はじめに:
私は経済学者ではありませんが、経営コンサルタントとして日本経済がこれからどうなっていくのか、強い関心があります。企業経営も日本経済のこれからを前提にしなければ、うまくいかないことでしょう。そこで今回は日本の『デフレ』の原因について、私なりの考えを述べたいと思います。少々雑駁な説明になっているところはご容赦下さい。真摯にこれからの日本と日本の会社経営のあり方を考える者の発言と思って下さい。皆様の企業経営に少しでもお役に立てれば、幸いです。
―『デフレ』の原因は、本当に日銀の金融政策にあるのか?!―
自民党の安倍首相が政権を奪取すると、いつの間にか『デフレ』が日本経済の不況の最大の原因ということになっており、その『デフレ』が続いているのはインフレを過度におそれて「金融緩和」に及び腰の日銀の金融政策にあった、という考えが急に広がっているよう思います。そこで「アベノミクス」が始まり、今のところ急激な円安が起こって株高になり、その通りのような論調も増えていますが、本当はどうなのか。実際このまま『アベノミクス』によって、日本経済を再生できるのでしょうか。
私には現在の状況が、単純でわかりやすい悪人探しの話になっており、あまりにも表面的なことに影響されて動いているよう思えて仕方がないのです。日銀の金融緩和期待によって、円安株高に転換するきっかけになったことは間違いないでしょうが、果たしてそれでこのままうまくいくのか。そもそも『デフレ』の原因が日銀の金融政策にあるというのも本当なのか。むしろ日本の不況こそが『デフレ』の原因であり、あくまでデフレは結果であって日本の不況の真の原因ではないだろう、と思えるのが正直なところです。
最近はいろいろな学者や評論家が『デフレ』について解説しています。ここではあらためて経営コンサルタントの立場から、私なりに日本の『デフレ』の原因を6つあげてみました。今一度整理しながらその内容を考えてみたいと思います。
―「供給過多と需要減少」のギャップが一番の原因。ではなぜ、そうなるのか?―
<『デフレ』を生み出す6つの要因>
要因①:日本社会の成熟化(供給過剰化の蔓延)
要因②:製品のコモディティ化と同質化競争の激化(コスト競争の激化)
要因③:日本市場の縮小化(需要の確実な減少化現象)
要因④:世界経済の一体化とアジア新興国の勃興
要因⑤:最近の円高による輸入(原材料、資源、製品)価格の低下と製造業の空洞化
要因⑥:海外先進国に比べた日本の金融緩和政策の弱さ(円高誘因要因に)
―日本の個別企業の活動が、『デフレ』を生み出している―
―「価格競争」では、日本企業は衰退するしかない。
人材を宝にした高付加価値企業をめざそう―
―「供給過多と需要減少」のギャップが一番の原因。ではなぜ、そうなるのか?―
まず、デフレというのは、物価の下落です。それは供給側の誰かがしない限り、そうはならないでしょう。しかし供給側が価格を下げるのは、下げざるおれない(と思っている)から。つまり市場が価格競争に陥っているからです。なぜ価格競争に陥るのか。
一つには「供給過多と需要減少」が考えられます。売る人が多くて、買う人が少ないということです。供給側と需要側両方に問題があり、そのギャップは解消どころかますます拡大しているよう思います。
今一つは、商品に差別性がないため、購入決定の一番の要因が価格になってしまっていることです。購入する側は、似たようなものならば安いほうが良い、という心理です。製品の成熟化によるコモディティ化という言い方がよくされますが、日本企業の努力にも問題があるのではないでしょうか。まずこうした要因から整理してみたいと思います。
要因①:日本社会の成熟化(供給過剰化の蔓延)
⇒日本社会の成熟化による生産設備の過剰化と供給過多現象の常態化
・社会経済が未成熟でこれから成長が見込まれる社会では、社会インフラも未整備ですし生産設備も不足しています。このため需要に供給体制が追いつかず、インフレになる傾向が強いと言えるでしょう。ところがそうした社会環境が整い豊かな生活が実現するなら、生活必需品は満たされて必要とされる物が減ってきます。一方で過去に整備した生産設備や環境インフラは新たな投資を必要としないで、効率的に供給が確保されていくことになります。
経済学では、第一次世界大戦後の大不況期にケインズが資本主義の発展過程で貯蓄が増えて投資が不足し生産過剰が起こってしまうメカニズムを分析し、政府の財政出動による有効需要創出の必要性を説きました。ところが潜在需要自体が減少していく成熟社会においては「土木建築等の公共工事の財政出動を行っても、乗数効果(経済への波及効果)は、少なくなっていく」というのが大きな特徴でしょう。
