海外展開に求められる日本企業のあり方とは

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~海外こそ、市場は変化多様化している。だからこそ・・

  日本の「職人技のすり合わせ」を現地でトータルに展開しよう。~

 

<「『職人技』のすり合わせ」と「一般大衆向け」が日本の強み>という文章の続きです。


―前回の確認―   

―海外のビジネス展開に求められる日本企業のあり方とは―

参考:「営業の『成果の出る方程式』」

追伸:日経ビジネス記事「世界最強、日の丸2輪」について

―前回の確認―   

前回、北斎の浮世絵版画ビジネスから日本のビジネスの強みは「複数の『職人わざ』のすりあわせ」と「一般大衆向けにスピーディに提供していく新しい販売の仕組みづくり」(『領域複合化戦略』)にある。しかしその強みもそのままでは時間の経過と共に標準化モジュラー化してしまい、競争力を失うリスクが大きい。そのため開発や生産場面だけにとどまらず、お客様の現場である販売やアフターフォロ―の場面でも、その「『職人技のすりあわせ』のノウハウを発揮させるビジネスモデルをつくる」べきだ、と言う主旨のお話しをしました。

その上で、「ビジネスというのは、その企業がよって立つ国や地域の持つ文化特性や歴史的経緯に、深く影響を受けている。だから企業は自国の文化、風土、歴史といったものを踏まえて、自社の強みと今後の方向を見定めていかなければ、うまくいかない」とも述べました。

 

以上の話を受けて、これから海外企業との激烈な戦いを強いられる日本企業は、何を考慮し、どうあるべきなのか。あらためて整理してみたいと思います。国内でも海外企業との熾烈な戦いはあり得るものと思いますが、ここでは特に海外へのビジネス展開を想定して、そのポイントをまとめてみましょう。

(実は、私のお手伝いしているいくつかの企業様も、海外展開を今後の重点方針にされており、そうした企業様を想定しながら、まとめてみました。ご参考になれば幸いです。)

 

―海外のビジネス展開に求められる日本企業のあり方とは―

ここでも、文化や歴史的背景を考慮することになります。

 

①市場の見方を大きく変える必要がある。

1)国内市場であっても、世界市場とオープンにつながっている現実を直視する!

・市場がオープンかつグローバル化し、世界全体が一つの市場であるという見方が求められているよう思います。たとえ国内市場にあっても、国内企業だけでなく常に海外企業とも戦っていることを意識しなければなりません。他方で海外へのビジネス展開は、中堅中小企業であっても当然想定すべき戦略となってきています。

 

2)一方で、海外市場と国内市場との違いをしっかり認識した厳しい戦いを覚悟する!

・但し、国内市場は世界市場の中の一つのローカル市場にすぎないという見方も同時に必要でしょう。国内市場と海外市場がはっきり異なることを認識したいと思います。

その上で海外展開に当たって、あらためて自社の根源的な強みを確認した上、国内でのこれまでビジネスのあり方を今一度しっかり見直さなければならないということです。

・日本国内は、「住み分け理論」で成り立っている同質化競争の市場でした。市場もプレーヤーも限定していて、競争内容もおよそ予測がついたでしょう。ですから繊細な配慮は必要ですが戦いには余裕があったし、一方的な生きるか死ぬかの極端な戦いにはなりにくい世界であったと思います。ところが最近は急激な縮小市場が進む中、強力な海外企業も参入して来ています。その結果、以前と同様の同質化競争から抜け切れないために、全プレーヤーが絶滅の危機に瀕する業界も現れてきているよう思います。

・一方海外市場は広大な世界であり、そこには様々な特性をもった異質な空間が広がっています。また市場の変化多様化はより早くより激しいものと考えられるでしょう。その中でプレーヤーが無数に存在し、異質な者どおしが「勝つか負けるか」のはっきりした、生き残りを掛けた厳しい競争を繰り広げています。(過去の海外の戦争の歴史を見れば、そこでの殲滅戦のあまりの凄惨さに、日本人なら誰でも驚愕せざるおれないでしょう。進化論の「淘汰」があてはまる世界です。)

・だからたとえみなさんの会社が日本の特殊市場で勝ち組にはいっていても、その強みはそのままでは海外では通用しないと、思うべきでしょう。

・日本国内で、自社が対象とするカテゴリーで断トツ一番になる。(日本では、もはや一番しか生き残れない。ビジネスの世界では「住み分け理論」は崩壊し『オンリーワン』の戦いに突入していると思います。)その一番の強みを持って、新たな市場でのダントツ一番を求めて、海外に乗り出す。その覚悟が求められているよう思います。

