マトリックス営業戦略の詳細解説:セグメンテーション④(販売商社の考え方等)

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これまでマトリックス営業戦略『4つの領域』の理論モデルから、事業セグメンテーションについて解説してきました。前回は『戦う土俵を見直す手順』として②の第二ステップまで説明しましたので、今回は第三ステップの説明から続けたいと思います。

 

<戦う土俵を見直す手順>

第三ステップ:今後目指すべき領域はどこか、優先順位もつけ、はっきり方針を示す

―領域を変えるから、差別化出来る―

[例:消費財企画問屋の[零細小売店対象事業]の場合の、<領域移行>の考え方]

【販売商社の今後の領域選択の考え方】

※前回からの解説

<戦う土俵を見直す手順>

第一ステップ:現在、自社がどの領域で戦っているのかをはっきりさせる。

             ↓

第二ステップ:現在の領域でどんな課題があるか。また市場の変化を予測し、今後も魅力ある領域であるかどうかを検討する。

             ↓

第三ステップ:今後の目指すべき領域をどこにするか。その方針(優先順位)をはっきりさせる。

 

 

第三ステップ:今後目指すべき領域はどこか、優先順位もつけ、はっきり方針を示す

 

―領域を変えるから、差別化出来る―

ここまでは、現在の課題や方向です。しかし現状を前提としたやり方を踏襲するだけでは、新し

い発想はなかなか生まれません。市場が間違いなく変化するのですから、現在の領域のままで良いとは、かならずしも言えないでしょう。

 むしろ現在の領域を他の領域に移行させるとしたら、どんな事業や営業のやり方が

考えられるかと発想してみる。そしてその事業の可能性と魅力を評価して見るので

す。他社と戦う領域を変えることが、最大の差別化になる、と思って下さい。

           (※「マトリックス営業戦略バリエーション」ブログ参照)

前回述べた消費財企画問屋の場合にあてはめてみましょう。

 ※消費財企画問屋:アパレル卸、消費財企画雑貨卸、食品(菓子、日配企画品、お土

  産・・)卸等

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[例:消費財企画問屋の[零細小売店対象事業]の場合の、<領域移行>の考え方]

 自社のメイン領域が、零細小売店対象であったら、今後の事業のあり方をどう考え

るべきか。今までのやり方をつづけていたら、間違いなく衰退消滅です。では他の領

域に移行させるとしたら、どんな事業や営業が考えられるでしょう。それを考えられ

なければ、自社の存続はないのです。

 ①<コストダウン領域への移行>

  ・営業マンによる販売方式を改め、現金問屋とインターネット取引形態への移

   行。単品商材は徹底してコスト競争を付け、取引先にもコスト競争で勝てるや

   り方を教えていく。但し、零細小売店がコストで勝つのは至難の技である。む

   しろ零細小売店としては高付加価値路線をとるきで、そうなるとここでの「コ

   ストダウン対応領域」の戦略とは合わないことになる。

  ・そこでもし零細小売店対象に見切りをつけるならば、自社のシェアーの高い分野に集中して、大型チェーン等量販店の見込める分野にシフトする手も考えられるだろう。但し、大型チェーン店ではコスト競争がし烈化しているので、後発参入においてコストだけの戦いでは、難しいと考えるべきだ。差別化された付加価値のある商材開発が急務ということになる。

 ②<パートナーシップ対応領域への移行>

  ・取引先の中でも今後伸びていく先だけに重点的に的を絞り、一緒になって成長していくことをめざす。フランチャイズ形式でトータルな支援が理想的な姿であろう。

  ・この為には、自社の取り扱い商品品揃えを魅力ある小売店コンセプトにあわせてトータル化する必要があるし、単なる物の提供だけでなく、事業のオペレーションを提供し、サポート出来るところまで構築しなければならない。また新しくFCジ―(加盟店)を開拓するノウハウも必要になってくる。

  ・さらにその中には、高付加価値を生み出す商材やしくみが絶対に必要であり、この戦略をとるためには、そうした創造が前提となるだろう。

③<エンジニア対応領域への移行>

 ・自社扱い品をオーダーメード化し、エンドユーザー(消費者)の好みに合わせた個別対応や、専門相談や技術サービスをメインにした売り方を進める。零細小売店のうち、当社の意向に賛同してくれる先には、そうしたエンジニア対応のフラッグシップ店として転換させる。そのミニショップを、地元有力店や大型チェーン店のインショップとして導入していく。