・企業経営の立場でいうなら、
『お客様(社会)はもう必要なものはおおかた揃っているので、あまり買わない(投資しない)でも済んでしまう。一方企業も既存の生産設備をかかえてその稼働率を上げなければならない。そこで少なくなった需要を取りあう企業どおしの競争が激しくなり、仕方なく価格を下げて売っていくしかないという傾向が強くなっている。そうしたコスト競争に陥った企業ばかりになるため、企業を対象とした商売をしている企業(BtoB)も、やっぱりコストを優先せざるおれなくなる。』
ということでしょう。日本のほとんどの業界に当てはまる話です。これでは世の中全体が『デフレ』になっても何もおかしくないはずです。
(但しこれだけでは、世界中で日本ばかりが『デフレ』を続けている理由にはなりません。日本特有の要因を考えなければならないでしょう。すると次のような要因が考えられます。)
要因②:製品のコモディティ化と同質化競争の激化(コスト競争の激化)
⇒市場の成熟化情報化による製品のコモディティ化と
企業どおしでの同質化コスト競争の激化
・単に生産設備の過剰による供給量の過剰だけでなく、提供する製品の魅力が低下していることも、価格競争に陥る大きな原因になっているよう思います。日本の高度成長期には、家電などの新製品がどんどん開発され生活が格段に便利に豊かになっていくため、製品に魅力を感じることができました。つまり製品の差別性で売っていくことが出来たのです。そこに付加価値をつけることができましたし、陳腐化しても次の新製品で新たな魅力をつけられたので、値下げ競争に陥らずに済んだのです。
・欧米先進国企業との競争でも日本企業は優位性を発揮して、海外への輸出でも利益を生むことができました。
・ところが製品開発もあるところまで行くなら、単なる製品の機能向上だけではたいした差別化にはならない状況になっていきます。一方で開発技術は高度化する一方で標準化するため、コストは下がるし誰でも製品を作れるようになります。そうなればどうしても同質化競争が起こりやすくなってしまい、そこでは価格が購買の大きな決定要素になってしまうのです。現在のパソコンやテレビなどの家電製品は、典型的な例でしょう。
スーパーや飲食店でも同じような傾向が見られます。例えば牛丼チェーン店では、いくら吉野家が差別性を訴えても、やはり値段の安い他の牛丼チェーンにお客様をとられていることは間違いないでしょう。情報化が進めば、誰でもそうした情報を比較しながら得ることができるので、いったん価格競争に陥ると、なおさらそうなりやすいものです。
・企業間の同質化競争が価格競争を引き起こしやすいことは間違いないでしょう。特に日本においては同質な仲間社会であるだけに、この横並びの同質化競争が熾烈です。それによって成長経済の時にはお互い切磋琢磨して一緒に大きくなっていき果実を分け合うことができました。ところがバブル崩壊以降日本経済は確実な縮小市場に入ったものの、以前の同質化競争から抜け出すどころかさらに熾烈を極めたために、お互いに首を絞めあうコスト競争の状況に入ってしまったのです。
要因③:日本市場の縮小化(需要の確実な減少化現象)
⇒日本の人口動態や給与水準の下落から来る市場の縮小化
(消費需要の減少・・人口の高齢化と減少化及び消費者所得の減少)
・社会経済の底流には、人口構成の推移が大きな影響を及ぼしています。最近はこの話が大きく取り上げられることが多いようですが、例えば「デフレの正体(藻谷浩介著)」では、はっきり日本のデフレを人口減少社会にあると言っています。実際私も身近に感じるのは、人口減少による街の衰退現象です。ゴーストタウンのような商店街が日本全国いたるところにあり、街の住人の大半は高齢者というのが現実です。先に挙げた要因①の供給過多現象も、人口減少化社会においてはますます大きなものとなり、デフレへの圧力を増す要因になっていることでしょう。
企業経営で言うなら、客数×単価=売上ですから、対象とするお客様の人数が減っていくことが、そのまま売上ダウンになって、まさに経営のもっとも切実な問題であることは明白です。そこに同質化競争が加われば、いやでも価格競争になるでしょう。将来がさらなる人口減の縮小市場と考えるならば、投資など考えられるはずがありません。このままではさらに委縮していくことになります。
