マトリックス営業の『顧客層別戦略』解説①:PPM理論とS客(最重点既存客先)作戦

| コメント(0) | トラックバック(0)

 マトリックス営業戦略を顧客層別の戦略に応用する方法について解説したいと思います。

「マトリックス営業戦略」については、私のブログにて基本的な考え方は確認していただければと思います。「顧客層別戦略」も私の造語ですが、顧客のポテンシャル(取引の拡大可能性)と自社との親派関係で顧客を4つに層別し、その違いを考慮した戦略を組み立てるやり方です。

著名な事業理論であるPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)理論に使われている製品群を区分けする視点を、顧客層の区分けにあてはめました。

従来にも、このような視点で顧客層を区分けする発想はあったのですが、区分けされた顧客層毎にどのような戦略を組みたてればよいか、という一番大事な戦略の中身のところが曖昧になっていた場合が多かったようです。そこでここでは、「マトリックス営業戦略」の個別戦略をあてはめることで、各論での戦略作戦を組み立てました。実は実際にコンサルティング支援させていただいた企業様の事業戦略のいくつかの実例をもとに整理したものです。

文章は、小生著書「社長、儲ける営業に変えましょう!」をベースに一部修正追加しました。みなさんの顧客層別戦略の立案と実行にお役に立てていただければ幸いです。

 

―画期的な「PPM理論」―

―PPM理論を応用して顧客層をセグメントする―

S客(最重点既存拡販客先)の現状分析と作戦内容

(1)現状分析

(2)作戦内容

 

 [PPM理論とS客(最重点既存拡販客先)戦略作戦]


―画期的な「PPM理論」―

 ・・長期計画の・・経営戦略の理論にPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)がある。アメリカのボストンコンサルティンググループが、GE(ゼネラル・エレクトリック社)の経営戦略を立てる際に、数多くの製品分野の方向性を決めるために編み出した理論と言われている。長期的な時間軸をもって戦略を立てる場合に大いに役立つし、次に説明する顧客戦略にも応用できるので、ここで簡単に説明しておこう。

 「PPM理論」では、縦軸に「市場の成長性」をとり、横軸に「自社の強み、弱み」をとる。するとそこに、4つの象限があらわれる(図表5-1 参照)。

 

「花形」分野

 市場の成長性があり、かつ自社の強みを発揮している分野だ。だから「花形」と呼ぶが、じつは見かけほどは儲からない場合が多い。

 なぜなら、今後の成長に向けてどんどん先行投資しなければならないのと、競合との競争が厳しく常に価格競争にさらされやすいからだ。

「金のなる木」分野

 市場は成熟化しているものの、自社が強いポジションを築いている分野だ。「花形」ほど目立たない分野ではあるものの、実際には最も儲かる。なぜなら、もはや先行投資がさほどいらないし、各企業のポジションが確立して競争関係も厳しくないため、十分利益のとれる価格で事業ができるからだ。

「負け犬」分野

 市場の成長性がなく自社の強みも発揮できない分野。うっかりすると市場の衰退の影響を大きく受けてしまい、大幅な赤字状態に陥る恐れもある。

「問題児」分野

 市場の成長性は見込めるものの、後発参入などのため、自社の強みを築ききれていない分野である。この分野も利益がとれず、赤字状態となる。

 このように見るなら、誰でも「金のなる木」分野を選択したくなるだろう。しかし、じつはそれは危険なのだ。なぜなら、現在の「金のなる木」分野は市場の成長はもはや見込めず、あとは衰退の道しか残されていないからだ。近い将来、「負け犬」分野に転落していく可能性が大きい。

 この理論のポイントは、4つの象限は、「問題児」→「花形」→「金のなる木」→「負け犬」という事業の展開にあわせ、儲けるお金の動き(キャッシュフローの変化)を同時にあらわしていることである。だから結論として、「負け犬」分野は早急に撤退を決断し、それ以外の3つの分野に資源をバランスよく配分すべきということになる。さらに言うなら、「金のなる木」に安住せず、そこで儲けたお金は、しっかり次の発展の芽となる「問題児」に投資しろ、ということだ。

