マトリックス営業戦略バリエーション④「事業展開戦略」の解説

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はじめに

マトリックス営業戦略の「4つの領域」をベースにした戦略バリエーションの解説です。

5つのバリエーションがありますが、ここでは3番目の「事業展開戦略」を解説したいと思います。

この文章だけでも十分趣旨は伝わるとは思いますが、内容をより正確にご理解していただくため、できれば小生のブログ等で『マトリックス営業戦略「4つの領域」の解説』を事前にご確認の上、読んでいただければと思います。

 

(3)『事業展開戦略』の解説

<事業展開の4つのステップ>

―『事業展開戦略』の活用に当たって―

―海外事業において、この『事業展開戦略』の重要性がますます大きくなっている―

※参考1:小生著書「絶対に勝つマトリックス営業」より

                        文章一部修正>

―新規事業は、既存事業との領域の違いを鮮明にせよ!―

―事業展開のステージは、「4つの領域」の場面に対応している―

―スムーズなギアの入れ替えを!―

※参考2:小生著書「社長!『儲ける営業』に変えましょう」より

                                   文章一部修正>

―市場のライフサイクルと「4つの領域」―

 

―市場の急激な変化に置いていかれるな!―

 

 

 

 

(3)『事業展開戦略』の解説

 

変化する市場にあわせて事業展開を組み立て、メリハリよくスムーズに事業の成長発展を実現させる戦略である。特に新規事業の展開にあたっては、生成発展の時間の経過にともなって対象とする市場の特性や事業ポジションはどんどん変化していくはずだ。その変化する市場やポジションの特性に合わせて自社事業の領域を設定し直し、ギアチェンジしてメリハリよく事業営業体制や活動スタイルを変えていくことが求められる。

その事業展開の基本モデルは、『パートナーシップ対応領域』(事業の生成期)→『エンジニア対応領域』(事業の浸透期)→『ハイスピード対応領域』(急成長期)→『コストダウン領域』(停滞から衰退期)である。それぞれの領域の違いをしっかり意識して、メリハリよく事業のあり方自体を構築し直さなければ、事業の長期的な発展は実現しないだろう。

新規事業などの長期的な成長戦略を描く際には、この『事業展開戦略』を取り入れることで、組織や人材育成、活動のあり方、さらには取り扱う商材の特性の組み立てを体系的に整理することが出来るはずだ。

 

<事業展開の4つのステップ>

 

  第一ステップ:市場の生成期

◎パートナーシップ対応領域

          ・市場はまだ生成段階である。このため企業としては新しい事業コンセプトを持って、新しいお客様や外部企業に企画提案し巻き込みながら、個別対応で一歩一歩新たな顧客満足を創造していくことになる。

  第二ステップ:事業の浸透期

         ◎エンジニア対応領域

          ・市場は徐々に広がっていくが、まだ限られた範囲になっている。その中で対象とするお客様は徐々に経験して玄人化していくことだろう。

そうしたお客様の現場に深く入り込み、お客様と一緒に新しい問題解決を進め、その専門ノウハウを磨いていく段階である。

  第三ステップ:市場の急成長期

         ◎ハイスピード対応領域

          ・提供する商品サービスが標準化するとともに、競合他社が参入しはじめ、市場は一気に成長していく。自社としては、その市場の成長に乗って競合他社に先んじて、一気に市場開拓を進めることになる。

          ・出来れば競合他社商品とは違う、わかりやすい魅力ある新製品を戦略商品にして、値ごろ感のある価格帯でボリュームゾーンの市場を押さえたい。

  第四ステップ:市場の成熟衰退期

         ◎コストダウン対応領域

          ・もはや市場には同様の商品サービスが溢れ、価格を中心としたコストパフォーマンスが競争の決め手となっていく。各企業はギリギリのコストダウンを進めていかなければならない。但しオープンな市場であれば、いち早く市場を押さえたシェアーダントツ一番、ブランドの信頼性も一番の企業しか勝ち残っていけないだろう。