・但し、現実には現在のところ人口が減っているというより、社会全体の高齢化が進んで消費が減退しているといったほうがいいかもしれません。さらには労働者の賃金が減少傾向になっていることも大きいでしょう。もちろん退職した高齢者の給与所得はゼロになりますが、それだけでなく労働者一人当たりの給与水準がこの20年あまり上昇していないどころか、むしろ減少しています。そうなれば生活防衛として、なおさら貯蓄を優先し消費に回す金額が減っていくのは当然です。
なぜ人件費が減少しているかと言えば、原因①の社会の成熟化や原因②の同質化競争によって、企業どおしの価格競争から、人件費にそのしわ寄せが来ていることがなにより大きいでしょう。また次に述べる海外新興国の安価な人件費の影響も大きいよう思います。日本企業の多くは、国内同業他社や海外新興国企業との価格競争を、人件費削減によってどうにか業績を維持してきたと言っていいのではないでしょうか。(ちなみに人件費だけでなく、企業の教育投資もこの10年間で十分の一程度に激減しているそうです。)
こうして人口減と個人所得の減少から個人消費支出がどんどん減っていくし、それに伴って企業の(国内の)設備投資意欲も減退していく、つまり市場の縮小化がどんどん進んでいるわけで、それがデフレの大きな要因になっていることは間違いないと思います。
私は現在の日本の経済環境を特徴づける以上の3つの要因(社会の成熟化による過剰な供給能力、同質化競争による価格競争の激化、人口減と所得減)が、現在の日本の『デフレ』の最大の原因と思います。但しそれぞれの要因は相互に複合的に関係し、その影響を増幅させているとみていいでしょう。その底には大きな潮流が流れているよう思います。
一つの要因だけ見ていてははっきり気づかないけれども、そこにあらわれる複数の要因が相互に関係してさらに大きな潮流となり時代を動かしていくというのは、歴史を振り返るなら、よくあることです。
そう思うと、以上に加えて、さらに『デフレ』を増幅させている他の大きな要因が考えられるでしょう。それは海外の新興国との関係であり、いま一つは『デフレ』が『デフレ』を増幅させる経済情勢です。この点は、従来の近代経済学者のみなさんからも、よく言及されています。
要因④:世界経済の一体化とアジア新興国の勃興
⇒安価な輸入品の流入による価格下落と海外新興国人件費水準の国内への浸透化
・今まで述べたことは国内経済だけに限定した要因です。実際には経済は国内だけにとどまらず国境を越えて世界経済とつながっています。東西冷戦が終了した1990年代以降急速に世界経済が『フラット化』していますし、2000年以降はアジア経済圏の勃興が日本経済に深く関係するようになっています。
ちなみに日本の輸出入のGDPに占める割合は1980年代後半で7~8% それが2000年代に入って急上昇し2010年で16%までになっています。そこで最大の関係国として以前は米国であり輸入相手国のシェアとして以前は20%前後あったものが現在では12%程度に落ちてきています。一方中国が大きく伸ばしており最近では20%を超えるまでになっているのです。
・『デフレ』との関係で言うなら、そうしたアジア新興国からの安価な輸入品による価格下落への影響が一つ。今一つは、そうした新興国の安価な人件費を使ったコスト競争が蔓延し、日本国内においても相当な人件費削減が進んでいることです。賃金水準も下がっていますが、全労働者に占める非正社員の比率が1990年に20%だったのが2012年には35.1%と急激に進んだのも、そうした要因が大きいでしょう。言い換えれば、アジア新興国の人件費水準に、日本国内の人件費も徐々に収斂しつつあるということでしょう。
・海外からの製品供給量の増大とコスト競争の激化という点では要因①だけでなく要因②にも関係してきています。海外新興国がキャッチアップしてくることで、家電製品や自動車などのコモディティ化やコスト競争がさらに進んでいます。そこで日本企業は新興諸国の企業に追いかけられる中で、イノベーションを起こすというより、なおさら同質化の価格競争の罠にはまりこんで、最近でははっきり負けているケースが増えているというのが実態ではないでしょうか。
・そして人件費削減はもちろん要因③(個人所得の縮小)に大きく影響を及ぼしていると言えるでしょう。
要因⑤:最近の円高による輸入(原材料、資源、製品)価格の低下と製造業の空洞化
⇒輸入品価格下落によるさらなるデフレ化と海外製品の販売拡大や製造業の空洞化進行による国内市場の縮小
