◎営業組織を発展的に見直す
前回のブログで拠点営業体制の抜本改革の事例を紹介しましたが、営業組織全体の見直しも同様の考え方をあてはめることが出来ます。ここでは、企業の成長発展に伴って、営業組織の見直しがどのように進むのか、あるいは進めなければならないかを、S社の事例で見ていきたいと思います。
―S社の成長発展にあわせた営業組織の見直しー
【第一ステップ】:
【第二ステップ】:
【第三ステップ】:
【第四ステップ】:
【各営業関連セクションの役割と活動内容】
【各営業関連セクションの全社横断的な役割として】
【第五ステップ】:
―S社の成長発展にあわせた営業組織の見直しー
S社は、大手企業から中小企業まで、幅広く法人企業を対象とした特殊技術サービ
スを提供している会社です。最近のビジネスサービス化の進展を受けてS社も急成長
しており、その発展に合わせて組織的な見直しがその都度必要になっていました。
当初は営業マンは少数であり、ローラー作戦で開拓したお客様はその開拓した営業
マンの担当として割り付けていました。そのためお客様への対応は提案したサービス
内容の導入をサポートするだけでなく、その後の消耗品の日々の注文対応や、問い合
わせ・雑務要望等にも担当営業マンが行うことになり、新規開拓が進んでいくと個別
既存客の対応だけでせいいっぱいとなって非常に非効率な状態になってしまいました。
そこでまず、日々の受注・問合せについては、営業マン毎にアシスタントを採用し
て対応することにしました。営業マンが10名以下の時です。
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【第一ステップ】:
・個人営業マンが、自分で開拓したお客様の注文・納品・アフターフォロー・日常的対応のすべてを自分で担当していた。
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【第二ステップ】:
・営業マン毎に、社内業務のアシスタントを採用
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この事によって、確かに営業マンの負荷は減りましたが、営業マンの指導方法やア
シスタントの資質よるバラつきが大きく、その対応の格差が業績にあらわれることに
なってしまいました。またあるアシスタントは忙しいものの、他のアシスタントは暇
で手持ち無沙汰になっている等のアシスタント同士での業務負荷のバラつきの問題も
発生することになりました。
そこで次に、営業マンが10名を超えるのを機会に、営業アシスタント業務をひと
くくりにして、一括受付対応をする体制を敷いたのです。あわせて、営業マンの活動
を企画販促面でサポートするマーケティング室をつくりました。
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【第三ステップ】:
・受注・問合せ対応を一括して行う業務体制づくり。
・あわせてマーケティング室の設置
(この期に、個別対応~組織的に動く営業体制をしくことになった。)
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このことによって、営業業務の流れにスムーズになり、お客様に対するミスや漏
れは大幅に削減されることになりました。
ところが営業マンについては、業務体制の整備で一律に対応する部分はスムーズに
流れるものの、その流れからはずれた個別のお客様の要望については、どうしても後
回しになり、結局営業マンが対応せざるおれなくなりました。そうなるとお客様は、
ちょっとしたことでもその担当営業マンを指名するようになり、ふたたび営業マンが
そのたびごとに問合せや雑務に振りまわされる状態となってまったのです。こうなる
と、新規開拓どころか既存客対応の雑務で汲々となり、営業マン本人は一生懸命やっ
ているつもりでも、全く前向きな動きが出来ず成果が上がらないことになってし
まいました。
他方、せっかく設置したマーケティング室も、営業マンがなかなか思った通り動い
てくれないこともあり、営業戦略や企画販促の準備をすすめるというより、自ら直接
大手ユーザーの開拓営業を始めてしまいました。これでは、当初の組織的な動きとい
うより、むしろ個々バラバラな動きに戻ってしまったようなものです。
そこでS社は、今一度営業組織の全面的な見直しをはかることにしたのです。
まずマトリックス営業"4つの領域"の対応を参考に、営業部隊を大きく4つ
にわけたのです。
そこであらためて、4つの対応の役割をマトリックスによって区分けしました。
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【第四ステップ】:
・四つの領域の対応にあわせた4つのセクションと、それぞれの役割分担の明確化。
大口法人営業(第一営業部)、中小法人営業(第二営業部)、お客様サポートセンター、エンジニアサポート(技術市場開発センター)の4つのセクションです。
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【各営業関連セクションの役割と活動内容】
(1)大口法人営業(第一営業部):
一騎当千の営業マンを集めて、大口法人の関係拡大を図る部署です。トップ、リーダー、担当者という組織的な対応が基本であり、顧客企業情報を個々の組織図と案件テーマまですべてリストアップして、一つ一つの案件管理までしていく事にしました。
但し、このままでは新規顧客開拓が難しいことは目に見えています。そこで新規大手ユーザーの攻略については、数人の別動隊を部内に作り、専門に動けるようにしました。
特に業界でもトップ企業をターゲットに、そこでの成功事例をもって二番手以降の見込み客を攻略していくのです。ここではトップ商談による営業対応(パートナーシップ対応)が大事であり、あわせてエンジニアサポート部隊の上級レベルの担当者との連携プレー(エンジニア対応)が必須ということになります。(現にその後の新規開拓の成功は、チームプレーによる上級エンジニアのサポートが一番の決め手になりました。)
(2)中小法人営業(第二営業部):
第二営業部であり、多くのお客様を対象としますので、エリア別組織として既存
客の優先順位付けを行い、量とスピードを競うことにしました(ハイスピード対応)。
そのため横にマーケティング室を置き、機動的な動きが出来るようにしました。
また個々のお客様に関しては、お客様センターで受注・問合せを一括受付するた
め(コストダウン対応)、そこからのお客様担当別営業マンの情報チェックと、引
き合い案件の追っかけフォロー大事な仕事となりました。
(3)マーケティング室:
大手企業相手ではなく中小法人相手の第二営業部のラインスタッフであり、ターゲット別(ユーザー業種と企画提案商材、及びシーズンに合わせた販促企画)の営業戦略を組み、それをスムーズに組織的に推進するための販売促進の企画や営業ツール類の整備を進めていくことにしました。人員は企画販促の得意な優秀な営業マンを担当しました。(これまでのマーケティング室のベテラン営業マンは、大手新規開拓の担当としました。)
このセクションは、ラインスタッフとは言いながら、場合によっては自ら企画した展示説明会やプレゼンテーションの場を自らが司会・進行役となってコーディネートしていくことになります。(但し、講師役は、エンジニアサポート部隊の専門知識の高い上級者かベテラン営業リーダーが担当。)それぞれの場面によって、柔軟に役割を切り替えていかなければなりません。
(4)エンジニアサポート部隊:
当社の提供する技術サービス内容をお客様と一緒に設計し、企画提案していく専門セクションです。第一営業部、第二営業部どちらへもサポートするものの、大手企業に対しては個別案件対応、中小企業に対しては自社の新企画商品の販促キャンペーンにあわせたフォロー活動が主な内容となります。
また当社サービス内容の向上と、新企画サービス商品づくりを役割として担っており、サービスマンへの技能向上のための教育カリキュラムの作成と実際の教育担当を行うことにしました。
(従来の製品開発のための技術部隊とははっきり区分けした、顧客サポートを中心にした技術部隊です。)
(5)お客様センター:
中小企業の既存ユーザーからの注文・問合せを中心に、定期的なお客様状況・情報確認と、新商品や販促企画のひと声PR、さらには引き合い案件の情報収集まで行います。つまり、お客様との交渉を除く、社内でできる日常的な対応のすべてを引き受けることになりますので、営業部各営業マンやマーケティング室と日単位での緊密なコミュニケーションを図ることが必要です。
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以上の組織の区分けとともに、役割分担もよりはっきりさせることにしました。はじめに4つのセクションが"4つの領域"の対応を参考に作られたことは述べましたが、各セクションが一つの対応方法がすべてというわけではないことは当然であり、例えば第二営業部であっても、パートナーシップ対応やエンジニア対応の商談場面や営業活動は必要となります。しかしそれはあくまで主力とすべき領域の対応ではありません。
そこで4つのセクションには全社組織に対しても横断的な役割を持たせることにしました。それぞれ自分のセクションの主力とする対応方法を全社的な立場で他セクションに対してもコントロールし、そのノウハウの向上を図っていくことにしたのです。
