◎「マトリックス営業戦略」モデルの成り立ち
~コンサルティング実践の経過として~
「"山川式"三段論法ストーリー」
―商談場面に「真実の瞬間」がある。―
―従来のコンサルティング活動との関わり―
<ロールプレイング訓練><企画提案発表会(研修)>
―「リレーショナル・マーケティング」(著書)によるトーク解説―
<事例:法人向け特殊『人材派遣業』の新規開拓支援>
―新規開拓マニュアル作成の依頼―
―「"山川式"三段論法ストーリー」とは―
次に「三段論法ストーリー」というモデルを開発した経緯についてもお話ししたいと思います。
「三段論法ストーリー」とは
◎どんな事情のお客様に 【顧客】
◎どんな商品サービスを提供することで、 【商品】
◎どんなお客様満足を実現するのか 【満足】
という3つの要素で語るストーリーであり、説得力あるセールストークを構造化したモデルです。
参照:「マトリックス営業戦略の基本解説②―4」
※「三段論法」とは、本来A=B、B=C、故にA=Cと言う論理展開を言います。ですから「三段論法ストーリー」と言ういい方は、本来間違いと言えるかもしれません。しかし、「お客様の事情は○○である」、一方「商品サービスは△△である」、その「お客様」と「商品サービス」が深く交流するならば、「 (必ず)□□といった素晴らしいお客様満足が実現する」、と言うストーリーとしてとらえるならば、「三段論法」と言ういい方はおかしくないのではないか、と思っています。通常使われている語法と違うため、「"山川式"三段論法ストーリー」と名付けました。
三つの要素だけで成り立っているすこぶるシンプルなモデルですが、それだけに奥の深いものを感じています。
―商談場面に「真実の瞬間」がある。―
私は「現場」が大好きです。特に「商談現場」で営業の皆さんがどんな営業活動をしているのか、特にどんなセールストークを使い、お客様とやりとりし説得しているのか、大変興味があります。その場面に人と人との真剣勝負があって、それぞれの人としての感情や心理、さらには"生き方"までが現れてくると思えるのです。
言い換えれば商談場面には、"人を動かす"「真実の瞬間」がある、と言えるのではないでしょうか。そして「人」を「市場」と読み替えれば、まさに商談場面には、「市場の真実の瞬間」が現れている、と言っていいよう思います。
ですから、マトリックス営業戦略の解説を商談場面を想定した「セールストーク」の構造から始めるのは、理にかなったことと思います。
ところが、実際の理論やモデルの構築は、「三段論法ストーリー」から始まったわけではありません。それぞれ思考錯誤の状態で同時並行に進んでいったよう感じています。
―従来のコンサルティング活動との関わり―
「セールストーク」は、三段論法ストーリーが完成する前から、様々な企業様のコンサルティングで関わっていたテーマです。
例えば、フランチャイズチェーンの指導において販売マニュアルを作成する場合には、具体的なしゃべり言葉でトークをマニュアル化しなければなりません。あたかも目の前にお客様がいるつもりでトークを整理することになります。実際には出来る営業マンや接客のプロのみなさんにしゃべってもらい、その言葉を聞きとり紙に落とす訳ですが、そこでは活き活きしたトークの魅力を常に感じていました。
<ロールプレイング訓練>
また、その当時から始めていたのが、営業のロールプレイング訓練です。実践的な商談場面を想定し、具体的なお客様と具体的な提案商品を決めて、お客様役と営業マン役にわかれて商談の模擬演習を行うのですが、その際のやり取りがまた楽しくワクワクした思いを持ったのもよく覚えています。
