前回のK客(大型競合攻略客先)向けの戦略作戦に続き、今回はA客(「既存成熟親派取引客先」)の戦略作戦について解説したいと思います。
文章は、小生著書「社長、儲ける営業に変えましょう!」をベースに一部修正追加しました。みなさんの顧客層別戦略の立案と実行にお役に立てていただければ幸いです。
A客(既存成熟親派取引客先)の現状分析と作戦内容
(1)現状分析
(2)作戦内容
<事例:営業拠点を閉鎖して、業績アップを実現したS社の事例>
※A客とは
:過去には取引額が大きく、かつ親密な関係であったものの、現在では成長性が見込めない中、取引としては今まで通りの親密な関係を維持しているお客様のこと
A客(既存成熟親派取引客先)の現状分析と作戦内容
(1)現状分析
従来から親密な関係が築けているため、あ・うんの呼吸で取引を進めやすい。取引高も大きいため、専任担当営業マンを置いている場合も多いことだろう。
それだけに、日々の営業活動に緊張感が欠け、なあなあ営業になりやすい。現場では優良客と言う位置付けだけに、要求されたことを無下に断わるわけにいかず、言われるまま値引きに応じたり、倉庫整理や棚卸しなどの雑務の手伝いにかり出される、といったことも少なくない。
そんな主体性のない営業であっても、過去には取引高が大きく、伸びていく可能性があったため、十分採算にのっていた。しかし、その取引高が徐々に縮小しつつある現在、取引条件も厳しくなり、どんどん採算が悪化している。一件一件の採算を調べてみると、営業担当者の人件費も出ていないで赤字に陥っている、というケースもよく見受けられる。「一緒にやっていきましょう」が、「一緒に沈んでいきましょう」になってしまっているわけだ。
(2)作戦内容
①営業工数を2分の1に削減する目標を立てる。そのための抜本的な取引改善を進める
過去の取引関係に引きずられ、非効率で非合理的な営業対応を続けることは、もはや許される状況ではない。優良客という幻想を捨て、合理的な取引関係に抜本改革する。将来にわたって、自社の採算がとれメリットが出る関係にするのである。そのためには、まず抜本的に営業活動や業務の改善を進める。これは社長か営業トップ・拠点リーダーが明確な方針を出さなければならない。担当する営業メンバーにまかせるような話ではない。採算があわない取引になっているのは、営業担当者の責任ではないのだ。
まず営業担当者の仕事の中身を一つひとつ見直し、自社で行なう必要のない雑務はやめるか、やるならサービス料を徴集すると決める。やる場合には、営業マンではなくパート・アルバイトを活用したサービスサポート部隊が行なうようにするのである(例:店頭サポート、緊急納品サービス)。
納品や代金回収、現場サポート、見積り作成、図面作成等、営業活動に付帯する業務についても、営業以外の人間がやったほうが効率や質が上がると思われる場合は、できるだけ別のチームを編成し処理するようにする。
一方、営業担当者が関わるのは、提案と実務的な問題解決の場面に集中させ、営業の質と密度を徹底して高めていき、それ以外のあいまいな活動をなくす。
たとえば営業担当者の訪問計画を厳密に作成し、訪問工数を2分の1に削減する計画をつくる。また、それにあわせて訪問時の活動内容を見直し、徹底して余分なサービス業務や営業雑務或いは無駄なフォロー活動を減らすのである。
②顧客を指導してA客からS客へ移行させていく
顧客指導を進めることで、自社の営業フォローの工数を削減することを考えてみよう。販売した側が何でもかんでもサポートするのが当然という考え方から、より高い満足を得るためには顧客自身の本気の行動が必要だ、という考え方に切り替えさせる。これに成功すれば、A客からS客への移行も可能となるだろう。
自社の営業工数の削減や、業務処理効率の向上に具体的な成果が出た場合には、そのコストメリットの一部を顧客に還元することをはっきり伝える。それによって顧客の協力を勝ち取っていく。それが難しいなら、マージン率の見直しや、採算のあう分野のみの取引に絞り込むことも覚悟しておくことだ。
③抜本的に取引関係を改革するパートナーシップ対応の提案を行なう
こうした大きな業務改革を伴う取引の改革もまた、社長や営業トップ、拠点リーダーの役割である。A客のトップへ向けた、取引の枠組み全体を見直す提案を行ないたい。
現状のままの関係では、もはやお互いにメリットは少ないこと。今後の発展のためにはお互いが過去の関係を抜本的に見直し、合理的かつ効率的な取引関係を築いていくことが、今必要であること。それを訴えるのである。
「一緒に事業を進めていく仲間として、お客様満足をより高めていくために協力をお願いする」という姿勢で臨むことである。
