事例5 : 一年で業績をV字改革させたN支店長の事例
―マトリックス営業戦略による作戦対策と組織再編―
産業用特殊機器メーカーK社のL支店は、K社の主要営業拠点であるにもかかわらず、業績不振が何年にもわたって続いており、大幅な赤字を計上していました。
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そこで実施した営業改革のステップと内容は次の通りです。
①M支店長中心にした事前ヒヤリングと営業課題の分析
- L支店には営業メンバーが12名おり、うちマネージャーが2名、主任2名、以下は担当営業者という人員構成です。まずN支店長が中心になって営業メンバー全員と面談を行い、各人の営業状況や意見の聞き取りを行いました。はじめは、業績不振のために多くの営業担当メンバーはマイナス意識が強かったのですが、このヒヤリングが意識改革と行動改革の第一歩になりました。
- 一方支店をとりまく環境状況を今一度分析し、業績を回復させるためのさまざまな作戦対策のアイディアを検討しました。実際には、N支店長が赴任する一年前にCBCが議長となっておこなった全社戦略プロジェクトミーティングにN支店長も参加しており、そこで検討されたK社の戦略課題と営業対策案をたたき台にして、L支店の業績アップ対策を考えることになりました。
②全営業員が参加するL支店作戦会議の開催と営業戦略の骨子作成
上記のもと、全員参加での支店戦略会議を開催しました。戦略的な作戦内容の検討と、組織編成の抜本的な見直しを進めるためです。そこで決定された戦略骨子の内容は次の通りです。
(1)L支店の新しいビジョンの打ち出しと営業攻勢の仕掛け
⇒思いをはっきり訴える提案トークを作成し、営業マンがあらためて取引先のトップやリーダーにアピール。その上でN支店長が同行して、新しい企画提案を仕掛けることにしました。⌈L支店はN支店長になって、変わりました。『○○会社様はL支店にとってかけがいのないお客様だ。そのお客様に○○といったご満足を提供したい…』とN支店長は言っています。…そこで今回御社に、こんな新企画のご提案を考えました。○○が○○で○○が違います。ですから、○○の事情の御社には、きっと素晴らしい○○といったメリット満足を…⌋⇒CBCの『3段論法トークストーリー』をもとに作成
(2)市場開拓のための4つの重点提案テーマの絞り込みと作戦化
- (A)新製品Jの単品重点販売強化
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- 今期新発売されたJ製品を既存客中心に、無料サンプル、デモ開催の仕掛けで、一気に売り込みをかける。(他社品と比べ、わかりやすい差別性があり、今期の最重点販売商品とする。)
- 営業担当毎に販売先リスト、販売目標を設定して、3か月で全見込み客へのアプローチを実行する。
- 主要顧客については、L支店長のビジョン打ち出しのトップ営業にあわせて実施し、当初販売予定数量の倍増をめざす。⇒【ハイスピード対応型単品販売作戦】の適応
- (B)大口専門ユーザー向け専門技術サポート部隊の創設と一括保守契約の推進
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- 製品販売から技術サービスやメンテナンスを主力に提供する事業を強化し、収益の柱にしていく
- そのため当初は本社技術部門の応援を受けるが、支社内に専門部隊をつくり、顧客へのきめ細かい対応が出来る体制をつくる。
- 営業もその体制にあわせ、簡単な修理等が見分けられる技能を習得し、顧客現場との信頼関係を構築できるようにする。⇒【エンジニア対応型顧客深耕作戦】の適応
- (C)取引関係の薄くなっている大手有力販売店の掘り起こし、シェア―アップの実現
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- 既存販売店のうち取引額が低く、シェアーが低い大手有力販売店の3社に対して、N支店長を中心に支店全体で営業攻勢をかけることにより、現状シェアーの10ポイントアップをめざす。(5%→10%、10%→20%へ)
- N支店長→相手先社長・専務向けトップ商談(パートナーシップ対応)
- マネージャー・主任→相手先営業拠点長向け営業作戦の導入促進フォロ(エンジニア対応)
- 営業担当→相手先主力営業員への営業支援サポート(ハイスピード対応)
- 直販新規開拓営業担当→相手先エリアのエンドユーザー直販活動⇒【パートナーシップ対応型事業企画提案作戦】の適応
- (D)他メーカー低価格消耗品の取り扱いと販売強化
- これまで扱ったことのない消耗品を低価格で他社より仕入れて販売することで、新規客の開拓や既存顧客との関係強化につなげる。⇒【コストダウン対応領域】に対応するための作戦化
以上の4つの作戦テーマは⌈マトリックス営業、4つの領域⌋のコンセプトにぴったり合っており、一年前の全社戦略プロジェクトミーティングで検討された内容でした。
全方位の戦略の作戦展開にはっきりメリハリをつけて組み立てが出来たことは、その後のはっきりした組織編成の見直しやスムーズな作戦遂行にうまくつながったよう思います。
(3)支店組織編成の抜本見直し
以上の4つの作戦をスムーズに推進するため、次のような組織編成の抜本的な見直しを行いました。
