マトリックス営業戦略バリエーション①『変化多様化時代の戦略の考え方」

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この文章は「絶対に勝つ、マトリックス営業、第三章『4つの領域の戦略展開』」より、一部修正加筆したものです。「4つの領域」に適応した戦略対応を基本として、その基本を超えた5つの戦略バリエーションを解説します。

 

1.同じ市場でも領域はどんどん動く

  ―時代と共に領域は変遷する・・自動車販売業界の例―

―すべての業界、市場で領域は変化している―

2.変化多様化する市場を味方につける、新しい戦略とは

(「マトリックス営業戦略バリエーション」)

5つの戦略バリエーション―

  ~「先手必勝戦略」「独自領域創造戦略」「領域最適化戦略」「事業展開戦略」

「領域複合化(包括)戦略」~

―事業の成功要因と「4つの領域」戦略バリエーションの関係―

1.同じ市場でも領域はどんどん動く

 

 「戦略」という言葉はよくつかわれ、様々な解釈がされています。いわく、会社の中長期的な姿を決める決断であるとか、戦わず勝つ方法であるとか、より広い視野を持ち会社に重要な影響を及ぼす企画構想であるとか―。

 私は基本理念という目的を鮮明にして、方針を設定し、その方針に基づいて戦う土俵を見極め、その土俵にあわせた独自な戦い方を設計して成功ポイントを明確にし、戦いをよりスムーズに進めるための構造と配置を決めて、重点行動の優先順位をつける―ことにあると思います。目的と方針、土俵、戦い方、構造と配置、優先順位(スケジュール)といった一連のシナリオが、全体としてつながってこそ初めて戦略といえるのではないでしょうか。

 その中でも「どこ(の土俵)で戦うのか」という要素が全体のシナリオ作りのキーとなり、特に大きいウェートを占めているよう思います。ですから、マトリックス営業戦略の「4つの領域」という枠組み自体がもともと戦略的な発想と言えるでしょう。

 ところが、この「どこで戦うのか」という土俵自体がどんどん動いているのです。実のところ「4つの領域」は、決して固定的なものではなく、同一市場であり同一顧客層同一商品群であっても、時間の経過と共にそのあてはまる領域はどんどん変化し動いていきます。ですから、その動きをとらえることが、現実の場面で変化をとらえた実践的な戦略を立てる場合のスタートになるでしょう。

 こうした領域がダイナミックに動いている典型例として、ここでは自動車販売業界を考えてみましょう。

 

 ―時代と共に領域は変遷する・・自動車販売業界の例―

 

 過去、それも自動車がまだ十分に普及していなかった昭和二十年代から三十年代、或いは四十年代頃までは自動車はその持ち主のステータスを象徴する高価な持ち物であり、お客様は素人でした。

ですから売る側としてはお客様とじっくり話をし、自社のつくる自動車の良さをPRしながらお客様を説得していくことが必要でした。

 そして購入後も、資金手当てから車検や保険、修理等といった面倒な手続きも一緒になってお手伝いすることで、お客様との信頼関係をつくっていったはずです。まさに「パートナーシップ対応」の領域です。

 ところが高度成長期からバブル期に入ると、自動車が大衆化して消費者の自動車への理解が深まり、より高級で高価な車やお洒落で目新しい車が売れるようになっていきます。こうなると手間暇かけてお客様を説得するというよりブランド価値や目新しさでどんどん売れるわけですから、営業マンも大変楽です。会社としてもなにはともあれ、販売台数重視の売り方で利益を上げていくようになりました。「ハイスピード対応」領域への移行です。この時は会社も営業マンも儲かってしょうがありません。なぜなら「ハイスピード対応」と言いながら、成長経済にあって、お客様を絞ることなく幅広くがむしゃらに売っていけたからです。

 しかしその後バブル経済がはじけ、縮小マーケット時代に入りました。お客様はもう自動車のことは十分わかっていますし、多くの人は所有しています。車検や保険の手続きは当然のことながら、高級車や特別仕様車についても、興味のある人達はたとえ買わなくとも、勉強はしています。ですから十分玄人化してしまっています。

営業マンの一方的な売り込みを嫌い、自分で自由に車を選択したいし、安く買いたいが値段交渉などというわずらわしいことはやりたくないと思っているのです。そして最近ではさらに、小型車中心の燃費等の機能重視の姿勢がますます増えていますし、車に興味ない若者さえ増えてきているのです。まさに「コストダウン対応」領域への移行です。

