営業の目標管理と業績評価を解説する①『成果主義で失敗する6つの理由』

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管理や評価の制度は、多くの場合人事や経営管理部門が統括して運営するために、人材育成や組織活性化といった日常的な組織運営の手段と言う位置づけが大きいようです。しかし本来は、戦略作戦を遂行するための重要な手段でなければならないでしょう。

そこでここでは、営業の目標管理と業績評価の具体的なあり方について、これまで私が述べてきた文章を、あらためて掲載したいと思います。従来の制度が抱えている課題は大きく、その課題を解決するような新しい考え方と方法論が求められているのではないでしょうか。

 

「社長!儲かる営業に変えましょう 

第4章:評価制度を改革して会社を『儲ける体質』に変える」より

 

 社長は評価制度改革の中心になれ!

―評価制度の見直しにも戦略・作戦は必要―

1:なぜ成果主義が失敗してしまうのか

―成果主義がうまくいかない6つの理由―


社長は評価制度改革の中心になれ!


―評価制度の見直しにも戦略・作戦は必要―

 営業改革の最後は、人事評価制度の見直しだ。時代が変わり、営業のあり方が変わったのだから、人事評価のやり方も見直すべきときがきている。

 評価制度の改革は、社長(会社)の意思を戦略や作戦として全社員に浸透させ、徹底させるための有効な手段である。

 ある大手住宅メーカーでは、個人への売上ノルマのインセンティブという側面が強かった評価制度を見直し、お客様からの紹介件数や個人の技術能力の高さを重視する一方、チーム実績の比率を高めたインセンティブへの切り替えを進めた。その結果、業績の急回復を実現した。最もめざましい効果が上がったのは、紹介件数である。お客様からの紹介受注が飛躍的に向上した。紹介率が上がったということは、売り込み中心から、お客様満足の営業姿勢に切り替わったということを意味している。

 一方で、よく考えないままに評価制度の改革を実施して失敗した会社も少なくない。

 ある食品卸問屋では、営業担当者個人での、小売店の新規開拓件数を評価の対象にしていたが、そのウェイトが低くあまり効果が出ていなかった。

 そこで、基本となる賞与水準を引き下げる一方で、新規開拓件数にウェイトを置き、その件数を賞与額に強く反映させるようにした。また昇格についても、一般営業担当者から主任への引き上げは開拓件数の実績を中心に評価した。

 その結果どうなったか。新規開拓件数は大きく伸びたものの、全体の業績自体は落ち込んでしまった。新規開拓の売上も当初は伸びたものの、やがて伸びが止まり、むしろ落ち込む羽目になった。同時に、既存客の売上は大幅にダウンした。

 営業担当者の活動が、新規開拓による口座開設に片寄ってしまい、将来性の期待できない零細の取引先ばかりが増えて、日々雑務に追われることになった。本来、重点化することによって伸ばしていかなければならない重要既存顧客の売上が停滞したばかりでなく、競合他社の参入によりインストアシェアを大幅に食われることになった。これが痛かった。営業マンの評価で、新規開拓件数に重点を置きすぎたことによる失敗である。

 それ以外にも、目先の売上実績ばかりを重視したため、在庫押し込み販売が増えたり、値引きキャンペーンで大事なブランドイメージが大きく傷ついてしまったなどの失敗例もよく見受けられる。いずれも戦略や作戦の不在が原因だ。

 営業の評価制度はその前提に、確固たる戦略や作戦がなければならない。そして、制度の内容と運用方針によって、成果にとてつもなく大きな違いが生まれる。そもそも人事評価制度は、人事部門や一部の担当者に任せるものではなく、社長自らが自分の意志を貫徹させるための最重要テーマの1つだと思ってほしい。

 そこで、本章では社長が中心となって営業部門の評価制度を主体的に見直し、改革していくための考え方と方法を説明したい。

 

