マトリックス営業戦略、4つの基本作戦の"落とし穴"④

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これまで小生のブログにて「マトリックス営業戦略」について解説してきましたが、今回は、基本となる「4つの領域」での基本戦略にまつわる"落とし穴"について解説したいと思います。

実際の企業戦略を拝見すると、その成功ポイントだけでなく、そこでの落とし穴をしっかり気をつけ失敗しないための対策を組むことが、事業の成長発展を実現するうえでとても大事なことがわかります。むしろ戦略がはまって事業が順風満帆に思える時ほど、落とし穴にはまりやすいと思った方がいいでしょう。ですので、戦略的に事業を進められている企業の皆さんにこそ、このブログは読んでいただきたいと思っています。

今回は、「コストダウン対応」徹底合理化作戦の"落とし穴"について、解説しましょう。

 

 ※「マトリックス営業戦略」の詳細内容については、私の他のブログを参照下さい。今回の文章だけでも、十分理解していただけるようにはしたつもりです。

 

 

 ※(1)『ハイスピード対応』戦略的単品販売作戦、(2)『パートナーシップ対応』大型企画提案作戦、(3)「エンジニア対応」問題解決型顧客深耕作戦の"落とし穴"については、前回、前々回のブログを参照下さい。

 

(4)コストダウン対応領域:徹底合理化作戦の"落とし穴"

 ◎コストダウン対応領域:徹底合理化作戦とは

◎対象業種、場面:

 <落とし穴として>

1)顧客とのブランド的信頼関係の希薄化、

及び競合他社との泥沼の価格競争の"落とし穴"

2)社内が受け身、流され体質に陥る"落とし穴"

3)営業担当者が値引き体質に陥る一方、

                お客様の不信を増幅させクレームが拡大する"落とし穴"

4)安易なリストラや人件費カットばかりが前面に出て、

     企業の風土が荒廃し新しいチャレンジ精神が喪失してしまう"落とし穴"

【対策として】

 ①コストダウン対応作戦も、トップが全社戦略として位置づけ指揮。

 ②短期的なコスト競争に陥るのではなく、長期的な顧客政策、競合対抗策を重視。

 ③コスト交渉条件の基準明確化と統一的な司令塔の設置。

 ④価格訴求営業から、プラスアルファーの価値提案営業への徹底。

 ⑤リストラや大幅な人件費削減は一回限りにする一方で、

付加価値を高める戦略を同時進行。

 

 



(4)コストダウン対応領域:徹底合理化作戦の"落とし穴"

 

 ◎コストダウン対応領域:徹底合理化作戦とは

  ・この市場では、お客様は商品サービスのQCD(品質・コスト・納期)といった目に見える今すぐのメリットを求めるため、営業や業務活動を徹底して効率化合理化させるだけでなく、すべての場面で徹底的なコスト競争力をつける対策を進める作戦である。

◎対象業種、場面:

 ・どの業種、業態にもあてはまる。大量生産大量販売の既存商品営業の場面

・価格等条件交渉、日々の受注対応等

 

 <落とし穴として>

1)顧客とのブランド的信頼関係の希薄化、

及び競合他社との泥沼の価格競争の"落とし穴"

この作戦は、中途半端な形で行うことは危険であり、いったん商品サービスの価格の安さを前面に出した売り方になると、顧客とのブランド的な信頼関係が一気に希薄化する一方で、競合他社との泥沼の価格競争に陥る可能性がある。圧倒的なコスト競争力があるのでなければ、安易なコストダウン対応作戦の選択は、自滅を意味することになるだろう。

特に日本社会の市場縮小化が進む現在、単にコストを下げても市場は広がらず、いたずらに全体市場の縮小と付加価値の剥落を早めるだけの結果に陥る可能性が高いことは、注意したい。

 

2)社内が受け身、流され体質に陥る"落とし穴"

社内でも、価格を下げて売るのは仕方がないことと思って、意外にコストに対して雑になり、コストダウンの努力を怠ってしまうと言った傾向も見受けられる。「○○だから、しかたがない」というあきらめに近い、受け身流され風土になってしまう"落とし穴"には、本当に気をつけたい。

 

3)営業担当者が値引き体質に陥る一方、

           お客様の不信を増幅させクレームが拡大する"落とし穴"

営業担当も、値引きしなければ売れないと勘違いしてすぐ値引きしやすくなってしまいやすい。

一方お客様も安くしなければ売れないような価値の低い商品サービスと勘違いしやすい。だからお客様からの値引き要求がきつくなりやすいし、不信感から下手をすると、ちょっとしたミスが大きなクレームになってしまう可能性がむしろ大きくなる。実際、値引きばかりしている営業担当ほど、クレームが多く、それに振り回されている傾向も強いものである。

 

