「ドイツ企業から・・学ぶ、『低価格戦略』は間違い」日経ビジネス記事紹介

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『日経ビジネス』の2013年2月25日号に「―ドイツ企業から強さの秘密を学ぶ―『低価格戦略』は間違いというタイトルの対談が載っていました。対談者はハーマン・サイモン(サイモン・クチャ―&パートナーズ会長)と岩瀬大輔(ライフネット生命保険副社長)です。

そこでのハーマン氏の話が、私の前回のブログ(「デフレの6つの要因」)の結論と非常に近く、私の下手な表現よりよほどわかりやすく説得力のあるものでした。これからの日本企業の経営戦略を考える際に、大いに参考になるものと思います。

そこでここでは、その対談内容を私なりに整理してご紹介したいと思います。

 

―対談の主な流れ(要旨)

―ハーマン氏による日本企業の弱点の指摘。

ブランド力を高め、上級セグメントを狙え!―

―日本企業のこれからの戦略・・

同質化価格競争を抜け出し、上級セグメント市場へ向けた世界的な展開を目指すこと。"人と人がつながる繊細な『アナログ』ノウハウ"の強みを活かせ!―

 

 

 

対談でハーマン氏は「製造業が強く、日本との類似点も多いドイツは過去6年、なぜ競争力を高められたのか。ドイツ企業のあり方を解説しながら、日本が学ぶべきポイントや弱点の克服法を提示」しています。その対談は次のような要旨で進んでいきます。

 

―対談の主な流れ(要旨)

①ドイツの主力輸出企業のほとんどが中小企業。それも国内に分散している。

 →サービス業がグローバル化しても母国の雇用に貢献しないが、製造業は雇用を生み出すことが出来る。

 →製造業が強いのは日本も同じ。但し日本企業ではグローバル化は大企業が大半。今後日本の中小企業もグローバル化すべき。その際顧客とダイレクトにつながることが一番重要だ。

 →ドイツのグローバル化した中小企業は全国に分散して、それぞれに特色をもっている。一方日本は東京に一極集中(しすぎている)。

②ドイツがこの10年で変わったこと。

  1)国としてコスト削減(例:失業手当を削減して、失業者が働かざるおれなくした)

  2)イノベーション(技術革新)を促進。

(欧州の特許3万件のうちドイツで12500件)

  3)グローバル化(ドイツでは国際経験のない人間はいい仕事につけない。日本は逆)

③日本の問題として

  1)日本社会が内向きになっている。海外で活動する日本人が減っている印象が強い・・。

  2)世の中に必要不可欠なものを作り、価格競争を回避すべき。(あまりに類似的な製品を作って、価格競争に陥っている。日本の輸出企業のトヨタが無くても、日産等の代わりの製品はある。一方ドイツで典型的輸出メーカーの板金加工メーカートルンプは、世界唯一で、なくてはならないもの。)

    ・「価格競争に陥っている」と答えた管理者は世界全体で46%。日本では84%。

     自ら価格競争に陥っている。これが日本企業の低収益率の原因。

  3)ブランド力が本物であれば、もっと高い価格で売れるはず。シェアを追い量で勝負するのではなく、少量で利益を得る方向にシフトすべき。


 


―ハーマン氏による日本企業の弱点の指摘。

ブランド力を高め、上級セグメントを狙え!―

 

以上まで話が進んで行って、ここで注目すべき対話が起こります。日本人の岩瀬氏

(それもインターネットを使った安価な保険販売をしている会社の副社長)

「グローバル化の最初の波は、安い労働力が出現し、先進国にデフレ圧力になって

きたことでした。中間層が好むのはより安い製品でしょう?」

「インターネットの拡大、ソーシャルメディアの普及は、商品情報を探すコストを劇

的に減らし、それがデフレ圧力にもなっています。消費者は、最も低い価格の製品

を探しているのに、高級品で本当に勝てますか。」

と言うのに対して、ハーマン氏は次のように答えたのです。

 