 既存分野の現在の収益性の高さだけで事業の優先順位をつけてはいけないことを、理論的に指摘したという点で、画期的である。縮小市場を前提とした現在のビジネス環境においては、ますます重要度を増す理論と言えるだろう。


image26.PPMzu.gif

 このPPMの理論を製品分野ではなく、顧客層の区分にあてはめると、営業の顧客戦略に応用することができる。その手法を次に説明したい。


―PPM理論を応用して顧客層をセグメントする―

 業績アップを実現するためには、何はともあれ、計画を具体的な作戦まで落とし込むことが必要だ。営業マンであれば、一件一件の顧客における対策になるが、社長や営業リーダーは、顧客層を一定の特性でセグメントして、セグメントごとの全体作戦を立てることになる。

 ここではPPM理論を応用した顧客層のセグメントのしかたと、そこでの作戦について説明しよう(図表18参照)。・・4つの領域にあわせたテーマ別の作戦パターン・・を顧客層別に展開させるのだ。

 PPM理論では、縦軸は「市場の成長性」であったが、ここでは「顧客との取引拡大可能性」をとる。顧客がこれから成長発展の可能性が高く、自社との取引が拡大していく余地が大きいか。逆に、もはや取引拡大の余地はなく縮小しか考えられないのか、の区分けである。このとき、取引の絶対金額の大きさではなく、伸ばせる金額の絶対額を見る。

 一方、横軸は、PPMでは「自社の強さ・弱さ」であったが、ここでは「顧客との関係の深さ(インストアシェア=占有率)」をとる。自社と関係が深く、競合他社と比べても高い占有率を持っている顧客なのか。あるいは自社との関係が薄く、競合他社と深い関係を持つ顧客なのか、の区分である。簡単に言えば、当社の顧客か、競合他社の顧客か、ということだ。

 そこで区分けした4つの顧客層のランク付けを行ない、営業の資源配分の優先順位をつけるとともに、それぞれの層に対する作戦を立てる。

S客...当社との関係が深く、かつ今後の取引拡大可能性の高い顧客層で、最重点の優良顧客である。「最重点既存拡販客先」として「S客」とする。

K客...当社との関係は薄い(ない)ものの、今後大きな成長発展が見込める顧客層である。新規開拓の重点先となる。「大型競合攻略客先」として「K客」とする。

A客...当社との関係は深く、取引高も高いものの、今後の成長発展はあまり見込めない成熟した顧客層である。「既存成熟親派取引客先」として、「A客」とする。

B~D客...当社との関係も深くなく、今後の取引の拡大余地もあまり見込めないだろう顧客層である。件数は多く、その中の重要度でさらにランク分けする必要がある。「小型取引客先」として、「B~D客」とする。

 PPM理論では、象限ごとのキャッシュの配分のバランスをとることを重要視したが、顧客層別戦略では、営業工数の配分だけでなく、作戦内容の違いまで踏み込んで整理することが大切になる。実際このように区分けすると、作戦も立てやすくなる。

 次項からは、各顧客層ごとの営業の現状と、とるべき作戦内容について説明しよう。

image26.kokyakusoubetusenryaku.gif


S客(最重点既存拡販客先)の現状分析と作戦内容

(1)現状分析

 S客は、今後の成長発展が見込まれ、取引高を拡大させていける可能性の高い最優良客だ。だから営業活動では、最も重点を置かなければならない客である。

 しかし問題もある。第一に、勢いのある相手だけに取引のイニシアチブを握られやすく、取引金額は大きくても粗利益率やトータルな利益率が低くなってしまう場合が多いこと。

 また、もう1つの問題は、競合他社に狙われやすく、ちょっとした隙を見せればすぐに参入されて、インストアシェアなどを奪われてしまう危険が高いことである。

 S客には合理的な判断のもとで行動する企業が多い。これまでの継続的な取引による信頼関係は評価してくれるものの、たとえば価格面など自社の弱い部分があれば、スポット対応などで他社から補うという行動をしてくる可能性は高い。また、顧客の成長発展に自社の供給面、サービス面が追いつかず、振り落とされるという最悪事態も起こりうる。