 

 ※ここでは、領域の移行を先に想定して、事業転換の考え方を説明していますが、事業の転換を図るためには、大前提として「市場の成長性や魅力を考慮した【対象とする顧客層】」と「自社の強みこだわりから生み出される【提供する商品サービスの内容】」をどう変えていくのかの判断が重要になります。(顧客層と商品ジャンルの見直し)

その二つの視点は相関関係があり、対象とする顧客層を移行するためには、その顧客に最適な商品サービスを作りださなければなりませんし、逆に新しい商品サービスを創造するなら、対象とする顧客層も従来のままということではなく、ゼロベースで考え直してターゲットの優先順位をつけ直すべきということになります。

 

現在、多くの優良企業においても、事業の大転換がおこっています。IBMをはじめ、コンピューターハードメーカーがソフト・ソリューション提供業への転換を進めていますが、それはハードという製品が(成熟化しコモディティ化して)コストダウン対応へ移行する中、事業の中心をエンジニア対応領域へ移行させていると、読みかえることも可能でしょう。

また自動車販売や証券取引で、インターネット販売が進んでいるのも、それはこれまでの事業がハイスピード対応領域やエンジニア対応領域から、コストダウン対応領域への移行が進んでいるととらえることが出来ます。保険業界においては、簡易型のハイスピード対応やコストダウン対応領域に属する商品もあれば、それらを組み合わせたライフプランナーとしてのパートナーシップ対応の総合提案型の営業スタイルもあるといった具合に、はっきり各社各分野の領域における位置づけが鮮明になりつつあります。

 いずれの企業も、今後自社がどの領域で戦っていくのかを鮮明にして、事業や営業のやり方を抜本的に改革しなければならないのです。

 

 (2012年の現在では、こうした状況から進展して、より二極化がはっきりしているよう思います。IBMは『スマート、アース』というコンセプトを通して、ITをつかった地球全体のスマートな運営を進めていくというビックビジョンを明確に打ち出しています。一方でパソコン販売の世界ではコスト競争が激烈になり、トップリーダーシップやコスト競争力に劣る日本メーカーが窮地に立たされることになっています。同様のことは、大手デジタル家電メーカーでも起こっています。

一方証券業界も玄人相手ではネット販売のウェートがますます高まっています。そうした中で既存の証券会社は、世界的な金融不況もあって、いずれも大変な苦境に立たされているといっていいでしょう。

時間軸を考慮した上での自社の領域選択戦略の巧拙が、より重く問われているのは明らかでしょう。)

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 ここでは販売商社(卸問屋)の場合の、将来の領域設定の考え方を挙げておきましょう。

                                 

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【販売商社の今後の領域選択の考え方】

ものづくりメーカーと、エンドユーザーの中間に位置する販売商社(卸問屋)の存在意義が厳しく問われる時代にはいり、ますます自社がこれからどの領域で戦うのか、という戦略的な意思決定が迫られています。

 

①<ハイスピード対応領域の選択>

常に新規商材をもって新規提案活動に活路を見出す。商品開発とスピーディに市場を押さえていける営業力が決め手となる。訪問販売業や先端商品をいち早く扱い、一気に浸透させていく戦略を選択するということだ。例えば少し前では携帯電話販売の光通信のような会社があてはまるだろう。

この領域で戦うためには、出来れば成長市場であって、次々と新規製品が発売されてくるような状況にあること。またそうしたメーカーとの密なる提携関係が持つことも大事になる。これまでは、この領域で戦っていた販売会社も多かったが、今後はある限られた条件や時期、場面でしか成り立たない領域である。

 

②<パートナーシップ対応領域の選択>

 今後この領域が販売商社(卸問屋)にとっての主力領域となると思われる。

 すなわち、自社がはっきりこだわる「顧客満足サービス」のコンセプトを鮮明にして、お客様をしっかり巻き込む一方で、そのための様々なメーカーやサービス企業等までも巻き込み、パートナーシップを組む。その事業の輪を広め、深めていくことで、よりその価値を高めていくネットワーク型企業・・。

