マトリックス営業戦略による営業組織(拠点)の抜本改革事例紹介①

| コメント(0) | トラックバック(0)

営業の抜本改革のためには、個々の営業のやり方の見直しだけでは限界があります。市場の変化、領域の変化に合わせた営業部隊全体の体制の見直しが必要です。

 

―業績不振の営業所、営業担当者は『リトマス試験紙』

 例えば業績不振の営業所を改革すると考えた場合、多くは営業所長(リーダー)の人選を見直すという手が一番手っ取り早く行われるのではないでしょうか。実際営業所長を交代させたことで、営業所が活性化されて業績が大きく改善した例は多く見受けられます。

しかしそれでは、あまりに人的な要素に依存した改革のために、その後その優秀な営業所長を転勤させたら、元に戻ってしまった、などといった情けない状況もよく見受けられるのです。

 実は営業担当者にしろ、営業拠点にしろ、業績不振の原因は決して個人的な要因だけで起こっているわけではありません。むしろその会社や営業部隊が抱えている大きな課題がそうした弱い部分に表れると思ったほうがいいでしょう。つまり彼らは課題を浮き上がらせる『リトマス試験紙』なんです。

実際優秀な営業拠点長(支所長リーダー)は、決して人格的な強みだけを発揮して拠点の業績を回復させているわけではありません。大半の場合は、拠点としての大きな戦略を組み立て、その戦略を遂行するための組織編制や運営体制を大きく変えているのです。

 

―「個人」ではなく、会社のあり方、戦略、体制の見直しを―

 「こんな営業は今すぐやめろ!」より一部修正(P.178~)

【支店営業体制の立て直しに成功した、W支店長の事例】

―市場の変化多様化に振りまわされる拠点営業―

―市場にあわせた4つの基本施策―

~市場をセグメント(区分け)した攻め方を組み立てる~

       【支店での顧客別区分けと基本施策の設定】

―社内のバックアップ体制を整備する―

―支店長の強力なリーダーシップ―


―「個人」ではなく、会社のあり方、戦略、体制の見直しを―

 最近は、日本社会全体が委縮する中、あまりに個人に対する『精神論』や『管理統制』が強調される傾向が強くなっています。しかしそうした『精神論』や『管理統制』だけで業績不振が改善されるほど、企業を取り巻く環境は単純でもなく、甘くもないでしょう。

日本社会が大きな転換期に入って、市場は成熟化縮小化しながらますます変化多様化している。その変化多様化についていけていないことが、何より業績不振の一番の原因ではないか。そう考えるならば、個人ではなく会社としてのこれまでのあり方や戦略、さらには体制が問われていると思ったほうがいいでしょう。

 

変化多様化する市場を味方につけて事業を飛躍させる戦略として、私は『マトリックス営業戦略』モデルを作りました。その戦略や作戦をより円滑に遂行するためには、チームプレーや活動方法も大事ですが、大前提として組織的な体制や運営方法の見直しが重要な場合が多いのです。

(『マトリックス営業、4つの領域』にあわせた営業組織のあり方については以前ブログでも解説しましたが、・・参照:「マトリックス営業戦略と『4つの営業組織』前・後編」「マトリックス営業戦略と『マトリックス営業組織』①②」)

ここでは、以前私が書いた『こんな営業は今すぐやめろ!』(プレジデント社刊)から営業拠点体制の抜本的見直しについて、事例中心に解説したいと思います。

よりリアルにイメージしていただくため、ある営業拠点リーダーの成功事例から具体的に見ていくことにしましょう。

         (「こんな営業は今すぐやめろ!」より一部修正[P.178~]

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【支店営業体制の立て直しに成功した、W支店長の事例】

 

―市場の変化多様化に振りまわされる拠点営業―

 

拠点営業はエリアと言う地域を単位にしています。ですからテリトリー制の営業体制であり、そのテリトリーの中に大企業から中堅中小零細企業(或いは個人)まで、さまざまなユーザーが混在する状態になりがちです。一方商品についても、会社の全商品サービスを取り扱う場合が多く、消耗品や単品商材の販売から大型システム提案まで、あれもこれもの『ごった煮状態』のままになっているところが多いのではないでしょうか。

