マトリックス営業戦略バリエーション⑤「領域最適化戦略」の解説

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はじめに

マトリックス営業戦略の「4つの領域」をベースにした戦略バリエーションの解説です。

5つのバリエーションがありますが、ここでは4番目の「領域最適化戦略」を解説したいと思います。

この文章だけでも十分趣旨は伝わるとは思いますが、内容をより正確にご理解していただくため、できれば小生のブログ等で『マトリックス営業戦略「4つの領域」の解説』を事前にご確認の上、読んでいただければと思います。

 

(4)『領域最適化戦略』

―「領域最適化戦略」の活用に当たって―

対象商品・サービスの区分け」と「対応領域」 

―百貨店業界での「領域最適化戦略」の活用―

―売り場は、お客様満足を提案し提供する、ビジネスの最前線―

※参考:小生著書「絶対に勝つマトリックス営業」

                     の文章一部修正より>

―生産財商社M社の「領域最適化戦略」の事例―

―M社のこれからの展開―

 

  

(4)『領域最適化戦略』

 

多くの企業は、様々な商材を抱え多くのお客様を対象に事業を行っている。そこでそれぞれの商材とお客様のマッチィングに焦点を当て、その特性の違いによって「4つの領域」にセグメント分けして、それぞれの領域にあった作戦や対応方法をメリハリよく組み立てる戦略である。

例えば、

消耗品のリピート販売『コストダウン対応領域』

                       (合理的な業務窓口対応)、

●新製品の一斉販売は  『ハイスピード対応領域』

                  (一気呵成のハイスピード営業作戦)、

●大型顧客の新規開拓(或いは大型企画提案)

     パートナーシップ対応領域』(大型商談プロジェクト体制)、

●専門的な技術対応が付随する商品サービス

  『エンジニア対応領域』

       (専門対応体制と技術連携プレー)

 

総合的な品揃えを志向している日本の販売会社などがこの「領域最適化戦略」を基本戦略として徹底できるなら、現在の組織営業力を飛躍的に高めることが出来るだろう。

 

―「領域最適化戦略」の活用に当たって―

 

実際、さまざまな企業の営業部隊をコンサルティングしていると、扱う製品や提案テーマに対して、対象としている領域とずれた営業活動をしているために、うまくいっていないケースは数多く見受ける。

「ハイスピード対応」で売っていくべき新商品なのに営業個人のオーダーメードなやり方に依存しているため、スピーディーに売れていないとか、逆に大型企画提案の「パートナーシップ対応」の営業活動であるにもかかわらず、相手先のトップとの商談を後回しにして最後に失注する、といったことである。

その多くの場合、会社としては数値管理ばかりが先行しており、営業活動の中身に踏み込むことなく営業個人任せになっており、組織的な営業がほとんど出来ていない。すべての商材に対して、ほぼワンパターンな売り方になっている。これでは到底効率的効果的な営業は実現できないだろう。

自社の主な商品とお客様を今一度すべて洗い出し、マトリックスで区分けした上、一つ一つの区分けされた分野に対して、求められる営業活動が4つのどの領域に当てはまるのか、営業部隊として整理してみることだ。そこで、あらためて4つの領域のモデルを参考に、それぞれの分野にあった戦略や組織、活動方法を組み立て直すのである。出来れば営業リーダーがまとめ役になり、営業メンバー全員を巻き込んだ形で進めていきたい。そうなればその後のチームプレーがスムーズに進めやすくなるし、各人の実践活動にもメリハリがつけやすく有効だ。

実際私の営業コンサルティングでも、そうした戦略から組織、作戦、活動方法までを営業メンバーみんなで一緒に検討することが多いが、そのことで営業メンバーどおしでの戦略的な共通の見方と価値観が生まれ、営業部隊が大きく変わっていく場合が多いのだ。

 

 例:

    対象商品・サービスの区分け            対応領域 

◎日常的な消耗品や継続的な単品リピート品対応⇒コストダウン対応領域    (営業の後方部隊での対応)


◎単品的な新製品の発売時での営業方法    ⇒ハイスピード対応領域

  (件数管理によるスピーディで漏れの無い提案活動の実施、とスピード重視)


◎大型設備機器の新規提案、あるいは

     年数回のトップどおしでの大きな展望をもった商談

                     パートナーシップ対応領域

  (一件毎プロジェクトとして、パートナーシップリーダーを中心とした

                           チームプレーを推進) 