 

②海外市場特有の、価格帯ポジション毎の競合関係をしっかり分析しておく必要がある。

・競合プレーヤーが多数存在する海外市場において、高価格帯の超富裕層市場においては、最高技術を誇る欧州や米国企業などの世界巨大企業との戦いになる場合が多いのではないでしょうか。

その世界企業が、はっきり専門的な最高技術を磨きあげ、唯一無二の(「エンジニア対応」から「パートナーシップ対応」領域にわたる)ハイパーブランドの戦略を徹底している場合、なかなか後発で勝つことは難しいことでしょう。

日本企業は下手をすると、中途半端な形のビジネスとなって、たとえニッチな市場で生き残ることは出来ても、ほとんど収益を生むことが出来ない貧相なビジネスで終わってしまう危険があるよう思います。(繰り返しますが、そもそも日本の文化的背景を背負った日本企業の多くは、限られた超高級市場で高収益を上げるビジネスモデルが不得意なんです。)

 

・一方、低価格帯のボトム市場では地元企業が徹底したコストダウン対応の戦いを仕掛けてくるのは目に見えています。そこで日本企業が勝つことはむずかしいのが現実です。

さらにそうしたコストダウン対応で参入してくる企業は、その後もう少し上の価格帯までを射程にいれた戦いをはじめる可能性も高いでしょう。なぜなら市場が発展することで、低価格層から中価格層へとボリュームゾーンの移行が進むため、その変化への対応が必然だからです。

つまり、海外での日本企業は、上と下の両方の価格帯から、強い競合に激しく攻めたてられることが容易に予測できるということです。

 

・では中価格帯の中間ボリュームゾーン市場はどうなのか。

まず中国、韓国の先進国企業を追いかける大手企業(サムスン等)が、コストプラス付加価値をつけた戦略を持って、圧倒的なパワーで攻めたててくるでしょう。家電やパソコン業界が典型例です。そこではダントツ一社しか生き残れない。

そうなれば日本企業としては、コストはイマイチだがより機能(付加価値?)をつけた製品で、多少ニッチな市場を求めて戦う作戦をとるしかなくなります。

しかしそれでコストを超える魅力を打ち出せて多くのお客様の支持を得られるのか?また、そうした製品は、すぐに真似されてしまういやすいはずで、それで差別化をいつまで維持できるのか?

中価格帯のボリュームゾーンでも、そのままでは勝ちパターンを見出すのは、かなり厳しいのではないかと思えるのです。

 

・ちょっと、悲観的な見方をしてしまいましたが、海外でのビジネス展開に当たっては、このように多面的で入念な競合対抗を検討しなければ、勝ち残っていけないことは確かでしょう。

 

 ③提供する商品サービスについて、単品志向からトータル志向に変える必要がある。そのための体制作りまで考える。

・何より海外市場での戦いの熾烈さを考えるならば、いくら『「職人技」のすり合わせ』の強みを発揮しても、単品商品の単発的な強みだけでは勝てないと、はっきり思うべきでしょう。

   ターゲットとする市場(お客様)に対してより深く太い面としての関係をつくっていくことが、なにより海外市場では必要だと、私には思えるのです。

  ・そう考えると、中心となる戦略的な商品の継続的な投入も大事ですが、それだけではなく、目的とするお客様満足の実現のために、ターゲットとするお客様層を明確にして、部品、設備、消耗品、導入アドバイスやサービス、アフターフォローまで含めた、トータルな品揃えを提供できる体制作りをしっかり進めていきたい。他社にない素晴らしいお客様満足をトータルな形で実現し継続化させていくための体制づくりです。

 

 ④外部企業連携や販売・アフターフォロ―の場面でも『領域複合化戦略』、すなわち日本的な強みである「『職人技のすり合わせ』ノウハウの磨きあげ」と「ハイスピード対応体制づくり」を目指すこと。

・そうした体制作りに当たっては、製品よりもお客様の立場に立った発想がより重要になります。お客様により満足して頂くためには、どのような商品特徴やサービスが必要になるかをトータルに考え、コーディネートしていこうという発想です。

自社にない専門的な強みを持った外部企業とのきめ細かな連携も大事になるでしょう。

・同様にお客様の最前線に立つ営業活動のあり方も抜本的に見直したいと思います。

すなわち、これまでのように「提案と売り込み」中心の活動ではなく、相手の「お客様の事情」に入り込み、その海外のお客様の事情にあった商品サービスを提供し、お客様に素晴らしい満足を実現していただくまでのサポートをしていく活動です。

