「【職人技】のすりあわせ」と 【一般大衆向け】が日本企業の強み

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今回はNHKの「歴史ヒストリア」という番組で紹介された「葛飾北斎」の浮世絵版画のビジネスが、日本のビジネスの特徴と強みを表しているというお話しから始めたいと思います。


―「浮世絵版画」のビジネスは、日本の強いビジネスモデルの典型例だ!―

  【職人芸】と【一般大衆向け】をあわせた『領域複合化戦略』図

―強いビジネスモデルは、国や地域の文化、歴史的な背景に

大きな影響を受けている―

―日本の強みを進化させよ!―

~製品の開発・生産だけでなく、

販売・アフターフォロ―まで【すり合わせ】の強みを発揮する~

―「浮世絵版画」のビジネスは、日本の強いビジネスモデルの典型例だ!―

先日NHKの「歴史ヒストリア」という番組で、海外では「葛飾北斎」の『富嶽百景』は、レオナルド・ダ・ビンチの『モナリザ』にも比するほどの評価を受けていると伝えていました。

『へえー、そうなんだ』と驚いたのですが、そこであらためて思ったのは、江戸時代の『浮世絵版画』のビジネスは、日本のビジネスモデルの強さと特徴が端的に表れているのではないかということです。

 

私の『マトリックス営業戦略、4つの領域』にあてはめると、『浮世絵版画』のビジネスは、『エンジニア対応』領域から『ハイスピード対応』領域に横断して位置しており、異なる領域を組み合わせた『領域複合化戦略』にぴったり当てはまっているよう思います。

すなわち、高度な専門技能をもった複数の職人(絵師、彫師、摺り師)がきめ細かく「すりあわせ」ながら連携することにより(エンジニア対応)、浮世絵版画という魅力ある製品を作りあげ、それを一般大衆向けの廉価な商品として広く提供する(ハイスピード対応)というビジネスモデルです。

高度な技術技能を発揮しているものの、決して超富裕層対象のハイパーブランドとして個別販売(パートナーシップ対応)した訳ではありません。また、単に価格競争的な売り方(コストダウン対応)でもない。

どうも日本人のビジネスは、「職人技」プラス「一般大衆向け」というキーワードがピッタリ似合う気がします。

それもバラバラではなく、複合技能のすり合わせと、一気に広めていく独自な販売方式との連携プレーという戦略的なストーリーがつくれるならば、とても強いビジネスモデルになると思えるのです。


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参考:「『マトリックス営業戦略、4つの領域』の戦略バリエーション」より

『領域複合化(包括化)戦略』とは

・市場の成熟化がどんどん進んでいる現在、一つの領域にフィットした戦略だけでは、他社との差別化を図るのは容易ではない。領域にあわせた戦いをしっかり整えるのはもちろんのこと、メイン領域を一つに限定せず、複数の領域をつなぎ合わせた複合的な戦略を組み立てること。そのことで自社独自のビジネスモデルを構築することが可能となる。特に、アナログとデジタルの相反する特性を持った事業活動を両立させ、さらには融合させたビジネスモデルが、これから新たに求められているよう思われる。

日本の文化特性からは、とくに『エンジニア対応領域』から『ハイスピード対応領域』を融合した事業モデルが比較的考えやすいだろう。

 

またお客様との関係ステップをとらえて、そのスタートからゴールまでの総合的な品揃えをおこない、お客様との包括的かつ継続的な関係づくりを目指すトータル戦略も考えられる。

例えば、一人のお客様に対して、単品的な戦略商品提案から始まり、大型総合提案、技術サポートメンテナンス、消耗品の包括契約といった流れを作ったビジネスモデルである。

 例:楽天、キーエンス、トータル提案営業、(料金フリ―ビジネス)

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※その他の戦略バリエーション(『先手必勝戦略」「領域最適化戦略」「独自領域創造戦略」『(メリハリ付けた)事業展開戦略』)については、今後の山川ブログの「マトリックス営業戦略の『戦略バリエーション』」を参照下さい。

 

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―強いビジネスモデルは、

国や地域の文化、歴史的な背景に大きな影響を受けている―

それでは日本と他国のビジネスのあり方はどう違うのでしょうか。

エルメス、フェラーリ、ロールスロイスといったハイパーブランドのビジネスは、西欧の王侯貴族文化の下地があってこそ、そのノウハウが磨かれて来たよう思います。ごく限られた超富裕層に向け贅の限りを尽くした奢侈品を作って提供する。それだけ職人も尊敬と共に大きな富を得ることが出来ます。フランス、イタリアの宮殿やお城の絢爛豪華さを見るなら、日本との違いは一目瞭然でしょう。

一方日本では、例えば江戸時代を振り返るなら、お殿様や超富裕層といえども質素倹約を旨とし、いわば「わびさび」の世界の価値観が世の中全体に浸透していたよう思います。ですから素晴らしい技術を持った職人が大衆的な評判を得ることはあっても、社会的な名声や尊敬を得ることはそれほどになかったように思います。もちろん、大きな富を得ることはありませんでした。

(確かに「北斎」も、有名だけど海外ほど日本国内では評価されていないですね。大金持ちとは程遠い生活だったようですし・・。)

そうした日本の文化特性が、今の日本のビジネスのあり方に大きな影響を与えているよう思います。

日本人によるハイパーブランドのビジネス成功例はこれまでほとんど聞いたことがありませんし、もしあっても、ごくごく限られた個人的な範囲や規模でしかないでしょう。

 