 ◎既存客への新規取引案件の拡大のための提案活動⇒エンジニア対応領域

   (事前の詳細情報収集の上、専門担当との緊密な連携プレーでの確実な推進) 

 

―百貨店業界での「領域最適化戦略」の活用―

 

 この「領域最適化戦略」を活用して、大きな成果が見込める典型的な業界の一つとして百貨店業界があげられるだろう。百貨店においては、名称通り様々な商品を扱っており、そこで求められる売り方や接客方法も様々なはずである。ところが従来までは、多くの売り場の大半で一律的な販売員の配置と接客方法しか取っていなかった百貨店が多かった。その大きな要因は、取引先との派遣販売員制度が考えられる。

これまでは売り場での人的効率がいくら低くても、直接百貨店のコストに関係ないため、出来るだけ販売員を多く出させた方がいいと言った考えが百貨店にはあったよう思える。

しかしそんな考え方が全く通用しない時代に入っている。今一度自社の売り場で扱っている商品サービスの特性を踏まえて、それぞれにあった的確で効率的な売り場運営と接客サービス対応の仕方を設計し直すべきだろう。(この事は、ホームセンターなどにも全く当てはまる話である。)

私見でいうなら、現在扱っている多くの百貨店の商品サービスは、「ハイスピード対応」領域にあるため、常に新しい提案を心掛けることが大事だ。だからそれをわかりやすく伝えお客様が自分で検討し選択出来るような工夫をする一方、出来るだけ効率的で的確スマートな接客を心掛ける。まだまだ接客訓練が不足しているよう思える百貨店は多い。

一方それでは物足りない専門志向や超高級志向のお客様には、きっちりした専門「エンジニア対応」とお客様に深い感動を与えられるだけの「パートナーシップ対応」のできる高度な専門販売員を育成し配置すべきだろう。専門性の磨きあげという点では、大半の百貨店が全く不足しているといっていい。だから専門店に負けてしまうのだ。

百貨店には以上のような事を考慮したメリハリある売り場運営と人材育成や配置が必要だろう。

 

―売り場は、お客様満足を提案し提供する、ビジネスの最前線―

 

「新しい切り口・コンセプト」「情報発信」「パーソナル対応と顧客参画」「専門性」「大量効率処理」「継続性」「外部連合化」

 

また上記は私の考案した「リレーショナル・マーケティング」の7つのキーワードだが、その一つ一つのキーワードをそれぞれの商品サービスや接客のシチュエーションにあわせて組み立ててほしいと思う。売り場を単なる販売の場ととらえるのでなく、お客様に満足を提案し提供するビジネスの最前線ととらえて、トータルでの事業戦略を設計すべきだろう。

こうした売り場特性にあわせた対応方法を、売り場の効率性を中心に徹底して見直し実践しているのは、現在のところ「J.フロントリテーリング(大丸松坂屋百貨店)」だけではないだろうか。

(※上記の事例は、今後あらためて解説したいと思います。)

 

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 <※参考:小生著書「絶対に勝つマトリックス営業」

                     の文章一部修正より>

 以前「絶対に勝つマトリックス営業」(小生著:プレジデント社刊)にて解説した文章(一部修正)を参考までに載せます。少々古い文章ですが、事例中心ですので現在読んでも参考になる部分が多く、戦略を具体的に理解していただく手助けになるものと思います。

 

―生産財商社M社の「領域最適化戦略」の事例―

 

ある特殊生産財商社のM社の場合です。その商社の活動というのは一日に何度も同一顧客を訪問し、その都度さまざまな注文をもらって来ては、自分でもメーカーや下請け加工業者を調べて発注し、入荷されたらそれをもってユーザーを訪問し、またそこで注文を頂くという内容です。そして注文とりから発注、入荷とりまとめ、デリバリー、先行先引き合い、受け渡しまでの一連の流れがほとんど営業マン担当一人の仕事になっていたのです。なおかつ、取扱商品は総種類で10万点にも及ぶ膨大な数です。これまでは営業マン一人が注文のはじめから最後までやるからこそ、お客様にもきめ細やかなサービス対応ができたわけです。(いや、出来ていたのではなく、出来ていたと思いたかっただけかもしれません。)

 しかしユーザーからの価格要請が年々厳しくなる中で、同じ体制でいつまでやっていても採算にのらず、それも年々どんどん悪化していくことが明らかになってきました。そして調べていくと、ゴムホースやプラスチック部品などの消耗品や雑品のように手間がかかる割に、知識や経験の要らない商品の比率が9割近くに上がっていたのです。そこで自社の営業体制を全面的に見直すことにしました。