本来、顧客層や商材によって売り方は異なりますし、同一商材であっても提案のやり方で、営業方法を変えなければなりません。また既存商品を売る時と新製品が発表された時では、営業のやり方は大きく違い、ギアの入れ替えが重要となります。そうでなければ、自力で市場を開拓していくことは難しいでしょう。

営業拠点では、こうした違いをはっきり意識して営業方法や組織体制をメリハリよく変えていくことが必要になりますが、そうは言っても営業の人的資源に限界があります。

 多くの営業拠点では、せいぜいテリトリー内の既存客のABCランク分けによる定期巡回訪問を重視した活動や、ユーザーや販売会社に対するスポット的な営業サポート活動が主体になっているのではないでしょうか。

 

 W支店長が新たに赴任した拠点は、まさにそのような活動が主体となって、それぞれの活動方法については放任状態でした。各営業マンにはテリトリー制で既存客のABCランク分けはされているものの、目標の訪問回数さえ確認されておらず、各人任せで、個々人が思い思いバラバラに巡回営業をしていたのです。

前任の支店長の時は、個別ユーザーを何軒も持って走り回るという横並びの体制をとっており、各人が何をやっているかよくつかんでいないという状態でした。また支店内の営業事務もエリア単位の顧客担当制になっているため、担当顧客別の受発注と問合せには対応はしているものの、営業マンの話を聞かなければ処理できない案件が多く、結局営業マンが早めに事務所に戻ってくるか、午前中の時間をつぶして事務処理を行わざるおれなくなっていました。

 景気の良い時ならいざ知らず、景気低迷下で業績はどんどん低下しているのに、これでは営業全員が日々の業務に追われて手の打ちようがありません。そこで支店長が変わり、W支店長が新たに着任したというわけです。

 こうした業績不振拠点では売れない言訳が大手をふって通っており、なかなか自分達で改革するという気概が見えない場合が多いものです。まさにこの支店がそうなっていました。といって、精神論をぶったとしてもそれだけで変わるわけがありません。具体的な対策が必要です。

 W支店長としては、この支店状況を一カ月徹底的に調べた結果、「小手先の営業の見直しをしても結果は出ない。抜本的な営業体制の見直しが必要だ」という結論に至りました。

 

―市場にあわせた4つの基本施策―

~市場をセグメント(区分け)した攻め方を組み立てる~

 

そこで次のような4つの方針を掲げたのです。

 


       【支店での顧客別区分けと基本施策の設定】

 

①最重点ユーザーの設定

 ・支店業績向上のために、最重点強化ユーザーを決め、そこでの新規取り扱い、シェアー向上を絶対に実現する。そのために支店の全勢力を投入する。

 

②支店長が統括リーダーとなったチーム企画提案営業の推進

 ・このため、支店長が自ら最重点強化ユーザーを統括するチームリーダーとなり、上位キーマンへの企画提案営業(パートナーシップ対応)を推進する。また担当営業マン、担当社内営業業務のチーム制を敷くことにする。また本社専門技術部隊からの支援も積極的に活用する。

 

③重点ユーザーへの2人チーム担当制の組織改編

 ・重点ユーザーについては、二名の営業マネージャーのチーム制を敷き、基本としては、日常的には個別営業マンが担当するが、営業マネージャーが総括責任を負って日々営業レビューを行い、ポイントを絞った本社技術部隊の支援もタイミングよく受けられるようにする。

 

④その他ユーザーの営業効率化

 ・その他ユーザーについては、営業マンが訪問しないで済むように、社内営業業務体制を見直し、社内業務の日常的な対応で済むようにする。

  一般発注・問合せも、社内営業業務員が責任を持って対応し、営業マンは午前10時から午後5時までの間は社外活動に専念できるようにする。一週間でのコアタイムを決め、それ以外は直訪直帰をすすめる。

 


具体的にはユーザーを最重点強化ユーザー、重点ユーザー、その他ユーザーの3区分にはっきり

分け、他方営業活動についても、上位キーマン向け企画提案活動、個別新商品提案、紹介促進、一般受注・問合せ、それに本部からの販促企画推進活動にわけて、それぞれの役割分担をはっきりさせたのです。また、本社技術部隊からの支援もより強化することにしました。