          ・その後多くの場合市場は成熟から衰退に陥り、そのかわりに新たなコンセプトによるあらたな市場が立ち上がってくることになるだろう。だからここまできたら、次のステップを見据えた展開を図ることも大事になる。

 

 

―『事業展開戦略』の活用に当たって―

但し、実際に事業の展開にあわせてメリハリよく戦略作戦や組織のあり方等を切り替えていけるかどうかは、あくまで当事者の意思と実行にかかっている。そこではこれまでやってきた発想を抜本的に変える必要が出てくる。だからこそ、この『事業展開戦略』のモデルがより重要になるとも言えるだろう。

また、この「事業展開戦略」においてもその事業がどの領域を主な活動範囲にしようとしているかで、実際のやり方は異なってくるはずだ。

あくまで単品単発的な『ハイスピード対応』領域のビジネスにこだわるとしたなら、事業のスタート段階でも『パートナーシップ対応』での事業提携などは出来るだけ簡略化したやり方を取りたいし、技術サポート等の付随活動も出来るだけ排除するか標準化したビジネスモデルを志向しなければならない。

一方技術的な専門ノウハウの個別対応を武器にした『エンジニア対応』領域のビジネスにこだわるなら、たとえばはじめから玄人顧客にモデルユーザーとなってもらい、深い信頼関係を築きながら高度な技術を蓄積することの出来るやり方を志向すべき、ということになる。

そこで構築する専門技能ノウハウは、簡単にどこででも標準化出来るようなものではいけない。専門技術をブラックボックス化したり人的で真似しにくい教育育成ノウハウをしっかり蓄積向上出来る仕組みを作るなど、独自な専門システムを磨くべきだろう。その独自な専門システムこそ、一番の差別的な強みになっていくはずである。

(それは「独自市場創造戦略」をめざすと考えてもいい。)

このように、目指すメイン領域によっての違いはあるものの、やはり事業の展開を長期的に見通して、その発展のステップにあわせて事業展開を組み立てることが大事なのは、間違いない。

 「先手必勝戦略」もこの「事業展開戦略」をもとに組み立てることができるならば、より長期的な戦略ストーリーの武器として描けるはずである。

 

―海外事業において、この『事業展開戦略』の重要性がますます大きくなっている―

 一方海外市場は、市場の成熟度の違いや価格帯ではっきりピラミッド型の階層になっており、かつ市場の変化のスピードが著しく早いことが特徴だ。そこで市場の変化の先を読んだ事業展開の巧拙が、海外事業の成功失敗の大きな要因になっている場合が多いよう思われる。

例えば成功事例として、空調機器のダイキン工業の場合、「はじめに高級品市場を狙い、次にその下のゾーンに降りてきて市場でのブランドの浸透を図り、最後の段階で下層のボリュームゾーンを狙うというステップをはっきり踏んだ展開をおこなっている。・・・もちろんその都度作戦内容をその市場状況にあわせて柔軟に変更している・・。」

また日経BP2012.528号「世界の市場・中国、賃上げが内需を潤す」の記事においては、「広い国土の中国に格差が生じるのは歴史の必然で・・この格差を巧みに捉えて成長している企業の一つが日産自動車だ。同社の中国合弁会社、当風日産はまず豊かな沿岸部から販売店を設置。内陸部が豊かになり始めたタイミングに乗って、今度は内陸部に重点的に出店することでモータリゼーションの波をとらえることに成功した。」と述べられている。

(参照:小生ブログ「『戦う土俵、冷徹に見極めを』記事コメント」より)

