マトリックス営業戦略の基本解説③-1          <成り立ち:4つの領域>

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◎「マトリックス営業戦略」モデルの成り立ち

~コンサルティングの実践経過として~

4つの領域」を発想する(実例を中心に)

 

    ・事業・営業のあり方の大転換―

・「リレーショナル・マーケティング」の執筆―

    ・<事例:総合卸問屋E社のL事業部の営業改革>―

―はじめに―


マトリックス営業戦略の実践モデルは、私のコンサルティングの現場から生まれてきたものです。今では全体モデルが理論的な整合性をもって出来あがっていますが、その途中では、一つ一つのモデルは別々に検討されていました。理論を作るというより、実際のお客様企業で、どのようにしたら成果が上がるのかを模索しているうちに、自然に整理されてきたといった方がいいでしょう。

 

そこで、ここではそのモデルの生まれ出てきた経緯について、事例を交えてお話したいと思います。そのことで、このマトリックス営業戦略をより実践的に理解していただけるのではないかと思います。

 

―事業・営業のあり方の大転換―

私が経営コンサルタントになったのが、33歳、1984年です。その頃はまだ日本が高度成長を謳歌しており、海外の著名な経営理論に交じって、トヨタの看板方式や全社QC活動等の日本独自な経営改善の実践ノウハウも大いにもてはやされていました。日本のGDPが、世界第2位を時代です。

 

それが1990年以降バブル崩壊が始まる頃から、今までの高度成長を前提とした事業のあり方に大きな曲がり角が来ることになりました。一方で情報システムの進展が目覚ましく、コンピューターを活用した新しいビジネスモデルも具体的に表れてくるようになったのです。

そこで私はその当時独立したこともあり、経営コンサルタントとして「これまでの成長経済を前提とした事業のあり方とは違う、新しい時代の全く新しいビジネスモデルを追求したい」と思うようになりました。

実際、コンサルティングの現場では、優秀な企業や営業リーダー、メンバーの皆さんの事例の中に、新しいビジネスモデルのヒントがいっぱいあると感じていたのです。

 

―「リレーショナル・マーケティング」の執筆―

 

そんな折、中央経済社様から新しい書籍執筆の依頼をいただきました。そこで出来あがった本が「リレーショナル・マーケティング―新しい営業体制をつくる―」です。

従来の製品中心に顧客ヘ向かって一方的に流していくような事業モデルではなく、新しい「事業コンセプト」を中心に、お客様や異質な企業や人を巻き込み"事業の輪"を広めていく。その"事業の輪"こそ事業の価値であり、それが今までにない新しい価値を生み出すことにもなるだろう。それがこれからの事業のあり方である、と言う主旨の本です。

7つのキーワードを選定しました。次の7つです。

「新しい切り口・コンセプト」「情報発信」「パーソナル対応と顧客参画」

 「専門性」「大量効率処理」「継続化」「外部連合化」

 

・「新しい切り口コンセプト」を持って「情報発信」を行い、お客様への「パーソナル対応」を進め「顧客参画」を促す中で自社の「専門性」(オリジナリティ)を高める。それをよりスピーディに「大量効率」に進めながら「継続化」していく。そうした活動を自社だけでなく、「外部連合」の"事業の輪"として広めていく。

 と言うプロセスです。

 なにしろ新しい事業コンセプトですので、織田信長の『長篠の合戦』の話からはじまり、「アムウェイ」「ミスミ」「ラッシュすみだ」「キリンの一番搾り」ドトールコーヒーショップ」等色々な外部事例や私のコンサルティング事例を数多く載せたのをよく覚えています。

(実は、最近あらためて「リレーショナル・マーケティング」を読み返したところ、{私が言うのもなんですが・・事例も含め}今でもほとんど違和感なく、しっかり通用する内容であると思いました。

例えば、現在最も注目されているスティーブ・ジョブスが進めた「iPhone」「iad」のビジネスモデルも、"事業の輪づくり"を基本においており、「リレーショナル・マーケティング」の一つの事例と言えるのではないでしょうか。一つ一つのキーワードがしっかりアップルの戦略に当てはまりますよね。