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<事例:地方営業拠点を閉鎖して、業績アップを実現したS社の事例>
私のお手伝いした特殊精密機器部品メーカーS社の話をしよう。S社では、業績不振のためにこれまであった某地方拠点を閉鎖し、都心部の本社支店に営業活動を集約することにした。そこでこれまで長い間地方拠点で管轄し営業サポートしていた販売代理店にそのことのお願いに回ることにし、取引関係の抜本的な改革を提案したのである。これまで毎週2~3回もおこなっていた営業担当者による訪問をやめる代わりに、次のことを約束した。
1)本社支店の方で各販売代理店をサポートする営業マンとアシスタントの担当者を作り、そこで日々の受発注を受けるとともに、週単位での情報レポートを提供する。
2)キャンペーンはこれまで通り、定期的に実施するものの、その際支店メンバーがチームになって応援に行くことにする。
また、その際販売代理店向けのインセンティブのうち、直接S社のサポートがいらなかった分は、従来に上乗せするようにする。
3)確実に一カ月に一回は支店長およびマネージャー自らが各販売店を訪問してトップ面談による情報交換の場を設ける。
その際、明確な業績アップへ向けた作戦を立てて、一緒にエンドユーザー向けの活動を進めるようにする。
4)年2回定期的に、その地方の販売店トップを集めた交流会と勉強会をはじめる。
また営業担当者向け販売代理店での勉強会を年間計画でスケジュールを決めて行うようにする。そうした計画を期初に打ち合わせて、確実に実行できるようにする。
以上の約束を明確にして、支店長と元営業拠点長は各販売代理店のトップにお願いに回ったわけだが、その際の反応は、はっきり分かれたそうである。
業績の良い積極的に活動している代理販売店の社長は、今回の提案を次のように喜んでくれた。
「今まで、御社の営業マンがしょっちゅううちに来ていたけれど、あまり意味なかったよね。必要な時にすぐ来てくれればそれでいいんだよ。うちはうちで勝手に動く。地方のことはこっちの方がよほど知っているよ。
それより、我々が欲しいのは都心部の情報や全国の成功事例だ。今度本社支店と直接やり取りできるなら、そうした情報がすぐ入ることになるよね。それにおたくの本社支店と一緒になって、もっといろいろなことが出来るよね。そっちの方が、よほどありがたいし、期待出来るよ!」
一方、業績が低迷している代理販売店ほど、今回の決定に「メーカーの都合で、俺たちを見捨てるのか!」と反発したそうである。
では、その後どうなったか。
S社としては、営業拠点の集約化は大成功した。営業担当者を10名から3名に絞り込んだために、これまでのように広く薄く活動するパターンをやめ、具体的な物件ニーズの想定されるテーマを洗い出し、そのテーマに集中して本社の支援を受けながら代理販売店と一緒になって動くやり方を取ることになった。その結果、営業拠点があった時よりも、2割アップという大きな業績を上げることが出来たのである。
有力な販売代理店との関係はより強化されたが、業績不振の販売代理店とはその後も従来とほとんど変わらない関係が続いたそうである。
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私は多くの営業部隊の改革と開拓作戦の支援をしているが、このA客との取引関係を抜本的に見直せるかどうかが、作戦の成功、失敗を決めるリトマス試験紙になると思っている。なぜなら、A客とはベテラン営業幹部との長年にわたる親密な仲間関係が存在するからだ。その過去を断ち切って、未来志向になれるかどうかが、問われるからである。
S社のように、業績不振に陥ってはじめてその決断が出来る企業も少なからずあるよう思える。そして、ギリギリになってもその決断が出来ずに最悪事態を迎える企業もある。実際過去の栄光を背負った名門企業に限って、そうした例が多いようだ。それでは苦境から脱皮できるわけがない。
1社1社の取引について、過去の取引はともかく、実際の今の取引の採算がどうなっているのか。実際にかかっている移動時間も含めた営業工数も考慮して計算したい。(例えば、営業マン一人一日当たり5~10万円。営業リーダーは、10万~30万円程度。)また今後の取引発展の可能性もシビアーに評価したい。その上で採算が載っていないならば、これまでの情を断ち切って、取引関係の抜本改革が必要と覚悟すべきだろう。
以上
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