このように、対象とする市場の多様性と変化の先を読んで、はっきり意図してメリハリある事業展開を進めていけている企業が、海外市場で成功していることがわかるだろう。

一方海外展開に失敗している企業の多くは、そうした市場の変化多様化を十分想定しないまま、進出した時点での製品販売しか考えていない事業のやり方をしている場合が多いよう思える。だから市場が変化した途端に、その事業(製品)は市場から見捨てられてボロボロになり、結局撤退せざるおれなくなっているのではないだろうか。

繰り返すが、変化多様化の激しい海外市場こそ、この『事業展開戦略』の重要性がますます大きくなっているということだ。

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 <※参考1:小生著書「絶対に勝つマトリックス営業」より文章一部修正>

以前「絶対に勝つマトリックス営業」(小生著:プレジデント社刊)にて解説した文章(一部修正)を参考までに載せます。少々古い文章ですが、事例中心ですので現在読んでも参考になる部分が多く、戦略を具体的に理解していただく手助けになるものと思います。

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―新規事業は、既存事業との領域の違いを鮮明にせよ!―

 新規事業や新規商材の販売を成功させるためには、まずその商材や事業の基本とする領域がどこにあるのかを特定し、既存の事業領域との違いをはっきり認識することからはじめるべきでしょう。なぜなら新規商材や事業が既存事業とは属する領域が全く異なるにもかかわらず、従来のやり方を踏襲して既存分野と同じような戦い方をしたために失敗したと思えるケースが多いからです。

 コンピューターシステム会社に関しても、受託や派遣中心のソフトウェアハウスが、自力でソフトパッケージを開発して販売しようとしても、なかなかうまくいかないのは、多くの場合この領域の違い、すなわちお客様の事情や要望にあわせて対応する「エンジニア対応」領域の戦い方と、出来上がった商品を一気に売っていく「ハイスピード対応」領域の戦い方の違いに対応できていないからと考えられます。すなわち、受託や派遣中心のソフトウェアハウスの場合、あまりにお客様の事情にあわせて開発することに慣れているため、あらかじめどんな顧客に向けて、どんな鮮明なメリットをもった商品を販売するのかという仮説を立てて開発することが苦手です。

それだけにたとえ自社のパッケージ商品が開発出来ても、販売方法は一件一件のオーダーメード対応か、或いはターゲットを絞れないまま、「なんでも出来ます。誰でも使って下さい」と言って、中途半端な売り方になってしまいやすいのです。

 他方パッケージソフト販売の場合は、そもそもお客様へのきめ細かい対応に慣れていないために、お客様へのオーダーメードな開発などに万一参加しても、その手間ひまの大変さ、特にユーザー側への繰り返しの根回しから始まり、個別業務の中にまで入り込んだシステム改善指導、さらには業務自体の改善指導等に及ぶユーザー支援活動の大変さに右往左往してしまうことでしょう。パッケージ販売とオーダーメードな対応を両立させるのは、かなり難しいと覚悟しなければならないのです。

繰り返しますが、まずはその領域の違いをはっきり認識するところから、新規事業や新規商材の販売ははじめなければならないと言うことです。

 

―事業展開のステージは、「4つの領域」の場面に対応している―

さて次に考慮しなければならにことは、事業展開という言葉通り、その推進に当たってはステップ毎に事業のステージがあり、そのステージにあったメリハリのある進め方が必要になると言うことです。そのステージは「4つの領域」の場面展開としてとらえられるでしょう。

例えば、企業を対象とする新商材を立ち上げるには、市場に影響力のある有力ユーザーをモデルとして巻き込んで深い信頼関係をつくり、一緒に新たな価値ある創造の実現をめざすところからスタートすることになります。はじめてのことですから、リスクをもった先行投資も時に必要になるでしょう。まずパートナーとなるべきユーザーや外部の協力会社を巻き込んで仲間をつのり、リスクを共有した提携関係を作っていくわけです。まさに「パートナーシップ対応」領域の活動といえるでしょう。

