マトリックス営業戦略と営業組織(①前篇、②後編)
―軍隊型、サッカー型、野球型、工場型組織―
(※この文章は「マトリックス営業戦略、4つの領域」について、ご理解いただいていることを前提に作成しています。もし、ご理解されていない場合は、あらためて小生のブログ等で内容をご参照ください。)
―はじめに・・変化多様化に即した柔軟な組織編成を考える―
―「4つの領域」と営業組織の関係―
―商談展開にあわせたチームプレ―
―オーダーメード対応とレディメード対応の違いによる
組織編成のあり方の違い―
―4つの領域毎の組織編成のあり方―
◎ハイスピード対応領域:横一線「軍隊型」組織
―プレイングマネージャーの指揮のもと、機動的に動く横一線組織―
―ラインとスタッフの連携プレー―
―はじめに・・変化多様化に即した柔軟な組織編成を考える―
営業組織のあり方について、私の「こんな営業は今すぐやめろ!」「絶対に勝
つマトリックス営業」その他著書を参考に、一部修正して解説したいと思い
ます。
営業組織について解説した書籍は、数少ないものと思います。それも組織的なバリエーションまで解説したものは、皆無と言っていいでしょう。
しかし「市場の変化多様化」がますます進んでいる現在のビジネス環境下において、一つの組織体制のあり方だけでその状況変化に適応することは難しいことと思います。
これから解説する「マトリックス営業戦略、4つの領域」にあわせた「4つの組織編成」も、決してひとつだけの組織編成を取ればいいのではなく、臨機応変な組み合わせと運営が必要とされているよう思います。いわばシステム志向の発想での組織です。
ですので、一つ一つの組織のあり方は、戦略組織としてのモデルとして受け止めてもらえたらと思います。
ビジネス環境と戦略な中身によって、どのように組織とその運営方法を見直さなければならないか。その実践的なモデルと思って下さい。
―「4つの領域」と営業組織の関係―
組織は目的ではなく、目的を実現させるための手段です。ですから目的を実現させるやり方の違いによって、組織のあり方も変えなければなりません。そうしなければ目的をうまく達成出来ないことでしょう。
営業組織も「4つの領域」によって、その編成は大きく変えなければなりません。またスタートからゴールに至る営業場面の展開に沿って、組織の連携プレイもはっきり変えていくべきでしょう。特に市場が変化多様化する現在、営業担当者個人がメリハリよく営業のやり方を変えるだけでなく、営業組織やチームプレーのあり方も、柔軟に切り替えていくことが必要になっています。
分かりやすく考えていただくため、「4つの領域」をそこで求められる「4つの営業の役割の違い」と捉えて下さい。
『ハイスピード対応』領域では、スピーディーに市場のアプローチを賭けていく役割を担った『ハイスピード対応』型営業、「パートナーシップ対応」はお客様を説得し巻き込み、大きな決断を迫る役割を担った『パートナーシップ対応』型営業、『エンジニア対応』は、より専門技能を持ってお客様の問題解決を行い深くお客様と信頼関係を築く役割を担った『エンジニア対応』型営業、『コストダウン対応』は徹底的に効率化して合理的な対応をしていく役割を担った営業業務や顧客サービス部隊、が主役と言うことになります。
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参考図:
対象領域 主役となる営業メンバーとその役割
◎ハイスピード対応 ⇒ 一般営業担当(戦略的な単品商品中心に、ハイスピードで対応し、市場に一気に浸透させていく役割。)
◎パートナーシップ対応⇒ トップ営業担当(お客様、特にトップキーマンに大きな提案を投げかけ、大きな商談をものにする役割。トップ営業責任者・リーダーが多い。)
◎エンジニア対応 ⇒ 技術営業担当 (お客様の事情に深く入り込み、専門的な問題解決のコーディネートをする役割。技術者との連携を図る部分も多い。)
◎コストダウン対応 ⇒ 営業業務員 (日常的なお客様への受発注、問いあ
(サービス担当) わせ、メンテナンス等のサービス対応をより正確丁寧、効率的に行って、お客様満足を高めていく役割)
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この役割を、営業領域と言う空間と商談場面の展開と言う時間の経過にあてはめて、具体的に考えていきます。
―商談展開にあわせたチームプレ―