この本の内容については、今後ブログで著者としての補足解説をしてみたいと思います。)

 

そこで営業状況の違いを「4つの領域」で区分けしてとらえるモデルをはじめて提示しました。実は7つのキーワードも「4つの領域」でより重視すべき項目が変わるのです。


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また、あわせて「パートナー営業」というコンセプトも提示しました。

 

ですから、もともと「マトリックス営業戦略」は「リレーショナル・マーケティング」の"事業の輪づくり"という新しい事業コンセプトを基本に据え、そのコンセプトを市場の変化に合わせて展開した実践モデルと言う位置付けになっていたのです。

 

「リレーショナル・マーケティング」の発想は本の中にも書いたのですが、私の友人Oさんが立ち上げた、某ベンチャー企業のコンセプトが一番のベースになっています。私は、私より10歳近く若いOさんの新しい発想とベンチャー意欲に強く啓発されたのです。

 

一方、「4つの領域」の発想は、その当時お手伝いしていた、他のいくつかの企業様のコンサルティングがベースになっています。

 

その中の一社の事例について具体的に(少し簡略化していますが)お話しましょう。

 

―<事例:総合卸問屋E社のL事業部の営業改革>―

 

―「L棚管理システム」の販売―

変化多様化する市場を4つに区分けするきっかけは、特殊法人分野の総合卸兼メーカーであるE社を数年来お手伝いしていた時のことです。

 

E社には3つの事業部があり、そのうちのひとつL事業部では、従来は特定施設向けの備品部品消耗品中心の総合卸を行っており、扱い商品の平均単価はせいぜい数千円から数万円までになっていました。

ところが新たに在庫管理ソフトと棚が一体になった「L棚管理システム」を開発し販売することになったのです。そうなると販売単価は一台数百万円になり、専門的な商品特徴の説明と共に念入りな取り扱い指導や導入後のフォローまで必要になります。

とりあえず営業マン各人に販売ノルマを与え個別対応で売っていくことにしたのですが、はじめのうちはほとんど売れませんでした。一年でたった2~3台しか実績が上がらなかったと思います。

 

E社長は「L棚管理システム」にはかなり大きな期待をかけていましたので、その結果に愕然とされたようです。

結局L事業部内部だけの発想では難しいと考えて、これまでN事業部のコンサルティングを中心におこなっていた私に対し"L事業部についても、L棚管理システムを売っていくためにはどうした良いか、(診断をして)アドバイスをお願いしたい"という依頼をされたのです。

 

―商材を4つに区分けする―

 

私は直観的にも「L棚管理システム」は従来の商材と全く異なることから、営業のやり方は全面的に見直さなければならないし、営業組織そのものも新しい体制が必要だと思いました。但しそのことを理論的にもきちんと説明し、L事業部のみなさんの納得を得なければなりません。

そこでまず扱い商材を、営業のやり方の違いで区分けしようと考えました。

 

「L棚管理システム」の販売については、具体的に次のように4つに商材を区分けしてみました。

 

A:「棚に入れる部品・消耗品」販売

B:「新しい(在庫管理しやすい)構造の棚単体」販売

C:「ソフトと設備が一体となったトータル棚管理システム」販売

D:「上記システムの導入支援とその後のサポート」販売と実行

 

―商品と顧客のマトリックス図で整理する―

 

この4つの商材毎に販売方法が違うだろうことは、誰でも容易に想像できるでしょう。

但しこれだけでは、商材毎の区分けの根拠が曖昧ですし、どんな違いがあるのかも思いつきにすぎないことになります。

この4つに分類する視点は何なのか。しっかり論理的な視点を入れて説明したいと思いました。そこで自然に商品と顧客を軸にしたマトリックスの図が浮かんだのです。

 

はじめに商品軸の区分けはすぐ出来ました。

「オーダーメード」と「レディメード」の違いです。お客様に個別対応する「システム」提供と商品単体の販売の違いと言っていいでしょう。Cの「トータルシステム」の販売とDの「導入後の専門サポート」がオーダーメード、Aの「部品と消耗品」販売とBの「棚単体」販売がレディメードです。