もちろんその際には、私はコンサルティング講師として、商談のやり取りや使われているセールストークについて講評するわけですが、感覚的ではなく、出来るだけ論理的に改善事項を指摘しなければなりません。
時には、私が営業マンに代わって、その場の乗りで殺し文句のセールストークをつくってしまうこともしばしばありました。
「俺だったら、こうしゃべるよなあ~。お客様は・・・ですよね。それでしたら丁度良かった。見て下さい、今回の・・は・・なんですよ。特に・・が違います。ですから、きっと、・・の事情のお客様には・・と喜んでいただけるはずです。ですからお客様、是非一緒に・・しましょう。・・」
そこで検討されたセールストークがそのままトークマニュアルになることもありました。
そこでも知らぬ間に、「お客様の事情」「商品」「満足」という視点が出来てきたよう思います。
(実際、現在ではCBCの営業研修の多くの場面で、「三段論法ストーリー」のモデルを前提にしたロールプレイング訓練を実施しています。
以前にもまして教育効果が高まっているだけでなく、三段論法ストーリーをもとにして実際のセールストークや聞き込み方法を見直すこともしやすくなり、訓練を超えて実践的な作戦検討会が出来るようになっているよう思います。
※営業のロールプレイング訓練のやり方については、あらためて解説したいと思います。)
<企画提案発表会(研修)>
さらには、7年間お手伝いした 化成品商社K社での、「社内企画提案発表会」があります。私が営業マンのプレゼン提案力を強化するためにK社にご提案したもので、営業マン全員が参加し、各人が自分で考えた事業企画の内容を提案書にして皆の前で発表し、その順位を競うものです。
3年間続けて行いましたが、一番を取って表彰された活きのいい営業マンのS君が実際の商談においても企画書を作成して提案することで、超大手企業の新規開拓に成功するといったこともありました。
私のほうとしては、発表会の成果がより上がるようにするために、K社営業用の「企画提案書の作成方法」を説明したテキストをオリジナルに作成し、事前研修を入念に行いました。
「企画提案書」の構成については、市販の企画書のマニュアル本等も参考にはしましたが、私はむしろセールストークに重点を置いて、そのトークの流れに沿って、企画書を構成するように考えました。プレゼンテーションを行う場面を考えるならば、トークを前提にした企画書でなければ、説得力を持つことは難しいことでしょう。
企画書の構成を考えるのに、まったく違和感がなかったよう思います。
セールストークも提案書も、「人を動かす」と言う目的においては一致しているのですから当然ではありますが、企画書をセールストークと結び付けて説明している参考書は、今もないと思います。
(ですから「三段論法ストーリー」が完成した際には、その構造をスムーズに提案書にもあてはめられたよう思います。
提案書を作ってからどうプレゼンするかと考えるより、三段論法ストーリーで説得力あるセールストークを考えてから訴えるポイントを整理し、流れを確認して提案書を作る方が、よほど説得力あるものになるのではないでしょうか。
※提案書の構成と作成方法についても、あらためて解説したいと思っています。)
<企画開発部門の改革支援>
営業関連とは別にコンサルティングしたのが、E社の企画開発部門の改革です。開発プロセスと共に開発コンセプトの見直しを課題として掲げ、その改善を一緒に考えました。
開発こそ、モノづくりのスタートですから、コンセプトは大事です。
ここでも、コンセプトを言葉で語るストーリーとして考えました。
言葉に出来ないコンセプトは、コンセプトではない!
そのストーリーをお客様に伝えて、魅力あるものとして受け取ってもらえなければ、そのコンセプトは価値ないものである。
いわば、コンセプトはお客様に語るセールストークの殺し文句だ!