4)安易なリストラや人件費カットばかりが前面に出て、

    企業の風土が荒廃し新しいチャレンジ精神が喪失してしまう"落とし穴"

   最もまずいのは、企業の風土が毀損してしまいやすいことだ。人減らしや人件費カットばかりが横行すると、間違いなく社員の会社に対する信頼は低下し、チャレンジ精神どころか疑心暗鬼な雰囲気が全体を覆うことになる。そうした場合に限って、非合理的な精神論も横行しやすく、そのことでさらに会社の業績を悪化させてしまうということもよくおこる。そんな"悪のサイクル"に陥ったら、立ち直るのは至難だろう。

  (最近の業績不振の大企業によく見受けられる"落とし穴"だ。非合理な精神論は太平洋戦争で日本の軍隊が陥った"落とし穴"でもあり、追い詰められた時に陥りやすい日本人特有の精神性の弱点なので、意識して気を付けたい。)

 

では対策として、どのようなことが考えられるか。

 

【対策として】

 ①コストダウン対応作戦も、トップが全社戦略として位置づけ指揮。

なによりトップが先頭になって、全社内がコストダウンを徹底させる意識と体制をつくる。

規模の経済による大量生産と標準化が基本だが、現在ではその余地が少なくなっている。そこで特に他部門間の横断的な連携による新たなコストダウン余地を見つけることを進めたい。

  また、お客様への価値提案としては、価格だけでないプラスアルファーのメリットをつける工夫を行う。一方でお客様の価値にかかわらない社内的な業務や機能面では、徹底的なコストダウンの工夫を進めるようにして、社内をより筋肉質の体質にしていく。

 

 ②短期的なコスト競争に陥るのではなく、長期的な顧客政策、競合対抗策を重視。

当面は競合他社を圧倒するシェアーを握ることを狙うのは大事でも、市場全体を大局的にとらえてコストダウン対応領域から次の移行による新しい市場の立ち上がりまで見通した長期的な作戦展開を組み立てるようにする。

 

 ③コスト交渉条件の基準明確化と統一的な司令塔の設置。

営業活動に対しては、営業部隊全体としてのコスト交渉の条件や基準を明確にしたうえ、個別企業との交渉を進めるようにする。あわせて価格交渉の指令塔を統一して、都度全社的なコストダウン対応力を見極める一方で、個別折衝での臨機応変で柔軟な対応が指揮できるようにする。

   特に、採算の載らない赤字の個別商談を出来るだけカットする一方で、大口取引先との価格交渉には十分配慮して条件を考え、当社にとってよりメリットの残る条件での成約ができるような具体的な指示を出し、実際に進められるようにする。

 

 ④価格訴求営業から、プラスアルファーの価値提案営業への徹底。

   また、営業担当者に対しても、価格競争力のある商品サービスだからこそ、価格を超えた提案活動をさせるようにしていく。

具体的なセールストークについても、「お安いですから、どうですか」ではなく、「○○という内容だから、価格以上に○○といった素晴らしいお客様満足をしていただけるものと思います。これだけの内容をこれだけのお値段で手に入るのは、今だけのチャンスと思います!」といった堅実で安心できる言い方を徹底させていくのである。

また価格が安くても価値が高いこと、また価格が安い意味をしっかり説明出来るようにする等、価格がメインの商品こそ、安易にならず細心の注意と配慮工夫をした営業するようにさせていく。

 

 ⑤リストラや大幅な人件費削減は一回限りにする一方で、

付加価値を高める戦略を同時進行。

   コストダウンがこれからのビジネスにおいて重要な要素であることは間違いない。その重要性を社内に浸透させ、日常的な効率性を追求させる政策は徹底させたい。その場合、精神論ではなくデータを基にした徹底した効率性の追求である。

営業で言えば、夜遅くの残業や休日出勤をできるだけ削減するとともに、時間当たりの付加価値生産性や顧客ごとの付加価値効率を高めるような施策を打つということだ。(「マトリックス営業戦略の基本作戦、コストダウン対応領域」を参照)

一方で、それだけでは企業は衰退する。そこでコストダウンとともに、新たなチャレンジやより付加価値を生み出す工夫を同時に進める。万一リストラや大幅な人件費削減が必要になっても、それは一回限りに抑え、次の飛躍へ向けた戦略を同時に立ち上げ、早急に進めていくことが求められている。

この同時ということが重要であり、ここでも『領域複合化戦略』が求められるだろう。企業が成長発展するのは、結局のところイノベーションしかなく、それは社員一人ひとりの創意工夫とチャレンジ精神が生み出すものだ。今後の日本企業においては、このコストダウンと新たな創造を同時に両立できる企業だけが、勝ち残ることができるだろう。

 

                                    以上



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このページは、CBC総研が2012年11月17日 13:01に書いたブログ記事です。

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