『新興中間層(マステージ)を狙え』記事コメント、鮮明な差別化とブランド政策を

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今回は、日経ビジネス2012年9月3日号の「新興中間層(マステージ)を狙え」というタイトルの特集について解説したいと思います。

そこでは、日本企業の海外市場展開として、貧困層(マス)でも富裕層(プレステージ)でもなく、その間に位置する消費者(マステージ)をメインターゲットすべきとして、いくつかの日本企業の事例が載っています。

以前私のブログでも海外市場で中間層を狙う日本企業の課題を述べましたが、まさにその課題に答える特集だと思います。その中に掲載されている事例について、ここではいくつか気がついた点を挙げて解説しましょう。

      (参考:小生ブログ「海外展開に求められる日本企業のあり方」等)

 

―資生堂のマステージ向け新商品展開―

―東風日産の小型セダンの販売―

―ワコールが、空白の中間価格帯商品を投入―

―大戸屋による日本食飲食店のチェーン展開―

 ―コストダウンや技術応用を超えた、差別化とブランド政策が大事!

「すり合わせノウハウ」によるダントツな「顧客(満足)対応力」の実現を


―資生堂のマステージ向け新商品展開―

はじめは資生堂のケースです。資生堂のマステージ向け商品は「Za(ジ―エ―)」。マステージ商品は、プレステージ商品とは違い「顧客に商品を取ってもらうまでが勝負」として、タイの人気女優を使って、テレビや雑誌広告で大々的に宣伝し、ドラッグストアやスーパーマーケットで販売しています。但し、「SHISEIDO」のロゴは表記せず、従来のプレステージ向けとははっきり区分けしているそうです。

それ以外の戦略的な特徴をあげるならば、次の通りです。

1)販売価格を10ドル(約800円)前後に抑えた。

2)ベトナムと香港の工場で生産。

3)デザインは、店頭で目立つ色だが簡素化したもの。

4)既存の機能成分や技術を積極的に応用した。

(販売価格を考慮して、機能や品質をそぎ落とす『割り切り』が大事とのこと)

 

私の感想を言うなら、・・

このマステージを攻めるための基本的な対策はしっかりなされていることがわかるのですが、少々気にかかる点もあります。それは、この中間層を狙う競合他社との差別化をどこに置くかという点です。

多分最強のライバルは、欧米の巨大ブランド企業となることでしょう。世界展開において圧倒的なブランド政策に長けた彼らに対抗するためには、製品品質の違い以上に、彼らと全く違う差別化された魅力をどう作り上げていくのか、という点が最も大事なポイントになるよう思います。

 その点に言及した内容が今回の記事にはなく、とても気になるのです。確かに化粧品は人種や文化的な要素が特に大きく影響するジャンルですから、同じアジア人としてきめ細かく肌の違いや美意識に対応した、「品質」による差別化もありうるかもしれません。それを絶対的な強みにまで発揮させるためには、もう一歩「製品」を超えた何かが必要になるよう思えるです。そこにどんなやり方があるのか。今後も資生堂のマステージ攻略の戦略には強い関心を持っていきたいと思います。

 

―東風日産の小型セダンの販売―

二番目の事例は、東風日産です。「ヴェヌーシア」ブランドで今年4月小型セダン「D50〉を発売し、好調に販売台数を伸ばしているそうです。戦略の特徴としては

1)これまでの小型セダンの価格10万~12万元(約156万円)を6万7800元(約88万円)という、内陸部の大衆層でも手の届く水準に設定。

(平均年収より若干安い程度の値段)

2)中国企業他社の「安かろう、悪かろう」を払拭。車体やエンジンは東風日産を流用。部品の現地調達率も大幅上昇させ、現地内陸部工場で混流生産。労働賃金安く、輸送コストも低減。

3)全国で100専売店をオープン。既存日産販売店でバックオフィスや修理施設を共用。

4)素人向け高度な最新機種のブレーキシステムを採用。

5)後部座席を広く(見た目のゴージャスなイメージ)

 

ここまでが記事の内容です。競合他社は今のところ現地の激安メーカーです。この為品

質やメンテナンスフォローの優位性をはっきり打ち出しながら、他方で徹底したコストダウンを図っていることがわかります。但し、消費者の所得と要求がこれからも徐々に高まっていくことを考えると、今後は現地メーカーではなく、資生堂の場合と同様、日産と同じ日米欧の先進メーカーとの戦いになっていくことは間違いないでしょう。その時、何で勝つのか。

先手必勝によるブランド浸透と販売店網の整備は大事ですが、それ以上に現地ユーザー

のニーズにきめ細かく対応出来た車づくりやサービス提供が成功の条件となるでしょう。但し、ここでも決定的な差別化は何なのか、気になるところです。

 

―ワコールが、空白の中間価格帯商品を投入―

3番目の事例はワコール。これまでのワコールは高級品市場ではシェアーが5番手程度でスイスのトリンプ・インターナショナル等の後塵に拝していたそうです。そこで今年6月に投入したのが中国専用ブランド「ラ・ロッサベル」。戦略的に価格帯を、これまで空白であった上300元、下100元の中間にあたる99~150元(約1300~2000円)に設定したそうです。狙う客層は1980年~90年代生まれの今後消費の主流をなす層とのこと。

戦略の特徴は

1)中国女性の体形データ4000件以上を活用 

2)従来品に使っている高度技術を投入。但し、最新技術は使わず。

3)インドの協力工場で生産。輸送もグループでまとめて効率化

4)華やかな色やサイズを豊富に品揃え 

5)店舗内に試着室設置 

6)中国全土への波及効果を狙った、北京でモデル店舗づくり 

7)ワコールのロゴは表記せず

 