そう思いました。実際出来る開発マンは、トークもうまく説得力があるものです。営業のセールストークと開発コンセプトが密接につながったものであることは、このコンサルティングを通して実感した次第です。
またコンセプトとプロセスをつながりのあるものとして考える思考方法は、この際に培われたよう思います。
コンセプトの組み立ては、次に説明しましょう。
―「リレーショナル・マーケティング」(著書)によるトーク解説―
以上のようなコンサルティングで忙殺されているころ、中央経済社様から著
書の依頼を受けました。結局一年ほったらかしの上、さらに一年いろいろ悩
み苦労して書き上げたのが、「リレーショナル・マーケティング」です。
(当初、400ページを超える量になり、それをギリギリまで削り取って現在の239ページにしました。「4つ領域」の発想はこの本から始まりますが、そのことは先に述べましたので割愛します。)
ここでは7つのキーワードのうち「新しい切り口、コンセプト」の解説として、
コンセプトをつくるための構造や企画提案書の構成を掲載しています。
例えば、コンセプトとしては、
◎事業コンセプト(時代の流れ×事業のこだわり)
◎商品コンセプト(商品ニーズ×商品仕様、技術特徴)
◎セールスコンセプト(顧客のメリット×商品の機能・性能)
として、それぞれ顧客と商品の2つの軸での交差で、コンセプトを作成するやり方を解説しています。
例:商品の機能・性能× 顧客のメリット
・商品は○○だから、△△という(効果)が生まれます。
だからお客様には××と言うメリット
(成果)が得られるんです。
(トーク例)
「この洗濯機は、ステンレス製で強力モーターだから、注ぎ時間は半分、そして清潔です。だから洗濯が本当にラクラクになりました。」
「顧客」と「商品」は、市場を構成する基本となる要素ですが、その2つの要素をかけ合わせる事で説得力あるトークストリーになることがわかったのです。これはセールストークを単なる思いつきではなく、構造化してとらえる初めての経験でした。
但し、それだけでは、何かが足りないという気持ちも残りました。もっとき
ちんと納得できるシナリオがあるはずだと感じたのです。しかしなかなかそ
うしたストーリーがうまく見出せませんでした。
具体的な商談を想定して、どんなトークなら説得力があるかを考えることは
出来るのですが、それを標準的なストリーとしてシンプルに構造化する、と
いうことがうまくできなかったのです。
―「絶対に勝つ!マトリックス営業」執筆での「満足」の発見―
そんな時、プレジデント社さんで「マトリックス営業戦略」について、まとま
って執筆する機会を頂けることになりました。そこでセールストークについ
ても、あらためて整理して考えてみたいと思ったのです。
そして2000年の年末、集中して原稿を書いている時に自然に三角形の図
形が浮かびあがり、そこに「顧客」「商品」「満足」という3つの言葉が、ぴっ
たりはまったのです。
たぶん、その前にも「満足」という言葉は出てきていたはずですが、すっき
りした構造としては捉えられていなかった。それがいったん3つの言葉のひ
とつとして三角形にはまってしまうと、それ以外ないという感じになったの
です。
そして3つの要素が単なるセールストークだけでなく、事業活動にも関係し
ていることや、それ以上にこの世界全体に関わる本質的で普遍的なものであ
ることが、直感的に感じられました。
それは作ったというより、発見です。
「なんだ、こんなにシンプルなことだったのか!」
この世のことが、こんなにシンプルな構造でとらえられるんだ!それをはじ
めて発見した、という思いです。
その時の強く雷に胸を打たれたような喜びは、今でもよく覚えています。
(※こうやって書いていると、つくづく自分は思い込みが強いなあ、と思います・・。でも、それがエネルギーになっているんですね。
みなさんも人の目を気にせず、自分の思いこみを信じましょう。)
それからすぐ、「顧客(お客様の事情)」、「商品」、「満足」の『三段論法スト
ーリー』が、そのまま同一構造として「世の中の流れ(多くのお客様の事情)」
「自社の強み、こだわり」「社会貢献(多くのお客様の満足)」と言う『大三
段論法ストーリー』と広がり、さらには、『実例三段論法ストーリー』にも
あてはまることが見えました。
そしてその3つのストリーをつなげれば、一連のトータルなストーリー(『三
段階三段論法ストーリー』)になることもわかったのです。
まさに、一つの発見からあらたな全体の体系が一瞬にしてとらえられた、と
いう感じです。
ちょうどそのころ、経営学でも複雑系の理論がはやっており、特にフラクタ