まず商談場面の展開という時間的な経過に焦点をあてるならば、それぞれの場面において参加するメンバーと主役が入れ替わるという、営業部隊のチームプレーのあり方が見えてくるでしょう。
すなわち、商談プロセスの基本ステップである、ハイスピード対応(営業担当)⇒パートナーシップ対応(トップ営業担当)⇒エンジニア対応(技術営業担当)⇒コストダウン対応(営業業務、サービス担当)と言う流れに沿って、状況変化に対応して動く柔軟なチームプレーです。
商談のスタートからゴールまでに関わるそれぞれ異なった役割の人達がチームを作り、その商談の流れに沿って4つの商談場面での主役が決まります。そして場面が転換する時に、主役が入れ替わり、バトンタッチのための連携プレーがなされるわけです。
たとえば、商談のスタート段階では『ハイスピード対応』の営業マンが標準提案書を持って、数多くの見込み客を一気にアプローチします。
そして、その見込み客の中で関心を持ってくれ、商談の可能性が高いと見込まれる客に絞り込まれたならば、次の段階では上位の決定権者のキーマンとの商談に持ち込むことになるでしょう。そこでは『ハイスピード対応』の営業マンではなく、「パートナーシップ対応」が出来る営業マンがキーマン説得に当たる方が、商談の成功確率は間違いなく上がるはずです。
そこでキーマンの決断が取れ了解を得たら、今度は高度な専門技能を持った技術者か技術営業が出てきて、営業マンとの二人三脚でより高いお客様満足の実現を目指します。そして最後は営業業務か顧客サービス担当が成約後の注文のやり取りなどをサポートすることになる。
このように、商談の場面展開に合わせて、役割の違う営業マンや関係者が主役をつなげていくということです。
(このプロセスは、「4つの領域の場面展開にあわせた商談プロセス」で述べました。)
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参考図:マトリックス営業戦略、「4つの領域」の場面展開としての 【商談プロセスの基本ストーリー】
・ハイスピード対応→パートナーシップ対応→エンジニア対応→コストダウン対応
―オーダーメード対応とレディメード対応の違いによる
組織編成のあり方の違い―
一方空間的に営業の位置する領域の違いに焦点を当てるならば、それぞれの領域毎の特性にあわせて、主役となるメンバーがより円滑に営業対応が出来るための、営業組織のあり方の違いが見えてきます。
はじめに、「マトリックス営業戦略、4つの領域」の横の軸の違いから確認しましょう。
提案して提供するものが、お客様の事情によりウェートを置いたオーダーメード対応なのか、商品にウェートを置いたレディメード対応なのかで、営業のやり方の根本的な違いがあるように、実は営業組織においても、オーダーメード対応とレディメード対応では、組織のあり方に根本的な違いがあるのです。
簡単に言ってしまうなら、オーダーメード対応であれば、「個別対応」によってお客様満足を実現(創造)させるのですから、ネットワーク型のチーム編成となります。そこでのキーワードは「アナログ」「柔軟な(異質な多様性のある)チーム」「状況判断対応」「創造性」といったことになるでしょう。
(製造業の組織では「セル生産方式(一人屋台生産方式)」に近い概念であり、生産のはじめから完成まで一人で行うため「一人一人の技能と知恵」がポイントです。)
一方レディメード対応であれば、規格化標準化でのお客様満足の実現と市場でのシェア―アップを目指すのですから、統制型の組織になります。キーワードは「デジタル」「一律な指揮管理」「効率・スピード」といったことになるでしょう。
(製造業の組織では「大量生産方式(コンベアー生産方式)」に近い概念であり、仕事の流れを単純作業に分解し、ラインの流れに沿って、多数の人が分担して組み立てて生産する方式です。人間はいわば標準作業をする「ロボット」、あるいは「ロボット」を管理する人」となります。)
前者が個々の力をネットワークによって最大限発揮させることを目的にした組織とするなら、後者はある最適な組織規模を持って、最大限のスピードと効率を発揮させる組織と言えるでしょう。
現在は、顧客満足の実現に向けて、創造・浸透・展開・衰退(徹底化)といったプロセスが回っているわけで、組織の形態も一方に偏ったものではなく時により両者が入れ替わったり、部分と全体が複合化し、融合化して新たなあり方を形成していくものと捉えるべきと思います。
―4つの領域毎の組織編成のあり方―
それではここで、オーダーメード対応とレディメード対応の違いを考慮しつつ、4つの領域毎に異なる営業組織編成のあり方について解説したいと思います。