 

一方顧客軸ですが、少し悩んだのですが、そこに「顧客の経験度の違い」すなわち、「玄人」相手か「素人」相手かで区分けすることにしたのです。「リレーショナル・マーケティング」の7つのキーワードで言うなら、「従来切り口」の延長での提案か、そうでなく「新しい切り口・コンセプト」を訴える提案か、の違いです。BとCが前者、AとDが後者と言うことになります。

 

こうした区分けの根拠には、ビジネス環境において成熟化情報化が進んでいることが挙げられます。成熟化によって商品は、オーダーメードなものからレディメードなものにどんどん移行しています。個別対応から一律規格化と言っていいでしょう。一方お客様も時間の経過とともに経験度を高めて素人から玄人へ移行していくことになります。情報化はそのスピードをますます高めているのです。

 

以上のように商材をマトリックス図によって区分けし直すと、それぞれにあった販売方法や営業対応が大きく違うことがはっきり見えてきたのです。

そこで、L事業部に対して、次のような提案をさせていただきました。

 

そこに、「リレーショナル・マーケティング」の7つのキーワードをあてはめると、よりその作戦(対応方法)の違いが鮮明になります。

 

4つの区分けによる、新しい販売方法、営業対応の提案―

 

A:「棚に入れる部品・消耗品」販売

 ⇒・単品リピートオーダー品販売。(コストダウン対応)

   ・比較的単価が安く、継続的に発生する商品である。お客様はカタログやパンフレットで価格と納期を中心に判断して、その場で簡単に購入を決定する。

・このため、カタログを充実させて価格納期の他社に比べたメリットをわかりやすく訴え、初期注文を確実に獲れるようにする。

・さらに簡単な発注方式を作り、自動的に注文が来て、営業担当はいなくとも、社内の業務部隊で対応出来る形を作りたい。

  <情報発信><大量効率処理><継続化>

 

B:「新しい(在庫しやすい)構造の棚単体」販売

 ⇒・新製品の単品販売。(ハイスピード対応)

・本来はシステムと一体で販売したいが、実際には新しい構造の棚だけを求めるお客様も多いだろう。そのため、そうした客には手離れ良くスピーディに売れるようにしたい。

出来れば部品消耗品とのセット販売も考える。

   ・このため、従来の棚商品との違いを分かりやすく写真や図で示した提案パンフレットをつくり、説得力のあるセールストークのマニュアルも考えて、事前に徹底した営業訓練をしておきたい。

 <新しい切り口・コンセプト><情報発信><大量効率処理>

 

C:「ソフトと設備が一体となったトータル棚管理システム」販売

 ⇒・棚とシステム、部品消耗品それにサポートを一体化にした、

トータルな大型企画提案商品 (パートナーシップ対応)

    ・従来の営業とは全く異なる営業スタイルなので、多くの営業マンが対応できず、あまり営業活動が進んでいなかったのが実情ではないか。

     実際動いたとしても、キーマンはトップ上位者であり、本格的なプレゼンテーションもしなければならず、営業担当一人では手にあまってしまうはずだ。   

(「話が来たら、部長に相談せよ!」とは言っていたようだが、それでは遅すぎる。営業担当の多くはどうしていいかわからず不安で動けていなかっただろう。)

・事前の作戦検討と準備、それにトップ営業を中心としたチームプレーが重要であり、そのための専門体制が必要である。

     大型企画提案営業を推進するための、専門特別部隊を作るべき。

  <新しい切り口・コンセプト><パーソナル対応と顧客参画>

  <外部連合化>

 

D:「上記システムの導入支援とその後のサポート」販売

 ⇒・お客様現場での在庫管理の運営に関する専門的な活動支援を提案し、実行する。(エンジニア対応

   ・こうした導入支援とその後のサポートについても、現状では商談発生にあわせた泥縄的対応になっており、営業担当者がお客様にしっかり提案し対応出来ているとは思えない。

    全営業マンに対して、より専門的な説明や対応が出来ような営業教育が必要になる。(現在は準備段階で仕方のない部分はあるが、このままでは構想が絵に描いた餅に終わる可能性が高いだろう。)