 こうなると販売会社として営業マンを使うことがコストアップどころか、逆に販売の障害になっている場合さえ出てきます。買いたいと思っていたが、営業マンが強引に押し売りしてくるので、買う気が失せてしまったなどという話はよく聞こえてきます。

 実際、市場が「ハイスピード対応」の領域から「コストダウン対応」領域に移行するする時は、どの業界でも営業マンを使った営業活動は要注意なのです。これまで多少強引な売り方をしていても、商品に魅力がある一方で競合関係が激しくないですし、相手のお客様は素人ですのでそれでもうまくいきました。ところが商品の魅力が陳腐化する一方で競合関係が激しくなり、さらにお客様が玄人化したなら、強引な売り方は全く通用しないばかりかむしろ障害となり、万一大きなクレームにさえなりかねないのです。

 

注:2010年以降の最近の自動車販売の状況を見ていると、国内市場は二極化が進んでいるようです。すなわち小型車中心の燃費等のコストパフォーマンス重視の販売と、海外ブランド車を中心とした付加価値の高い高級車販売の市場です。

前者が製品としても販売対応としても「コストダウン対応」領域のウェートがより高くなっている一方で、後者が製品としては「ハイスピード対応」でありながら販売対応としては「パートナーシップ対応」領域のウェートがいまだ高いと言えるでしょう。二極化した市場が両立してあるというのは、成熟化市場の一つの典型的な特徴であり、それを戦略の前提としなければならなくなっていると言えるかもしれません。また一つの商品分野であっても、製品開発や生産対応と販売対応をはっきり区分けして領域をそれぞれ特定した戦い方を設計することも、これからは重要になってきているよう思います。

ちなみに海外市場については、2極化というより新興国市場では一般的な所得水準の違いによって対応方法にメリハリをつけることがより重要になるでしょう。

上位層を狙うならばステータスの満足が一番であるため高級車としてのイメージをはっきり打ち出し、「パートナーシップ対応」領域としての販売を目指すべきでしょう。一方大衆層を狙うならば、製品的には「コストダウン対応」領域として価格重視を徹底しなければなりませんが、販売対応としてまだ憧れをもった新製品分野であり、「ハイスピード対応」や「パートナーシップ対応」領域のウェートも重要になることと思います。)

 

―すべての業界、市場で領域は変化している―

 

 このように市場がどんどん動いている典型的な今一つの例としては、コンピュータ業界があげられるでしょう。

 以前はコンピューターは難解なものであり、個々の企業のニーズにあわせた個別対応のオーダーシステムを開発する会社が主導して、その企業のオリジナルなシステムを構築していったわけです。市場は黎明期でありまさに「パートナーシップ対応」の領域です。

 ところがそうしているうちにユーザー側でも専門のSE部隊をもち、情報処理部門を設置するようになりました。さらに情報化が経営的に大きな意味があると考え、どんどん自社の意思で新しい情報システムを構築する様な情報先端企業も出てくるようになりました。そうした情報先端企業を対象にシステム構築を進めていく場合には、「エンジニア対応」の領域のウェートがどんどん高まっていくことになるでしょう。そうした情報化の進んだユーザー以上に、より高い専門的なシステム技能やノウハウが求められることになります。システムインテグレーターということになります。

 他方、コンピューターは以前のように複雑で難しく、専門家でないと取り扱えないようなものから、パソコンのように誰でも扱い安いものへと移行しています。「エンジニア対応」から、「ハイスピード対応」や「コストダウン対応」領域への移行です。システムも難解でオーダーメードだったものが、どんどんパッケージ化される傾向が強く、従来からの簡単な経理システムや顧客管理システムといった単体システムから、ERP等の統合的なパッケージまであらわれるようになっています。そうしたパッケージは、新発売された時には差別性が高く、まさに「ハイスピード対応」の領域にありますが、デジタルで標準的なものだけに真似されやすく、時間の経過と共に「コストダウン対応」の領域に移行するのが避けられないでしょう。

 そこではじめから圧倒的なシェア確保を狙って「コストダウン対応」領域で戦うという戦略が、大手ソフトパッケージ企業ではよく取られています。ソフトという商品の特性(開発コストという固定費が90%以上あり、シェアを握った方がコスト競争に圧倒的に強いという作り手側の特性と、ユーザーははじめてつかったソフトになれやすく、後から出たソフトはいくら良くても使いずらいため、切り替えがしにくい{切り替えコストが大きい}というユーザー側の特性)から、他社に先駆けた業界標準(デファクトスタンダード)を狙うということでしょう。

