日経新聞記事、転機の企業収益「デジタル革命、家電崩す」コメント

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   ~市場の変化多様化を味方につける戦略モデル~

 

今回は、少々遅くなりましたが、日経新聞2012217日付け"転機の企業収益、迫られる構造改革、"「デジタル革命、家電崩す」の記事について、コメントしたいと思います。

―「市場の変化多様化」を実感するのは難しい!―

―『市場の変化多様化を味方につける理論モデル』の必要性―

―マトリックス戦略モデルから領域の変化を予測し、

先手で戦略対策を打つ!―

追伸:ディファクトを取るには、やはり「デジタル」が大事?

―記事の内容―

この記事では、ソニー、パナソニック、シャープといった日本の大手家電メーカーの巨額損失の業績見通しをうけて、その凋落の一番の原因を「モノづくりのデジタル化」と捉えています。

曰く「21世紀に入って急激に進んだデジタル化は、電気製品作りの多くの部分を数値データに置き換えた。熟練の技、繊細な技術といった日本企業の強みも数値情報に直せば、他社の参入は容易になり、品質に大きな差はなくなる。」とのことです。

一方、「専用部品で構成され、組み立てにもノウハウがある自動車は、製造技術のデジタルが進む液晶とは違う」と言い、「『アナログ』部分を持ち、それを磨くことで強みを維持する」ことが、これからの日本企業には、必要ではないかと言っています。

『アナログ』と『デジタル』というキーワードで、日本の製造業の盛衰とこれからの在り方を分かりやすく説明しているよう思います。

 

―「市場の変化多様化」を実感するのは難しい!―

ただ、こうした内容は、今はじめて言われたことではなく、かれこれ10数年前から指摘されてきたことで、日本の最優秀企業のトップや幹部が知らないはずが無いとも思えるのです。

ではなぜ、こうした大きな戦略ミスを犯してしまうのか。

それはちょっと単純な言い方になりますが、「市場は変化多様化している。その市場にあわせた戦略を取らなければ、勝ち残っていけない!」ということを言葉では理解できても、実感としてわかって自社の戦略にあてはめて考えることが、すこぶる難しいからではないでしょうか。

大企業のトップや幹部の皆さんの大半は、現在50代から60代です。みなさんが30代や40代の時は、きっと家電はすこぶるアナログ的な要素の強い"熟練の技、繊細な技術"を要求されるものだったでしょう。特に『テレビ』の場合は、家電商品のメイン商品に位置付けられ、ブランド政策としても絶対に死守したい分野であり、それだけ自社技術に思い入れの強い商品のはずです。

私が思うに、そうした過去の体験と思い入れが「当社の技術は素晴らしく、デジタル化といってもその技術で差別化は十分可能だ!」と思わせたのではないでしょうか。ところが実際には差はあるが、差別化にはなり得ていない状態になってしまった、というのがテレビをはじめとする主力家電製品の現実で、その中での過当競争がデジタル家電分野の巨大損失の原因ではないかと思います。

 

まあ、年齢だけではないですね。人は自分が体験し感覚的に実感できたことは体に染みついており、そこから考えられた世界はいつまでも真実なものとして捉えたくなるのは、生物的にすこぶる自然なことでしょう。

経営幹部になって、お客様現場から遠ざかるならば、なおさらです。

しかしそこに大きな落とし穴がある。「市場の変化多様化」がますます激化する現在、どの企業の誰にでもそうした現実の場を見誤ってしまう危険は、ますます高まっているよう思います。

サムソンの存在や円高は、あくまでも外部環境の変化多様化であり、その変化多様化自体を戦略の失敗と見なすのは間違った見方です。むしろそうした変化多様化を見誤ったことが、戦略の失敗につながったと思うべきでしょう。

「デジタル革命」が日本の家電事業を崩したのではなく、大手家電企業のトップや幹部が、市場の変化多様化を見誤ってしまったことが戦略の失敗の原因ということです。

 

―『市場の変化多様化を味方につける理論モデル』の必要性―

では、どうしたらそうした「市場の変化多様化」を見誤らずに戦略を遂行できるのか。

「『市場の変化多様化』をとらえ、客観的に予測できる理論モデル」が必要であり、そうしたモデルをもって、常に現実の場から仮説検証する姿勢を身につけること!が大事になっているよう思います。

 

例えば、この記事で言う『アナログ』的な技術を言っても、時間の経過によって、そうした技術でも普及してくるなら、コモディティ化して標準化やユニット化が進んでいくのが自然でしょう。

そうでなければ、その技術は属人的なもので終わり、広く普及されることは難しいからです。

アナログからデジタルへの移行と言っていいでしょう。

また、いくら新製品を出しても、競合参入からその差別性をいつまでも保つことは難しく、陳腐化していくことは間違いありません。顧客の経験度が高まっていくと考えれば、素人から玄人への移行と言っていいでしょう。

