以前「社長が経営コンサルタントを使うメリットとは」を解説しました。
そこで前回に引き続き、今回も上記メリットをより効果的に引き出すために社長がやるべきことや注意すべきポイントについて、述べたいと思います。
今回は、「社員の主体性を高め、育成を促進する」ことについてです。私のコンサルタントとしてのこだわりが強く、少々しつこくなったかもしれませんが、ご参考になれば幸いです。
<社長がコンサルタントを使うメリット>
4.社員の主体性を高め、社員の育成を促進できる。
<注意点:4>
・個性があり、かつ己を殺せるコンサルタントを使う。一方で社員の主体性を引き 出し、能力育成を図る仕組みや作戦を導入し、そのサポート役としてコンサルタ ントを活用する。
―コンサルタントは二重人格!?―
失敗事例:営業部長の代わりを熱血コンサルタントに期待するM社長の失敗
―社員の主体性を高め、育成を図るための4つの対策―
①(コンサルタントではなく)社員自ら達成させるべき目標を明確にする。
②コンサルタントに診断や支援計画を出させても、担当責任者のリーダーには自分達なりの計画をつくらせて工夫をさせ、自分たちの活動という意識を持たせる。
③社長はプロジェクトメンバーに対して、改善計画を必ず実行させるようにする。もし実行を阻む障害があるなら、社長が取り除いてあげて、何が何でも実行せざるおれない状況に追い込む。
④部下自身の計画の実行で成功事例を作り、自分たちでやったという達成感を与える。
―コンサルタントは二重人格!?―
コンサルタントは二重人格としての役割を果たさなければならない。これまで『社長の
影武者』『専門ノウハウの提供者』『組織に波風を立てる者』といった役割について説明してきた。こうした役割からは、コンサルタントは強い個性を打ち出して、社員のみなさんをぐいぐい引っ張っていくよう思われるかもしれない。実際優秀なコンサルタントは、個性的な人が多いことは確かだ。しかしだからと言って自分が主役となって自分の思い通りに進めることに執着するならば、コンサルタントとしては失格だ。やはり主役は社長であり、社員の皆さんなのである。
だから実際に成果を上げるコンサルタントは、むしろ実務的で地味な雰囲気の人も多い。逆に派手に自己PRがうまく自分の営業が得意なコンサルタントは、社長からすると頼もしく、自社の社員を叱咤してくれて効果が上がりそうに思えるかもしれないが、実際にはうまくいかない場合が多い。なぜなら社員からするならば、一方的に言い募る権威者が一人増えたようなものだからだ。自分の主体性がますます損なわれてしまうと感じられ、ますますやる気が失せるといったことにもなりかねない。
個性を発揮して波風立てながら、他方で自分を殺し、お客様企業の社員の皆さんを主役にして、彼らの主体性を強引にも喚起していく。この二重の役割を果たすのがコンサルタントの役割だ。
失敗事例:営業部長の代わりを熱血コンサルタントに期待するM社長の失敗
ベンチャー企業の社長のMさんは、友人の経営コンサルタントTを雇って自社の営業部隊の改革を進めることにした。Tは著名な急成長企業の営業部長までしていた経験を活かし、今はフリーの形でいくつかの企業の営業支援をしているが、恰幅がよくて話がうまく、まさにやり手の営業部長といった風情であった。
はじめに手掛けたのは営業ミーティングにおいて、各営業マンの進捗管理を徹底すること。一人一人の営業マンに一週間での各案件の進捗状況を報告させるとともに、これからやるべきことをプロセスに沿って指摘し、次の一週間の行動計画に落とし込むというやり方である。
これまでMさんの会社では、営業マンに物件を担当させたら任せっぱなしであり、うまくいければいいが、何か障害事項が発生した際には、ほとんど手遅れの状態で、クレームだけでなく大事な案件を失注するといったことさえ頻発していた。そこで自社の営業活動を今一度プロセス化し直し、営業マンに徹底させようとしたのである。
実際Tコンサルタントは毎週会社に訪問し、3から4時間に及ぶ営業ミーティングで営業マンを一人一人厳しく指導した。
「なんだ、こんなこともきちんと確認していないのか。商談プロセスでは、○○を確認するとなっているだろう。今すぐお客様に連絡して、確認しろ!」
「第二ステップでは、デモで○○を行うことになっている。次回はデモの提案をして、確実にお客様に了承してもらえ。」
「こんなことも出来ないなら、営業失格だ。今すぐ顔洗って出直してこい!」
それこそ鬼の営業部長のような役割を果たしたと言っていい。Tコンサルタントが一生懸命だったことは間違いないだろう。
そこではじめM社長には、Tコンサルタントが入ることで営業部隊の雰囲気は変わり、かなり緊張感が増したように思えた。うまくいきそうだ、という手ごたえがあったのである。