 こうして見ていくと、コンピューターシステム業界といっても様々な市場にわかれ、領域が異なっていること、しかもその領域がどんどん動いていることがおわかりになると思います。

 同様に今、生産財から消費財まですべての業界のすべての市場において、こうした領域自体の変化と多様化がおこっているのです。

 

追伸:

 こうした市場の変化多様化は、2000年以降の最近のグローバル市場を見るなら、ますます激化していると言ってよう思います。特に新興国市場においては、広域なエリアを対象にすることによる市場の多様性だけでなく、最富裕層市場、富裕層市場、一般大衆市場、最下層市場とライフサイクル階層の多層化が大きく、さらにはそれぞれの階層が日々進展し流動化することによって、市場全体の変化多様化のうねりがますます大きくなっているといっていいでしょう。

 このため多くの日本企業において、国内事業も同様ですがそれ以上に海外展開においては、その変化多様化が激しい流動化する市場にいかに適応し攻略を進めるのか。そのための柔軟で新しい戦略的な発想と作戦の組み立てが必要になっているよう思います。

 (※新興国市場での日本企業の戦略ポイントについては、小生のブログ2012年3月24日付け「海外市場に求められる日本企業のあり方とは」に一応簡単にまとめてありますので、ご参照下さい。)

 

2.変化多様化する市場を味方につける、新しい戦略とは      (「マトリックス営業戦略バリエーション」)

 

5つの戦略バリエーション―

 ~「先手必勝戦略」「独自領域創造戦略」「領域最適化戦略」「事業展開戦略」

「領域複合化(包括)戦略」~

 

では、このように領域が単に多様化するだけでなく、どんどん変化し動いている市場においてどのような戦略が考えられるでしょうか。

 まず第一に、その市場の変化を読んで一歩先んじてこれからおとずれるであろう領域を、自分のものとしてしまう戦略が考えられるでしょう。時代の自然な流れの先を読んだ「先手必勝戦略」です。 

 二つ目に考えられるのは、逆に市場の自然な流れとは反対に、自分達の意図した領域を作ってそこで戦う戦略です。

 市場の自然な流れに沿っていくなら、行き着くところは「コストダウン対応」の領域です。そこではもはや商品の魅力ではなく、価格やサービスといったデジタルにとらえられる要素でしか評価されません。はじめは先行していたとしても、いつかは他社にも追いつかれ、お互い価格競争に陥って、疲弊してしまうでしょう。そこで自社のオリジナリティを磨きながら、お客様の事情に徹底してこだわることで、意図して自社だけが生き残れる、独自な領域に移行することを狙うのです。「エンジニア対応」にこだわるとか、「パートナーシップ対応」にこだわるとかです。それをここでは「独自領域創造戦略」と呼ぶことにしましょう。

 三つ目は、今までの市場を一様な一つのものとして捉えるのではなく、今一度見直し区分けしてくり直した上で、4つの領域にあてはめ、多様化したそれぞれの領域にあわせて、メリハリある対応を組み立て直す。あるいは最も自社の得意とする領域にしっかり重点化していく戦略です。「領域最適化戦略」と呼びましょう。

 四つ目は、事業展開を、変化する市場にあわせてスムーズに行うことです。特に新規事業の展開に当たっては、立ちあげた事業の時間の経過と共に市場が変化していきますが、その変わっていく市場の特性にあわせて、自社事業の主力となる領域を設定し直し、メリハリよく営業体制や方法を組み替えていくことが大事でしょう。「事業展開戦略」と呼びたいと思います。

 

※(追加文章)

そして最後には、以上の4つの戦略バリエーションを統合した新しい戦略モデルが挙げましょう。それは領域を一つに絞るのではなく、2つ以上にまたがって戦略的システム的に融合した新しいビジネスモデルをつくると言うやり方です。

結局一つの領域だけを考えた戦略では、他社との差別化が難しく変化に対して常に自社の優位性を脅かされる危険があります。特にグローバル市場においては変化多様化がより激しく、それに伴い競合関係もますます熾烈化している現在、一つの強みだけでは永続的に勝ち抜いていくことはすこぶる難しくなっています。

そこで特性の違う領域を自社の存在領域としてはっきり設定した上、複合的或いは包括的なシステムとして事業を組み立てて、そのノウハウを磨きあげていくのです。例えば、アナログとデジタルの融合を志向するならオーダーメード対応とレディメード対応を組み合わせることが考えられるでしょう。またお客様の満足を中心にしてその満足を実現するため、製品、設備、周辺パーツから部品といった物的なものだけでなく、診断、コンサルティング、導入支援、メンテナンス、運営支援、アフターサービスといったすべての活動をトータルな形でコーディネートして提供する、といったことも考えられます。