 


◎最重点強化ユーザー

⇒これからまだまだ伸ばせる余地の大きなユーザーであり、具体的にどの分野で関係強化を図るのかの獲得目標をはっきり設定して、支店長と担当営業マンで上位キーマン向け企画提案活動の年間スケジュールをつくる。

◎重点ユーザー

 ⇒当社との取引高は多いものの今後それほど成長が見込めないところや、全体の取扱高の限界が見えるユーザー。営業マンを担当とし、上記キーマン向けの企画提案もできるだけ担当営業マンが自力で行う(但し、状況を営業マネージャーが総括責任者として確実に把握するとともに、上位キーマンには営業マネージャーが必ず対応し人脈を作っておく。)営業マネージャーと営業マンのチーム制である。

◎その他ユーザー

 ⇒あまりにも小口ユーザーであるため、原則として営業マンが訪問しないことにはっきり決め、社内営業業務担当ができるだけすべて対応するようにする。但し、年1~2回は取引全体の見直しのためのトップ商談を行う。この総括責任者には、営業マネージャーか支店長がなる。

 


―社内のバックアップ体制を整備する―

こうなると、社内営業業務体制がかなめとなってきます。最重点強化ユーザーについ

ては、社内営業業務も個別ユーザー毎担当し、一般受発注・問合せにも、個別企業に

あったきめ細かい対応やービスを行っていくようにしました。取引先ユーザーの発注

担当者だけでなく、営業の人達につても具体的な情報をもって、フレンドリーな対応

をしていくのです。

 

また社内業務体制を得意先別担当制(最重点ユーザーは個別、重点ユーザーとその他

ユーザーは業種特性別と、商品分野担当制のダブル担当制にしました。個々の受発

注・問合せの回答は得意先担当者が責任もって行うものの、商品知識の習得、整備や

商品内容の訂正、問い合わせ回答内容の情報確認は、商品別担当で行うことにしたの

です。

さらに、新商品販売や販促キャンペーンのその他ユーザーへのPRは、社内営業業務

担当が電話やファックス、メールで行うこととし、実際の商談段階では、営業マンが

フォローすることとしまた。

図(P183)

 image25,eigyoukyotentaiseijirei-Wsitentyou.gif

―支店長の強力なリーダーシップ―

もちろん、こうした組織の見直しは簡単にはいきません。W支店長のリーダーシップ

が一番の要です。はじめは支店内での戸惑いや混乱はありました。しかし粘り強く一

つ一つの問題にW支店長が対応し、部下を引っ張っていくことで、その後6カ月もた

たないうちに、支店業績は前年を上回りはじめ、年間では全社で最も前年比アッ

プ率の高い支店として、表彰されることになったのです。

大幅に業績をアップさせることが出来たのは、W支店長自らのトップ営業によって大

口受注が二件決まったこと、また二人の営業マネージャー同士の競争意識によって、

全体の業績向上が図られたこと、さらには社内業務体制が徐々に整い、営業マンの外

出時間が飛躍的に伸びたことが大きかったよう思います。

 このように多様化した拠点営業の状況においては、放っておけばメリハリのない日

常のル-チンワークのような営業活動に陥りがちです。拠点の士気もそうなると、な

かなか上がりません。得意先区分と営業活動区分を"4つの領域"における対応方法

の違いとして整理し直し、各人の役割と営業のやり方をはっきりさせること。そして

チームプレーのやり方を見直し、メリハリのある体制をつくっていく。そのことで拠

点の戦略作戦の遂行を円滑にすすめられるだけでなく、組織の活性化につながり、ひ

いては業績向上につながっていくものと思います。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

続きは次のブログで・・


 CBC総研のホームページ       




 

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://cbc-souken.co.jp/blog/mt-tb.cgi/77

コメントする

このブログ記事について

このページは、CBC総研が2013年3月13日 13:37に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「「ドイツ企業から・・学ぶ、『低価格戦略』は間違い」日経ビジネス記事紹介」です。

次のブログ記事は「マトリックス営業戦略による営業組織(拠点)の抜本改革事例紹介②」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

ウェブページ

  • image
Powered by Movable Type 4.261