ところが一か月を過ぎ、二か月たっても三か月たってもなかなか成果が上がってこない。すぐに成果を期待するのも、と思い我慢していたのだが、三か月を過ぎるころには、社内がマンネリ化した冷めた状態となってしまい、はじめの緊張感がどんどん薄れてくるようになってしまった。そして結局六か月後には成果が出ないまま、M社長は後ろ髪をひかれるような思いを持ちながらも、Tコンサルタントの指導をやめることにしたのである。
私はこの話をM社長から直接聞いたのである。何が間違ってしまったのか。やろうとしたことは、間違いないし、若し私がコンサルティングに入っても同じようなことを始めたかもしれない。商談プロセスを見直し、徹底して実行していく習慣や体制をつくることは、M社にとってとても重要な改革であった。しかしその進め方に何かボタンの掛け違いがあったよう思える。結局商談プロセスも、当事者である営業マンや営業リーダーがその重要性を理解し、自分たちなりに主体性もって何が何でもやりとおしていく、という気持ちにならなければ、うまくいくわけがない。実際実行するのは営業マンであり、その指導は部門長の営業リーダーである。そのことをはき違えたことが、Tコンサルタトの蹉跌の一番の原因であり、そのような役割を促したM社長の勘違いも大きいと思えて仕方がない。
Mさん自身、最高の営業マンであり、自分で何でもやらなければ済まない性分である。だから部下にもそうしたことを要求し、それが無理となったら、全くの放任状態となっていた。そこで自分に代わる厳しい営業部長の役をコンサルタントに期待したわけだ。
これを読んでいる社長さんには、こんな勘違いを是非しないでいただきたい。繰り返しになるが、なにより自社の社員の主体性を喚起して、彼ら自身が自らの実行を通して成長していくようにさせることが何より大事なのである。その環境づくりとサポートのために、コンサルタントを活用することだ。
(※このM社の場合、自社の営業活動の領域が単品販売の「ハイスピード対応」領域というより、専門技術を持って対応する部分の多い「エンジニア対応」領域のウェートが高かったために、なおさらワンパターンのプロセス管理を押し付けることでは難しかったよう思われる。)
ではどうしたら、経営コンサルタントを使ってそうした社員の主体性を高め、育成を進めることができるのか。そのやり方を説明しよう。
―社員の主体性を高め、育成を図るための4つの対策―
①(コンサルタントではなく)社員自ら達成させるべき目標を明確にする。
・社長がコンサルタントに課題を与えて、お手並み拝見という姿勢では、まず失敗するだろう。あるいはコンサルタントのサポートに事務局や担当者を充てるというのでも駄目である。それでは社員に主体性を発揮させることなどできるわけがない。
はじめに会社としての目指すビジョンや目標を明確に示して、その達成を社員に託すというのが経営の原則である。そこで会社の目標をだれが責任もってどこまで担い果たすのか、一人ひとりの社員が果たすべき(会社の)目標まで明確にする。その目標達成の支援のためにコンサルタントを活用するのである。そのことをはっきり社長のほうから宣言し、その後もその姿勢を貫くことが大事ということだ。
「君と君のメンバーには、○○という会社の目標を○○までに達成させてほしい。ついては、(その分野の専門的なノウハウを持っている)××経営コンサルタントに支援をお願いしたので、一緒になってうまく進めてほしい。そのためのサポートは僕が責任を持とう。
(但し、今後他部門のこと含め、きっと君だけでは難しいことや問題が出てくるだろうから、その時は私に必ず相談してくれ。私も一緒になって支援しよう。)」
②コンサルタントに診断や支援計画を出させても、担当責任者のリーダーには自分達なりの計画をつくらせて工夫をさせ、自分たちの活動という意識を持たせる。
・コンサルティングがうまくいった場合を振り返ると、すべてのケースにおいて私が提案した改善内容について、プロジェクトのリーダーやメンバー達が自分たちで自分たちなりの工夫を加えて実行をしているものだ。
「山川先生、見てください。我々のほうでこんな計画をつくりました。(こんな工夫を考えてみました。) これから実行していきますので、いろいろアドバイスをお願いします。」「お、いいですね。じゃあ、その内容を確認しましょう。・・○○というのは、さすが△△さん。素晴らしいアイディアですね。皆さんで考えたんですか。」「ええ、まあ・・」「これはすごいですよ。できたら確実に成果が上がると思います。とても期待しますよ!もう準備は出来ているの?」「いや、まだこれからで・・」「それじゃあ、○○と○○ということを加えてやってみましょうよ。僕のほうでも、○○しましょう。」「それなら助かります。」「それじゃあ、○○までに私のほうで○○しますので、△△さん。みなさんのほうでも○○までに○○をお願いします。」「わかりました・・」
