今回は、経営コンサルタントの使い方について解説しましょう。
次の文章は、私が経営コンサルタントとして独立した後、40歳代はじめに『住友生命』の「NETWORK」と言う冊子に書いた文章を一部修正したものです。当時文章を書きながら、あらためて経営コンサルタントの本質的な役割を見定め、その覚悟をはっきりさせたことを覚えています。少々古い文章ですが、時代に関係なく当てはまる内容と思いますので、みなさんのご参考になれば幸いです。
―経営コンサルタントは、"ノルウェーのナマズ"―
―中堅・中小企業は総合コンサルタントを活用せよ―
―経営コンサルタントを活用するコツ―
―コンサルタントの力量と料金―
―経営者と経営コンサルタントは二人三脚―
―総合型と専門型を融合した、新しいコンサルティングスタイルを追求―
―今こそ「ノルウェーのナマズ」が求められている!?―
―経営コンサルタントは、"ノルウェーのナマズ"―
バブル経済がはじけ、景気の不透明感が増してきた。前年対比で減益にならない企業がめずらしい。これから企業経営者、受難の時代が来る。ここはじっくり腰を据えて、"経営コンサルタント"の手でも借りてみてはどうだろうか。うまく使いこなせば、思ってもいない成果が期待出来るはずである。
自己PRからはじまってしまったが、経営コンサルタントのことをよくご存じない方も多い。経営コンサルタントは、いわば"ノルウェーのナマズ"である。ミサワホームの三澤千代治社長(当時)の話によると、ノルウェーの漁師がイワシを獲って生簀に入れて港に持ち帰っても、そのままでは途中ですぐに死んでしまう。これでは高く売れない。ところが一匹ナマズを生簀に入れておくと、イワシは逃げまどい緊張して港まで生きているという。
つまり、同質な安定した組織は変化に耐えられずすぐに死んでしまうが、異質な刺激を与えつづける存在が組織内にあれば、常に緊張し、活性化されることになる。
会社も放っておけばすぐに同質化する。異質な刺激を意図的に作り出すのが経営コンサルタントの役割である。だからこのナマズを使う側の覚悟もまた大事と言うことになる。経営者としての自分の負担を少しでも軽くしたいとか、当たる宝くじを欲しがるように、必ず成功する方法を教えてくれるなどとはゆめゆめ思わないでほしい。
ナマズに経営は出来ないし、いわんや神様になれるわけもない。経営コンサルタントは「無責任」である。むしろ無責任だからこそ、濁りのない目で企業を見ることができ、しがらみのない身でなんでも支援出来る。だからいい仕事ができるのである。
(※イワシも必死だろうが、ナマズも必死である。経営コンサルタントも自己の存在価値を賭けて、"熱い思い"でお客様企業に感情移入して必死に頑張る。その熱い思いが社長はむろん、部下の社員の人達に伝わり、新たなチャレンジへの強い動機づけとなり、組織の革新につながるのである。)
―中堅・中小企業は総合コンサルタントを活用せよ―
経営コンサルタントには、総合型と専門型がある。前者は企業全体を総合的に見てどんな手を打つべきかを支援するコンサルタントであり、会社機能であれば経営企画室・社長室。野球に例えれば監督のサポート役と言ったところである。後者は企業の専門的な部門や特定のテーマ、例えば工場合理化、マーケティング、出店政策、人事評価制度等の推進を支援するコンサルタントであり、野球では投手コーチ、打撃コーチと言えよう。
チェーン展開している企業が、「うちの会社の経営課題は何か」と質問したなら、前者は出店政策を支える資金、財務体質からはじまり、出店戦略の内容、組織体制といった総論から焦点を絞るだろう。後者なら、自分の得意分野、例えば「従業員の教育」「チェーンオペレーション」「商品構成・管理」等の各論について実践的に答えるはずである。
だからコンサルタントに何を求めるのかを前提として、相手が総合型か専門型かを見極めてコンサルタントを選ぶべきである。どちらもそれぞれの役割があるわけで、両方のコンサルタントを上手く使いこなしている企業もある。
しかし中堅・中小企業は是非信頼できる総合コンサルタントを継続して雇われることをお勧めする。特に中小企業ほど社長個人のパワーと決断力だけで動いていることが多い。そうでなければ会社もこれまで成長しなかったことも現実であろう。しかし、不透明かつ変化の激しいこの時代に、社長一人の判断では立ち往生したり、とんでもない落とし穴に陥ることも考えられる。