 そのコア技術やサービスは自社が保有し、プラットホームを用意するが、その事業の価値は、あくまでネットワークを形成していく、事業コンセプトとコーディネート能力が決め手となるだろう。

 

③<エンジニア対応領域の選択>

 製品開発はメーカーにまかせるものの、技術サービスや、ソフトサービスの専門能力をより高めていく。それだけの技術力や教育ノウハウを自社で開発するといった方向が考えられる。(注:自社生産設備を持たないファブレスメーカーへの道だ。キーエンスもその一社である。)

今後は、この「エンジニア対応領域」で活動していた会社が、トータルな品揃えとサービスをコーディネートするノウハウを身につけることで「パートナーシップ対応領域」に移行していくことも考えられるだろう。

 或いは、サービス対応を徹底して標準化することで、パート、アルバイトといった低賃金の労働力でもすぐに活用できるようにして、ある一定レベルの技能サービスを提供するという(一見「エンジニア対応」に見えながら、実は・・)「コストダウン対応領域」への移行も考えられるだろう。もともと、技能・サービスといったアナログ的な要素の強い価値の提供をしている場合には、それを標準化してレディメード化(デジタル化)することは、領域の移行につながり、コスト的な差別化だけでなく、その価値の普及が出来ることで新しい市場創造につなげることが可能となるだろう。

 

④<コストダウン対応領域の選択>

 多くの国内商社が縮小市場下にあって、ユーザーからの厳しいコスト要求にさらされていると言っていい。しかし安易にそのコストダウン対応に応じているだけでは、その事業の存在意義がどんどん低下していってしまうことになる。もしコストダウン対応領域を選択するとなれば、それだけの覚悟をもって徹底しなければならないことは、間違いない。

 他に有力な競合が見当たらないなら、徹底的な合理化、効率化ときめ細やかなサービス対応を進めて、自社の得意とする分野での圧倒的なシェアーを確保し、あわせてブランドも確立するのを狙うという戦略はありえる。但し、その得意分野やエリアで自社が圧倒的なナンバーワンを握れないならば、競合他社との泥沼の価格競争に陥り、過剰な設備投資などの負担から、たとえ売り上げが上がっても利益の出ない限界企業となってしまう可能性も高い。そうした状況は、特に古い体質の横並びの企業が多い国内産業中心の業界でよく見受けられるので、注意したい。そうした業界であっても、今後は国内企業だけでなく海外企業との戦いを見据えた体制づくりが必要になっている。

 

 

補足:最近の代理店販売店の動向からは、どの業界においても激烈な選別が起こって

   いる一方で、代理店がエンドユーザーに近づき、代理店と販売店の区分けがつ

   かなくなりつつあります。これまであまりに流通が多段階になっており、その

   非効率がようやく矯正されつつあるということでしょう。消費財ばかりか生産

   財マーケットにもネット通販の波が押し寄せていることも、その動きを勢いづ

   かせています。しかしそうした流通段階の合理化だけでは、しょせん「コス

トダウン対応」領域の戦いに陥ることは間違いなく、そうなれば異業種で後発参

入したコスト競争力のある超大手ネット通販会社に勝ち目があることは必定で

す。

 また新規開拓や新規提案を常に続ける「ハイスピード対応」領域を中心にした

戦いは、どんな業界の代理店販売店にもあてはまりますが、単品単発的な活動だ

けでは、今後ますますその価値は劣化していくことでしょう。一方でメーカー機

能を保有するにしても、オリジナリティある開発機能を発揮できてこそ価値があ

るわけで、生産設備を持っただけでは、むしろコストアップ要因になってしまう

ことさえ考えられます。

 市場の縮小化と成熟化の大波は、これまでの代理店販売店の世界を一変させて

しまうと覚悟を決めなければなりません。

そう考えるならば、これからの代理店、販売店の生き残る道は、エンドユーザーを中心にしたトータルな商品サービスをそろえて新しい満足価値を創造する「パートナーシップ対応」領域から、きめ細かい専門的な個別対応力(ノウハウ、プラス職人技術)を発揮する「エンジニア対応」領域の戦いにあることは間違いないでしょう。

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                                                      以上



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このページは、CBC総研が2012年12月21日 11:17に書いたブログ記事です。

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