1:なぜ成果主義が失敗してしまうのか

成果主義がうまくいかない6つの理由

 今、日本企業の人事評価制度は大きく揺れている。従来の年功序列型の職能評価制度が時代にそぐわなくなり、成果主義に基づく評価制度が主流になりつつある。しかし、実際にはこの成果主義もあまりうまくいっていない場合が多い。導入によって、かえって社員のやる気を削ぎ、業績不振の原因になっているケースさえある。

 企業の評価制度において、成果主義の流れは当然であるのに、なぜうまくいかないのか。その原因を考えれば、これからの人事評価制度のあり方が見えてくるだろう。以下に、その原因を6つ挙げる。

①社長のポリシーのなさと組織の信頼感の欠如

                      (「成果主義」と安易な「結果主義」の混同)

 評価制度は、社長の意思を全社員にまで浸透させる有効な手段だが、逆の視点から見れば、会社や社長のポリシーが社員から厳しく問われるということである。

「我々の仕事の何を、どういう尺度(ポリシー)でどう評価するのか」社員たちは言葉に出さなくても、内心ではこう思っているはずだ。

 ところが、実際には、社長が明確なポリシーを示さないまま、評価制度だけを変えようとしているケースがじつに多い。

 その際の第一の勘違いは、評価制度自体を目的化してしまうことである。

 「これまで、うちの会社は甘い評価をしていたが、これからは成果主義で厳しくなるぞ(だから評価を上げたければ、もっと実績を出せ!)」

 制度をつくるだけでは人は動かない。しかもこんな言い方をされて、やる気になる者がいるだろうか。結果として「どうやったら評価が上がるか」ばかりを考えて仕事するようになってしまう。

 苦労して新しいことにチャレンジするより、いかに環境が厳しいか言い訳して目標を下げさせるとか、安易に仲間内の押し込み販売で数字をつくってしまうとかを考えたほうが、よほど手とり早い。そんな立ち回りのうまい人間が一人出てくるだけでも、その企業の組織風土は著しく劣化する。

 そもそも、評価ばかりを気にしている社員や、評価という権力をふりかざさなければ部下を引っぱっていけない上司をつくって、会社がよくなるわけがない。それも評価すること自体を目的としてしまっているからだ。

 評価制度の本来の目的は、会社の成長発展を果たすための業績アップの実現にある。それには個人の能力アップとやる気のアップが必要不可欠であり、そのために評価制度を設けるわけだ。したがって、評価制度は、業績アップという目的を達成するための手段に過ぎないのである。手段に過ぎないものを目的と勘違いするから、おかしなことになる。

 第二の勘違いは「結果」をそのまま「成果」と見てしまうことだ。

 第3章で述べたように、営業の数値は、営業担当者の実力や努力ばかりでなく、運や環境に左右される部分が大きい。それを無視して単に結果だけを評価したら、不公平極まりないことになる。努力に努力を重ねて、今の受注金額は小さくても将来につながる新規開拓をやった営業担当者より、たまたま運よく大きな受注を拾ってきた営業担当者のほうがはるかに高い評価がもらえるということになれば、誰も努力などしなくなるだろう。

 そもそも、結果だけを評価するということは、評価に対し会社として何の意思もポリシーも持たないのと同じである。

 やはり営業担当者としては、自分の知恵と努力で上げた成果こそ高く評価してほしいだろうし、それを高く評価してもらえれば自然とやる気も高まることになる。社長としても、そんな自力の知恵と努力を求めているはずである。

 「成果」とは、会社のポリシーに基づいて、各人に期待したものに対してあらわれた結果である。だから、成果主義を導入するにあたっては、その前に、期待される役割(実力)と成果の具体的な中身について、徹底して認識を1つにし、会社として各社員に何をしてもらいたいのか、その具体的な内容を明らかにしておく必要がある。

 ところが、多くの企業は肝心な部分をすっ飛ばして、単に「よい結果が出た者を評価し、悪い者は評価しない」ことを「成果主義」と勘違いしている。これは成果主義ではなく「結果主義」に過ぎず、ある意味で会社の無責任な姿勢をあらわしていると言えるだろう。だから社員は会社への信頼をなくし、殺伐たる組織になる。富士通をはじめとする大企業が、成果主義という名の結果主義を導入し、逆に業績悪化に陥ったのは当然過ぎるくらい当然のことなのだ。