 はじめは営業の主要メンバーを集めて縦軸に顧客層、横軸に考えられる商品分類を書き出し、今後の伸びていく分野を洗い出し、あわせて4つの領域に整理することからスタートしました。ところがそうやって商品と顧客という視点で見ていくと、すべての分野が成熟化しており、このままでは伸ばしていけないことが明らかになってきたのです。

 「これじゃあ、会社の将来は真っ暗だね」。誰かが冗談っぽく言ったのですが、誰も冗談とは受け取れませんでした。ところがいろいろみんなで議論していくうちに、顧客商品という軸だけでは見えなかった新しい切り口のテーマがだんだん鮮明になってきたのです。

 ようやくみんなの目の輝きが変わってきました。

 「環境に関する○○というテーマなら、うちは意外と他社と比べて強いはずだよ」「○○については、昨年ユーザーと共同で○○というテーマを扱ったから、そこをもっと掘っていけば、新しい流れがつくれるかもしれない」「まだ小さいメーカーで○○に独自な強みを持っているところがあるから、そこと別の○○メーカーと組み合わせたら、○○についてはユニークな連合が出来るかもしれない!」

 

 そしてこれらの新しいテーマについて、今一度検討し、当社としてどこまでの専門性をつければいいのか、あらためて4つの領域に整理していったのです。そして当面手のつけられる分野について専門担当を設置し、横断的な立場として、各営業活動をバックアップからスタートしました。そこに、彼の担当する専門テーマの案件をすべて集めることで、そのノウハウの蓄積と機動的な活動を狙ったわけです。その結果、1年後にはその分野では従来の売上の2倍以上の目標を達成し、次の展開へ向けた足がかりをはっきりつけることが出来ました。エンジニア対応領域の特化です。

 他方、これまで営業がオールマイティな活動として担当していた配達等の物流面については、配達専門要員による定期巡回方式と臨時対応便方式をとることで、営業マンの仕事から100%はずすことにしました。そのためにも、今までブラックボックスになっていた顧客窓口1件1件に対する個別対応内容を、顧客配達カルテとして整理して標準化することにしました。

 また受注から問い合わせ業務面についてはお客様センターを設置し、どうしてもお客様と個別対応しなければならない案件以外の流れものの注文や一般的な商品問合せ、納期問合せはセンターで一括して受け付けることにしたのです。

 コストダウン対応領域について、営業マンの関与をできるだけカットする体制を敷いたわけです。このためわざわざ営業と間接部門の中核メンバーをひきぬいて、社長直轄部門として運営することにしました。このことがよかったようです。はじめは新体制に対して不満を持っていた人たちも、スタート段階における混乱でも進んで協力してくれ、約六カ月の試運転期間を経て、順調に新体制に移行することができたのです。

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―M社のこれからの展開―

 こうして新しい時代へ向けての体制がようやく整ってきた段階ですが、M社にとっては今までの営業の世界を全否定するぐらいの大きな変革です。営業マンの活動が高コスト体質になっていた領域を全く切り離せたこと。またいくつかの専門テーマをもって狙うべきエンジニア対応領域の仮説が立ったことは大きな前進でした。今後は受発注体制については、内外とのネットワーク化を進めることで、「コストダウン対応」を進めるとともにサービス強化を図りながら、広くパートナーシップとしての関係をもった"事業の輪"を拡大していくことになるでしょう。

一方営業マンについては、一人一人が「エンジニア対応」が出来るだけの技能を身につけながら、M社なりの独自で総合的な顧客満足の企画提案ができる「パートナーシップ対応」領域での活動を強化することを狙っています。

 商品取り扱いの種類と幅が広がり、かつ、お客様の層や件数もどんどん広がっていく中で、相変わらずのテリトリー制一辺倒によって、すべて営業マンにおまかせにしている会社もまだ多いようです。そうなると営業マンは市場の区別もつけられないまま、実態は日々の雑務的な仕事に追われる毎日となり、そこでは主体的な営業活動など全くと言っていいほど無理な状態になってしまっているのです。このような状態からは、一刻も早く抜け出さなければなりません。ここでも「4つの領域」の考えを適用することは非常に有効な方法となるはずです。

                                    以上

次回は「『領域複合化(包括化)戦略』の解説」


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このページは、CBC総研が2012年8月 1日 11:32に書いたブログ記事です。

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