・一方最近の円高によって輸入品全般の価格下落の影響も大きいでしょう。まず輸入商品の価格が円高で値下げされていますし、エネルギーや食品原材料などが典型ですが、輸入原材料費が下がり、企業同士でのコストダウン競争に拍車をかける原因にもなっているよう思います。
・他方製造業等の輸出産業の場合、円高苦境から国内事業を縮小してどんどん海外へ転出しています。そのことによって国内市場がますます縮小化しつつあるのが現実でしょう。それは要因③(市場の縮小化)につながりデフレをより進めることになっているでしょう。
・そもそもデフレによって円高になりやすいものですが、そのことでなおさらデフレになりやすくなっている、という面は否定できないことと思います。
(そうした面からは、今回の円安に動いていることは、デフレ脱却には効果がある、ともいえるでしょう。但し、輸入品価格の上昇による物価上昇だけでは、悪いインフレでしかないことはもちろんです。
また、一概に円高だからデフレになり、円安になればインフレになるとは言えません。いったん製品価格を下げてしまったならたとえ円安になっても、同質化競争下では、なかなか製品価格を上げることは難しいはずですし、人件費もあげにくいはずです。実際小泉内閣時代の2005~6年には一ドル120円前後まで円安が進みましたが、結局デフレからのはっきりした脱却は出来ませんでした。)
要因⑥:海外先進国に比べた日本の金融緩和政策の弱さ(円高誘因要因に)
⇒円高によってデフレがデフレを呼ぶ構造へ
・貨幣供給量が増えれば、貨幣価値が低下してインフレを誘発します。逆に貨幣供給量を絞ることで貨幣価値が高まり、デフレになりやすい、と経済学では言われています。
そこで日本の長期デフレの原因は、日銀の金融緩和が弱いためにデフレになっていると言われることになります。
特にリーマンショックから欧州債務危機以降、欧米で金融緩和政策が強力に進められる一方で、日銀の金融緩和政策が及び腰であったためか、安全資産として日本円が購入されて、より円高に進んでしまいました。すると、日銀の金融緩和政策の弱さ→円高→日本の輸出企業の低迷化→日本社会の不況の継続化→人件費抑制傾向の増大と将来への不安心理の蔓延→価格志向の蔓延によるデフレの継続化→不況の継続化・・という図式が現実に当てはまるように見えてきたのです。
・確かにデフレ経済下においては、人々は将来の価格下落を見越して投資や購入を控えたり価格志向を強めやすくなり、なおさら価格競争に陥りやすくなります。デフレがデフレを呼ぶ構造と言っていいでしょう。実際日本の現在の経済状況がそんな状態であるとも思います。ですから「デフレ経済から脱却する」ことをしっかり自覚して必死に政策運営してきたのかという日銀への批判も、幾分かはあてはまるのかもしれません。
但しこれまで見てきたように、貨幣供給量不足や「円高」だけがデフレの原因ではないので、金融政策の誤りで『デフレ』が続いているとは到底言えないでしょう。むしろ日本特有の社会経済状況とそこでの経営のあり方がなによりの原因であり、そこに日銀や政府の経済政策と世界経済の動向や諸外国の経済政策が大きく影響を与えていると、言うのがより実態に近いよう思います。
―日本企業の活動自体が、『デフレ』を生み出している―
以上、日本の『デフレ』の原因を私なりに6つの要因から見てきました。『デフレ』は経済の貨幣的な一現象ではなく、その国全体の社会経済状況を反映したものであるという実感をあらためて持ちました。ですから日本が『デフレ』から簡単に脱却できるとは、私にはどうしても思えないのです。結論としては、
日本の社会経済全体が従来の高度成長時の在り方から大きく転換できないまま、内向きに縮こまって同質化競争の価格競争に陥り、さらに縮小化を加速させている。そうした状態こそがまさに『デフレ』そのものであり、現在の日本経済の不況の原因は、そうした価格競争に陥って停滞している企業活動自身にある。そしてデフレからデフレが増幅され、さらに経済全体が停滞するという悪循環に陥っている、よう思います。
(経営がうまくいかない原因を政府や日銀のせいにしては、まずいでしょう。私からすると、むしろ日本の大きな環境変化に対応できずに従来の同質化競争のまま値下げ競争に陥っている企業がまだまだ多いことが、日本経済の不況とデフレの最大の原因とあえて思いたいのです。そう考えなければ、企業の革新など起こるわけがありません。)