・またそのための独自な専門資料類の整備とノウハウの蓄積が重要であり、兼務ではない専門のサポート要員をはっきり決めるべき。その専門サポート要員と営業の緻密な連携プレーを設計したい。

・出来れば、販売前にお客様に専門性を訴えて、その気になってもらうための「診断システム」も商品化したい。

<専門性><パーソナル対応と顧客参画><継続化> 

 

  このようにはっきり商材を区分けすると、営業のやり方にあわせた役割分担や組織のあり方の違いがはっきりします。

 

 ・コストダウン対応領域・・⇒営業マンカット、業務サービス体制整備

 ・ハイスピード対応領域・・⇒一般営業マンを動かす

機動的な活動体制作り

 ・パートナーシップ対応領域⇒トップ上位者が前面に出る

大型企画商談のチームプレー体制

 ・エンジニア対応領域 ・・⇒専門技術部隊と専門営業のチームプレー

 

私としては、市場の違いを鮮明に出来たことで、L事業部に対してはっきりした営業組織のあり方と活動対策の方向をご提案出来たと思っています。

 

E社長はもとよりL事業部のM部長にも

「このままではまずいとは思っていたが、これですっきりした。Lシステムの販売方法だけでなく、組織全体のあり方がイメージ出来た。」と言っていただきました。この提案に沿って、L事業部では「L棚管理システム」のための専門部隊を編成して、新しい体制のもと販売推進をしていくことになったのです。L事業部を変革する大きな一歩になったものと思います。

 

 (但し、その後の導入支援に手間取ったことや、ソフトの不具合も発生したため、目標とするトータルでの販売台数が伸びなかったのは、残念ですが・・) 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

―営業組織、営業情報化の組み立てと「4つの領域」―

 

一つの基本モデルが出来あがることで、今までは漠然ととらえていた他のテーマも、そのモデルに関連づけて体系化され整理されてくることになります。

 

その後他の企業様のお手伝いも参考にして、「4つの領域」にあわせた組織

編成の違いを次のように整理出来るようになりました。

 

◎ハイスピード対応領域   ・・・一律横一線の機動的な営業活動を

指揮する統制型軍隊式組織

◎パートナーシップ対応領域 ・・・トップ営業中心に、状況対応で

柔軟にチームで動くサッカー型組織

 ◎エンジニア対応領域    ・・・複数の違う専門役割の者が、

うまく連携して動く野球型組織

 ◎コストダウン対応領域   ・・・定型業務を大量効率的に処理する

                            工場型組織

  

 このような組織編成毎の特徴と違いについては、「リレーショナル・マーケ

ティング」と「絶対に勝つマトリックス営業」に解説しました。さらに

「こんな営業は今すぐやめろ」では、営業拠点内のチーム制組織の組み立

て方まで解説しています。

いずれも実際のお客様企業での事例をベースに整理しましたので、実践的

な内容になっていると自負しています。

 

また、『営業情報化』についてはCBC総研として、その当時実際に『営

業情報化』のソフトを開発販売している複数の会社と提携し、『営業情報化』

のセミナーを合同で開催したり、一緒に販売活動を支援していました。

そこで営業情報化も「4つの領域」によって、活用方法が大きく違うこと

がはっきりしたため、その活用方法の違いも先の三冊の著書や「今こうす

れば、営業は強くなれる」に解説しました。

 

  ※営業組織や営業情報化の活用方法についても、今後あらためて詳細解説する予定です。ご期待下さい。

 

 こうしてマトリックス営業戦略もよりトータルな形で、一歩一歩整理されていくことになりました。

 

 

この続きは、「マトリックス営業戦略の基本解説③-2:

                      成り立ち<商談プロセス>」

  をご参照下さい。
              http://cbc-souken.co.jp/cbc/2012/01/post-2.html




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このページは、CBC総研が2012年1月11日 19:21に書いたブログ記事です。

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