マトリックス営業戦略と「マトリックス営業組織(横プロジェクト)のあり方」①

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―「横プロジェクト」と縦ライン営業部隊が連携する

柔軟な「マトリックス営業組織」のあり方と実例紹介―

はじめに

―「横プロジェクト」も領域の違いによって、

            チームプレーや役割分担のやり方を柔軟に変えよ―

P社の横プロジェクトチームの運営事例―

―新製品の市場浸透が進まない―

―新製品分野ごとの横プロジェクトの発進―

―事業展開にあわせたプロジェクトの役割―

(立ち上げ期)(市場浸透期)(定着期)(転換期)

―高シェア―確保、価格対抗期での横プロジェクトの役割―

 

はじめに

 

前回、「マトリックス営業戦略」モデルに合わせた営業組織のあり方を「軍隊型」「サッカー型」「野球型」「工場型」の4つのパタンで説明しました。

今回は、そのうちエンジニア対応領域の『野球型』組織において、縦横の「マトリックス組織」を取っている場合の組織のあり方とそこでのメンバーの活動の仕方について解説しましょう。

今後、市場の変化多様化がますます激しくなる中、その変化多様化に柔軟に対応していける「マトリックス組織」を採用する企業は、さらに増えてくることでしょう。

この文章は小生が以前執筆した「絶対に勝つマトリックス営業」(プレジデント社)の文章を一部修正したものですが、今日のビジネス環境において、ますます重要になっているよう思います。

 

―「横プロジェクト」も領域の違いによって、

            チームプレーや役割分担のやり方を柔軟に変えよ―

 

市場の成熟化が進み、お客様の経験が豊富になって玄人化してくると、営業担当一人だけの対応では、お客様に満足していただけないケースも増えてきます。そのため営業担当とは別に、専門技能をもった人達やチームとの連携プレーが必要になります。はじめは縦ラインの営業拠点単位で、都度必要な場面で営業担当と技術者との簡単な連携がおこなわれることでしょう。ところがそれだけでは限界があります。そこで縦ライン組織の外に横ラインの製品別テーマ別の専門セクションを設置して、組織的なサポートを可能とする横プロジェクトの考え方が出てきます。

そうしたマトリックス組織の場合、縦と横の連携プレーをいかにスムーズに行うかが、とても大事になるのですが、意外と上手くいっていない場合が多いようです。お客様中心に動く日々の営業活動中心の拠点営業部隊と製品やテーマをもとにプロジェクト的に動く専門部隊との、目的及び性格の違いは大きいですし、業績配分といった組織固有の問題が発生する場合もあるかもしれません。

しかし、その最大の問題は、発生する個々の商談の位置する領域が異なる一方でチームメンバーの営業能力もバラバラな場合が多いため、チームプレーや役割分担を、商談の個別状況にあわせて臨機応変に判断しながら柔軟に切り替えていかなければならないことにあります。一律的に対応方法や役割分担を決めても、スムーズにはいかないのです。

縦組織である営業担当者の活動場面が「4つの領域」のどこに位置しているのかを区分けすることは基本であり大事ですが、横組織の製品別テーマ別の問題解決方法に関しても、それがどの領域に属しているかをはっきり区分けして、その上で商談の個別状況にあわせたチーム連携をすすめることがより重要になってくるでしょう。

そこで、ここでは「マトリックス営業戦略、4つの領域」の考えをもとに新しい「マトリックス組織」のあり方について説明しましょう。この場合の横に設置する専門組織は、従来の単なる製品別組織とは違い、商談テーマの位置する領域(市場状況・商談場面)の違いと、縦ラインの営業保有能力の違いに合わせて、臨機応変にチームプレーのやり方を変えていく横プロジェクト組織と思って下さい。

 