そうした場面でも日本的な「職人技のすり合わせ」ノウハウを発揮出来るなら、独自な差別化になり得るはずです。海外の現地文化と日本の技のすりあわせです。

 ・一方、広い範囲を対象とする海外市場では、その活動を『ハイスピード対応』の販売体制として構築していくことも、あわせて大事になります。まさに『エンジニア対応』と『ハイスピード対応』を両立させた「領域複合化戦略」が求められているということです。

 

(※そのためには、部分的な活動ではなく、徹底した現地化が必要と思います。中小企業であれば、自社の未来を賭けてトップ或いは次のトップ自らが、海外展開を指揮しなければならないでしょう。)

 

・単なるノウハウのマニュアル化だけでなく、ノウハウを普及させ向上させていく「教育訓練の仕組み作り」や「情報共有化と成功ノウハウの共有・横展開の体制づくり」。さらには営業に携わる人達に広く職人芸を磨きあげてもらうための「動機づけの仕組み」も必要になるでしょう。

(※そうした体系的な制度作りのひとつとして、私は『営業マイスター制度』を考えています。参照:ブログ『営業マイスター制度構築のお勧め』)

 

 ⑤海外市場の特性として、『変化多様化』に即応できる体制と運営方法を築き上げること

  ・最後に言いたいことは、市場の変化多様化です。それも製品の多様化や陳腐化スピードだけでなく、市場自体の多様化と変化のスピードが海外市場では格段に大きいということです。その変化多様化にしっかり対応出来なければ、海外市場では勝ち残ってはいけないよう感じています。時間軸と空間軸をしっかり捉え直すことです。

 

ではそのための対策として、どのようなことを考えなければならないか。

国内市場以上に、以下のことが大事になってくるよう思います。

 

1)市場の変化多様化に振りまわされない、自社のアイデンティティを鮮明にして、明確なポリシーを打ち出す。

 ・あらためて自社の根源的な強みを確認し、それをコンセプトとポリシーに表現して、多様な従業員、お客様、周囲の関係する人や企業へ向けて、はっきり打ち出す。

  コンセプトのストーリーは、"山川式三段論法ストーリー"で作成できるでしょう。

    ⇒自社の(競合に比べた)どんな独自な強みを持って

    ⇒(海外の現地での)どんな事情のお客様に

    ⇒どんな、いままでにない、素晴らしい満足を実現したいのか

     (何のために、海外で事業を行うのか。

                  自社の海外での存在意義は何か。)

・そうした自社のコンセプトとポリシーこそ、変化多様化する市場において、迷いや不安に抗して、自分達に「自信と信念」を与えてくれるものと思います。

 

2)世界市場をトータルに分析した上で、ターゲットとする市場の優先順位をつけ、その市場の特性を踏まえた戦略を立てる。

 ・どんな具体的な顧客層を対象とするのか、をはっきりさせ、常に意識する。

海外の変化多様化が進む市場では、特に重要になるはずです。もちろんその国、地域の文化、生活事情や習慣、ビジネス環境を具体的に捉えていくことは極めて重要でしょう。

・その上で中長期プラン(ロードマップ)を立てて、ステップを踏んで着実に足場を築き、自社のポジションを上げていく明確な道筋をつくる。

・そうした基本ステップをしっかり踏んだ海外展開の戦略を立てる。変化多様化するからこそ、基本にのっとった戦略や作戦の立て方が大事になるよう思います。

 

3)市場の変化と競合動向等を踏まえて、常にリスクとチャンスをはっきり意識した対策をあらかじめ準備しておき、臨機応変に対応出来るようにする。

  例:市場の変化  →・急激な市場の拡大とそのチャンス・リスク

            ・バブル発生等のリスク

            ・顧客の変化(嗜好、行動特性、属性構成・・)

            ・不動産資産、人件費などの上昇圧力

                  (コストアップ要因・・)              ・行政等の対応の変化、その他経営リスクの発生・・

    競合他社動向 →・下位マーケットからの参入とコスト競争の動向

            ・デジタル化モジュラー化の動向と技術動向

            ・上位競合からの包括ユニット化の動向・・

            ・外部連合化の進展による競争状態の変化

 ・チャンスとリスクはMAX、MINで極端に考えます。極端に考えるからこそ、イメージが鮮明になり、対策もはっきり考えることが出来ます。また、実際にそうした状況になっても、すぐに対応出来ることになります。

 

4)市場の変化多様化がすぐ捉えられ、臨機応変に即対応出来る柔軟な営業体制を作る。そのためにも多様化した人材を集め、自由闊達でコミュニケーションの豊かな組織風土を作っていく。

