マトリックス営業の『顧客層別戦略』解説②:K客(大型競合攻略客先)作戦

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 前回のS客(最重点既存拡販客先)向けの戦略作戦に続き、今回はK客(「大型競合攻略客先」)の戦略作戦について解説したいと思います。

文章は、小生著書「社長、儲ける営業に変えましょう!」をベースに一部修正追加しました。みなさんの顧客層別戦略の立案と実行にお役に立てていただければ幸いです。


K客(大型競合攻略客先)の現状分析と作戦内容

(1)現状分析

(2)作戦内容

<事例:P社の都心拠点の黒字化、活性化のための抜本対策>


K客(大型競合攻略客先)の現状分析と作戦内容

  

※K客とは

:取引を伸ばせるポテンシャル(余地)は大きいものの、当社との関係は

希薄あるいは全く無い、今後新規に開拓を目指す大型競合客のこと。


(1)現状分析

 従来取引のほとんど無いK客との取引を広げられるなら、まちがいなく大幅な業績アップが実現する。だから本来、K客にはっきり狙いを定めて積極的に新規開拓を進めなければならないが、実際にはあまり出来ていない企業が多い。

 というのも、K客は競合会社ががっちりつかんでいて、新規に入り込みにくいと思われているからだ。そもそもK客は優良顧客(企業)であり比較的規模も大きく、要求される内容も高いため、一般営業担当者レベルでは開拓はむずかしい。そのため営業マンが尻ごみしてしまい、アプローチさえされていない場合が多い。

 また、やる気のある営業担当者が果敢にアプローチし、運よく取引関係をつくったとしても、スポットの単品単発販売(ハイスピード対応)で終わってしまい、なかなか関係を深めていけないケースも見受けられる。一人営業の限界だ。

 しかし避けてはいけない。K客はS客とはコインの裏表の関係にあり、顧客が新しいことを積極的に求めている場合が多いため、むしろ新規開拓の可能性は高いのである。K客を開拓し取引を広げていく営業力をつけることは、今後の自社の成長発展の絶対条件となるだろう。


(2)作戦内容

①K客攻略のための全社的な新規開拓作戦とその推進体制をつくる

 ・競合他社に優る独自の商品を持つ場合は、新規取引の開始は比較的たやすい。

  問題はその取引を継続させ、本格的な関係づくりができるかどうかである。だか  ら単発商談に終わらせない、中期的展望をもった新規開拓作戦が必要になる。

・まずターゲットとなるK客を営業担当個人ではなく、営業部隊全体として洗い出すことだ。その上で、その開拓作戦の総責任者を決める。全体の作戦統率者である。

 ・具体的な開拓作戦としては、S客への大型企画提案の開拓作戦とほぼ同様のテーマ、体制をとればよい。S客での成功事例を横展開し、K客攻略に活用するのだ。ただし、新規客であるから、商談プロセスでは、きちんとした事前準備とファーストアプローチからはじまるステップを踏むことになる。

・個別のお客様(企業)での事情は大きく異なり、その事情に沿った戦略が求められるので、事前の情報収集と分析、それとプロセスに沿った障害予測と対策は念入りにやっておきたい。

基本的ななステップと体制は、マトリックス営業の新規開拓の商談プロセスモデルをあてはめれば、よく見えてくるだろう。


②ハイスピード対応の段階:狙いを定めたK客に、鮮明な切り口の提案を行ない、相手の関心を引く。そこから顧客情報を聞き出し、見極める

                       〔一般営業担当者の仕事〕

 ・ターゲットとなるK客に対して、担当となる営業マンがファーストアプローチを掛ける。この場合、大型見込み客であるから、一人ではなく二人ひと組のペアで動いてもいいだろう。その場合二人の役割分担をはっきり決めておくことだ。上司と部下であれば、お膳立ては営業担当、その上で大きな話は上司といったことになるだろう。あるいは、一般営業と専門担当といった役回りでもいい。しゃべり役と聞き役という分け方もありだ。

 ・何より次回には、相手の上位者と面談し、具体的な商談に入るまでの段取りが組めるようにすることだ。この為の仕掛けとして、サンプルやデモ、提案展示会といった仕掛けも必要になる。クロージングでの宿題をはっきり決めて、最後にそこにもっていくのである。

 

③パートナーシップ対応の段階:トップ商談をしかけ、自社との本格的な関係づくりを決断させる〔トップ営業の仕事〕

 ・K客攻略で何より重要なのは、相手先のトップキーマンとの関係を作り、新し い取引関係を作れるようにすることだ。個別の商談以上に、ここに最大のエネルギーを掛けなければならない。

・そのため、トップキーマンの事前情報を収集するとともに、競合他社の弱みを事前に捉えておくこと。その上で、今すぐのメリットともに、これからの企業発展へ向けたお役立ち内容をしっかりストーリー化しておくこと。当社に対して、未来へむかっての期待を大きく抱いてもらうことが必須条件だ。

・トップ商談は、もちろん当方でもトップ営業が前面に出て行う。トップとトップの信頼関係をつくるのだ。この為の社内のチームプレーが何より重要になるだろう。

 