「日本企業の弱みは、高級ブランドを作り出してグローバルでプレミアム感を創出す

ることが苦手なことです。・・」

「ドイツの強い中小企業の工業製品は(ブランドがついて)、市場全体より15~2

0%のプレミアム価格がつき、世界市場を牽引しています。一つ一つは小さいかも

しれませんが、高価格帯で売る努力をすると、主要セグメントより量のシェアは小

さくなりますが利益は高まります。利益の面からも、市場シェアを最重視するのは

やめるべきです。」

高級品市場は劇的に成長しており、収益率も高く、市場の潜在的な規模も大きい。

超先進国は、上級セグメントを狙うべきです。日本企業は高品質、精密さ、上級サ

ービスを届ける能力はあるのですが、ブランドや高級感の創出力にかけており、技

術的な強みを発揮しきれていません。」

「価格の話は大変重要です。・・ブランド力は大きなテーマの一つでしょう。ソニーや

パナソニックがなぜ10%~20%上乗せの価格で売り、消費者を引き付けられな

いのでしょうか。・・韓国サムスン電子はそのブランド力から10%ぐらいの上乗

せの利益を得ています。」

「日本製品は、・・高価格につながるブランドイメージには欠けています。そこで市場

シェアを追求する限り、値下げによる価格競争に巻き込まれざるを得ないわけで

す。」

 

頭をカチンと割られるような衝撃的な発言です。

確かに市場が成熟化する中、世界的に製品のコモディティ化が進み価格競争が激化している。しかしだからこそ、先進国だけでなく高度成長が進んでいく新興国においても、資産や所得が増えた人たちの中には、価格だけの製品に飽き足らなく思う人たちも増えていくことは間違いない。世界的には付加価値のある高級品市場はどんどん拡大しているし、今後もさらに拡大していく。超先進国の企業はその強みから考えるならば、上級セグメントの市場に狙いを定めるべきだ。逆にコスト競争に陥ったなら、多くの場合新興国の強みに勝てるわけがない。

 

全くその通り!

 

―日本企業のこれからの戦略・・

同質化価格競争を抜け出し、上級セグメント市場へ向けた世界的な展開を目指すこと。"人と人がつながる繊細な『アナログ』ノウハウ"の強みを活かせ!―

 

以前私のブログ「新中間層を狙え」では、日本的なブランド構築について述べています。また「『【職人技】のすり合わせ』と『【一般大衆向け】独自販売システム』が日本企業の強み」では、超富裕層向けブランド構築ノウハウが文化的に日本人は苦手であり一般大衆向けで職人技を磨くのが日本のお家芸という趣旨の話もしました。

 ただその時も、今後価格を超えた高級品市場が大きく拡大していくというイメージがなかったことは確かです。また日本企業どおしでの同質化競争による価格競争によって、お互い首を絞めあい、他方でその間に新興国がキャッチアップしてきて、このところの日本企業の負け戦が目立ってきていることは、前回の『デフレの6つの要因』でようやく鮮明に認識できたところです。

 そうした中、今回の対談を通して、これからの日本企業のあり方がよりはっきりしてきたよう思います。

 あらためて価格競争では絶対に勝てず、何が何でも同質化競争を抜け出した高付加価値戦略が必須になっていること。そしてその強みをブランド化して世界の上級セグメント市場へ向けた展開を進めること。それが経営戦略として大きな展望を開くだろうことを確信した次第です。

 

 ※私の「マトリックス営業戦略」では、次のように言えるでしょう。

 ・「ハイスピード対応」領域の戦いだけでは、「コストダウン対応」領域にすぐ移行してしまい、新興国企業との戦いに勝てるわけがない。それどころか、その前に縮小市場下において、国内企業同士の同質化競争の価格競争で疲弊してしまうことになる。

 ・日本的な強みを発揮できる「エンジニア対応」領域を中心にして、そこに異業種との提携や、お客様の主体的な参画を軸にした「パートナーシップ対応」領域の活動をしっかり築くこと。

・さらにその強みを持って、新たな価値創造を進めて「ハイスピード対応」領域の活動を通して、新たな(世界)市場での自社の強固なポジションを構築する。

これが、これからの日本企業の戦略のあり方に思われる。

 

 その場合、デジタル的な技術開発力だけでなく、『摺合せ』ノウハウを発揮した職

人的な技能の複合化や心を込めた『おもてなし』的サービスの付加価値、さらには

技体が一体になった教育システムをそこにしっかり加えることが重要でしょう。人と

人がつながる繊細な『アナログ』ノウハウこそ日本の強みであり、その強みを発揮し

てこそ独自で差別的なブランド構築が可能と思います。

そうであるからこそ、前回のブログの結論である『人材を何物にも代えがたい宝として育成し活用する高付加価値企業をめざすべき』ことの大事さをあらためて強調したいと思います。

 

 ※「マトリックス営業戦略」については、私のブログや書籍を参照下さい。

 

                                    以上


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このページは、CBC総研が2013年3月 2日 10:11に書いたブログ記事です。

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