2012年5月30日付け日経新聞の【経済教室】の記事
「ものづくり再生の視点(下)、戦う土俵、冷徹に見極めを(遠藤 功)」に、コメントをしたいと思います。
―コモディティ化したテレビ事業を選択した大手家電メーカーの失敗
・・大局的な時代の変化を見誤った!―
―戦略のミス以前に、企業文化と組織システムの要因が大きい!―
―今後の対策として・・『特化型事業』に狙いを定めるー
―なぜ、ダイキン工業だけが成功しているのか?・・
変化多様化市場を前提にした『事業展開戦略』の素晴らしさ-
―『領域複合化戦略』の典型的な事例―
―これからは、「お客様最前線での『すり合わせ』のノウハウを発揮する
ビジネスモデル」を目指せ!―
―コモディティ化したテレビ事業を選択した大手家電メーカーの失敗
・・大局的な時代の変化を見誤った!―
この記事では、日本の大手家電メーカーがテレビ事業で失敗したのは、テレビの市場がコモディティ化の様相を強めたことを見誤ったことにあり、土俵の選択のミスであると言っています。
「新興国を中心とする巨大需要の勃興は商品のコモディティ化を加速させる。新興国からは、巨大な母国市場に依拠して圧倒的規模を誇る『ジャイアントプレーヤー』が生まれてくる。その結果、世界的な供給過剰が価格破壊を招き、コモディティ化に一段と拍車がかかる。成長する汎用品市場は一見魅力的にみえるが、体力とコスト競争力に劣る日本勢にとって、単独で持続的な優位性を構築するのは困難と言わざるを得ない。」
さすがに説得力があり、ここまでは全くその通りと思います。そもそも家電さらにはテレビ分野と言う市場自体が成熟化している中で、「コストダウン対応領域」への移行は新興国だけでなく、いずれの国においても起こっています。それが新興国市場の勃興という新たな要素が加わることによって、さらに加速しているというのが実情でしょう。そこに圧倒的な競合プレーヤーの出現という供給側の環境の激変も起こっているということです。この新聞記事でも言われているように、こうした大局的な時代の変化を見誤ったら、事業が立ち至らなくなっても不思議ではない、と思います。
―戦略のミス以前に、企業文化と組織システムの要因が大きい!
(のではないか)―
以前のブログ(パナソニックとシャープ)でも書きましたが、客観的には誰にでもわかりそうなことが、当事者ではなかなか本心では理解できないということが、しばしばおこっています。戦略以前に、経営トップ幹部がそうした「市場が変化していること」を忘れ、見誤ってしまう企業文化や組織システムに、むしろ問題が大きいのではないでしょうか。
―今後の対策として・・『特化型事業』に狙いを定めるー
さて、記事では、「それでは、日本のものづくり企業がこれから選択すべき戦う土俵はどこか。2つの方向性が考えられる。」と言って「一つ目は、事業特性の変化を冷静に見極め、『規模型事業』ではなく、『特化型事業』に狙いを定めることである。特化型事業とは規模(スケール)以外の競争要因で優位性構築の可能性がある事業だ。独自技術やブランド、流通網、サービス等多様な差別化要素(戦略変数)が存在するため、独自のポジションを追求することができる。・・日本のメーカーでも、ダイキン工業は家電分野でエアコンに集中し、世界トップの座に上がり詰めた。エアコンは、省エネと室温安定を実現するインバーター等の独自技術により性能や品質の差別化が可能で、特化型事業の色彩が強い。・・安価な汎用品市場は・・戦略的な「住み分け」を進めている。」
としています。
―なぜ、ダイキン工業だけが成功しているのか?・・
変化多様化市場を前提にした『事業展開戦略』の素晴らしさ-
ここでいう『特化型事業』というのは、私の戦略バリエーション理論からすると「独自領域創造戦略」に近い考え方と思います。但し、少々異なる面もありそうなので、若干コメントしましょう。
確かにダイキン工業のこのところの躍進は素晴らしいのですが、エアコン分野で言えば、日本には日立や三菱重工、パナソニック等、技術的にも同等レベルの企業は多くあります。むしろダイキンは、そうした企業から比べると、日本ではブランド的には明らかに劣っていましたし、企業規模もかなり下回っていたよう思います。ではなぜ、これほどまでに差がついてしまったのでしょうか。
専業メーカーとしての強さ、と言った言い方も出来るでしょう。現井上会長のトップダウンでの戦略徹底度は、他の超大手名門企業とは大きな差があるよう思います。
但し、戦略の中身も大きく違うよう思えるのです。
一つはこの記事でも述べているように、「戦略的な土俵の見極めと土俵にあわせた戦い方のメリハリ」の違いです。はじめに高級品市場を狙い、次にその下のゾーンに降りてきて市場でのブランドの浸透を図り、最後の段階で下層のボリュームゾーンを狙うというステップをはっきり踏んでいることです。もちろんその都度作戦内容をその市場状況にあわせて柔軟に変更しています。