④エンジニア対応の段階:実務テーマに踏み込み、具体的な実績成果を挙げ、強固な信頼関係を築く〔専門技術営業の仕事〕

・一方、はじめての取引だけに、実務での失敗は許されない。トップとの関係が出来たなら、顧客の現場に深く入り込み、問題の本質をとらえた解決策を提案して実際に成果を上げることに全力を挙げることだ。最初の話はうまかったが、やらせてみたらメロメロで、全くダメだった、などという話もK客からは時に聞くことがある。それでは、うまくいくわけがない。何より自社独自の専門性を発揮して、さすがと言わせるだけの実績を上げる。そのためには、営業としては社内外の専門部隊との緻密な連携が重要だろう。

 

⑤コストダウン対応の段階:継続化できたら、日常の受注は受注サービス部隊に任せる

相手の専門性が高く、玄人的な対応を強く求められているなら、パートナーシップ対応をあとまわしにして、エンジニア対応の提案を先行して行なってもよい。実績が出てひととおりの信頼関係が生まれたあとで、トップ商談をしかけるという手順になる。

 逆に現場をかっちり競合におさえられているなら、はじめからトップダウンの大型企画提案を狙うべきだろう。

・そして最後にそうした実績が出来たなら、まずは徹底したコストダウンを図り、他社が入り込めないようにすること。とくに日常的な受発注に対しては、スムーズに的確に対応するとともに、日常的な心遣いのサービスを付加するべきだろう。例えば納期を最優先にして対応したり、デリバリの工夫といったことも含まれる。問い合わせへの迅速的確な対応も重要だ。さらには、取引条件として、累積取引によるインセンティブの付与等の工夫も必要だろう。

そうなると一営業担当者の活動ではなく、会社としての体制と政策が求められることになる。そこまでの対応方法をしっかり設計したうえで、このK客向けの新規開拓を進めたい。

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<事例:P社の都心拠点の黒字化、活性化のための抜本対策>

 

私のお手伝いした事例を紹介しよう。P社は地方の特殊ファッション小売店向け卸商社である。そのビジネスモデルの特徴は、単に商品を小売店に卸すだけではなく、トータルで販売の支援を行い業績アップまで図ることのできる現場コンサルティング力にあった。そこで地元の取引先小売チェーンが都心部に進出するにあわせてP社も都心部に拠点を設けることにし、コンサルティング能力のある若手担当者を営業所長に抜擢したのである。地方の中小企業であるP社にとっては大きな決断であった。

ところが数年たっても、なかなかその営業拠点が赤字体質から脱皮できないのである。大手取引先はいくつか増えたものの、肝心のコンサルティング支援まではいかず、単品的な商品卸で終わっていたからだ。営業所長は現場のコンサルティング支援(エンジニアリング対応)は得意でも、都心部の有力チェーンのトップを説得(パートナーシップ対応)して新たに現場支援をはじめるまでは出来なかったのである。

そこでP社では、(CBC総研が入って)あらためて拠点の業績を上げるために、取引先との関係を一気に拡大できるための作戦を検討することにした。

何より大事なことは、たとえ優秀であっても営業所長だけにまかせておいては、今の苦境を脱出出来ないことである。そこで本社の常務と営業統括部長も入って、今取引している有力小売店チェーンに、トップ商談を仕掛けることにした。

 

その手順は次の通りである。

1)見込み有力顧客のリストアップと再度情報収集分析。

  ・トップキーマン分析

  ・小売店頭状況と課題の整理。→提案出来るテーマと内容の練り上げ


2)先方トップに対する企画提案書の作成。それとお土産づくり

(具体的には地元名産の高級お土産)


3)営業所長による、先方トップに対するアポ取り

  「当社の常務と統括部長が、あらためて御社のトップにお話ししたいことがあり、そうした機会を設けていただきたいのですが・・。」

                         【ハイスピード対応】

4)常務、営業統括部長、営業所長によるトップ面談にて企画提案。ひたすらお願い。

  「当社にも、是非チャンスを下さい!ついてはテストマーケティングとして、御社の○○店をモデルに、当社の販売コンサルティングサポートをさせてください。」           【パートナーシップ対応】

5)先方トップの了承を頂いた上、営業所長を中心とした店舗での販売コンサルティングサポート支援(事前に小売店店頭企画を計画し、その実行を支援)。

                   【エンジニアリング対応】

6)そこで実績を出して、取扱商品の拡大と他店への横展開へ・・。

             【ハイスピード対応】【コストダウン対応】

 

 何よりこの作戦の良いところは、コストがあまりかからないこと。またもしうまくいかなくとも、マイナスがほとんど考えられず、プラスしかない。

もちろんこれまでトップへのご挨拶は時にはしていたが、それで終わっていた。営業拠点は自分達だけで、自力で業績責任を負うべしといった体質がP社にはあった。今回はそうした考えを改め、はっきり営業全体でのチームプレーで大型企画提案をしかけることにしたのである。

10社ほどを見込み客としてリストアップし、順次トップ商談を仕掛けた。その結果実際にその場ですぐ企画に乗って頂いたのは、二社のみであったが、いずれの企業トップの反応も良く、今後機会を見て、現場の販売コンサルティング支援を進めていただけることになった。こうして従来とは都心拠点の動きが大きく変わっていくことになったのである。

業績も最悪期を脱して、黒字化を果たすことが出来た。

 

                                                                  以上

CBC総研のホームページ  


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このページは、CBC総研が2012年9月21日 14:49に書いたブログ記事です。

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