ル理論(相似形の理論)が「三段階三段論法ストーリー」と類似しているこ
とに気がつき、本には「相似形を持ったセールストークの全体構造」として
説明しました。
注)フラクタル:自己相似性で作られる幾何学的図形
自己相似性:全体の構造がすべての部分に反映されるという性質のこと。図形の全体がその図形の部分と相似の関係にあること。
また、まだきちんと整理されてはいなかったのですが、「4つの領域」でのセールス
トークの違いも出来るだけ「三段論法ストーリー」にあてはめて、ここで解説しまし
た。
セールストーク例:
◎未来大三段論法ストーリー
「(これから)世の中は・・となってきて
多くのお客様は・・・となってくるものと思います。」【世の中の流れ】
「そこで当社では、・・という強みを磨き、・・にこだわって
・・していくことで・・」 【自社の強み、こだわり】
「・・というお客様に(これから)・・と言う素晴らしい満足を
ご提供することで、世の中にお役に立ちたいと思っております。」
【世の中へのお役立ち】
◎基本三段論法ストーリー
「そこで今回ご提案したいのが、・・です。・・が違います。」【商品】
「ですから、特に・・といった事情のお客様には・・」【お客様の事情】
「・・と喜んでいただけるものと思います。」 【お客様の満足】
◎実例三段論法ストーリー
「つい先日も、・・といった事情のお客様がおりましたが・・」
【あるお客様の事情】
「・・ということから、当社の。・・を使っていただき、・・していただいたところ、・・」 【提案商品、対応】
「なんと、・・という成果に結び付き、・と喜んでいただきました。
私どもも、大変嬉しく・・。
(ですからお客様にも是非・・)」
【お客様満足の実現】
―「三段論法ストーリー」と「4つの領域」の関係―
但し、この段階では、まだ「三段論法ストリー」と「4つの領域」の関係は、
理論的に整理出来ていませんでした。実は、バラバラに考えてきたため、関
係あるのかどうかさえ、分かっていなかったといった方がいいでしょう。
ただ、どちらも本質的なところからシステム的に組み立てられているので、
たとえばらばらであっても、実践モデルとしては問題ないと思っていたので
す。
しかし、少し時間が経って考えてみると密接につながっていることがわかり
ました。
「三段論法ストーリー」がビジネスの本質(目的)を表現する基本的な"変
わらない"ストーリーであり、そのストーリーを変化多様化する市場にあて
はめた場合に現れる場面(状態)が「4つの領域」である、ということです。
言い換えるなら、顧客と商品の交差で「お客様満足」が実現するというストーリーは変わらないけれど、顧客と商品の変化によって、お客様が求める満足内容も変化していく。そのお客様の求める満足内容の変化をあらわしたのが、「4つの領域」ということです。
・ハイスピード対応・・・お客様が、新しい切り口の魅力ある単品的な
商品をすぐに欲しいと思っている領域
・パートナーシップ対応・お客様が、これからの大きな価値ある提案を
求めている領域
・エンジニア対応・・・ お客様が、現状のお困り事の解決を求めて
いる領域
・コストダウン対応・・ お客様が、価格等のコストパフォーマンスを
求めている領域
結局、ビジネスの本質は、「お客様満足の実現」ですから、その求められる「満足内容」の変化多様化が、イコール「市場の変化多様化」になるということです。原理原則的なことですが、ふだんのビジネス活動の中で忘れてしまいがちな事のように思います。
そこから、 "変わらないこと" "変わること"をビジネスにあてはめたものがマトリックス営業戦略である、という見方も私の中で生まれてきました。
(先にコンサルティングの現場から実践的なモデルを構築(発見)して、その後にその有効性や意義価値を理論的に検証し、さらにそのモデルを発展させていく。それがどうやら私のスタイルのようです。)
(すっかり忘れていましたが、実を言うなら「『変わること、変わらないこと』を見極める」と言ういい方を、「リレーショナル・マーケティング」の一部3章の題名として使っています。そこでは、「対立(競争)と融合(連合)」という表現で、「変わらないこと」での創造性を語っていました。考え方の原点を見るような気がします。)
以上のことが見えてきたので、次の書籍「こんな営業は、今すぐやめろ」では、あらためてマトリックス営業戦略を解説しました。セールストークも、より洗練された説明が出来たように思います。
