行動と意識改革を促すことが大事になる。
評価と待遇は、社員にとって一番の関心事であり、会社が自分をどう見ているかがそれによってわかる。スタート時に社員の納得を得てスムーズな発進ができるかどうかで、その後の推進に大きな影響が出るだろう。改革の目的は、冊子にして配布するとともに、社長が繰り返し語っていくことが欠かせない。
(※もちろんその場合、当社の理念、社員に対しての当社の姿勢、今後当社としてめざすビジョン・目標・戦略、その上での社員に期待すること・・、がはじめに来るだろう。)
同時に、評価制度導入プロジェクトをスタートさせる。このプロジェクトは営業のトップを中心に、人事部門と営業現場に詳しい中堅クラスの営業リーダーを加える。制度の検討のうち、制度の枠組みや組織単位の区分けまではトップでできても、実際の評価項目等は、現場をよく知っている者でないと適切なものにはならないからだ。
また、プロジェクトとともに推進委員会も設置する。プロジェクトと推進委員会はその性格が異なる。プロジェクトは導入のための実務推進役だが、推進委員会は社員の意見聴取と制度の組織への浸透を目的として活動する。だからプロジェクトは、実務的に能力の高いメンバーを選別し、推進委員会には、組織内での影響力の大きい者を選ぶことになる。業績評価制度導入の一般的な手順を前ページの【図表20】にまとめたので参考にしていただきたい。
②実力と成果をはっきり区分けしたシンプルな評価制度を導入する
一般的な評価の査定プロセスは、「期待する成果目標の設定→そこに働く本人要件と外部要件の区分け→結果としての成果実績の確認→実績を中心にしたルールに基づく評価→評価結果に基づく(ルールに基づく)待遇決定」というステップになる【図表21参照】。このステップを考えただけでも、評価にはいかにアバウトな部分が多く、会社のポリシーによってその評価が大きく変わるものであるかが、よくわかる。
このステップの流れで最も大事なプロセスは、本人要件の「実力」「努力・行動」→「結果としての成果実績」という部分だ。このプロセスとそれぞれの項目をできるだけ明確にすることが、評価をより透明にし、制度による組織活性化の効果も高めることになる。
要件の中に行動特性を入れることもできる。行動特性は「コンピテンシー(優秀な成果を上げる人の仕事のやり方)」と一般的には言われているが、評価要素として考えた場合、あまりにアバウトである。むしろ教育に利用したほうがよいだろう。
このように「実力」と「成果」をはっきり区分けすると、評価制度の考え方もずいぶんすっきりさせることができる。また待遇への反映という点では、実力は「給与」、成果は「賞与」に連動させるのが日本的だし納得性も高くなるだろう。
加えて営業部門で大切なのは、会社業績と個人の待遇を直接リンクさせたしくみをつくることだ。たとえば貢献利益の20%は、業績賞与として営業部門に与えるといった形にする。
また、一人ひとりの営業マンに、いくら稼がなければ、現在の給与や賞与がもらえないかをはっきり示すことも大事だろう。この場合、稼ぐという限りは、粗利金額が基準になる。最低これくらいは稼いでほしいとなれば、第3章で述べたMIN予測に基づく、最低必達目標だ。
ある販売会社では、営業マン一人あたりの月間粗利金額の基準を200万円とし、営業マンごとに各人の年間所得にあわせて目標粗利金額を設定して評価につなげるようにした。この制度の導入により、営業マンの業績意識は飛躍的に高まった。
(※目標金額の設定方法については、以前解説した『棚ぼた』『流れもの(MAX、MIN予測)』『自力獲得』の区分けによる「抜本的数値計画づくり」のやり方が参考になるだろう。後で、あらためて解説したい。)
③「マトリックス営業 4つの領域」をコンピテンシーと戦略作戦にあてはめて、自社の営業活動にあった実力、成果の制度をつくる
営業の作戦内容や戦う領域によって営業のやり方は変わり、求められる成果内容も変わる。だからそれぞれの作戦や領域の違いにあわせて、求められる実力、それに対応したコンピテンシー、成果の違いをはっきりさせておくことが重要である。ここでは、パートナーシップ対応領域を例にして、その関係を次ページの【図表22】にまとめたので見てほしい。
また、4つの領域ごとに求められる評価尺度を(183ページの)【図表23】に整理した。ここでは4つの営業作戦にあわせて簡単に説明しておこう。
・『単品販売作戦』(ハイスピード対応領域)の実力と成果
この作戦では、時間をかけずスピーディーに市場に浸透させていくことが営業活動の一番のポイントとなる。だから期限を区切った中での、販売件数や実績の評価が中心になる。