そうしたモデルユーザーとの関係づくりが出来たところで、今度は新しいお客様満足や問題解決の成果を上げ、そのひとつひとつの成功事例から独自の専門ノウハウを蓄積していくわけです。そのことが徐々に進んでいく段階になるなら、そこでの事業領域は「エンジニア対応」ということになります。説得ではなく、より専門的な技能、問題解決力が要求されるはずです。会社の体制としても、技術者が前面に出れるようにしなければなりません。

そして、次のステップではモデルユーザーで成功した事例をもって、ノウハウをパッケージ化して他のユーザーに提案していくことになります。この場合、当社にとってはもはやモデルユーザーで成功しているので標準的なやり方が出来ており、かつ相手から見れば"新しい切り口"となりますから素人相手ということになり、事業領域としては「ハイスピード対応」の領域として位置づけられるでしょう。

ここまでくれば競合他社がまねして参入してくる前に、いっきに市場を押さえなければなりません。情報発信に力を入れ、営業マンを数多く投入し、営業方法も標準化して件数重視、スピード重視の売り方をしていくわけです。

そして当社商材を市場に浸透させることができたなら、今度は信頼性(ブランドロイヤルティ等)をさらに高めながら、一転してそのシェアの強みを持って低コスト路線に転換し、その市場での基盤を圧倒的なものとするのです。またその高シェアのもと、顧客管理をしっかり行う中で代替需要や消耗品販売、保守サービス等を効率よく進めていくのです。「コストダウン対応」領域の戦いと言うことです。

企業を対象とする新商材ということでお話ししてきましたが、消費財であっても、事業を進めるやり方という見方では、近いものがあります。販売代理店やルートを新規に開拓しながらの新商材の事業展開なら、ほぼ同じような考え方ややり方が出来るでしょう。お客様を販売代理店と読み替え、新商材をそのまま新商材の売り方と読み替えればわかりやすいでしょう。

もしそうした販売代理店の開拓ということがない場合には、新商材が「4つの領域」のどこの位置にあるかで、事業展開は変わります。「パートナーシップ対応」や「エンジニア対応」に入る新商材ならば、多分事業展開としては、多分先ほどと同じステップと同様になると思います。

「ハイスピード対応」の差別性の高い規格商品が新商材であるなら、その展開自体をスピーディに進めなければなりませんから、「パートナーシップ対応」や「エンジニア対応」領域のステージは出来るだけ早く進め、できることならカットして「ハイスピード対応」から「コストダウン対応」の展開の仕組みを作るべきでしょう。

はじめからコストを勝負にする新商材なら、スタートから「コストダウン対応」領域で戦う方法を組むほうがいいはずです。

 

―スムーズなギアの入れ替えを!―

さて先に述べたように、順を追って事業展開を進める場合、それを上手く進めるためにはそれぞれのステージが変わる時に、スムーズにギアの入れ替えを行うことが大事です。そのためには、前もって、次の展開のステージにおける領域がはっきり見えており、事前準備がしっかり出来ていることが必要でしょう。

ところが、そうした事業展開のストーリーを漠然とは描いていたとしても、鮮明な営業場面の違いとしてイメージできるほどに捉えていないために、十分に準備出来ていない場合が多いのではないでしょうか。

たとえば、新商材を発売し、既存ユーザーとのその新しい商材を使った問題解決の事例が出来ても、それが特定の営業マンの特定のケースで終わってしまって全社に共有化されず、いつまでたっても事業展開が「エンジニア対応」の領域から「ハイスピード対応」の領域に移行出来ない会社とか、革新的な新商材を見つけて一気に市場に浸透させるまでは得意なものの、いつまでも高利益率を前提とした高コスト体質の体制から抜け出せないために、後発参入で効率的に攻めてくる競合他社から価格競争を仕掛けられると、一気にそれまでやってきた新規事業の基盤を失ってしまう会社の例はよく見受けられるところです。(※「ハイスピード対応」領域から「コストダウン対応」領域への移行の失敗)