この戦略を「領域複合化(包括)戦略」と呼ぶことにします。自社独自の事業モデルの創造という点では「独自領域創造戦略」の一種と言えますし、4つの領域の違いを明確に意識して対応方法を組み立てると言う点では「領域最適化戦略」の一部とも言えます。また、他社に先んじてという面がある場合は、「先手必勝戦略」とも言えるでしょう。また様々な領域をメリハリよく取りこんでいくと考えるなら場合によっては、「事業展開戦略」にもあてはまるよう思います。

異質な組み合わせによって差別化を図る訳ですから、そこにはきめ細やかな【すり合わせ】のノウハウが必要になります。ですから私はこの「領域複合化(包括化)戦略」は、これからの日本企業が、多様で強力な海外企業に対抗し勝ち抜いていくための必須戦略ではないかと思っています。

 

 このように「4つの領域」の理論とモデルを当てはめれば、鮮明な戦略を組むことが可能となりますが、実際はっきり自社の土俵を意識して戦略を進めている企業は、同業他社を圧倒する飛躍的な成長を遂げている場合が多いのです。

 

―事業の成功要因と「4つの領域」戦略バリエーションの関係―

 

 戦略の話には、よく事業の成功要因という言葉が出てきます。私は成功要因と言っても、2つの種類に分けられると思っています。

 一つは、その要因がないとその事業自体が成り立たず競争に負けてしまうという、競争相手と互角に戦くために必ず押さえておかなければならない定石に近い要因です。ですから、この要因を押さえたからと言って勝てる訳ではありません。必須条件の成功要因です。

 もう一方では、この事によって競争に打ち勝ち成功したと言う要因であり、一社一社が独自に考え、実行してこそはじめて勝ち取れる要因です。

 前者はその業界や領域に共通する成功要因ですが、後者は逆に、業界や領域の既存の発想と相反する非常識の成功要因です。

 この事を4つの領域にあてはめて考えてみますと、もはや自社のいる領域が成熟化し、多くの競合がしのぎを削っているとしたら、もはやその領域で戦うのではなく、他の領域に果敢に移行して、非常識の成功要因を徹底すべきでしょう。その場合には、もちろん過去の領域の対応方法ではなく、移行した新たな領域の対応方法が成功要因になるわけです。それが「先手必勝戦略」「独自創造戦略」さらには「領域複合化(包括化)戦略」です。

 そうではなく、現在の自社のいる領域が多様化し、変化しているとしたら、今一度4つの領域をモデルとして、自社の位置する領域をはっきり整理してみることです。その上で、従来の発想や体制にとらわれることなく、その領域での対応方法を成功要因として、あらためてしっかり整備していくべきでしょう。「凡時徹底」です。それは「領域最適化戦略」であり、「事業展開戦略」ということになるのです。

 

それではいよいよ以上の5つの戦略バリエーションの解説に入ることにしましょう。

 

追伸:

ここまでが戦略バリエーションについての事前説明です。この文章のもとになっている「絶対に勝つマトリックス営業」はバブル崩壊後の1999年刊ですが、その当時と比べてもより重く感じられる最近の日本の社会に漂う停滞感が気になってしかたがありません。そのせいかビジネス分野でも以前に比べて大きな絵を描いた物語や「戦略」をテーマにした実践的な経営書が激減しているよう思います。

繰り返しますが、人口大縮小を前に日本の社会は大転換期に入っています。一方グローバル化が進み海外新興市場が沸騰する中、社会や市場の変化多様化とそれによる生き残り競争はますますその激しさを増していくことでしょう。人も企業もこの『変化多様化』する環境に勝ち抜いていかなければならないのです。基本も大事ですが、それを超えたところで、答えのない変化多様化する世界での独自な勝ち方を身につけなければならないということです。

「絶対に勝つマトリックス営業」では、「4つの領域」の解説が主であり戦略バリエーションの部分は全体の中の一部分という位置付けでした。現在ではこれから解説する「戦略バリエーション」の重要性がより大きくなっていますし、今後さらに大きくなっていくよう思います。

                                    以上

 

次回は「 3.5つの戦略バリエーションの解説

      (1)『先手必勝戦略』        」


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このブログ記事について

このページは、CBC総研が2012年7月 1日 12:33に書いたブログ記事です。

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