また「俺についてこい」式の経営だけでは、人材は育ちにくい。会社を発展させるには社長個人の経営からお別れし、組織的な自律性を持って企業運営がなされるようにする。そのような仕組みを作り、人材を育成するにはやはり総合コンサルタントがうってつけである。
この場合の自律性とは、社員の考えで判断し行動し結果まで受け止めること、かつそうした動きが個々バラバラではなく、時にぶつかりあい、それがむしろ活性化につながり、組織全体として生き生きとしてくることを言う。経営コンサルタントが経営管理の仕組みを作ると同時に、「社長個人のために」から「会社のために」という錦の御旗を掲げる。そして「ノルウェーのナマズ」として、異質な刺激を与える。すると、これまで社内の立場を考え遠慮がちだった人達にも、自由で闊達な議論と行動が生まれてくる。はじめは少々無責任な意見やアイディアでもいい。それが一人一人の活性化につながり、さらに組織的な活性化へとつながっていくのだ。
一方企業規模が大きくなり、それなりの組織運営がなされ優秀な人材が集まり育つようになったら、総合コンサルタントの出番が少なくなる。組織内部にその機能を持つようになるからだ。むしろ専門コンサルタントが現場のてこいれとして活躍することになる。
ところが組織がさらに大きくなると、動脈硬化もおこる。大きくて部門も増えればコミュニケーションも途絶えがちだし、セクショナリズムも横行することだろう。とかく過去の栄光にすがって生きる人材が会社の上層部を形成し、自分の権威、権限に執着することだって十分あり得る。
こうなると経営トップもおいそれとは動かせなくなる。だから会社を大きく変革させるにはやはり総合コンサルタントが必要になってくる。経営トップのかわりに「会社のオンためには、○○すべし!」と一刀両断する。そんな出番を上手く作るのが、使い方の上手な経営トップと言えるだろう。
―経営コンサルタントを活用するコツ―
以下に通常のコンサルティングステップに合わせて、コンサルタントを活用するコツを簡単に説明したい。
①経営者・幹部との打ち合わせに基づく、コンサルティングテーマの決定
・はじめに相互理解を図り、自社の問題点を明確にしていく。実際に支援してくれるコンサルタントとじっくり打ち合わせること。テーマを出来るだけ具体的に詰めること。この際コンサルタントの力量を見抜く。また相性が悪いとうまくいかないことも覚えておきたい。
②テーマに基づく現状分析、調査と課題整理
・現状分析もせず支援に入るのはワンパターンコンサルタントと思ってよい。一流のコンサルタントなら、しつこく聞き込んでくるはずで、それに対して隠し事はダメ。胸襟を開き、本音で語らなければ表面的な対応しか期待できない。
③具体的なプロジェクト内容・体制・期限の決定
・プロジェクトのステップは具体的に詳細に打ち合わせる。特に担当者はできるだけ優秀で行動力のあるものを充てる。暇な上席幹部等を担当にすると、間違いなく失敗する。
④プロジェクトの事前準備と実行
・社内コンセンサスづくりが大事である。公の場を作り、経営者自らプロジェクトの意義を訴え、覚悟を示す。そして実行段階でも、適時介入することも必要である。
・一方コンサルタントの使い方だが、一般社員とは違うので、一回一回に具体的な目的を持って明確な役割と成果を求めること。たまに、社長の雑用係になってしまっているコンサルタントも見受けられるが、そうなったら失敗だ。
・成果の50%は経営者自身の覚悟と社内への信頼感。残りの50%のうち半分が担当者の力量と行動力、それと社内コンセンサスづくりがキーとなっているというのがコンサルタントとしての実感である。
―コンサルタントの力量と料金―
もちろんコンサルタントの力量は大事。しかし依頼する前に判断するのは難しい。営業マンの大ぶりな説得力やコンサルタント会社のブランドに幻惑されないこと。それに講演や書籍の内容と指導内容が全く異なる自称コンサルタントも多いので注意したい。
要はコンサルタントは個人技なので会社の名前や提案するパッケージだけで判断せず、その個人と内容をしっかりチェックすることだ。事前に突っ込んで話し合い、過去の成功事例や失敗事例を聞き出す。自社に合った具体的な意見とコメントを求める。はじめから一社に絞ることもない。色々なコンサルタントにアタックしてみることだ。