 ・結局、最後は人がすべて。その人を変化多様化する市場で活躍してもらえるように設計し運営していくか。型にはまった形では難しいでしょう。明るく元気、自由闊達がより大事と思います。(こうした海外展開にあたっての改革は、硬直した日本国内の組織風土や運営方法の改革にもつながるでしょう。ブーメラン効果です。)

            

  5)変化多様化する市場にあわせた戦略発想とその組み立て方を組織全員の共通のノウハウとして浸透させておく。

(チーム、組織全体での戦略パターンの構築と共有化)

   ・「マトリックス営業戦略」は、海外展開において、変化多様化する市場での事業戦略や臨機応変な作戦を考える上での、有効なモデルとなるでしょう。但し、実行し成果を上げるためには、そこで考えた戦略パターンを組織的に共有することが何より大事になります。

    戦略や作戦パターンは、みんなで検討し実践訓練をしておきたいと思います。

 ・その場合、プロセスと役割分担が重要になります。作戦や対策をしっかりしたプロセスを持って、チームで進めていくのです。

 

以上のポイントを整理していくと、(私の考案した)「営業の『成果の出る方

式」の各項目に、ぴったり当てはまっていることに気がつきました。海外市

場を対象にした新しい事業展開であるからこそ、事業の戦略作戦の基本に立ち

戻ることがなにより大事になると思います。

 

参考:「営業の『成果の出る方程式』」

「自信と信念」×「土俵」×「攻め方」×「攻める量」×「意欲」

  「自信と信念」・・・自社の強み・こだわり。事業コンセプト

「土俵」   ・・・ターゲットとする顧客・商品分野、

       STP(セグメンテーション、ターゲッティング、ポジショニング)

  「攻め方」  ・・・プロセス、成功ポイント、仕掛け仕組み、

チームプレー、競合対抗、

  「攻める量」 ・・・スケジュール、計画管理、

  「意欲」   ・・・モチベーション、コミュニケーション、情報共有、評価、成功事例の横展開

 

日本の企業が海外展開に当たって検討すべきことは、まだまだいろいろあるよう思い

ます。今後も、『これからの日本企業のビジネスのあり方』を考える一環として、ブ

ログにその内容を載せていきたいと思っています。

 

追伸:日経ビジネス記事「世界最強、日の丸2輪」について

以上のような文章を書いていたところ、日経ビジネス20123月19日号

「世界最強、日の丸2輪」<「5つの現地化」で、新興国制圧>という特集

が目に入ってきました。私が述べていた内容と、かなりの部分で重なってお

り、正直驚きました。

記事によると、インドネシアではホンダとヤマハで2輪車のシェアーは9

0%超あり、圧倒的な強さを発揮しているそうです。そして記事では日本の

2輪車産業は今でも世界最強であると述べていますが、そこから日本企業の

海外展開の成功パターンを「5つの現地化」(開発、生産、購買、販売・サー

ビス、マーケティング)という視点で解説しています。

そこで注目するのは、2輪各社が東南アジアで最初に取り組んだのは、「販売と

フターサービス」だったということ。まさに「海外展開に当たって販売やアフタ

フォロ―の場面でも、その『職人技のすりあわせ』のノウハウを発揮させるビジネス

モデルをつくるべきだ」と言う私の主張と一致しています。

それからの話も面白い。「日本を反面教師にシンプルな販売網を作った(ホ

ンダ)」「ホンダが卸機能をもち、販売店に直接(部品)を届ける。故障の多

い新興国の事情にあわせ、どこの店舗でも修理を受けられるなど、サービス

体制は日本よりきめ細かい」とのことです。まさに我が意を得たりです。

「さらに生産も最終組み立てや完成検査の工程は手作業・・。そのため工程は徹底し

て標準化。・・生産と開発の現地化が快進撃の2つ目の鍵。」一方、「電子化が進んで

きたとはいえ、2輪車はアナログ製品。運転した感覚や乗り心地・・を決めるのは・・

開発段階での素材の選択や生産工程での溶接や組み立ての技術。現地に開発と生産技

術を移管すれば、開発と生産が一体となった作り込みの作業も現地で完結する」

これも開発と生産の複数の「職人技のすり合わせ」ノウハウの発揮と言えるでしょう。

さらにマーケティングも現地化を進めているという話が出ていました。

 

5つの現地化」は、まさに日本の「複数の職人技のすり合わせ」ノウハウと「『一般

大衆向けハイスピード対応』の仕組み作り」を、海外現地でトータルに行うことの格

好の事例と思いました。


 CBC総研のホームページ




 

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このブログ記事について

このページは、CBC総研が2012年3月24日 12:44に書いたブログ記事です。

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