(その後、「ズバリ!トップ営業をめざす商談術」には、セールストークや質問法等、商談に関わる手法を"テンコ盛り"にして、解説しました。この本にもかなり思い入れがあるのですが、あまりにもページ数が多くなってしまったこともあり、販売部数では伸び悩んでいます。)
次にその頃のコンサルティングのお手伝いで、印象的だった事例をお話ししましょう。
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<事例:法人向け特殊『人材派遣業』の新規開拓支援>
―新規開拓マニュアル作成の依頼―
特定業務を請け負う地域密着型の人材派遣業のK社のK副社長より、新規開拓活動の「マニュアル化」の依頼を受けました。
K副社長は、私の公開セミナーを聴講して、セールストーク構造の説明が大変気に入ったようでした。そこで自社の優秀営業責任者の新規開拓のやり方をノウハウとしてマニュアル化し、中途採用営業の即戦力化や社内営業担当全員の教育訓練に活用して営業のレベルアップを図りたいと思ったようです。
そこで私は新規開拓が得意なM営業部長から、これまでの新規開拓のやり方を徹底的にヒヤリングすることにしました。
K社の新規開拓は、地域を決めてターゲットとするいくつかの業種の法人企業事務所をローラー訪問し、人材派遣の紹介を行うやり方です。成約までの訪問回数は、せいぜい3回程度であり、「4つの領域」で言うなら、単品商品を一気に売っていく「ハイスピード対応」領域のウェートが最も高いよう思いました。但し、そこで紹介するのが「人」であるだけに、信頼や信用と言う要素も少なからずありますので、若干「パートナーシップ対応」領域の部分も必要となります。
いずれにしても一回、一回の商談が大事であり、とても集中力の求められる営業活動です。K副社長がセールストークにこだわるのが良くわかりました。
―M営業部長とのヒヤリング―
そこでM部長に入念にヒヤリングをしていったわけですが、はじめに「顧客、商品、満足」という3つのキーワードのセールストークをあらためて説明すると、大いに関心を持っていただき、ヒヤリングもどんどん進める事が出来たのです。
実際、次のようなやり取りです。
M部長「先生の3段論法は、ほんと分かりやすいですね。特に『お客様の事情』から話をはじめるというのは、まったく同感です。
売れない営業マンの大半は、売り込みにあせってすぐ自社や人材派遣のことばかりぺらぺらしゃべって、一方的にお願いするだけになっているんですよ。だからお客様から断られたら、それで終わり。その後を続ける事が出来ない。それじゃあダメだ!って言っているんですけどね。
この三段論法で、彼らを指導する大きなヒントをもらいましたよ」
山川 「そこまで言ってくれると、嬉しいね。
でも、ちょっと聞きたいけれど、『お客様の事情』から話を進めたくとも、ローラーの飛び込み訪問じゃあ、相手のお客様の事情を事前に調べておくことはなかなか難しいよね。
M部長はどうやっているの?」
M部長「え、そんなこと先生が聞くんですか?
そんな難しいことじゃあないですよ。
新規開拓には2つのパターンがあって、一つは地域毎にはじめからターゲットとする見込み客をリストアップして、事前にネットで確認してさらに会社四季報とかその他業界情報を調べてから訪問するパターンです。これは先生の言うような『お客様の事情』を先に投げかけるやり方がそのまま出来ますね。
今一つはまさにローラーの飛び込み訪問のパターンです。確かにその時はその会社のことをわかっていないことも多い。だからむやみに飛び込めばいいというわけじゃあない。
大事なのは、訪問する前にその会社の看板や駐車している車など、周囲の様子をしっかりチェックする。そしてどんな業種でどんな業務活動をしているか、さらにどんな潜在ニーズがあるか、その時簡単にでも仮説を立てることです。
その上ではじめて腹を据えて訪問するんですよ。」
山川 「なるほど、・・。それじゃあ例えばどんな仮説を立てるの?」
M部長「例えば、看板に扱い商材の○○・・といったものが書いてあったとするでしょう。そうなると取引先は○○といった会社が多いということになりますよね。だから、そうしたお客様に当社の紹介する■■という新しいサービスを提供できれば、差別化出来るのではないか・・。といったことです。」
山川 「なるほど、それで実際はお客様にはどんな言い方になるのかな?」
M部長「そうですね、事務所に入って大きな声で挨拶をすると、受付の女性が出て来ますから、その時例えばこう言うんですよ。
『私、●●会社の○○と申します。実は御社の看板を拝見しまして、
△△をされている会社様と思い、ご挨拶のためにお邪魔しました。
・・・御社の看板には、●●と書かれていおりますが、△△をされておられますよね?