特に「エンジニア対応」の領域の段階に限っても、実を言えば、成功事例をいかに標準化していくか、それをコストダウンと結びつけながらブラックボックス化していくかが大事なのです。そのことによって後の事業展開の段階で競合他社の参入を阻止し、かつ効率的な体制作りを進めていけるかどうかが決まってくることになります。「ハイスピード対応」の段階でも、いつ価格競争に入るかを読んで、事前の周到な準備ができていれば、他社に一歩先んじて圧倒的なシェアを押さえることは可能でしょう。

ところが競合がどんどん参入しだし価格競争に入ることが誰にでも見え出したところでようやく対策を打っても、後手を踏んだ展開で競争にまけてしまうことになります。事前に「4つの領域」の事業展開をしっかり組み立てているなら、次の事業展開のステージへ向けた準備をスムーズに進めることが出来るでしょう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 <※参考2:小生著書「社長!『儲ける営業』に変えましょう」より

文章一部修正>

以前小生が書いた著書より、該当する部分の文章を参考に掲載します。少々古い文章ですが、事例をもとに市場のライフサイクルにあった事業の進め方について書かれており、ご参考になれば、幸いです。

 

―市場のライフサイクルと「4つの領域」―

 よく「変化を読め」とか「変化即応のスピード経営」などと言われる。まさに今、経営に求められていることだが、実際にどのようなやり方で実現するかとなると、その多くは単なるスローガンに過ぎなかったり、超有名企業のものまねだったりする。

 しかし「マトリックス営業 4つの領域」を活用すれば、市場の変化をいち早くつかんで飛躍する実践的な戦略パターンを見出すことができる。ここでは、その戦略パターンについて説明しよう。

 「マトリックス営業 4つの領域」の縦軸と横軸は、変化する市場をあらわしたものである。成熟化や情報化が進めば、素人が玄人に変わり、もとはオーダーメードであったものがレディーメード化されていくことになる。

 したがって、「4つの領域」から、市場のライフサイクルの変化が読めることになる。

 

(1)パートナーシップ対応=市場の生成期

 最初は、お客様の現場というアナログの世界から、新たなものが創造されてくる場面である。「新しい切り口・コンセプト」はあっても、まだお客様が満足した成功事例はほとんどない。そこでビジョン・方向をもって、思いを共有化してくれるモデルユーザーを見出し、巻き込んでいくことに力を注ぐ。

 お客様と一緒になって、今までになかった新しい満足という価値を生み出していく、と考えれば、はじまりはパートナーシップ対応の領域になる。市場の立ち上げの場面である。

(2)エンジニア対応領域=市場の浸透期

 次にそこから徐々に現場でお客様の満足実例が生まれ、そのノウハウが蓄積されてくる。お客様側の経験も高まってくることだろう。ただしここまではまだ個別対応に過ぎず、標準化は進んでいないし、市場も限られている。徐々に広がり浸透していく段階だ。

(3)ハイスピード対応領域=市場の成長発展期

 実例が積み上がっていくと、ノウハウが標準化されてくる。それが具体的な商品やサービスとして定型化が進むと、市場は一気に広がっていく。同時に競合他社も一気に参入してくることになるだろう。そのことが市場の成長をさらに促進させることになる。

(4)コストダウン対応領域=市場の成熟衰退期

 商品の完成度が高まっていき、最後に行きつくところは、図表8右上(74ページ参照)のコストが最優先される領域になる。

 ここではもはやお客様は十分な満足は得られず、放っておけば市場自体が衰退し縮小していくことになる。そこであらためて、対極にあるパートナーシップ対応領域に戻って、市場のあらたな創造からスタートすることになる。

この4つの領域のストーリーから言えることは、いずれの市場もこのような変化の上にあるということだ。だからこの変化のストーリーを読み取れば、現在の事業領域から次に移る領域を予測して事前に準備したり、他社にさきがけて新しい領域に移動させて勝つことができる。あるいは、今一度土俵を見直して、自社の保有する強みやこだわりにあう土俵をあらためて見出していくことも可能となる。