②現状の営業のやり方を見直さないまま、成果主義だけ導入する

 先にも言ったように、評価制度の最終目的は業績アップにある。しかし評価制度だけを変えても、営業のやり方が旧来のままだったら、業績アップが実現することはまずありえない。なぜなら、業績不振に陥った一番の原因は、営業マンのやる気にあるのでなく、営業のやり方そのものにあるからだ。

 ところが多くの企業は、営業のやり方の中身には関心がなく、結果をどう評価して、どう待遇や処遇に反映させるかばかり考えている。

 「制度」に問題があるから、「制度」を見直すのではない。新しい時代に「成果」を上げるためには、真に求められる仕事のしかた、営業のやり方に変える必要がある。その手段として「評価制度」の見直しを行なうのである。

 つまり、営業改革が先にあって、その手段として評価制度の見直しがあるのだ。だから、営業の発想と具体的な行動までを変える評価制度をつくらなければ意味がない。

 こう考えれば、評価制度は、会社の営業戦略や作戦と直接結びついたものにする必要があることがわかるだろう。評価制度の改革は、営業のあるべき姿を教え、実践的な能力アップを実現する教育のしくみづくりや、管理運営方法の見直しと一体となって進めなければならないのである。

③営業の実態とズレた制度づくり(「実力」と「成果」の混同)

 私は成果主義に反対しているわけではない。むしろ、これからの企業は社員に実力主義・成果主義を徹底させていくことが大事だと思っている。

 ところが、これまでの「職能評価」に代表される評価制度には、根本的な欠陥があった。それは「実力」と「成果」と「待遇」のとらえ方の誤りである。

 「実力」というアバウトで抽象的な要素を、評価だけを細分化して待遇や昇格に反映させていた。一方「成果」という本来、デジタルに正確にとらえられる要素については、逆にアバウトに「結果」の目標比や前年比を尺度に評価していた。ここに大きな問題がある。

 いくら待遇や昇格の条件を厳密に規定しルール化したところで、もともとの評価のあり方が混乱しているのだから、多くの企業で「評価制度」がまともに機能しなかったとしても当然なのである。

 能力評価項目として多くの企業で使用される「企画力」とか「折衝力」などの表現はきわめてアバウトなものである。その評価項目に対してS、A、B、C等の評価を下すわけだから、その根拠がアバウトになるのは当然だ。

 ところが、そのアバウトな評価を待遇に反映させる場面になると、突如、細密な計算をしはじめ、細かな差をつけようとする。その細かな差に意味はない。だいいち、それらの項目をいくら積み上げたところで、本人のトータルな実力をあらわすとは限らない。

 結局、いくら分析整理を重ねようと、人間の実力を細かく数値化して評価しようとすればするほど、実際の感覚とズレてしまうのだ。だから「実力」は、「期待する役割を果たしてくれる能力」と考えて、その「期待する役割」をはっきり示し、その期待する役割にランクを設け「実力ランク」とする。そのランクごとに、何が期待されているかが本人にも周囲の人間にもわかるように整理し、そのランクでの継続的な実績と保有能力を大雑把に評価するしかない。

 一方成果主義という以上、成果をシビアにとらえることは当然だ。

 ただし、その成果とは、あくまで「期待する役割」に沿って本人が実行した「結果」であり、評価方法は「実力ランク」ごとに異なることになる。結果はデジタルなものだから、正確にとらえられる。さらに、各人の商談一件一件を分析して、結果を「棚ぼた」や「流れもの」と「自力獲得」を区分けすることができる。個人個人の能力をデジタル化するのは困難だが、各人の仕事の成果が運や環境要因によるものか、自力の努力や実力によるものかの判断は容易なのである。

④「制度」を精緻・完璧にする落とし穴(柔軟性の欠如)

