マトリックス営業戦略の詳細解説:セグメンテーション①(顧客商品の区分け)

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これまで、マトリックス営業戦略の解説をすすめて来ました。ここではそこで設定している「4つの領域」に自社の実際の顧客商品をあてはめるやり方について、事例を交えて説明します。中心となる考えは、市場のセグメンテーション(区分け)ですが、そのセグメンテーションの巧拙が、実際の戦略の巧拙に直結することになるでしょう。区分けの仕方自体が、すこぶる戦略性をもっているのです。

考え方は何となくわかったが、実際の自社の戦略にどうあてはめて良いのか、まだピンと来ていないという皆さんには、是非読んでいただけたらと思います。

ここに掲載する文章は、以前私が書いた書籍の一部を修正したものが中心であり、事例等少々古いものもありますが、内容としては普遍的なものですので、そのまま載せました。実際にあった話をもとにしていますので、より現実的にとらえていただけるものと思います。ご参考になれば幸いです。


 マトリックス営業戦略「4つの領域」に、実際の顧客商品(群)をあてはめる

(「絶対に勝つ、マトリックス営業」P.81~)

―「4つの領域」を得意先と商品で区分けする―

―柔軟に、具体的に自分達の領域を決める―

追伸:

<住宅販売の最新事例>

<海外展開戦略の場合>

 


マトリックス営業戦略「4つの領域」に、実際の顧客商品(群)をあてはめる

(「絶対に勝つ、マトリックス営業」P.81~)

 

参考図表1:<マトリックス営業、4つの領域>


 image4matorikusu4zu.gif

 

 

※「マトリックス営業、4つの領域」とは

 変化多様化する市場を4つの区分けし、その市場特性にあわせて戦略から戦術・戦闘まで、一気通貫にメリハリよく的確に対応出来るようにした戦略モデルの図です。

縦軸には顧客視点から「顧客の経験度」に着目し、その時間的経緯として「素人→玄人」、横軸には商品サービスの視点から、商品特性の違いを「アナログからデジタルへ」という時間的経緯として「オーダーメード→レディメード」、をあてはめました。するとそこにマトリックス図として市場の変化多様化する様が鮮明に表現されることになり、その結果、市場の変化多様化を的確に読んで対応することが可能となり、先を見越した戦略立案や作戦展開まで可能になりました。

 「ハイスピード対応」領域:

   ・素人相手に新しい切り口の新製品新企画など、単品単発の商品サービスを提供する領域。販売方法も標準化し、一気に市場に浸透させることが求められる。【戦略的単品販売作戦】

 「パートナーシップ対応」領域:

   ・素人相手にオーダーメードの提案を行い、お客様と一緒になって大きな成果を求める領域。大きくお客様を巻き込み、新しいことにチャレンジさせていくことが求められる。【大型企画提案作戦】

 「エンジニア対応」領域:

   ・玄人相手に相手の事情に踏み込んだ専門技術的な対応を行い、問題解決を進める領域。独自な専門ノウハウを磨きあげ、差別的な付加価値のある問題解決力を高めていくことが求められる。

 「コストダウン対応」領域:

  玄人相手に規格商品サービスを提供するために、価格・納期・品質のコストパフォーマンスを徹底的に求められる領域。コストパフォーマンスでナンバーワンになることが絶対条件である。

 

―「4つの領域」を得意先と商品で区分けする―

 

マトリックス営業戦略の「4つの領域」を実際に活用する場合には、縦軸には対象とする顧客層、横軸には扱っている商品(群)と考えるのが普通ですが、すべてターゲットとする顧客層で区分けしたり、あるいは自社で扱う商品群のライフサイクルや商品毎の政策によって区分けすることも考えられます。 

 まず「4つの領域」を得意先という取引対象の会社の区分けと見るなら、たとえば

中小零細企業「ハイスピード対応」領域

地元有力店「パートナーシップ対応」領域

大企業「エンジニア対応」領域

という見方も一つの考え方でしょう。

※ちなみに「コストダウン対応」領域は、すべての顧客層に当てはまりますが、大口取引とすれば、『大企業』対象となります。一方で『中小零細企業』や『個人相手』となれば、インターネットなどを活用した効率的でかつ迅速な対応をしなければ、ビジネスとして成り立たないことになるでしょう。

 

商品で見るなら、

単品既存商品「コストダウン対応」(大量コスト訴求品)

単品新製品「ハイスピード対応」(高付加価値単品商品)

総合企画提案「パートナーシップ対応」(大型企画設備システムなど)