P社の横プロジェクトチームの運営事例―

この領域でチーム連携を成功させているP社の事例を紹介しましょう。

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P社は大手電子部品機器・設備メーカーをユーザーとして、自社オリジナルを中心とした独自な特殊精密部品を供給するエンジニアリング部品メーカーです。ここ数年、対象ユーザー業界の不況のあおりを受け、競争関係はますます激しくなっています。

そこでP社では、既存分野において他社に負けない新製品の投入を図るとともに、周辺関連分野に対しても、新たな独自製品の投入によって、全体のシェアーアップを図る戦略をとりました。

 

―新製品の市場浸透が進まない―

当初、従来型の拠点単位の縦組織のままそれぞれの新製品を投入したのですが、なかなか市場への浸透が図れません。その原因の一つは、いずれの新製品であってもエンジニア対応領域の商品であるため、販売に当たって専門の技術知識や技能を必要とされるのですが、あまりに多くの新製品を一度期に投入したため、営業マンがそうした知識や技能をすぐには身につけることが難しかったからです。

 今一つの原因は、新製品と言っても事業展開のステージ(進行場面)が異なるため、営業拠点現場で、商品分野や状況にあわせて営業のやり方をメリハリよく切り替えることができなかったこともあげられるでしょう。

その結果、既存分野の改良品については、代替需要の切り替え中心ですからどうにか市場への浸透を進めることが出来ましたが、周辺分野の新製品については、革新的なものでありながら、なかなか営業活動が進んでいかず手詰まりになってしまったのです。

 

―新製品分野ごとの横プロジェクトの発進―

そこで、P社では統括リーダーを社長にした新製品分野毎の横プロジェクト部隊(チーム)を編成することにしました。部隊と言っても、一つの分野に営業拠点より引き抜いた選りすぐりの中堅営業マン一名から三名程度のチームの集まりです。その彼らが販促企画から企画提案書、資料等のマニュアル・ツールづくり、さらには実際の商談の営業支援まで行い、新製品分野の立ち上げから浸透・定着までといった事業展開のそれぞれの場面にあわせた推進の役割を担うことになりました。また販売目標については、横プロジェクト部隊と縦の拠点営業部隊の両方が責任をもち、お互いが協力して成果を上げていけるようにしました。

新製品分野の事業展開にあわせてその製品の位置づけが「4つの領域」を動いていくことになりますが、その動きにあわせて横プロジェクト部隊の役割と拠点営業部隊の役割を柔軟に変えていくことが、個の縦横の組織を運営していく重要なポイントになります。

 P社はこの横プロジェクト部隊発足後、6カ月を過ぎたころから各新製品分野の立ち上げから市場浸透に成功し、他社が低迷を続ける中で、新たな成長軌道に乗せることが出来たのです。現在もこの横プロジェクト部隊が、営業推進の原動力になっているのです。

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―事業展開にあわせたプロジェクトの役割―

では、この横プロジェクト部隊の、事業展開にあわせた役割の違いについて説明しましょう。

新分野立ち上げに当たっては、まずハイスピード対応領域のラインスタッフの役割を担います。新製品分野の開発に立ちあいながら、ターゲットユーザー層を選定し、その層へ向けた鮮明な訴求点を明確にしていきます。そして事業展開計画と大スケジュールを組み、販売促進や広告宣伝の企画まで行います。場合によれば、横プロジェクトメンバー自身が事前の拠点営業担当者を集めて、販売研修のトレーナー役を務めることもあるでしょう。

 実際の営業活動のスタートに当たっては、まず具体的なモデルユーザーをリストアップし、そのユーザーを対象とするライン拠点営業と連携してアプローチをかけていきます。この場合、商談のスタート段階である『ハイスピード対応』の商談場面、つまり既存ユーザーに対する新分野製品の初回提案からキーマンを見つけ出し、次回キーマン面談までのお膳立てまではできるだけライン拠点営業マンに行ってもらいます。しかし商談の中で最も重要な場面である「パートナーシップ対応」場面から「エンジニア対応」場面においては、横プロジェクト部隊の営業マンが前面に立ち、主体となって商談を成功に導いていくのです。