(相手がコンサルタント会社の場合、誰が実際に当社をコンサルティングしてくれるのかが重要だ。営業段階では、トップコンサルタントが出てきても、その後は見習いコンサルタントしか対応しなかったというケースも多いので、事前確認をしっかりするべきだろう。)
料金は一般的にも一人一日5万から50~60万円ぐらいまでかなり幅がある。必ずしも質に比例しているとは限らない。ネームバリューのあるところや、家賃の高い事務所のところはコストが高くなるのはやむをえない。私の偏見で言わせてもらえれば、リタイア後のボランティアのコンサルタント以外では最低で15万円~20万円は必要。それ以下では都内で事務所費用を賄うのは難しい。一日20万円から30万円が普通で、その範囲では質と期待成果で見極める。それ以上はちょっと高いかなといった感じである。
(※料金イメージは私のアバウトな感じですが、2012年現在に若干修正しました。)
経営コンサルタントは社員とは違う。彼らは常に成果を上げ続けなければならない。そのプレッシャーとノウハウの蓄積を考えれば、うまく使いこなせばお買い得となる。優秀であればあるほど忙しいはずだが、集中力でおぎなっているというのが実感だ。
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―経営者と経営コンサルタントは二人三脚―
最後に当社の仕事について述べよう。通常依頼される方は、「現状の経営に問題を感じて」といった漠然とした理由からと言う場合もあるが、やはり明確な理由の場合が多い。新製品を開発したので、新規提案や新規開拓を推進したい(が現状では出来ていない)。営業組織をよりシンプルに、かつ機動的に動けるようにしたい。評価制度を抜本的に見直したい。後継者にバトンタッチ出来る経営体制を早く築いておきたい。公開へ向けた組織体制や人材育成を強化したい等など。
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私達を上手く使いこなす経営者は、臨機応変に私達をおだてたり、プレッシャーを与えたりしながら、社内だけではうまくいかないことを進め、最後に成果をものにする。まさに二人三脚なわけだが、私達からするとむしろ経営者に教わっているというのが本音である。
現代は経営コンサルタントをはじめ、外部ブレーンをどれだけうまく使いこなしていけるかどうかが、まさに企業力の差になる時代ではないだろうか。
追伸:
―総合型と専門型を融合した、新しいコンサルティングスタイルを追求―
・この文書以降、日本経済の低迷がさらに深刻なものになる中、経営コンサルタントに求められる役割も、漠然と「会社を良くする」といったものから、「直接的に会社の業績を上げる」ウェートがより大きくなったよう思います。そこで私のコンサルティングのスタイルも、ここで述べているような総合型をベースにしながら、専門型特に具体的な『営業支援』を通して直接業績向上に貢献するやり方のウェートを大きくしていきました。
すなわち専門型と総合型を融合した新しいコンサルティングのスタイルです。
「営業現場から経営まで一貫した流れで支援する
(稀有な?)実践コンサルタント」
そこから現場発想にもかかわらずトータルな戦略展開まで一気通貫につながる『マトリックス営業戦略』の実践モデルが生まれたように思います。また『営業の目標管理と業績評価』『営業マイスター制度』と言ったテーマも、トータルな事業支援の一環として捉えた、独自な内容になっていると自負しています。
―今こそ「ノルウェーのナマズ」が求められている!?―
ところで、IT化が進む時代の流れの中で、一般的なコンサルティングの内容が、よりデジタル化しパッケージ型になっています。その方がコンサルティングが企業的な活動になっている現在、企業としてコンサルタントの人材不足に対応しやすいですし、クライアント企業様でもそのようなパッケージ型を求める傾向が強いよう思います。提供する側も受ける側もわかりやすく、お手軽になっている・・よう思いますが、それでは「ノルウェーのナマズ」は、もはやいらなくなったのか?
むしろますます同質化が進む日本においては、異質な刺激をあたえつづける「ノルウェーのナマズ」が今まで以上に求められているのではないか。私としては、いつまでも「ノルウェーのナマズ」でいたいと思うのですが・・。
皆さんはどうお考えでしょうか?
以上
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