・ハイスピード対応領域 :横一線「軍隊式」組織
・パートナーシップ対応領域 :柔軟な「サッカー型」チーム組織
・エンジニア対応領域 :マトリックスの「野球型」チーム組織
・コストダウン対応領域 :統制的な「工場型」組織
◎ハイスピード対応領域:横一線「軍隊型」組織
―プレイングマネージャーの指揮のもと、機動的に動く横一線組織―
・「新しい切り口」の商品サービスをもって、一気に市場にアプローチしていく『ハイスピード対応領域』の場合、営業のやり方を営業担当任せにするわけにはいかないでしょう。ターゲットとするお客様の条件をはっきりさせて、訴え方や商談方法も成功するやり方をパターン化し、出来るだけ標準化した形で、組織的に動けるようにすることがポイントです。
・そう考えるならば、組織的には命令によって動く、シンプルな縦型の軍隊式の体制を組むべきでしょう。
末端の営業担当者を横一線に並べる一方で、その上に彼らを統制しながら、その動きをとらえてきめ細かく実践的な指示とアドバイスを行うプレイングマネージャーを配置します。(営業所長か営業のチームリーダー)
ここでは現場の機動力が最も重要であり、いかに営業担当者が日々、量とスピードを持ってお客様にアプローチしていけるかどうかが問われることでしょう。また、いざという時には上に立つプレイングマネージャーがタイミングよく動いて、営業担当者を直接サポートしていくことも大事になります。
・商談のスピードは速く一日で決まる場合も多いですし、営業を取り巻く状況は刻一刻と変わっていきます。ですから状況変化に迅速に対応するため、毎日の朝礼ミーティングを通したコミュニケーションと営業担当者の帰社後の報告連絡相談や商談の中身まで踏み込んだレビューは鉄則です。
指示していたことを一週間たってチェックしてみたら、もう他社で決まっていて後の祭りなんてこともよくあるのです。プレイングマネージャーが部下の商談をサポートして、相手先の上位者との商談を仕掛けるにしても、一日単位でタイミングをつかむことが必要なのです。
・そして成功事例が出たなら、一気にそのやり方を全営業担当に伝え、他のお客様にも同じようなやり方で動けるようにするのも、プレイングマネージャーの重要な役割です。
・さらに、一週間単位では週間ミーティングを行うとともに、週間予定表によって行動目標を一日単位、行動スケジュールは一時間か30分単位で作成し、集中力を持った活動に追い込んでいくこと。そして3か月単位での業績評価といったことが、多くの営業部隊で取るべき組織運営方法と思います。
・何よりここでは、日・週・月・三カ月といった時間サイクル単位で、組織的にきちっとした動き方ができるようにすることが重要でしょう。
―ラインとスタッフの連携プレー―
・一方、そうした運営を現場の営業拠点だけに任せていては限界があります。そこで営業ラインのスタッフ部門やマーケティング部門を作り、そのメンバーが新製品発売等にあわせてターゲットの選定から鮮明な提案ストーリーの整理を行い、セールスツールやマニュアルを準備したり、実際の売り込みの実践訓練まで指導するのです。また、ハイスピードな営業を推進する展示会や説明会、さらには広告宣伝などの仕組みづくりとその実行支援も出来ればそのメンバーで進めていくべきでしょう。
こうしたラインとスタッフの緊密な連携プレーが、営業組織全体として、他社に先駆け一気に市場を押さえる機動力ある営業推進を可能とするはずです。
・実際訪問販売業の会社では、新製品を扱ったり、新しいエリアに進出する際には、事前に社内の優秀なメンバーが先発隊としてテスト的に営業活動を数カ月にわたって行い、そこで築いたノウハウから営業部隊を編成し直して、その後は一気に動いて成果をあげる、という方法をとっている場合が多いようです。
―営業業務、サポート活動の別セクション化―
・こうした『ハイスピード対応」の営業を実現するためは、営業マンの活動から営業業務の作業を全く切り離し、別のセクションでサポートできるようにしたいものです。それも拠点現場でどうしても対応しなければならない業務以外は、本社に吸収して一括して処理出来る体制を敷くようにすべきでしょう。この点は、どの領域の営業組織であってもそうありたいとも思いますが、特にこの『ハイスピード対応領域】では、商品サービスが標準化されているため、そうした一括処理がしやすい場合が多いのです。
続きは、後編で・・
以上
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