成熟化情報化によって、ますますそうしたアナログからデジタル、素人から玄人への移行のスピードは高まっています。

そうした市場の変化多様化は今後ますます激化していくことは間違いないことで、その変化多様化をより的確に予測し迅速かつ柔軟に対応出来ることは、今後の事業戦略にとって必須と言ってもいいよう思います。

ところが従来、そうした変化多様化をメインテーマに掲げた理論モデルはほとんどありませんでした。

そこで出来たのが、実は私の『マトリックス営業戦略、4つの領域』です。

縦軸に顧客の素人→玄人、横軸に商品サービスのオーダーメード(アナログ)→レディメード(デジタル)を置いて、そこにあらわれるマトリックスの4つの領域にあわせて、変化多様化する市場での戦略から組織、戦術作戦、活動方法を、【価値、時間、空間】という3つの視点で一気通貫の形で構造化した理論モデルです。

 

―マトリックス戦略モデルから領域の変化を予測し、

先手で戦略対策を打つ!―

その内容は、私のブログを見ていただくとして、先の日本の家電メーカーの事例にあてはめるならば、過去の事業領域が『エンジニア対応』から『ハイスピード対応』領域にあったものが、デジタル化が進むことによって『ハイスピード対応』から『コストダウン対応』領域に移行してしまったということです。こうした領域の移行は、このモデルからは必然的に予測できるものです。そうした移行を前提にして仮説を立てた上、顧客現場での変化を日々注視して捉えていくなら、事前に変化を予測して、戦略的な対策を先手先手で打っていくことは十分可能だったよう思います。

 例えば、サムスンより早く領域移行を進めて、圧倒的な一番を取る『先手必勝戦略』を組むことも出来たでしょう。

(但し、成熟市場の日本で、製品中心の単品販売に固執することは、コスト競争に陥りやすく危険であることは心得ておかなければなりませんが・・)

そうでないなら、独自な高付加価値分野(複合部品、新規素材・・)を開拓する『独自領域創造戦略』、あるいは単品製品ではなく、周辺の商品サービスやきめ細やかな販売サービスをトータルに組み合わせて、お客様にトータルな満足を提供する『領域(複合)最適化戦略』(単品ではなく、トータルな組み合わせのパワーで、市場をトータルに押さえる!)といったことも考えられたでしょう。

今後日本の企業が、ますます海外での戦いを強いられることと思いますが、そこでは日本以上に市場は変化多様化していると言っていい。

そこで、単に「デジタル」か「アナログ」かといった、二者択一的な発想では、変化多様化に振り回されて、結局敗退してしまうことになります。過去を前提にした発想なら、なおさら危うい。

変化多様化する市場をどう読み取り、どう先を見据えて先手を打って戦略を組み立てられるか。またその変化多様化に柔軟に臨機応変に対応して戦っていけるか。それが問われていると、あらためて思った次第です。

 

追伸:ディファクトを取るには、やはり「デジタル」が大事?

この原稿を書いている途中で、やはり日経新聞226日付けの一面の特集「ニッポンの企業力」【ハイブリッドに死角】という記事が目に入りました。

そこでは日本の自動車企業が、ハイブリッドという『仕組みが複雑すぎる』技術にこだわっている間に、ドイツのフォルクスワーゲンなどは、「TSI」という、ガソリンエンジンの小型化で燃費を改善する『ダウンサイジング』と呼ばれる簡素な技術を数年前から外部に販売はじめ、中国メーカーにも急速に広がっている、とのことです。

「やり方を誤れば今度は「最後の砦」である自動車でもガラパゴス化の懸念がある。問われるのは、ディファクト(事実上の標準)をどう握るか。・・」「トヨタは新興国向けの低価格車エディオスに・・・『リバースエンジニアリング』と呼ばれる手法を日本車で初めて取り入れた・・」

 

この記事では、日本的な『アナログ』発想にこだわるのではなく、世界標準になるためには『デジタル』的なわりきりも大事と言わんばかりの表現になっているのです。

 

それぞれの記事の言わんとするところはわかるのですが、一方では、アナログ、一方ではデジタルが大事という表現であり、表面的な捉え方をすると、まさに変化多様化する市場(マスコミ?)に翻弄されてしまうと思いました。

私は、『アナログ』が何よりオリジナリティを生み出す原動力と思っていますし、日本の強みもそこにあると思っていますので、それを手放したら、日本の企業は生き残っていけないと思っています。

でも、それをどうビジネスとして活かし、発展につなげるのかとなれば、そこにデジタル的な発想も当然必要になるでしょう。アナログとデジタルをどう融合させどう活かすのかが、これからのビジネスモデルの肝と思います。そう言う見方でも、私の『マトリックス営業戦略』に多くの方がご興味を持っていただければ、と思っています。

                                   以上



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このページは、CBC総研が2012年2月27日 12:41に書いたブログ記事です。

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