こんなやり取りだ。自分たちで考えた計画であってこそ、部下の皆さんも本気で取り組むことができる。本気ならそこに自分たちなりの工夫を加えたくなるのが普通だろう。コンサルタントはそうした社員皆さんの自分たちの工夫をうまく促していくのが役割なのである。
但し、時にはコンサルタントの出した改善計画をプロジェクトのメンバーがマイナーチェンジして骨抜きにしまうこともある。だからコンサルタントとしては、彼らの出してきた計画内容を今一度一つ一つすり合わせて、足りない部分はしつこく指摘して、成果の上がるような実行を促すことが大事だ。
「・・という点ですけど、どうして○○までしなかったんですか?」「それは○○ということから、○○までは難しいかなと思いまして・・」「いや、○○ですから、そこが大事じゃあないですか。」「わかりました。それじゃあ、○○を○○することにします。」「そうでね。大変でしょうけど、是非やっていきましょう。」
では社長は自然に任せていればいいのかと言えば、そうではない。社長から、「コンサルタントの○○さんからこんな改善計画が出た。これを当社のものにするのが君たちの役割だ。ついては、この改善計画を基に改めて、よりバージョンアップした自分達の計画を○○までに作成してくれ!」とプロジェクトのメンバーに指示するのである。またそうして出てきた改善計画については、あらためてコンサルタントに確認させ、計画内容をさらにレベルアップさせていくのを忘れないようすべきだろう。
③社長はプロジェクトメンバーに対して、改善計画を必ず実行させるようにする。もし実行を阻む障害があるなら、社長が取り除いてあげて、何が何でも実行せざるおれない状況に追い込む。
・自分たちの計画は出来たが、実際に実行するとなれば多くの障害が発生する。例えば現業の仕事が忙しくて、新しい改善に時間が取れないとか、プロジェクトに参加していない幹部が非協力的である、といったことは十分考えられるだろう。それをプロジェクトメンバーだけに任せておくと、出来ない理由が大きくなってほとんど改善が進んでいかない、といったこともよくある。
営業の場合では営業リーダーの部下への指導力が足りない場合、いくら素晴らしい対策を考えても実行する部下がうまく動いてくれないということがよくある。コンサルタントも営業研修や個別指導で支援するものの、最後はリーダーの指導力いかんという場合も多い。その場合社長がリーダーとともに部下メンバー含めて全員に、改めてプロジェクトの意義価値をしっかり伝えて社長の覚悟を示し、改善計画の実行を強制する姿勢を見せることも必要だろう。そうなれば、その強制を基にコンサルタントもあらためて社員の皆さんに主体的な行動を促していく、という手順がとれる。まさに社長とコンサルタントの連係プレーで社員を動かすのだ。
例えば、改善計画が骨抜きになってなかなか動かない場合、コンサルタントであれば次のような言い方で、メンバーを動かすことになる。
「いやあ、○○については時期尚早かなと思って・・」
「え、時期尚早ですか。こんな大事な改善計画をやらなかったら成果が上がりませんよ。社長なら、『すぐやれっ』て言うと思うでしょう。だから言われる前に自分達で計画して実行して行きましょうよ!」
「それって、社長に報告するっていうことですよね。」
「そりゃあ、今日の話し合いと計画内容については、私の役割として社長にも報告しますよ。皆さん真面目に積極的に取り組んでいますって!?(笑い)」
「・・わかりました。もう一度考えてみます。」「そう、私も一緒に考えますから是非実行することを前提に考えましょう。」「ええ、先生がそこまでいうなら・・お願いします。」
こうやって彼ら自身が考え実行したという形が大事なのである。
④部下自身の計画の実行で成功事例を作り、自分たちでやったという達成感を与える。
・そして、最後は成功事例を作ることだ。社長から言われたとか、コンサルタントから言われたからやったでは、成功事例も単なる自己満足になってしまう。そうではなく、自分たちでやったという体験が人を大きく成長させる。だからコンサルタントはあくまでアドバイス役という立場に徹することが大事なのである。
実際「山川先生のおかげです」と言われることも多いが、実際は当事者の皆さんの主体的な頑張りがあってこそ成功している場合がすべてであり、その際皆さんの達成感を味わい自信に満ちた顔つきこそが、コンサルタントにとっての最高のご褒美なのである。
以上
続きは、次のブログで・・
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