  外部環境が日々変化する中、一人ひとりの社員に求めることも、どんどん変わっていく。いくら目標を設定しても、1年もすれば目標自体を変えなければならないことも起こる。

 特に営業部門の場合、外部環境の変化や違いにその結果は大きく左右されるし、イレギュラー事項も頻繁に発生する。だから、評価のやり方自体、毎年見直していかなければならないし、イレギュラー事項への対応も柔軟に行なわなければならない。

 ところが、いったん制度のルールをつくってしまうと、制度とルールを目的化してしまい、ガチガチに運用しようとする。だから失敗する。

 人事異動、評価項目外の貢献、取引先側の突然の異変・倒産、「棚ぼた」による大幅な業績アップ、他部門の不始末、クレーム対応等に対しては、正常時のルールは適用しようがないのだ。しかもそれが頻繁に発生するのが営業の仕事である。イレギュラーな状態にも正面から向きあった評価制度をつくることが必要になる。

⑤下位者に厳しく、上位者になればなるほど甘い評価

  結局、人を動かすのは人しかいない。いくら制度を精緻にし厳格にルールを定めたとしても、人がやる気になり、能力アップや業績アップを本気でめざそうと思わなければ制度やルールは意味を持たない。

 変化の時代には、評価にも客観的な正解はなく、最後は会社や上司の意思次第である。そのとき最も大事なことは、評価される側が納得するかどうかにある。だから評価とは、する側とされる側の意思の確認であり、真剣勝負の場となる。むしろ、される側よりも、する側に対しより厳しい姿勢が問われるはずである。

 ところがこれまでは、評価する側の上司が一方的に人事権限を持って、何ら責任を負わないまま部下を評価することが多かった。

 拡大市場のときは、それでも業績は伸びていたので問題は起こらなかった。ところが縮小市場になり、成り行きまかせでは間違いなく業績は落ちていく。これまでと違い、より厳しく会社や上司の姿勢が問われることになる。

 その姿勢に欠けた会社や上司が、いくら評価制度を見直したところで、うまくいくわけがない。成果主義という、本来の目的にあわせた制度を考えれば、上位者になればなるほど、その姿勢と成果が厳しく問われなければならないということだ。

⑥温情主義による、あいまいな評価

 過去の人事評価制度は、実際にはかなりあいまいで、いい加減なものだったと私は思っている。むしろ、いい加減であるほうが都合がよかったのだ。というのも、黙っていても売上が伸びていたから、「公平な評価を行なっている」という漠然とした安心感さえを与えておけば、社員は会社を信頼してがんばったからである。

 評価制度を前面に出して厳格に運営し、評価ばかりを気にかける社員や風土をつくってしまうより、温情によるあいまいな運営で、全員を業績アップの目的に集中させ、その結果の評価や待遇に関しては平等主義でなんとなく納得させてしまうほうが、現実にははるかによい結果が出たのである。

 しかし、現在では社員の会社への信頼は揺らいでいる。温情主義は不公平感を助長することになるし、あいまいな評価では社員は納得せず、やる気をもって働いてくれないだろう。評価を目的にしてはならないが、やはり活用次第では、営業を変え、会社を変える要素となるのである。

 

 

追伸(最近のコメント):

 成果主義の評価制度は、バブル崩壊後の人事制度の抜本改革として多くの企業に導入されました。武田薬品工業が代表的な成功例ですが、一方で富士通等、失敗事例は数多くあったと言うのが定評になっています。失敗例の大半は、ここに書かれている6つの理由が当てはまることでしょう。私は今後も成果主義は何より大事と思っていますが、表面的な理解で導入するなら、まず失敗するであろうと思います。成功のポイントは、なんといってもトップとトップの意向を腹の底から汲んだリーダーの皆さん次第と思います。その方法論については、この後具体的に解説していきたいと思います。

 

続く:

(次回は、『評価制度を成功させる鍵、9つのポイント・・』)

                                   以上

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このページは、CBC総研が2013年6月14日 14:41に書いたブログ記事です。

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