 ところがこうしたS客に対し、意外にも現状ではフォローは営業担当者に任せ切りにして、営業トップもせいぜい表敬訪問程度で終わっている場合も多い。

 顧客の一方的な要求に、まるで下請企業のような立場で、お追従営業に陥っていることもよく見受けられる。このような場合、自社としては一生懸命対応しているつもりでも、顧客からは大きな不満を持たれているものだ。

 あるいは、これまでの取引関係でトップ人脈は築けていても、現場や実務リーダークラスとの関係が事務的なものになっているケースもある。そこから競合に参入されることもよく見受けられる。

(2)作戦内容

①「3層営業体制」による競合参入の阻止と「顧客深耕拡大作戦」の推進

 まず第一に、トップ営業・中堅リーダー(所長・マネージャー)、営業担当者という3階層の営業体制をつくり、全方位で万全の守りを固めて競合の参入を阻止することだ。顧客別のチームによる責任をはっきりさせ、チーム内での情報交換を常に密にして、顧客の状況や情報に、全社的な形で対応できるようにする。顧客に対しても、そうした会社全体の体制としてバックアップしていることを示していくのである。

 一方、営業担当者には、第2章で述べた「顧客深耕拡大作戦」を実行させていく(エンジニア対応)ことだ。

②大型企画提案の新規開拓作戦づくり

 同時に、相手のトップに向け、現在の取引関係だけではなく、将来へ向けての大型企画提案を定期的にしかけていく。これはパートナーシップ対応の営業である。営業トップが先頭に立って、新規大型企画提案の開拓作戦をつくり、ステップとスケジュールを組んで推進していくのだ。

③効率的なバックアップ体制づくりと特別なサービスの提供

 また、日々の受発注・問い合わせ等の営業業務対応や、メンテナンスサポート等のサービス対応については、営業とは別の体制を組み、合理的かつ効率的でサービスの質を高めた対応ができるようにする。その体制の中で、S客には上得意客として、特別なサービスを提供する。たとえば、顧客にあわせた商品情報やサンプル提供、上得意先向けのみの特別企画販売の推奨、詳細な取引先実績データの提供と分析結果の報告等々。こうした日常的なサービス体制が、S客とのより親密な関係づくりに大いに役立つはずである。

④S客層向けの全社的な役割分担の明確化

 以上の作戦をトータルに進めるためには、全社的な役割分担もあわせて明確にし、お互いのコミュニケーションと連係プレーの方法を整備することが必要だ。

「マトリックス営業 4つの領域」のモデルにあてはめれば、次のような役割分担が考えられるだろう。

トップ上位者...パートナーシップ対応(トップ人脈づくりとトップ商談をしかけるトップ営業の主役)

中堅営業リーダー...エンジニア対応(実務問題解決営業、あるいはS客向けトータルコーディネーター役として一部パートナーシップ対応の役割も入る)

営業担当者...ハイスピード対応あるいはエンジニア対応(単品単発の日々の提案と現場情報収集。ただし効率を上げるため、日々の受注は受注サービス部隊で処理させる)

受注サービス部隊...コストダウン対応(日々の受注、問い合わせ、技術サポート等々)

 次回は続けてK客「大型競合攻略客先」、A客「既存成熟親派取引客先」、B~D客「小型取引客先」に対する戦略作戦を解説したいと思います。

                                    

                                    以上

  

CBC総研のホームページ                     






トラックバック(0)

トラックバックURL: http://cbc-souken.co.jp/blog/mt-tb.cgi/44

コメントする

このブログ記事について

このページは、CBC総研が2012年8月31日 13:53に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「マトリックス営業戦略バリエーション⑥「領域複合化(包括化)戦略」の解説」です。

次のブログ記事は「 『新興中間層(マステージ)を狙え』記事コメント、鮮明な差別化とブランド政策を」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

ウェブページ

  • image
Powered by Movable Type 4.261