ここでは中間の空白価格帯にいち早く参入したという点が大きいでしょう。但し、ここでも今後欧米の高級メーカーが資本力とブランド力をもって、圧倒的なパワーで参入してくる可能性が高く、そうした巨大メーカーに対抗する差別化した製品開発や販売売り場体制作りが、これからの大きな課題となるはずです。中国人体型にあった商品づくりも模倣はしやすく、それだけでは決定的な差別化にはならないよう思います。これから、ワコールのブランドコンセプトはなんなのか、その真の強さが試されるということでしょう。

 

―大戸屋による日本食飲食店のチェーン展開―

最後の事例は、飲食チェーンの大戸屋。日本食を台湾、インドネシアに出店し、現在8年目で67店舗。日本の高度なチェーンオペレーションを駆使するなら、海外でもマステージの手の出せる価格で提供できると思ったそうです。

日本食の味を決める「素材」「発酵調味料」「調理技術」のうち、

1)技術は、独自な調理設備の開発で誰でもすぐ料理出来るようにし、

2)発酵調味料は国内で独自開発したものを海外店舗に輸出。

3)素材も例えば、とんかつなどは日本の養豚技術の入ったタイ業者より調達。

パン粉は日本より独自開発品を輸入。

4)また素材全般はスケールメリットで調達。

5)その結果、単価は800円に設定。

これまでの高級日本食より安く設定したとのことです。

 

日本食が海外で人気があるもののその経営者の多くは外国人とのことで、是非大戸屋さんには頑張って頂きたいと期待するところです。

但し、一番気になるのは価格帯であり、食事という日常的な場面でマステージを狙うとなれば、もう一歩の価格ダウンが必要に感じるのですが。

料理を標準化すればするほど、たとえ店舗での調理でも、その品質には限界が出るはずで高級店路線は難しいでしょう。他方で、現地価格800円では、日本の牛丼や大戸屋ほどの大衆化には今のところ程遠く、そうなると出店の余地も限られるという課題があるよう思います。今のところは、大都市での比較的裕福な人達が集まっているところで、準高級な割には、価格は比較的リーズナブルで、日本食というちょっとぜいたくな食事をしたいというニーズにあった店という位置付けではないでしょうか。それでも中国市場は広いですから、日本に比べたら、出店余地はかなり大きいということかもしれません。

今後の動向が、やはり気になるところです。

 

―コストダウンや技術応用を超えた、差別化とブランド政策が大事!

「すり合わせノウハウ」によるダントツな「顧客(満足)対応力」

                          の実現を―

 

以上4つの事例を見て来ましたが、海外市場においてマステージ(中間層)を狙うというのは、上の巨大欧米ブランド企業と、下の現地企業にはさまれた日本企業の環境状況を考えるならば、まさに必然的に選択せざるおれない戦略と思います。

 共通政策としては、次の通り。

  ①はっきりマステ―ジ層を狙うことに徹底し、従来とはっきり違う(ワンランク下の)価格帯を打ち出す。

②品質水準のレベルを決めたら、あとは生産コストをぎりぎりまで切り詰める。生産工場、使う部品・材料、流通コスト等・・

  ③一方で、自社の既存商売で使われている独自技術や素材などを応用して、特徴をつける。(但し、最新の高級市場向けのものはつかわない。)

④ロゴや名前・ブランドは、今までのものとははっきり違うものを使う。

⑤流行等は取り入れ、見栄えはしっかりつくる。

  ⑥展開場所は、今後普及させていきやすいところやエリア、販路を選定する。

こうして見ると、現在の段階で競合企業としてぶつかるのは、現地の安売り企業が大半であるよう思います。しかし、その次の段階では、巨大ブランド企業となるのは、まず間違いないでしょう。

そう考えるならば、そこには徹底したコストダウンや標準化と共に、海外の巨大競合他社をはっきり意識して、どこに差別化を図っていくのか、またその差別化を意識したどんな鮮明なブランド政策を取っていくのかという点が何より大事になるようあらためて思いました。

※注:

 

その差別化は以前のブログでも何度か述べましたが、製品や技術の強みだけでなく、現場のきめ細やかな「すり合わせノウハウ」によるダントツな「顧客(満足)対応力」にあるよう思います。

事例では、東風日産の「メンテナンスフォロー」や大戸屋の「日本の高度なチェーンオペレーション」が挙げられていますが、それをどれだけ消費者から見て、絶対的な魅力を感じられるだけのものに磨き上げられるのか、そのことが効率化以上に大事ではないでしょうか。

アナログとデジタル、コストダウン対応、ハイスピード対応とパートナーシップ対応、エンジニア対応の融合です。

 

※注:ブランド政策で言うなら、日本企業は得てして製品機能にこだわることで、ブランドコンセプトを鮮明に打ち出すことが苦手だったように思います。例外は過去のソニーくらいでしょうか。そのソニーもブランドの凋落に苦しんでいます。これからの日本企業はこのブランドコンセプトを日本的な文化を背景に今一度鮮明に打ち出すことを真剣に進めるべきでしょう。そのコンセプトの核となる差別化は、繰り返しになりますが、上記で述べているように『現場のきめ細やかな「すり合わせノウハウ」によるダントツな「顧客(満足)対応力」』にあると思います。

それを表す強力なキーワードが欲しいですね。「クールジャパン」以外に・・。「おもてなし」でもいいかな?

 

                                                                       以上

 CBC総研のホームページ



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このページは、CBC総研が2012年9月10日 12:29に書いたブログ記事です。

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