- 1)新たに3名の新規開拓チームを編成。(ハイスピード対応向けの体制)
- マネージャー一名をチームリーダーとし、直接エンドユーザーの開拓を進められるようにするのが狙いである。
- 2)既存客営業については、2つのチームに編成し直した。(パートナーシップ対応)
- これまでの個人営業を見直し、2人の主任をチームリーダーにして、チームで既存客をフォローする体制にする。チームリーダーが部下メンバーの全顧客との取引と業績に責任をもち、一社毎にトップ営業まで行うことにした。
- 3)マネージャー1名を支店長のサポート役として、本社窓口と技術部隊開設の取りまとめ役とした。(エンジニア対応)
- マネージャーは経験豊富な技術経験が豊富であり、本社の技術部隊とも日頃の活動を通して良好な人間関係を築いていた。技術関係のリーダーとして最適であった。
- 4)業務メンバー3名のうち、1名をチームリーダーに任命。3名全員で全営業活動のサポートをすることにした。(コストダウン対応)
- 従来は、3名が営業担当毎の個別担当制を敷いており、仕事のレベルや量にバラつきがでていても調整出来ず、業務の改善や向上が図れていなかった。チームとすることで、その改善をはかれる体制が出来た。
(4)意欲的な支店目標の設定
・N支店長は、以上の作戦面と組織面での明確な政策を打つ出すことにあわせ、かなり意欲的な業績目標を設定しました。
- 支店の業績目標としては、一年後には赤字脱却で5000万円の貢献利益目標を設定。そして貢献度№1の評価で各人1カ月の臨時ボーナス獲得をめざす。
- 3年後は貢献利益一億円達成で、ご褒美で支店全員での海外旅行の実現をめざそう。
こうした今までにない政策と目標を打ち出す前に、両マネージャーや主任達を事前に呼んで、個別に根回しするとともに、役職者だけの戦略ミーティングで、およその内容は確認しておきました。その上で全員を集めた支店戦略会議を開いたのです。
はじめは、大半のメンバーは半信半疑でN支店長の意欲が空回りしそうな場面もありましたが、意外にも若手営業メンバーに前向きに受け止めてもらえ、その後の実行段階でも、若手営業メンバーのやる気が業績アップに大いに貢献することになりました。
③N支店長のトップリーダーシップによる作戦実行の徹底
以上の結果、立案した作戦の多くは大成功しました。特にN支店長が前面に出てトップリーダーシップを発揮した作戦での成功は、大きかったよう思います。
- 新製品販売⇒全営業拠点の中で断トツ一番の実績をあげた。サンプル・デモの徹底とともに、N支店長同行でのトップ営業による主力顧客での販売促進が大きな効果を上げた。
- 技術サポート体制作り⇒上期はスタートしたばかりで実績は上げられなかったが、下期では大口ユーザーでの契約が数件決定し、それにあわせて専門技術部隊を編成することが可能となった。小口保守契約については、契約件数が前年比で倍増し、安定収益に貢献するようになった。
- 有力販売店の掘り起こし⇒近隣地域№1の大手販売店社長とのN支店長のトップ商談がうまくいき、シェアーを一気に5%→18%までにすることが出来、L支店の売り上げアップに多いに貢献した。また他の有力販売店2社についても、確実にシェアーアップを実現できた。
一方課題が残ったのは、次の通りです。
- 新規開拓部隊の成果⇒大口有力販売店との関係改善が進んだため、直販活動の余地が限定され、期待の半分しか達成できず。但し、支店として直販力をつけたことが、有力販売店との交渉に大いに役に立ったことは間違いない。⌈御社がやらないなら、メーカーとして直販をやらざるおれません。イエスかノーか!⌋
- 他社消耗品販売⇒単価の低い消耗品のため、営業担当の販売意欲が低かったことからかなりの量の売れ残りが発生。有力販売店への在庫処分で切り抜けたので、損失は軽微。
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以上の結果、1年後には貢献利益で5000万を超える業績を実現し、そこ後も安定的な業績を残すことが出来ました。それは単に業績面だけでなく、組織全体の革新につながったことが大きかったように思います。L支店は、1年で全く違う組織に生まれ変わりました。
CBCとしては事前の全社戦略プロジェクトミーティングの開催、N支店長との定期的な面談と戦略作戦面でのアドバイス、支店メンバーに対する教育研修、支店会議への参画…などの側面支援を行いましたが、たった1年で営業変革を成し遂げた1番の要因は、なによりN支店長の情熱と実践面での強いリーダーシップにあると思います。
一年後、私はN支店長にこう言いました。
⌈これほど素晴らしい成果をたった一年で上げるなんて、N支店長、凄いね!実を言うと、ここまで出来るとは正直思っていなかった。みんなの変化を見て、僕も感動した。本当に勉強になりました。⌋
するとN支店長はこう言ったのです。
⌈なに言ってるの!私は、(山川さんがリードしてくれた)あの全社戦略プロジェクトミーティングで、みんなで議論したことをこの支店で実行しただけですよ。まだまだやれていないことが、いっぱいあるんです。これからです。⌋
その謙虚な言い方に、私は安心しました。これならL支店はこれから大丈夫。N支店長も全社的なリーダーとして成長していくことだろう、と確信したのです。
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