すなわち、次のような役割です。
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【各営業関連セクションの全社横断的な役割として】
◎第一営業部:<パートナーシップ対応とエンジニア対応>
⇒大手の先端企業への企画提案の成功事例のノウハウ化(新規企画提案商材の開発推進と、その導入実例情報や提案ノウハウの全社への横展開)
◎第二営業部及びマーケティング室:<ハイスピード対応>
⇒営業活動ノウハウの標準化の推進と、マーケティング情報収集分析による新しい営業戦略の展開、販促企画方法の導入促進。顧客データベース活用による、ハイスピード営業スタイルの促進(テレホンマーケティング等)
◎お客様センター:<コストダウン対応とハイスピード対応>
⇒営業業務処理の合理化、効率化の推進。お客様センター及び営業アシスタントとしてのCS(顧客満足)活動の強化とマニュアル化。インターネット等を使ったインタラクティブな見込みユーザー管理。テレホンマーケッティングノウハウの導入等)
◎エンジニアサポート部隊:<エンジニア対応>
⇒当社のサービス技術対応力の向上とそのための教育システムの改善。お客様への定期専門技能のPR活動の推進。全社員のエンジニアリング能力向上へ向けた教育支援の仕組み作り。
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図(『こんな営業は今すぐやめろ』P.193)
このようにして、各部門・セクション毎の日々の営業活動における役割分担とともに、全社的な役割の明確化が図られ、それぞれの部門の責任者が置かれることになりました。現在は全社的な組織運営の姿が明確になる中で、ようやく各責任者を中心にした自律的な運営が徐々に定着しつつあるところです。
次の第五ステップでは、営業組織を単に大企業と中小企業という分け方だけでなく、顧客商品テーマにあわせた横プロジェクトが必要になってくるよう思います。その場合、マーケティング室がエンジニアサポートの発展した姿となると思いますが、事業展開ステージの違いによって、その内容は変わってくるはずです。他方、お客様センターも、受注・問合せセンター、テレホンマーケティングセンター、営業拠点ごとの現場の営業活動のアシスタントといった三つの区分けも必要になるでしょう。
S社としては当面は現在の営業組織の定着化を図りながら、次の営業組織のあり方を模索していくことになることでしょう。
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【第五ステップ】:
◎顧客商品テーマにあわせた横プロジェクトの導入。
◎お客様センターの発展(受発注・問合せ業務・テレホンマーケティング、営業アシスタント)。
◎成果主義の業績評価制度の導入検討(各セクションの期待する役割分担に合わせて・・)。
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成果主義の業績評価については、現在、求める人材像を明確にするコンピタンス評価が注目されていますが、営業部門に関して言うなら、市場の変化多様化にあわせて求められる営業の役割分担をまず明確にすることが何よりポイントになります。マトリックス営業はそのモデルとなるものです。
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以上S社の営業組織の発展過程を見てきましたが、今では営業組織の改編の典型的なパターンとなる事例のひとつであるかもしれません。しかし実際に組織が円滑に機能し大きな飛躍に結びつくかどうかは、表面的な組織編制の形を超えてそれぞれのセクションのリーダー、メンバーの能力や動き方、さらには日々のコミュニケーションが大きく左右するものと思います。
そのためにはそれぞれ自らの役割分担を鮮明に認識して、実際の活動の際に自ら判断して臨機応変に動けるような『考え方』を共有するとともに、実際の営業場面を想定した実践的な訓練が大事でしょう。その上での日々のコミュニケーションを通した調整です。「マトリックス営業戦略」は、戦略的な営業組織のあり方を設計する場面だけでなく、そうした共通の考え方の共有化と実践訓練の場面でも大いに役立つことと思います。
『考え方の共有』=戦略の共有⇒言葉の共有⇒場面の共有⇒意識の共有・・心の共有
※参照:小生ブログ
「マトリックス営業戦略と『4つの営業組織』」「マトリックス営業戦略とマトリックス組織」
以上
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