―市場の急激な変化に置いていかれるな!―

1つ実例を挙げよう。携帯電話の販売で急成長した光通信は、典型的なハイスピード対応の営業スタイルをとっていた。一気に売り込んでいくパターン化した販売方式、件数重視のインセンティブ、時間単位の売上管理とノルマの追求、自動発信システムを使ったテレアポ体制等々、そのやり方は徹底していた。

 しかし市場の変化、すなわち携帯電話のハイスピード対応領域からコストダウン対応領域への移行によって、事業は一気に失墜することになってしまった。

 もちろん経営トップは、そうした移行をある程度は予期していただろう。しかし予想を上回る急激な変化についていけなかったのだ。

 私はそうした市場の急激な変化を・・・、「断崖絶壁打ち寄せ型ライフサイクル」と呼んでいる。現在においては、急激な成長発展期(すなわちハイスピード対応領域)が限界に来ると、コストダウン対応領域に一気に移行してしまうのである。

 その市場の急激な変化を即座に察知し対応することが何より大事だが、そのためには、社長は日々の商談の粗利益率の変化と、顧客の価格に対する感度の変化に、過敏なほどにこだわらなければならない。

 そして、次のコストダウン対応領域に移行する準備をしておくか、今後もハイスピード対応の営業体制で戦うのであれば、次の新しく魅力ある商品や分野を早急に見つけ出し、土俵を転換させていく必要がある。

 光通信の例で言えば、営業体制を抜本的に見直し、不採算分野からの撤退や拠点統合を実施し、徹底したコストダウン対応を行なった。その一方で、中小企業向けの通信機器サービス販売の分野に重点を移し、現在、業績を回復させつつある。

 

※補足説明:消費者相手の単品販売商売という全くの「ハイスピード対応」「コストダウン対応」領域のビジネスから、法人企業それも中小零細企業{オーナー}相手の、「エンジニア対応」や「パートナーシップ対応」が求められる領域のビジネスへの移行に成功した事例ととらえることができるだろう。)

 同様の変化が他の業界の場合でもよく起こっている。

 

 従来、ニッチな市場であるとかオーダーメードな対応をすることで利益が十分とれていた商品が、一度価格競争に陥ると、はじめに価格競争をしかけた企業が一時市場を席巻し、圧倒的な利益を得る。

 

 しかし、その状態は長続きはしない。他社も一斉に価格競争に参入することで、際限のないコストダウンが繰り返されるようになるからだ。さらに、その競争がエスカレートすると、もはや低価格というだけでは商品は売れなくなる。むしろ、新しい価値を持った商品・サービスを提供した企業が、競争の勝者となる。

 

 その際、価格はその商品の革新性と比例する。その商品が革新性の高いものならば、他社の商品の倍近い値段をつけても問題はないのだ。もっとも、それらの商品も、継続的に革新を起こさねば、いずれはハイスピード領域からコストダウン領域へと移行していく。だから、企業には先を見越したさらなる対策がまた必要になってくるわけである。

 

 これらの変化は、単品商品だけでなく、事業コンセプトや業界コンセプトといった分野でも見られる。価格競争に陥っているスーパーマーケット業界などは、その典型である。

 

 以上のように、市場のライフサイクルを視野に入れて、自社の戦い方を決めるのは戦略的に重要である。これにより、4つの作戦の重みもまったく違ってくる。

 

 いずれにしても、現在、市場が位置する領域に安住するわけにはいかない。こうした領域の変化をとらえて、自社なりの戦略を立て、見直しをする必要があるということだ。
                                    以上

次回は「『領域最適化戦略』の解説」


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このページは、CBC総研が2012年7月26日 12:30に書いたブログ記事です。

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