一方徹底したコストダウンによる価格競争の戦いについては、戦前から戦後の一時期まで日本のお家芸の様に言われていました。それが高度成長を経て日本がもはや裕福な国になってしまって以降は、連戦連敗と言っていい状況です。中国や韓国といった、ようやく貧困状態から抜け出して必死に先進諸国を追いかけている国々の企業に対して、日本の企業がコスト競争で勝っていくのはほとんど不可能と言っていいかもしれません。

彼らは日本などの裕福な国が開発し生産した製品を、いかに安く作るかに命を掛けている、と言っても言い過ぎではないでしょう。その上に最近ではデザイン等の付加価値を上乗せしていくノウハウを磨いています。コスト競争力をベースにしてプラス付加価値をつける戦略です。

扱い製品がハイスピード対応領域からコストダウン対応領域に移行すればするほど、日本企業は不利な戦いを強いられているのが現実です。それが最近ではハイスピード対応領域を中心とするビジネスにも及びつつあるのではないでしょうか。日本の製造業の苦境は、単に円高だけの問題ではないよう思います。

 

(尚、日本の家電業界が苦境に陥っている理由としては、家電製品のデジタル化、「モジュール化」がよく挙げられます。「モジュール化」とは、複雑な構造の製品でもモジュールといわれる部品にわけて設計し、分業によって迅速に開発・生産を進める方法のことを言います。韓国や中国の大手家電メーカーはその「モジュール化」のノウハウを取り込むことによって、開発生産での競争力を高めたと言われています。

その文脈にあわせて言うなら、日本の家電メーカーは新しい「モジュール化」という手法を生み出すことには長けていたが、その「モジュール化」を活用して、他社を圧倒するまでの競争力をつけることには、中国や韓国の大手メーカーに比べ、明らかに劣っていたということでしょう。)

 

ビジネスというのは、その企業がよって立つ国や地域の持つ文化特性や歴史的経緯に、深く影響を受けているのです。、ですから企業は自国の文化、風土、歴史といったものを踏まえて、自社の強みと今後の方向を見定めていかなければ、うまくいかない、ということです。

特に、日本の多くの優良企業が海外展開を次の発展のための絶対条件に考えている現在、他国企業に対する差別化という点で、日本の文化・風土・歴史的な背景をしっかり理解しておくことはとても大事になってくるでしょう。

繰り返しますが、日本の強みは「複数の『職人わざ』のすりあわせ」と「一般大衆向けにスピーディに提供していく新しい販売の仕組みづくり」にある、ということです。

 

―日本の強みを進化させよ!―

~製品の開発・生産だけでなく、販売・アフターフォロ―まで【すり合わせ】の強みを発揮する~

 

では、その強みは今どうなのか、という点ですが、ここにきて課題がはっきりしてきているよう思います。

それは、先ほどの説明にあったように「複数の『職人わざ』のすりあわせ」も、時間の経過によって「モジュール化」していってしまいやすいこと。一方「一般大衆向けにスピーディに提供していく新しい販売の仕組みづくり」については、そのままではすぐに真似されてしまい、差別化が難しいことです。つまり『領域複合化戦略」によって、一時他社との差別化を図って優位な戦いを進められたとしても、このままでは時間の経過によって競合他社にキャッチアップされ、その次のステップでは、競合トップによる圧倒的な意思決定力によって、一気に引き離されてしまう危険があるということです。結局、日本の電機メーカーが負けた理由と同様のことが、どの業界にも考えられるのです。

 

ではどうすればいいのか。

「職人技のすりあわせ」のノウハウを開発や生産場面だけにとどまらず、お客様の現場である販売やアフターフォロ―の場面でも発揮させるビジネスモデルをつくる。それが、これからの日本企業が海外企業に勝ち抜くために必要なことだと私には思えるのです。

結局、製品だけでは、いくら技術技能のすりあわせをしても、標準化の方向へ変化していかざるおれないでしょう。それは日本のビジネスモデルが、「一般大衆向け」であることとも深く関係しているよう思います。つまり「大衆化」させるためには、結局「標準化」が不可欠だからです。

一方「お客様の現場」は、つねにアナログであり、そこに立ち戻るならば、かならず専門ノウハウの【すり合わせ】は必要になる。さらに、そこにこそ新たな「創造」の源があるのです。

ですから、私としては、日本の企業は海外企業に勝ち抜いていくために、「お客様の現場」である販売とアフターフォロ―の場面での、日本的な【すり合わせ】によるお客様満足の創造を実現するようなビジネスモデルを目指してほしいと思います。

そしてそのノウハウをマニュアルとして標準化するだけでなく、持続的に磨いていく『仕組み』をつくる。それこそ、まさに日本の強みを永続的に発揮できるモデルではないでしょうか。

 

尚、この方法論の具体的なやり方の話については、次の機会に譲りましょう。

 

(※尚、そのような販売の【すり合わせ】ノウハウを整備し蓄積向上させていく『仕組み』の一つとして、私は『営業マイスター制度』を考えています。ブログ「『営業マイスター制度』構築のお勧め」を参照下さい。

  ・「営業マイスター制度」とは、営業現場での「お客様満足」を尺度とした技能 検定制度。5段階程度を想定し、最高資格にはレジェンドマイスターの称号を与えることで、その技能の普及と向上を図ることを目的にする。)

 

―海外のビジネス展開に求められる日本企業のあり方とは―

それでは以上の話から、これから海外企業との激烈な戦いを強いられる日本企業は、何を考慮し、どうあるべきなのか。・・

話が少々長くなりましたので、そのポイントは次回に考えてみたいと思います。


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このページは、CBC総研が2012年3月15日 10:52に書いたブログ記事です。

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