専門対応商品(カスタマイズ)「エンジニア対応」(専門技術対応商品)

といった見方もできるでしょう。

 

 実際の業種や商材をあてはめてみましょう。

図表1の下半分である素人相手ということになると、大型消費財の消費者への直接販売が最もポピュラーに考えられるよう思います。いくら消費者が賢くなったと言っても、販売する側がプロであり、お客様はあくまで素人となるはずです。この場合、革新的な新製品が出た際や規格物の魅力ある商品を売る場合には一律対応の「ハイスピード対応」の領域に入るでしょう。(※デパートなどの接客販売などが典型的な例です。)

そうでない場合には、やはりお客様の事情にあわせて対応することで、その商談をものにすることになるでしょうから「パートナーシップ対応」と言えると思います。 

分かりやすい例を出すなら、住宅営業でパッケージ的な企画住宅や建売住宅を販売するのは「ハイスピード対応」に近く、全く自由設計の住宅販売ならば素人相手から下半分の領域に限ることになって「パートナーシップ対応」と考えてよいでしょう。

 

 次に、生産財の法人営業で相手の窓口が購買担当や専門的な技術者となる場合には、お客様は玄人(或いは玄人と思っている人)ですので、領域としては図の上半分のところに位置されるでしょう。

 実を言えば、先ほど述べた大型消費材の販売についても本来は素人相手と考えられますが、消費者はどんどん勉強し玄人っぽくなっています。すると、これまでのように何度も訪問して仲良くなって商談を進めると言うスタイルが通用しなくなっています。一回の提案は聞いてくれても、それが自分と合わないと判断したなら、二度と会ってくれません。強引にしつこくすればするほど嫌われてしまいます。

 そこで、ここでは二つのやり方が考えられます。

 じっくりお客様の個別事情に入り込みながら自社の持つ専門的な技能を駆使して、個別に問題解決を図ることによって、お客様に満足を与えるならば左側の「エンジニア対応」さもなければ徹底的に合理化してコストをはじめ商品自体のコストパフォーマンスを高めて購入を促す、右側の「コストダウン対応」のいずれかでしょう。

 

例えば、生保や損保においてダイレクト販売の通販は後者(「コストダウン対応」)にあたるでしょうし、事故がおこった時のきめ細やかなサービス対応や問題解決対応を売りにして企業担当者に比較的高額な保険をお勧めする場合は、前者(「エ対応」)に当たるでしょう。

 

―柔軟に、具体的に自分達の領域を決める―

 以上、「4つの領域」の当てはまる対象顧客や商品について一般論として述べて来ましたが、固定的に考えることはないと思います。

 サービス業がそのサービスをパッケージ化する、あるいは製品販売業がお客様の好みに合わせたオーダーサービスを行うとなれば、領域の横軸のオーダーメード・レディメード対応を柔軟に移行させることによって、"新しい切り口"、すなわち縦軸の「玄人」を「素人」化して、領域を下の部分に移行させていることになります。

 『営業の対応』というのは政策ですから、自ら選び、意思決定すべきものです。そこに、自社の事業や政策のオリジナリティが生まれるのです。

 例えば一つの例でいれば、自由設計の住宅営業と言いながら必ずしも「パートナーシップ対応」とは限りません。お客様の満足に関係ない部分は徹底して標準化して、大事なところだけを自由設計ということも考えられます。「ハイスピード対応」に移行させることを狙うということになります。

(※今後は、インターネットなどを活用した徹底的な「コストダウン対応」の販売方式も考えられるかもしれません。)

 逆に徹底してオーダーメードにして、住宅にこだわりのある層だけを対象とする手もあるでしょう。そうなれば「エンジニア対応」です。

 さらには別事業としてすべて住宅の標準化を徹底させて、コストパフォーマンスを高めて売ると言ったことも決して考えられないことではないでしょう。そうなれば「パートナーシップ対応」と正反対の「コストダウン対応」の領域であるということになります。このように、どの領域を選ぶか、あるいは重視すべきかは自由なのです。

 ただし、領域が変われば営業のやり方を大きく変える必要があります。そうしなければ、そこでの成功はおぼつかないでしょう。

 コストダウン対応領域で戦おうと言うのに、ベテランの高給取り営業マンを何人もかかえていたり、エンジニア対応領域を重点化しようというのに、きちんとした設計・施工体制を整えておらず、営業マンのフォローもおざなりとなったら、うまくいかなくて当然です。それぞれの領域での成功ポイントは、そこで勝つための(少なくとも外してはいけない必須の)ポイントであるということです。