そのひとつひとつの作戦の中身以上に、私は『変化多様化』する現在の市場状況を的確に認識して、時間と空間のメリハリをつけた戦略を組み立てている。ここが素晴らしいと思います。まさに私の「マトリックス営業戦略」と相通じるよう思えるのです。
ですから、『独自領域創造戦略』というより、市場の変化多様化を前提にしたメリハリある『事業展開戦略』の素晴らしさと言っていいでしょう。
(※ちなみに、日経BP2012.5.28号
「世界の市場・中国、賃上げが内需を潤す」の記事で、
「広い国土の中国に格差が生じるのは歴史の必然で・・この格差を巧みに捉えて成長している企業の一つが日産自動車だ。同社の中国合弁会社、当風日産はまず豊かな沿岸部から販売店を設置。内陸部が豊かになり始めたタイミングに乗って、今度は内陸部に重点的に出店することでモータリゼーションの波をとらえることに成功した。」
と述べています。ここにも「市場の変化多様化を前提にしたメリハリある
『事業展開戦略』」の実践例を感じます。
海外市場では、この「市場の変化多様化を前提にしたメリハリある『事業展開戦略』が必須になってきていると言っていいのではないでしょうか。」 )
―『領域複合化戦略』の典型的な事例―
今一つの違いは、ダイキン工業は単に製品の強みだけで勝っているわけではなく、販売のノウハウにおいても、極めて高度でち密なものを構築していることにあると思います。実は私のコンサルティング先のお客様から、ダイキン工業の販売店向けの教育研修ツールを拝見させていただいたことがあります。その際、その内容のレベルの高さにコンサルタントとして、大変驚きました。他の大手企業のマニュアル類と比べると、販売店の営業担当がそのまま実践して成果が上がるまでになっており、実行管理までしっかり進められる仕組みになっていました。単なる代理店・販売店と言う関係を超えて、あたかもフランチャイズチェーンの従業員向け実践教育マニュアルのレベルにまでになっていたのです。私はそこにダイキン工業の(見えざる)強みを感じた次第です。私の想像ですが、多分中国市場においても、そうした販売現場での組織的な実践ノウハウの強みが如何なく発揮されていることと思います。
この点からは、以前の私のブログでも述べた、「『製品・技術的な強み』だけでなく、きめ細かな日本的な『販売・サービス』の強みをドッキングしてこそ、はじめて日本企業が海外市場で勝ち抜いていける」という『領域複合化戦略』の典型的な事例ではないかと思えるのです。
―これからは、「お客様最前線での『すり合わせ』のノウハウを発揮する
ビジネスモデル」を目指せ!―
さて話を戻して記事では、今一つの方向性として「完成品ではなく、部品や素材を戦う土俵として選択することである。・・優位性がある部品や素材であれば、どの完成品メーカーにも納入する可能性が広がり、実質的な覇権を握ることができる」と言っています。
しかし、このことはなかなか難しい。これも私が以前お手伝いしたグループ企業のことですが、世界でオンリーワンの技術を持って、かのアップルのI-Podの部品として採用されていたグループ企業があったのですが、その企業の収益性は決して高いものではなかったのです。結局、いくら差別的なものを提供したとしても、供給先はナンバーワン・オンリーワン企業としての強みを持って価格交渉を仕掛けてくるでしょう。それを跳ね返すだけの、市場価値のある独自部品や素材を開発しつづけると言うのは、現実的には至難なことではないでしょうか。
(※製品部品の差別性が強くなると、それを欲しがる企業はよほど高付加価値なブランド製品を構築できている企業に限られてきます。そうなれば、供給先が限られるため、交渉の場面では、不利になりやすいでしょう。そもそもエンドユーザーに市場の選択権が移行している現在、エンドユーザー市場に近い企業の方がより選択権を持ちやすく、有利な交渉を進められる傾向があるのです。)
希少資源は例外として、一般的な部品や素材では、結局製品メーカーとの下請け的な関係を脱することは出来ないため、その収益性においては限界が出てくることでしょう。
ですから、私は単なる部品や素材のメーカーでは、これからの日本企業は勝ち残っていけないよう思います。
繰り返しになりますが、そうした「製品・技術の強み」だけでない、『販売・サービス』まで含めた、お客様最前線での『すり合わせ』ノウハウを発揮するビジネスモデル」が何より重要になってくるのではないでしょうか。
以上
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