一件当たりの受注金額の大きさではなく、あくまで量、すなわち件数を評価の対象とする。ここではキャンペーンや新商品販売時等に明確なインセンティブを与える報奨制度が、効果を発揮しやすい。
この作戦では、営業のやり方は成功パターンに沿ってある程度標準化しやすい。そのため会社であらかじめ整理した成功パターンに沿った標準的な行動をうながすという目的で、商談プロセス上の行動項目の達成件数も評価の対象にすることはよくある。たとえば、テレフォンアプローチでパート社員を活用した際、成功する電話の掛け方をプロセス化し、テレフォン件数、デモ予約獲得件数、受注件数ごとにインセンティブを与えることによって、やる気をうながした会社があるが、典型的な事例だろう。
・『大型企画提案作戦』(パートナーシップ対応領域)の実力と成果
この作戦では、件数や回数ではなく、一つひとつの商談の金額や意味の大きさが重要事項になる。新規開拓の中でも、大口の優良他社ユーザーを獲得できたかどうかが、評価に大きく影響することになる。
だから、そうした大型商談をしかけ、トップキーマンを説得し、大型商談のコーディネーターとなれるだけの力があるかどうかが、実力の判断の基準となる。
ある日用雑貨問屋で新規小売店開拓のインセンティブを、開拓先小売店の年商に比例させて成功した例がある。たとえば、年商10億円の小売店なら10万円。年商100億円の店なら100万円の報奨金を支払うというシステムである。この年商比例のインセンティブのおかげで、多くの営業マンは、開拓がしやすい小規模零細小売店ではなく企業規模の大きな地域有力店を狙うようになり、他の問屋の低迷を尻目に急成長を果たした。
・『既存客深耕拡大作戦』(エンジニア対応領域)の実力と成果
ただし、同社には後日談がある。
年商比例のインセンティブが有効に機能したのは、地域有力店開拓の場合までであった。年商50億円以上の大型チェーン店開拓の場合には、むしろその弊害が目につくようになった。営業マンは多額のインセンティブを独り占めしたいがために、一匹狼的に行動するクセがついてしまったのである。
大型チェーン店となれば、相手は玄人であり、エンジニア対応領域の商談となる。開拓し取引を拡げていくためには、営業マン個人でなく、会社としての組織的な対応力が求められる。営業マンにも商談力以上に、より専門技能ノウハウが求められてくる。これまでの個人対象の評価制度が、逆にそうしたチームとしての活動や専門能力の習得を疎外してしまったのである。
結局同社では、その後個人成果中心の評価から、チーム制のインセンティブに変えるとともに営業政策も会社全体で作戦を組みチームで動くように大きく転換した。
このエンジニア対応領域では、提案力や大型商談能力も必要とされるが、それ以上に顧客との信頼関係に基づく情報収集力や、実務的な専門技能ノウハウ、問題解決能力、技術部隊の活用能力(チームプレー能力)等が大事だ。また成果としても、重要顧客との取引関係の継続強化(取引商品の拡大、既存客新分野・新規部署の開拓等)が中心になる。そうした実績や能力を個人ごと細かく把握し評価に反映させることがポイントとなる。多くの企業では、まだまだそこまできめ細かい評価制度が出来ていないのが実情だろう。
・『徹底効率化作戦』(コストダウン対応領域)の実力と成果
この作戦ではもはや営業マンの個別対応力は必要ない。サービスのQ・C・Dのレベルをいかに高めていったか、どのように仕事の質・量を広げたか、などが評価尺度となる。ここでは、業務部門の評価尺度を【図表24】にまとめたので参考にしていただきたい。
4つの領域の違いが、完全に区分けできることは現実にはまれである。多くの場合、その比重が変わる。そこで(187ページの)【図表25】のように、評価のウェイトも変えていくと柔軟に考えればよい。
(※営業の評価では、多くの場合粗利益率の改善も重要なテーマである。特にパートナーシップやエンジニア対応の場面では、営業担当者の力量で粗利益率は大きく違う場合が多い。但し、この『徹底効率化』作戦では、あえて粗利益率の目標は外したほうがいいだろう。なぜならそれは、営業担当者の責任ではないからだ。むしろ販売数量のアップによる効率化を目指すべき場合のほうが多い。また、配送費効率のアップといった視点も大事になる場合がある。いずれにしても、会社の営業場面の違いにあわせて、効率やコストダウンの知恵を出していく事が大前提である。)
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