ここまでが、第一ステージです。(立ち上げ期)

 第二ステージ(市場浸透期)になると、商談の領域全体がハイスピード対応に移行します。そこでモデルユーザーの成功事例ノウハウを持って、全国市場のターゲットユーザーを対象とした具体的な販売計画を立てることになります。実際に主体的に動くのはライン拠点営業部隊ですが、横プロジェクトがリードして新分野の販売計画と営業活動計画を全拠点に作ってもらい、その全体計画を横プロジェクトがまとめていきます。縦、横のお互いのセクション・部隊が、販売計画に責任を負うのです。

 そして横プロジェクトとしては、ライン拠点だけでは実行が難しい展示会や説明会のためのツールや仕組みを標準化して効率的に進めてもらえるようにします。また実際の各ユーザーでの展示会実施に当たっては、自分達も講師になったりして、どんどん実行支援を行っていきます。一方各拠点での成功事例、失敗事例、各ユーザー業界の動き、競合の動きと対処方法などの営業情報を収集し、全社全体に共有化させていくのもこの横プロジェクトの役割です。

 他方でライン拠点営業部隊は、横プロジェクトの支援は受けるものの、営業の主体はあくまで自分達であるとの自覚をもって、各エリアのターゲットユーザーへの商談を積極的に進めていくことになります。はじめは「パートナーシップ対応」を横プロジェクトにお願いしていたものの、この第二ステージになればお客様を説得し、巻き込むまでの商談もライン拠点側の役割となるでしょう。そして『エンジニア対応』の商談場面においても、縦ラインが中心となって横プロジェクト部隊や社内外の専門技術部隊との連携プレーをコーディネートしていくわけです。

 第一ステージと第二ステージでは商談全体の主体者がはっきり入れ替わることになるのです。

 

これが第三ステージ(定着期)になると、営業活動についてはほぼすべてライン拠点営業の役割となり、横プロジェクトによる現場営業支援としては、せいぜい大型ユーザ―に対しての『エンジニア対応』の商談場面でのサポートに徹することぐらいになるでしょう。但し、全社的な現場の営業状況はしっかり押さえておかなければなりません。

 ここで製品分野別の戦略的な方向は二つに分かれます。さらに新分野での開発を進めて独自専門性を高めるべく、ユーザー現場でのより突っ込んだ『エンジニア対応』をしていくのか。あるいはさらに市場シェアーを徹底して取りに行き、次のステージである「コストダウン対応」領域での圧倒的な勝利をめざすのかです。

 

―高シェア―確保、価格対抗期での横プロジェクトの役割―

 後者のコストダウン対応領域での勝利を目指すのでしたら、高シェア―のうちに大きく戦略転換を行い、高利益率確保政策から低利益率の低価格市場占有政策にはっきり切り替え、他社を一気に市場から蹴落としていくべきでしょう。

こうした戦略的な政策転換の判断は、刻々と変化していく現場の営業状況を全社的におさえている横プロジェクトの役割です。決して一営業拠点長や担当者の判断でなされることはないですし、もしなされたとしたなら、全社的な戦略の混乱がおこることは必定でしょう。(転換期)

このように、製品分野別横プロジェクト部隊と言っても、新製品分野の事業展開のステージによって、その役割をはっきり変えながら推進をはかっていくことになります。それが何より大事と思ってください。


(参考図表)

image30.Pshakmatorikusuyakuwaribuntanzu.gif

次に、その新製品分野の事業展開のステージの違い(位置する領域の違い)によって異なる、顧客アプローチのタイミングと営業方法の違いについて解説しましょう。日常的な営業活動にも必要ですが、横プロジェクトのチームプレーを考える場合に特に大事になるのです。

                                (次回へ)


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このページは、CBC総研が2012年6月16日 11:30に書いたブログ記事です。

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