(「あ、はい、やってますけど・・」)
それでは、・・や・・といったことはされておりますよね?○○についてはどうされておりますか?
(「え~と、・・をしていますけど・・」
ああ、やはりそうですか。そうしますとこの近辺では、●●企業様がご同業になられるんですね。
(「まあ、そうですね」)
それでしたら丁度良かった、実は当社は、その●●企業様ともお取引きさせていただいて、・・・を・・している会社です。実は御社にその件でご提案したいことがあるんです。その・・の責任者様(社長様)は今いらっしゃいますでしょうか。』てな感じです。」
さすがにM部長は、その時の話の仕方を実演しながら流暢に説明してくれ
ました。
そこで確認できたことは、提案トークと言っても、お客様の事情を確認し
聞き出すノウハウが特に大事になるということです。M部長の場合、特に
笑わせるのが得意であり、例えば会社案内を紹介する場面でもお客様に笑
ってもらうことで、その場の雰囲気を和ませ、巻き込んでいくというやり
方です。
(この時のM部長のお客様を笑わせるやり方は、のちに「ズバリ、トップ
営業を目指す商談術」に掲載しました。振り返ると、この時のヒヤリン
グは、お客様の事情を聞き出す質問法のモデルにつながったような気が
します。その質問法のモデルは上記書籍の第2章のメインテーマとなっ
ています。)
―大きな話から始める―
一方、キーマンに会えて提案をする場面に入っても、商品説明にすぐ入ってはいけないというのが鉄則です。
M部長「すぐ具体的な提案ではなく、まず世の中の流れで、多くの企業が人材派遣を受け入れるようになってきている中、新しく当社が紹介する業務ジャンルでも、人材派遣が進んでいることを述べるんです。
(世の中の流れ)
ではなぜ、そうした人材派遣が進んでいるのか・・。
実は単純に人件費削減のためだけではない。
新しいサービス品質の差別化が企業の競争力の強化に直結するよ うになっているから。
具体的には・・・。」
まさに大きな話、「(未来)大三段論法ストーリー」の話でした。
M部長に言わせるなら、そうした大きな話をしないとお客様のトップキーマン(多くの場合社長)を説得できないとのことでした。
―基本三段論法ストーリー、実例三段論法ストーリーで繰り返し説得する―
そうしてトップキーマンがその気になってきたところで、具体的な人材紹介の話に入ります。
しかしそこで大事なことは、
相手の企業の事情に合わせて、その人材が入ることによって出来る特別な業務サービス内容がどんなメリットを会社にもたらせてくれるのかを、うまく訴えることです。
「御社は、これまで・・という事情で、・・・しか出来ていませんでしたが・・、
(お客様の事情)
今回ご紹介する○○人材を活用するなら、○○という新しい業務ザービスが出来るようになることで、
(商品・サービス)
御社に○○と言うメリットを与え、既存客へのサービス向上と新しい顧客を開拓する強力な武器になるんです。」
(メリット・満足内容)
まさに、「基本(各論)三段論法ストーリー」です。
そこに加えて「実例三段論法ストーリー」を畳みかけて説得します。
「つい先日も、・・・と言う御社と同じような事情のお客様がおられましたが、実際、弊社でご紹介させていただいた(○○と言う能力を持った)人材を活用することで、△△ができて、なんと6ヶ月で新規のお客様が○○件も開拓出来たんですよ!」
M部長のヒヤリングから「お客様の事情」⇒「(未来)大三段論法ストーリー」⇒「基本(各論)三段論法ストーリー」⇒「実例三段論法ストーリー」
という基本のセールストークのストーリーが、ピッタリ当てはまることがわかったのです。
M部長はこうした三段論法のストリーを常に考えながら実行していたわけではないでしょう。しかし基本構造をすぐ理解されて、その場でその構造にあわせて自分が普段使っているトークを語ってくれたのです。
お陰で私の方は法人企業向けの飛び込み訪問の新規開拓のやり方がよく理解できました。大きな苦労もしないで新規開拓のセールストークマニュアルを完成させることも出来たのです。
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