 このように領域を意図して選択することはまさに戦略です。実際の事例を通した詳しい説明は次に譲りたいと思います。

参考図表2:

 image32.m-segumenteishonnrei.gif

 


追伸:

 最近は、このセグメンテーションも複雑化してきているよう思います。ますますセグメンテーションが戦略的な重要性を帯びてきているといってもいいかもしれません。

 

<住宅販売の最新事例>

例えば住宅販売の例でも、某社では「感性を重視した特徴的な住宅」を標榜しているものの、基本の構造は規格型にして部材をパッケージ化し価格は従来の競合他社より3割近く安くする一方、フランチャイズ方式で加盟店に販売してもらうといったやり方をしています。そのためもあり、リーマンショック以降でも高収益でかつ着実な成長を実現しています。

 この場合、製品開発と供給方式は徹底した「コストダウン対応」領域の戦略をとっていますが、エンドユーザーに対する対応としては「ハイスピード対応」領域、フランチャイズ加盟店の獲得では「パートナーシップ対応」領域の戦略をメリハリよくとっているといっていいでしょう。まさに『領域複合化戦略』をとっている新しいビジネスモデルです。

 

<海外展開戦略の場合>

 一方海外展開は、多くの日本企業のこれからの生命線ともいえる戦略となっています。そこでは特に市場の変化多様化が激烈に進んでおり、セグメンテーションをはっきり意識した独自な戦略を設計したうえ、メリハリよく柔軟に対応していける体制づくりが求められているよう思います。

まず顧客のセグメンテーションですが、海外市場では市場の成熟度と対象顧客の富裕度を考慮したセグメンテーションが重要と思います。例えば・・

 最下層⇒(コストダウン対応)

中間層⇒(ハイスピード対応+コストダウン対応)

富裕層⇒(パートナーシップ対応+一部エンジニア対応)、

超富裕層⇒(パートナーシップ対応+エンジニア対応)

といった考え方は、基本的に考えられるでしょう。

 

ただし市場の成長によって最下層から中間層へ、中間層から富裕層へと階層が徐々に上昇していくことを考慮すべきであり、そこで中長期的な時間軸をとった、マトリックス営業戦略の『事業展開戦略』が重要になっているよう思います。

 

他方、提案商品サービスについては、単なる汎用的な商品を単品的に海外展開するのは、いくら技術的な独自性があると思えても非常に危険であることが、日本の大手家電メーカーの失敗から明白になりつつあります。「ハイスピード対応」領域の製品だけの強みでは、いずれ海外企業に「コストダウン対応」領域の戦いに引きずり込まれ、敗退すると思ったほうがいいでしょう。

特に、技術革新による新商品投入サイクルの短い商品の場合、コモディティ化が進んでいる場合が多いですし、あとから参入した企業も新製品の投入で追いつきやすいことから、特に競合企業との競争は激烈になりやすく、それだけコストダウン対応に陥りやすいと思ったほうがいいかもしれません。

ですから、技術の独自性ではなく技術のライフサイクルから、その製品サービスをセグメンテーションするという考え方もあるよう思います。

 

技術の優位性 コモディティ度 ライフサイクル期間 価格志向

コストダウン対応⇒   高、低     高    短         高

ハイスピード対応⇒   高、中    低~高   中間~長い     中 

パートナーシップ対応⇒ 高       低    長い、これから   低

エンジニア対応⇒    高      低~中   中間       中~低

 

もちろんその技術の持っているオーダーメード(すりあわせ?)の度合いが一番大きな要因になります。技術的な優位性は、オーダーメードの度合いが高いならば、その独自性は守られる可能性は高いでしょう。ところがレディメード化(ユニット化)しやすい技術の場合、その独自性は守られたとしても優位性を維持するのは至難と思ったほうがいいようです。

そこで、製品技術だけでない技術サービスやきめ細やかな販売方法のオリジナリティを持った『領域複合化戦略』を進めるといったことが、これから日本企業の強みを発揮するために大事になってくるよう思います。それは特に日本人の特性に合った戦略ではないでしょうか。

 

(この件については、以前の小生のブログで解説しましたので、

ご参照いただければ幸いです。

ブログ:「海外展開における日本企業のあり方とは」

「【<職人技>のすりあわせ】と【一般大衆向け】が日本企業の強み」 

 

                               以上

 CBC総研のホームページ


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このブログ記事について

このページは、CBC総研が2012年11月26日 14:29に書いたブログ記事です。

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