いつまでも外部環境のせいにしては、企業業績がよくなるわけがないのです。
―「価格競争」では、日本企業は衰退するしかない。
人材を宝にした高付加価値企業をめざそう―
しかしあらためて考えてみて、デフレがそんなに悪いことなのでしょうか。消費者にと
っては、デフレはものが安く買えるのでありがたいものです。企業にとってもコスト抑制
をスムーズに行えるのも、デフレ経済下にあることが大きいでしょう。そこでなおさら安
易な価格競争に陥って、そこから抜け出せなくなっていることが問題なのです。安易な
価格競争は、結局企業が自らの責任で行っているわけで、デフレ脱却に期待するより、
まず企業自身がコスト中心の価格競争から脱して"付加価値"創造活動に注力すべきでし
ょう。
企業経営は「人のやらないこと」をやることによって、自社のオリジナリティを磨き、より高い社会的価値を生み出すことにあると思います。人がデメリットと感じていることをメリットにとらえて経営することが、むしろ求められているのではないでしょうか。そう考えるならば、『デフレ』も一概に悪いこととは思えません。(※注1:)
デフレで多くの企業が価格競争に陥っているからこそ、価格を超える満足価値を提供できる企業がまちがいなく勝てるし「儲ける」ことが出来ます。縮小市場だからこそ、シェア争いで疲弊するより、しっかり利益を生み出せる経営をすることが大事になっています。
また人件費削減で給与を抑えたり、その場限りの非正規社員ばかりを雇うことが当たり前になっているからこそ、逆にしっかり社員を育てて、人であるからこそ出来る高い付加価値を持った仕事を提供して高賃金を実現できる会社が強いはずです。高賃金を出せるならば優秀な人材を集めることも可能ですし、そうした優秀な人材が集まれば集まるほど、さらに優秀な人材が育成される環境が作れ、そうした優秀人材の多いことが会社の差別的な魅力となり強みとなるのは間違いないでしょう。
社員からしても会社へのロイヤルティが上がることによって、より意欲持った仕事への取り組みが出来、自ら生産性を高めたり、新たな価値の創造にチャレンジできるのです。お客様現場がビジネスの主戦場となり、市場の変化多様化はますます激しくなっています。そうしたお客様現場の最前線で働く社員の主体性を持った価値ある活動こそ、ビジネスの成否を決めるまでになっていると言っていいでしょう。
供給過剰でデフレが前提とするなら、コスト競争から逃れられないことは確かです。しかしそれだけでは絶対生き残っていけないことも、また明らかです。
新興国との激烈なコスト競争に陥っている一方で、人口減による国内の急激な市場縮小がまちがいないからこそ、日本企業は人材を何物にも代えがたい宝として育成し活用する高付加価値企業をめざすべき、と今回の『デフレ』の原因分析を通して、私にはつくづく思えた次第です。
『デフレからの脱却』ではなく、『コスト競争からの脱却⇒価値創造企業への脱皮』こそ、これからの企業経営のキーワードではないでしょうか。
※注1:
むしろ円安→輸入物価高→悪いインフレによる不況の増大。一方で金利上昇→日本国債の暴落、日本の財政不安による超円安化の進行・・となった場合のほうが、日本経済全体の危機につながり、怖いシナリオです。
追伸:
このような文章を書き終えたところで、『日経ビジネス』の2013年2月25日号に「―ドイツ企業から強さの秘密を学ぶ―『低価格戦略』は間違い」というタイトルの対談が載っていました。対談者はハーマン・サイモン(サイモン・クチャ―&パートナーズ会長)と岩瀬大輔(ライフネット生命保険副社長)です。
そこでのハーマン氏の話が、私の今回の結論と非常に近く、私の下手な表現よりよほどわかりやすく説得力のあるものでした。外国の方から見たほうが日本の経営課題が鮮明に見えるのだろう、と思います。
ドイツと日本の共通点は、製造業の技術力の強さ。違いは、ドイツは地方に優秀な中小企業が多く、それもグローバル化して展開していること。それと唯一オリジナルな強みを磨いてブランドを構築し、プレミアムな価格で売って儲けていること。一方日本はトヨタに代表されるように大企業中心で類似企業が多く、かつ東京一極集中。それに過度にシェアを追って価格競争に陥っていること、だそうです。
この記事の内容については、あらためてブログでもご紹介したいと思いますので、ご参考になれば幸いです。
以上
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